第11話 東の街道 2
俺たちは午前中のうちに一つ目の宿場町に辿り着いた。
その宿場はこじんまりとしており、2軒の宿屋、数軒の食事処と飲み屋、そして行商人による露店や屋台があるだけだ。
俺たちはお金を持っていないので、店には入らず露店や屋台をひやかした。
露店にはパンや果物をはじめ、玩具、アクセサリー、魔道具など実に様々なものが売られており見ていて飽きない。
ティアが興味を持つ度に立ち止まっていたのでかなり時間がかかってしまった。
というか、俺も見たことが無いようなものがたくさんあったので、ティアだけのせいには出来ない。
特に魔道具なんかの知識はさっぱりで、店主に質問攻めしてしまい追い払われた。
…お金が欲しい!!
お店とか見たら、いろいろ買いたくなってくる!
俺も露店開いてみようかな〜?
魔物とかなら狩って来れるし、いいんじゃないか?
あ〜、でも綺麗に捌けないから死体積み上げる事になっちゃうけど大丈夫かな?…絶対アウトだ。
諦めよう。
一通り見終わると、俺はこの世界の通貨を大まかに理解した。
貨幣は小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨の6種類。
物価から判断すると、小銅貨はおおよそ10円相当。銅貨が100円、小銀貨が1000円、銀貨が1万円だ。
金貨の実物を見ることは出来なかったが、話を聞く限り小金貨が10万円、金貨が100万円相当らしい。
小さい所なので露店を見終わると、すぐに街道となり、そこからはずっと平原だ。
俺たちが街道に出ようとすると、ティアより少し年上くらいの少女が道行く人に手当たり次第に何かお願いしているところに出くわした。
何だろうと思い見ていると、少女は特に冒険者の風貌をした人に対し必死に頭を下げているようだった。
しかし結果は良くないらしく、断られるたびに悲しそうな顔をしてる。
そして人通りが疎らになると座り込んでしまった。
冒険者の仕事なら俺にだって出来るかもしれない。
急ぐ旅でもないし、俺でよければ手伝いたい。
そう思い俺は座り込んだままの少女に声を掛けた。
「さっきから冒険者に頼み事をしているみたいだけどどうしたの?」
少女はサッと顔を上げる。
その表情は少なからず期待を含んだものだった。
しかし俺を見ると悲しそうな顔をする。
そして上から下までじっくり見ると溜息を吐いた。
…この反応はどういうことだ!?
「すみません。浮浪者の人にお願いするようなことじゃないので…」
そう言って少女は目を逸らす。
…あ、そういうことか。すごく納得!アハハハ
「…浮浪者ってなに?」
ティアが浮ろう…俺に尋ねてきた。
「えっと、世界っていう家に住んでいて、自由に生きてる人のことだよ?」
嘘は言ってない。うん。
「…カッコいい」
あれ?
ちょっと間違った教育しちゃったかな?
「まぁ、身なりはこんなだけど、実力はそれなりだから、もしかしたら手伝えることがあるかもしれないよ?」
信じないならそれでいい。
断られたら、このまま出発しよう。
そんな気持ちで言ってみた。
「そうなんですか?それじゃ私の依頼を受けて下さい!」
あれ?断られると思ったのに、意外だ。
「森にあるルナール草を採って来て欲しいんです!お金も払いますから!」
そう言って少女は握りしめていたお金を差し出してきた。
見ると、銅貨数枚の中に小銀貨が1枚あった。
冒険者にする依頼にしては安いように感じる。
でも相場を知らない俺は何も言えない。
「このお金で買えばいいんじゃないの?」
ルナール草は知っている。
ゲームでは、月の光で育つ植物と説明され、効果としては魔力をわずかに回復してくれるアイテムだ。
初級錬金などでも使われ、安値で店売りされている珍しいものではなかったはずだ。
「無いんです…。どこにも売ってないんです!
魔物が出るから採りに行けないって…」
少女は悔しそうに唇を噛む。
「わかった、その依頼引き受けるよ」
事情を納得して軽い様子で引き受けた俺に、少女は大きく目を見開いた。
「いいんですか!?皆んなこんなお金じゃ無理だって言ったのに…」
やっぱり少なかったみたいだ。
まぁ、ゲームでは草むらを歩いたら簡単に手に入るものだったから俺的には気にしない。
「大丈夫だよ。それでどこに届けたらいいの?」
「あ、ありがとうございます!!」
少女はお礼を言うと、家に案内すると言って歩き出した。
自分で言うのもなんだけど、浮浪者みたいな人を家に案内して大丈夫なのかな?
少女に案内されて訪れたのは、この宿場町に2軒ある宿屋のうちのひとつだった。
「お父さん、冒険者の人連れて来たよー!」
正面玄関から飛び込んだ少女は大きな声で呼びかけた。
俺は外からそっと様子を窺った。
正面は受付カウンターになっており、奥に少女とその父親らしき男性、そしてカウンターの前に青い髪の冒険者風の女性がいた。
男性は接客中だったようで興奮する少女を黙らせていた。
俺は汚い格好で店に入っていいものかどうか少し迷う。
しかしこのままでは話が進まないので、目立たないように端の方を通ってコソコソと入り込んだ。
…家屋に忍び込むゴキブリはこんな気持ちなのかもしれない。
見た目は気持ち悪いが、なんだか申し訳なさそうに居候している姿を想像してしまうと殺すに殺せなくなってしまいそうだ。
そんなことを考えている間に接客を終えた男性が俺に向けて「いらっしゃい」と言ってきた。
「お父さん、その人はお客さんじゃなくて、私が依頼した冒険者の人なの!」
冒険者でもないんだけどね…
訂正しないだけだ。
「どういう事だ?」
男性は困惑しながら、こちらをチラチラ見てくる。
「ルナール草を採って来てきれる人をみつけたの!」
少女が胸を張って応える。
「お前、店にいないと思ったらそんな事してたのか!?」
男性は大きく溜息を吐くと、こちらに向かって頭を下げた。
「申し訳ありません。娘がご迷惑をお掛けしたようで。
よく叱っておきますので、許して頂けないでしょうか?」
なんか変な事になっちゃった。
「でも、お父さん…」
「気持ちは分かるが、お金も用意しないといけないんだから、急には無理だ!」
「私、ちゃんとお金持ってるもん!」
そう言って、少女は俺にしたように持ってるお金を突き出した。
「…お前、これで引き受けてくれる人がいるわけないだろう」
少女の目には次第に涙が溜まりはじめ、今にも零れ落ちそうになっていた。
俺は黙って成り行きを見守っていたが、少女が泣き出しそうなので事情を聞いてみる事にした。
「え〜っと、その子からはちゃんと話を聞いて、その報酬で依頼を受けたんですけど…。
何か事情があるなら聞きますよ?」
俺がオロオロしながらそう言うと男性は驚いた顔をする。
そしてしばらく迷ったそぶりを見せ、おもむろに口を開きかけたその時、隣に併設されている小さめのラウンジから、慌てて椅子を引き摺るような音がした。
見てみると、先程カウンターにいた女性がむこうを向いて静かに座っているだけだった。
なんとなく会話が中断されてしまったが、俺は男性に視線を戻すと話の続きを促した。
第2話「異世界転移」に加筆しました。2018年 06月14日
拙作ではありますが、少しでも楽しんでもらえれば嬉しく思います。
読んでくれてありがとうございますm(_ _)m




