第10話 東の街道 1
俺たちはアーリアの町に向けて東に進む。
アーリアの町までは小さな宿場町が数ヶ所ある以外には特に何もないらしい。
右手に森を見ながら平原の中をわりと広い踏みならされた道が続いている。
時折馬車ともすれ違い、歩く人の姿も遠くの方にぽつぽつ見えた。
「馬車って思ってたより遅いんだな〜」
別に急ぐ理由もないので、俺たちはぶらぶらと街道を歩いていた。
ティアは馬車が通るたびに走ってる馬に触ろうとするのでヒヤヒヤしたが、それ以外はいつも通りニコニコ歩いていた。
森以外を歩くのが新鮮で景色を楽しみながら歩いていると、後ろから歩いてくる集団に気が付いた。
そういえば歩いてる人はみんな固まって移動している。
もしやと思い、すれ違うときに剣を持った優しそうな青年に話しかけてみた。
「あぁ、そうだ。俺たちは冒険者で護衛をやっている」
思った通り冒険者だった!
彼らは同じ村出身の友達同士でパーティーを組み、先日Cランクに昇格したことを嬉しそうに教えてくれた。
Cランクは中堅クラスにあたるそうだ。
彼らは順調に力をつけており、ギルドでも期待されている冒険者パーティーなのだという。
俺は冒険者の雇い主さんに許可を貰って、冒険者のことやギルドのとこを少し詳しく教えてもらった。
自分たちの武勇伝などを混ぜながら語られる冒険者の話はとても面白かった。
ティアはティアで、女性の冒険者から食べ物を貰って嬉しそうに食べていた。
ひとしきり話を聞き終わると俺はお礼を言った。
すると雇い主さんが
「宿場町まで一緒でいいですよ」と言ってくれた。
この雇い主さん、凄くいい人!
「ありがとうございます。でも野宿の準備もあるので、俺たちはこの辺で」
「そうですか、それでは気を付けてくださいね」
俺がお礼を言うと雇い主さんは歩いて行った。
「ティアちゃん、またね〜」
女性の冒険者は笑顔でティアに手を振ると、今度は厳しい眼つきで俺を見た。
「こんなに小さい子がいるのに護衛も雇わないなんて危ないじゃない!」
怒られちゃった。ごめんなさい。
「依頼してくれたら、特別に安くしてあげるから相談してね?」
そう言って、先に歩き始めたパーティーの元へ戻って行った。
みんないい人だったね。
また2人でぶらぶら歩く。
しばらくすると後ろから、馬を急がせているためか、大きな音をたてる馬車がスピードも落とさずに駆け抜けた。
俺たちとすれ違うときに、馬車の中から何かが落ちた。
ティアが拾い上げると、それはクマのぬいぐるみだった。
馬車が少し先で急停車すると、中から綺麗な服を着たティアと同じくらいの女の子が降りてきた。
女の子はツカツカとティアに詰め寄ると
「返して!」と言って乱暴にティアの手から人形を奪い取る。
そのまま馬車に乗り込み、猛スピードで走り去って行った。
嵐のような出来事に、俺はポカ〜ンとしており、
ティアは奪い取られたときの体勢のまま、なにかショックを受けた表情をしていた。
太陽が地平線に差し掛かる頃、俺たちは野宿の準備を始める。
それが終わると火を起こし、鞄から肉と水と果物を取り出し食事をはじめる。
遮るものが何もない見渡す限りの平原で、沈んでいく太陽を見ながら取る食事はとても美味しかった。
「綺麗だなぁ〜」
これだけで異世界に来れたことを感謝している俺は単純なのだろうか?
隣のティアは、夕陽なんか全然見ずに、口一杯にご飯を詰めて食べている。
それだけでなんだか楽しくなる俺は、やっぱり単純なんだろう…
そんなことを考えながら俺はのんびり食事する。
「ティア…、それは俺の肉だぞ?」
俺の分まで食べようとするティアの手を掴む。
するとティアはこの世の終わりみたいな顔をして俺を見た。
「その顔は守衛さんに向けてして欲しかったよ…」
そう言って俺は肉を諦めた。
第8話〜第10話まで続けて読んで欲しかったので、まとめて投稿しました。
読んでくれてありがとうございました。




