イマジン・ドラゴンズ その5
花岡は上昇気流で穴を抜ける。
抜けた先にあったのは、ロッシと戦った際に起こした爆発によって瓦礫だらけになった大会の闘技台だった。
「奴は…」
周辺を見渡す。
瓦礫が散乱しすぎて入場口や座席は見る影もなく、少し砂煙も舞っている。
気流を探ってみるが、範囲外なのか気配はない。
「正真正銘の鬼ごっこだな…」
その瞬間。
突如として風が吹き荒れる。
耳を撫で、体を押す風は徐々に強くなり、立つのもやっとのほどの強風になる。
「なんだこの風は…!」
腕で顔を被い、『ウォーリアー』を使い風を出し対抗する。
しかし花岡に向かって吹く風は留まることを知らず、どんどん強まっていく。
「雲も出せない…奴か!」
気流を読む暇もなく予想したとおりに現れた。
背後から『ウォーリアー』の風に乗って、2人が上空からド派手に落ちてきた。
「ハッ!そのまま落ちて死ぬだけだぞ!」
嘲笑うように落ちてくる咲妃とストライカードに目を向ける。
2人は手を絡み合わせ、どこか笑っている。
友情でも愛情でもない、兄妹という決して切れない固い絆によって、2人には不思議と勇気が湧いてくる。
「『パーフェクト・ストレンジャー』によって認めたモノ以外は私に触れない!」
咲妃の『パーフェクト・ストレンジャー』は咲妃に触れようとするものを「通過」させる能力。
そしてストライカードのように、能力の使い方は1つだけではない。
咲妃とストライカードは闘技台に近づくと、ストライカードが手を離し、咲妃だけが落ちていく。
「闘技台は私を「通過」するッ!」
咲妃が闘技台にぶつかると思った瞬間、闘技台が浮かび上がった。
闘技台が咲妃を「通過」したのだ。
「何ィッ!?」
もちろん闘技台に乗っていた花岡は下からの衝撃を喰らった。
垂直で床に着地したときのように、脚が体にめり込むような感覚と共に節々に激痛が走る。
「ヴグァッ!!」
反射的に花岡は闘技台に膝をついた。
それと同時に、重力に従い闘技台は落下する。
咲妃は闘技台を通過した後は地を通過することなくハンバーガーのように挟まれた状態だったため、再び闘技台は咲妃を「通過」した。
闘技台は一瞬で元の位置に戻り、今度は花岡がバランスを崩したまま宙に浮かび上がった。
花岡は上昇気流でゆっくりと着地しようとするが、風は発生しなかった。凪となり花岡は無防備な状態になる。
ストライカードの圧力を操る能力によって阻まれていた。
「クソ野郎がァァアーーッ!!!」
プライドもへったくれもない言葉を吐き、地面に衝突する。
幸いそれほど高くはなかったために痛みは少しだけだったが、花岡にとっては十分屈辱だった。
残った『ナイト・ヴィジョンズ』を使い、腰に巻きサポーターのようにすると、花岡は千鳥足で立ち上がり、前方にいた2人を視界に捉える。
「(使えるのは『オン・トップ・オブ・ザ・ワールド』のみ…!)」
一切動作を見せず、じっと睨み合う。
どちらもなかなか強力な特異能力、油断はできない。
なぜストライカードは高圧で花岡自体を潰さないのかを考えていると、いつのまにかストライカードが視界から消えていた。
「上かッ!」
花岡は視線を上げる。
しかしそこにはストライカードは見えなかった。
だが突如幽霊のように消え去ったストライカードを探すことはしなかった。
冷静に花岡は後ろに走る。とりあえず距離をとればいいという考えこそ油断だった。
つい先程も受けた感覚。背中に鋭く重い拳が入る。
その瞬間、花岡の視界に一瞬だけ手が見えた。
「蜃気楼かッ…!!!」
消えたと思っていたストライカードは蜃気楼によって消えたように見せていただけだった。
花岡は再び大きく吹っ飛ぶ。
もう屈辱や怒りなんてものを越えた何か不思議な感覚に陥る。
花岡は顔を綻ばせる。
「ハハハッ…!闘志が湧いてくるぞォッ!!」
不思議な感覚とは多幸感のことだった。
いきなり脳を襲った感覚は喜びと過大な自信による幸せの気持ちだった。
ストライカードは呆れた表情で歩み寄る。
「それがただの窒素中毒だってことに…いつ気付くかな…」




