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第14話 勇者降臨〜宿屋のオヤジ〜

第11話〜13話の別視点のお話です。

第13話の最後の4行にちょっとだけ加筆しました。2018年 06月21日


俺はしがない宿屋のオヤジだ。


そんなただのオヤジには抱えきれない程の大変な事がつい最近起きて、俺は興奮している。

いや、それ以上の感動をしていた。


それというのも、事の始まりは、異様に眼付きの悪い女冒険者の相手を済ませた時のことだった。

バーン!という文字が飛び出してきそうなほど大きな音をたてて扉が開いたのでそちらを見ると、そこから元気な笑顔で店に飛び込んできたのは女の子だった。

はしたないからやめなさいといつも言ってはいるいが、なかなか言うことを聞いてくれない我が愛しの娘だ。

“いつも”とは言ったが、この頃はそうではなく、暗く沈んでいたので、久しぶりに見た元気な顔に嬉しく思うも、また同時に不思議でもあった。

1ヶ月前に妻が病気にかかり、薬があれば治るはずなのだがその薬が手に入らず、治療もできなかったので、日に日に弱っていくのを見ながらもどうすることもできず、俺も娘も不安と焦る気持ちを抱えて生活していたからだ。


嬉しそうに飛び跳ねる娘から事情を聞くと、薬草をとって来てくれる冒険者を探して連れてきたという。

はしゃぐ娘とは反対に俺はとても辛い気分だ。

現実にそれは不可能だとわかっていたし、なにより娘にそこまでさせてしまう父親である俺が情けない。

愛する女1人も助けられず、たった1人の娘にしてやれることがこうして働くことしかない俺が情けなかった。


そんな俺たちの前に現れたのが青年だった。

服とも言えない襤褸(ぼろ)を身につけ、装備らしい装備も持たない奴が冒険者だと言って現れたのだ。

最初は小銭に(たか)った汚いチンピラかと思ったが、娘は無事だし娘から金を奪うわけでもなく家まで来る理由がわからない。もしかしたら客の可能性も捨て切れない。

正直、こちらの事情を説明するのは嫌ではあったが、さっき手続きを済ませた女冒険者もいたので、そちらに望みを掛ける意味で説明してやった。


事情を聞いた青年はその後、森へ行くと言って出ていった。

ただこちらの不幸を聞いて楽しむクズだったかと腹を立てたが、すぐに虚しくなって怒りも消えた。

クズは俺も一緒だったんだから笑えない。


それから暫くして、陽が沈みかけようとする時間になると再びあの青年が現れた。

また面白がりに来たのかと思い、今度はぶん殴ってやる準備をしていると、青年は森の状況を話すじゃないか!

しかもその情報は以前の調査で分かっていたことに加え、さらに深部の事まで詳しく説明してくれたのだ。

それは状況がさらに悪いことになっている情報ではあったが、妻のため、村のためにはとても貴重なものだった。


俺はぶん殴ってやろうと準備していた拳で、自分をぶん殴ってやりたくなった。

情報分の報酬も「依頼は達成していないから受け取らない」という人を自分はクズだと言っていたのだから!

せめて泊まってくれたならできる限りもてなそうと思い、今日の宿を尋ねることにした。


しかし何故か青年は答えなかった。なんとも居心地の悪い間が作られた。

こちらの態度が悪かったので仕方ない。ここから挽回しなければならないのは分かっているが、バツが悪い。

俺が狼狽えながら、なんと言っていいものかと悩んでいるところに、青年は俯いていた顔を上げたのだ・・・いや、上げるともなしに下げたのだ。

そしてこちらの目を見ると・・・いや、見るともなしに目を逸らし、こう言ったのだ・・・いや、言ったというより、引き笑いのついでに声を発したように言ったのだ。「タバコをくれ」と。


やっぱコイツ絶対変な奴だわ!と思いかけたが、すぐに訂正。

人を見た目で判断してはならないと、さっき肝に銘じたばかりだ。

これまでの無礼と報酬代りにタバコを差し出すと青年はそれを抱えて出ていった。

俺はその背中をただ見送った。

言いたいことはいろいろあったが、一つを除いて全て飲み込み俺は彼を見送った。


「結局、泊まらんのかいッ!」


それからまた暫くし、夜もすっかり更けた時間になって三度あの青年が現れた。


「また来たよ・・・」


つい言葉が(こぼ)れてしまった。

森の様子がおかしいことも気になるが、おかしな奴がこっちに来ていることの方がもっと気になる。


おっと、長々と喋っていたら話が逸れちまった。

この後のことは皆んな大体知っての通りだ。


その青年が大量のルナール草を持って来て、それを必要としている人に配れって言ったんだ!

