討て!エヴァネッセンス! その2
『爆発したァーッ!両者激しく吹っ飛んでいきましたァッ!』
「(痛すぎる…なんだよ漫画みたいに耐えられるわけじゃないのかよ…)」
秋雄の脚はグロテスクに加減なくありえない方向に曲がっている。
「いづっ!(立てない…ってもともとか…)」
痛すぎるが誰も助けに来ない、爆心の真上にいたせいか上に吹っ飛び体は打ちつけられ、ギリギリ燃えてはいないが、息が苦しい。
「(これが死か…)」
『なんとハント選手は奇跡的に歩ける状態ということですッ!!ここで審判が秋雄選手の状況を確認するために煙の中に入りました!』
何者かの人影が目に映る。誰かは分からないが、ハントではないことは確かだ。
「ここだ!助けてくれ!」
そう叫ぶとすぐに男がやってきた。先程も見た男だ。
「意識はありますね!降参しますか!?」
初対面で変なことを言うと思ったが、そういえば審判だった。
「…」
痛みに耐えられる自信がないから今すぐにでも病院に行きたいレベルだが、躊躇ってしまう。そうだ、これは人生を賭けた大勝負なのだから負けるわけにはいかない。
「いや!大丈夫だ!」
すると審判はシラを切るように去っていく。何かムカつく奴だ。
「(しかしどうする…?これでは動けないぞ)」
火はほぼ消えているが、煙が濃くかろうじて息をしている。肌が焼けるように痛いが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「(あの日本人はどこだ?煙が濃くて見えないな…)」
ハントは背中を曲げ腕をかかえながら咳払いをし、煙の周りを見て回る。
『秋雄選手は意識がありまだ降参しないようです!!さすが大和魂ッ!ハント選手は煙が晴れるのを待っています!』
「やはり入るしかないか…」
息を深く深く吸い、腕で口を覆い、ハントは意を決して煙へと進む。
『ハント選手ッ!決意を固め煙へと歩き出したァッ!しかしどうやって場外に運ぶつもりなんだァ!?』
「(瓦礫が多くて歩きづらいな…しかしどこにいるんだ…)」
足を踏み締め、目を細め慎重に息の続く限り歩く。
「おっ…と」
ハントは瓦礫に躓き後ろに蹌踉ける。すると腰辺りに何かの感触があった。それは柔らかく力の籠もっていない2つの指であった。
「(後ろにいる!)」
後ろを振り向くと、そこには倒れながらも腕を伸ばし、ハントのパーカーに小指と中指を当てる秋雄がいた。
『煙が晴れてきましたッ!おっと、2人は既に向かい合っていた!!』
「ゴホッ、ゲボッ…ナイロン製のパーカーなんて着てくるバカがいてくれるとはな…ゴフッ…」
秋雄は咳き込みながらも余裕の表情を見せる。
「何がしたいんだァ?もうその様子じゃあ諦めた方が身のためだぜ…」
あざ笑いながらハントは秋雄を見下す。そして秋雄へと歩み寄る。
「降参しなよ、それでないと時間が無駄になるだろ?」
その冷たい瞳は秋雄の目を見つめる。
「さあ、早く言えよ…「もう戦えません」ってな」
「ゲホッ…日本のことわざ教えてやるよ…「ジャパニーズコトワザ」を…」
秋雄はまだ煙の残る場所に手を伸ばす、するとそこから何かぶつかるようの金属音がする。
「『塵も積もれば山となる』…だぜッ!」
秋雄は何かのパイプのような物をハントの手に強くぶつける。
バチバチバチィッ!!
「…ッ!…アガグガァッッ!!」
目に見えるほどの青白く今までよりも強い電撃がハントの体全体を襲う。
『秋雄選手!静電気をハント選手のパーカーに帯電し、そしてそれを一気に放ったァァアーーッッ!!』
「俺はお前が煙の中に入ってた時から全身全霊で静電気溜めてたんだよ…そのバカみてェなパーカーによォ…そしてこのパイプははお前の荷車の破片…生憎俺は電気が効かない体質なんで、苦しみはお前だけだッ!」
きっとそれなりの怪我を負っている奴に大きめの電気をくらわせれば気絶してくるんじゃないか、そう思っていた。
「…!」
ハントは目を大きく開ける。
「はぁっはぁ…たいした奴だ、フフフッ…」
ダメだった、上を向きながら笑っている。
「(クソッたれが!どうする!?ここからどうすれば…!)」
絶望に近い感情があった。そう考えているとはハント屈み、強引に秋雄の腕から例の荷車の破片を奪い取る。
「おっ、こっちにも落ちてる。2つもあればいいか」
ハントは同じような長さのパイプ状の荷車の破片を2つ握り、倒れている秋雄の腹の下に忍び込ませる。
神輿のようにする気だ。
「こいつッ!運ぶ気か!」
秋雄は無駄とわかりながらも必死に静電気を浴びせる。
「ダメダメダメェェ~ッ、生憎いろいろあって俺も電気はちょっとばかし耐えられるんだわなァ~ッ」
何食わぬ顔で2つのパイプを使い秋雄を持ち上げ、姿勢を低くする。
「優勝するのはこの僕だァァァアーーーッッ!!!」
『一回戦二戦目ッ!勝者は!アメリカ出身!アダムズ・ハントだァァーッ!!!』
静電気に関する知識は植えつけなんで勘弁してください。