金崎秋雄は最強に憧れる その2
「チッ……ミスったか」
秋雄の左肩が「停止」した。
神経を絶たれた左腕全体はもう使えない。
溜めていた電気も残り少し、撃てる雷撃は残り1発。
秋雄の顔が青ざめていく。
「左が重い…」
左腕をだらーんとなっており、力が全く入らない。
体に気味悪く纏わりついた左腕が重りのように義手のように動きを邪魔をする。
「腕だけど足を引っ張る…ってか」
鼻で笑う。
ただえさえ肩が外れそうな程に痛むのに、右腕だけで雷撃を撃つとなると今度こそ脱臼するだろう。
「次はちゃんと当てないとな…」
『オン・トップ・オブ・ザ・ワールド』は既に秋雄の背後にいる。もう勝ったも同然だと、思わず笑みをこぼした。
秋雄は走り出す。闘技台から大きく外れ、瓦礫の山へと進んでいく。
瓦礫をすり抜けながら龍も追跡してくる。幸い瓦礫の山に隠れて花岡から見えないためか、龍の動きは鈍い。
軽々とした身のこなしで、瓦礫の間にある狭い入場口に上手く滑り込んだ。
「悪足掻きが…」
花岡は周辺を見回すことはなく鷹揚とした顔で『オン・トップ・オブ・ザ・ワールド』を自分のもとへと戻す。
「ん……うぅ…」
花岡の右後ろ辺りで呻くような声が聞こえた。
寝つきの悪かった早朝のように目を半開きにしたまま、秋雄が丁度いなくなったこのタイミングで起き上がった。
「!…最近はもの忘れが多い気がするな…」
どうでもいいといった様子で咲妃を見つめる。
ストライカードのいない今、咲妃の『パーフェクト・ストレンジャー』を危惧する必要はない。
「お兄…ちゃん……?」
咲妃は虚ろな目で立ち上がる。
「……」
本当に興味がないのか、軽蔑するような眼差しを向ける。
「!」
突然咲妃はハッとした顔をした。
それに続いて花岡も気づく。
「やっとか…」
案外すぐに秋雄は出てきた。
滑り込んだ入場口とは逆の位置にある入場口から現れた。
丁度咲妃の後方にある入場口だ。
「咲妃!」
秋雄が叫ぶと、咲妃が花岡に向かって走り出した。
死に急ぐ奴らは何度も見てきた花岡は、蚊を潰すように『ウォーリアー』の範囲内に入ってきた咲妃を低圧で殺そうとした。
花岡はじっと待つ。
「ん…?」
なんともならない。
それよりか咲妃は生き生きと飛ぶように花岡に走ってくる。
咲妃の能力は圧力までは通過させられないはず。そう思っていた。
「(極限まで能力を高めろ!闘技台と重力以外は私を「通過」する!)」
能力を限界まで極めることにより実現した圧の通過。
体への影響も十二分にあるが、短時間ならば影響を最小限に抑えられた。
本当に短時間なため、花岡まで届くことはできない。届かなくてもよかったのだ。
「クソォッ!」
おもむろに花岡は『オン・トップ・オブ・ザ・ワールド』を飛ばした。
整理がつかなくなっているのか、乱心した様子で放った。
花岡は圧を通過できるのがごく限られた短時間ということを知らない。そのため花岡は少し待てば勝てるというのに、待たなかった。
だが、それでも咲妃は「停止」しなくとも、秋雄は「停止」する。
「(もう限界…!)」
咲妃がそう思った瞬間。
距離は完璧となった。
「ウオォォォォオオーーーーッッ!!!!」
バンッッ!!!――
秋雄は粘りに粘り、雷撃を遂に放った。
普通はこのままいけば『オン・トップ・オブ・ザ・ワールド』に停止させられるが、今回は咲妃がいる。
藤色の雷は線となり咲妃に近づく。
それと同時に『オン・トップ・オブ・ザ・ワールド』も近づく。
咲妃が中継となり、両者を「通過」させた。それも同時に。
同時に通過させることで『オン・トップ・オブ・ザ・ワールド』は雷撃に触れることはなく咲妃の前方から後方に通過し。
雷撃は『オン・トップ・オブ・ザ・ワールド』に「停止」させられることはなく咲妃の後方から前方に通過する。
両者は見事触れ合うことなく通過した。
「死んで弔え花岡!!これで終わりだァァァア!!!」
花岡を指差し、全てを込めて言い放った。
「私を守れェェーッ!!『ナイト・ヴィジョンズ』!!!」
花岡は脚に纏っていた『ナイト・ヴィジョンズ』を離した。そして盾のように形成しようとする。
しかし『ナイト・ヴィジョンズ』は脚から離れると、一切動かなくなった。
「なッ!?ふざけるなッ!!!」
花岡の背中に既に触れていた。この男。
「お前は負けた…私利私欲に駆られるお前こそが真の「悪」だ…!」
「鷹匠ォッ!!!貴様ァァーッ!!!」
鷹匠瀧雄は既に花岡に触れ、能力を全て奪っていた。
雷撃は花岡の脳天を直撃した。
もちろん耐えることはできず、花岡慶一は死亡した。