俺はその時、感動に震える余り声を出せなかったよ。

妻と同じように苦しむ人たちを、この人は無償で救ってくれるというのだ。

青年の、顔を隠しながら照れたように言う姿も相まって、俺は初めて誰かを崇拝したい気持ちになった。


青年が部屋から出て行き、俺は改めて彼を連れて来てくれた娘に尋ねた。


「彼はいったいどういう人なんだ?」


当然の疑問だろう。

彼自身はボロを纏っているにも関わらず、困っている人に手を差し伸べ、自分の利益よりも顔も分からない誰かのことを想い、辛そうな顔をする。

そんな人を俺は見たことがなかった。


「えっとね〜、世界っていう家に住んでて、自由を求める…だったかな?

そんな感じの人って言ってたよ」


娘は顎に人差し指を当てて、記憶を引っ張り出すようにして教えてくれた。


それは…つまり、世界を自由にしてくれるって事なのか?

モンスターが蔓延るこの世界、人類は身を寄せ合って暮らしている。

そんな弱い人類が自由になれる世界を求めているってことなのか!?


「そんなの…まるで勇者じゃないか!?」


俺はポツリと呟いた。


「え!勇者様なの!?」


思わず溢したお伽話のような話だったが、それを聞いていた娘が驚いて身を乗り出した。


「ハハハ、どうだろうなぁ?」


俺が笑ってそう言うと、娘は胸を踊らせながら妻の所へ走って行った。

深く考えず言った言葉だったが、そうだとしてもおかしくないと自然に思えた。少なくとも彼は俺たち家族の勇者様なのは間違いないのだから。

そんなことを考えなら、走っていく娘を見届けた俺は、医者の先生に宛てて妻の診察とルナール草についてのことを手紙に書き始めた。

これできっとすぐ来てくれて、妻の病気も治るだろう。

俺はその夜、久し振りにぐっすり眠りに就くことができた。





ーー次の日


俺は町の大人数人と共に森を調べていた。

昨夜の森の騒動を調べる為に、町の者で集まって調査することになったからだ。


最近、魔物が活発になっており、森はとても危険な場所になっていた。

俺たちは最大限の注意を払い森を進むが、しばらく経っても森はとても静かで、魔物1匹すら見当たらなかった。


俺たちは不思議に思いつつも慎重に森を進んでいくと、とんでもない光景を目にすることになった。

そこにはさまざまな種類の魔物の死体があちこちに転がっていたのだ!

まさに死屍累々…。




俺たちは一度町へと戻り、森の状況を皆に説明することにした。


「勇者様だ!」


説明を終えると、嬉しそうに娘が声を上げた。

みんながどういう事かと聞いてくるので、俺と娘は見たままのことを皆に伝えた。


「それじゃ、森の魔物を全て追い払い、町を救ってくれたのはその勇者様なのか!?」


「あぁ、おそらくそういう事だろう」


俺はそう言って話を締めくくる。

その後もしばらく勇者についてざわめいていたが、モンスターの死体の処理などの話し合いをして解散することとなった。





ーーーそしてまた次の日


昨日手紙を出したばかりだというのに、先生が来てくれた。

急いで来てくれたようだ。


俺がルナール草を渡すと、先生はその場で薬の調合をおこない、できた薬を妻に飲ませた。

すると、妻は楽になったのか、そのまま静かな寝息をたて始めた。


先生が言うには、数日遅れていたらどうなっていたか分からなかったらしい。

…よかった。本当によかった。


その後、俺は先生に何があったのかを詳しく話した。

最後にルナール草を必要な者には格安で譲ってほしいことを伝えると、先生は


「わかった。…いや、無償で治療することを誓おう」と言ってくれた。


「私はこれでも聖父と呼ばれる医者だ。

その名に恥じぬようやってきたつもりだったが、その者に比べるとまだまだだと思い知らされたよ…」


そう言うと先生は清々しい表情で笑った。



俺はイルヘミアの町に帰っていく先生に何度も頭を下げた。

この数日はいままで生きた中で最も濃い日々だった。

明日からはきっといつもの日常に戻るだろう。

そのことに安堵し、でも少し寂しいとも思った。


いろいろな感情で見上げた空はとても眩しかった。

空を眺めていると、娘のはしゃぐ声が聞こえた。

近所の子と遊んでいるのだろう。


様子を窺うと、なんだか変な顔をして遊んでいる。

なんでも、先生に教えてもらったらしく、寄り目をし、顎を突き出したような顔をするのが、イルヘミアの子供に流行っているそうだ。


女の子のする顔じゃないなと思い苦笑いする。

でも悪くない。こんな馬鹿らしい平和は嫌いじゃない。

俺はもう一度空を見上げて店に戻った。


蒼い空に娘の楽しそうな声が響く。


「アイ〜ン!!」



(前書きの続き)

度々手直ししてしまってごめんなさいm(_ _)m

見直しは何度もしているんですが、投稿した後にやっぱりこうしたほうがいいかなって思っちゃうことが多いです(泣

やっぱり私が未熟なせいでしょう…orz

そんな拙作ですが適当な時間潰しにでもしてくれると嬉しく思います。

読んでくれてありがとうございました!

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