第15話 東の街道 4
第14話を所々修正しました。内容の変更はありません。2018年 06月22日
昨日、俺たちは宿を出ると宿場町のすぐ近くで野宿した。
お礼に宿に泊まらせて貰えばよかったな〜とも思ったが、あんな恥ずかしいこと言っておいて、泊まらせて下さいとお願いできるような肝っ玉は持ち合わせていなかった。
そんなことを考えながら、いつものように簡単に朝食を済ませると、俺たちは早速出発することにした。
街道に出るために町の中を歩いていると、朝早くにも関わらず露店を開いているところがいくつかあった。
「ティア、なんか美味しそうなものがあったら買ってみようか?」
俺がそう言うと、ティアは目をキラキラさせて頷いた。
昨日、俺が少女から貰ったお金は、小銀貨1 枚、銅貨3枚、それに小銅貨6枚だ(俺の感覚的には1360円程だ)。
2人で朝食か軽いランチ1食できる金額だ。
お金があるって素晴らしい!
俺たちはウキウキしながら露店を見て回る。
すると、ある店の前でティアが急に止まって動かなくなった。
俺も気になって覗いてみると、そこは玩具の類いを取り扱っている店だった。
いろいろあるが、特に美味しそうな物はない。
俺がティアを見てみると、ティアは一点を真剣に見つめている。
視線の先を追いかけて行くと、そこには白いウサギのぬいぐるみがあった。
「気になるのか?」
俺が尋ねると、
「…死んでる?」と呟いた。
「死んでない。あれはぬいぐるみだから動かないの」
そう言ってみたが、よくわかってなさそうだ。
「ちょっと触ってみるか?」
お店の人の許可を取ってティアに渡してあげると、最初は警戒した様子だったが、握ってみたり、撫でてみたり、抱きしめたりするうちに気に入ったようだ。
「…ふわふわ」
そう言って、ぬいぐるみを見るティアの目はキラキラしていた。
それは食べ物以外に見せたことのない目の輝きだった。
…仕方ない。食べ物は諦めるか。
俺は苦笑いしながら店員さんに値段を聞いた。
「小銀貨1枚と銅貨5枚です」
マジかよ!?足りないじゃないか!
ぬいぐるみ高くない?こんなもんなの?
「あの〜、これでなんとかなりませんか?」
俺は全財産を差し出してみた。
「う〜ん…」
けれど店員さんは悩んでいるようだ…
俺は頭を下げてお願いしてみる。
「う〜ん…」
店員さんはまだ悩んでいるようだ…
俺はもっと頭を下げてお願いしてみる。
しかし店員さんは何も言わない…
…俺は人生初の土下座を試みた。
「どうか、お願いします!
このぬいぐるみを俺にください。
一生大事にしますから!」
慣れないことをして余裕のない俺は、気づけば、結婚の挨拶のような、生涯で一度しか言わないような言葉を、ぬいぐるみのために捧げてしまった。
「…分かりました。あなたに売りましょう!」
俺の誠意が届いたのか、店員さんはようやく首を縦に振ってくれた。
「ホントですか!?ありがとうございます!!」
土下座やってよかった〜。
俺がしみじみそう思っていると
「いえいえ、最初から売るつもりでしたから」
「え!?」
なん…だと!?
「いや、あんまり必死だったから、どこまでやるんだろうと思って見てたら悪ノリしちゃって…。
すみません。ハハハ」
ハハハじゃねーよ!!こんチキショー!
俺の土下座と、愛の言葉を返してくれ!
俺は心の中で男泣きしながら、ぬいぐるみを購入した。
まぁ、俺の大事な物と全財産を巻き上げられてしまったが、隣でぬいぐるみを抱えて歩いているティアが、喜んでいるので良しとしよう。
「よかったな。
ところでそのぬいぐるみ、名前は何だ?」
ティアはキョトンとした顔をしている。
「…知らない」
「えぇ、知らないのか?
それはちょっと可哀想だろ」
俺が少し大袈裟にそう言うと、ティアはオロオロと困惑しだした。
面白いのでしばらく何も言わずに見ていると、ティアはぬいぐるみを買ったお店に走って行った。
そして店員さんと何か話して戻ってくると
「…コレット」
と言ってぬいぐるみを強く抱きしめた。
「そうか。仲良くしろよ!」
ティアはニコッと笑って頷いた。
露店も見終わり、少し歩くと宿場町の端に来た。
ここから先はまた平原と街道だけが続く景色だ。
「それじゃ、次の町に向けてしゅっぱ〜つ!」
俺は拳を突き上げ元気に言うが、ティアはぬいぐるみに夢中で無視された。
俺は恥ずかしさと悲しみを強く抱きしめ、街道へと足を踏み出したのだった。
第2話にセイの容姿に関する1文を加筆しました。(2018年 06月23日)
・ゲームのキャラクターではなく、黒髪黒目の典型的な日本人
第4話にティアの容姿に関する1文を加筆しました。(2018年 06月23日)
・長い金の髪
・ルビーのような瞳




