イマジン・ドラゴンズ その1
大会会場のロビーにて。
そこには受付窓口やエレベーターがあり一見普通のホテルの受付みたいな見た目だが、なぜか人っ子一人いない。
不気味な静けさによって2人の緊張感が増す。
「いた!?」
ハントを見た咲妃が走り寄る。
「いや、人の気配すらない」
二人は息を切らし、不安げな顔をする。
ハントにはゴツい40代ぐらいの日本人を見つけたら報告しろと言っておいたが、人すらいないとは思わなかった。
花岡慶一。奴を見つけ出し、兄の仇をとる。
本来は鷹匠にだけ会えればいいのだが、花岡が鷹匠をさらったのは確実。どうしても花岡とぶつかることになるだろう。
「そういえば、先程2人の男が床に横たわっていたから話しかけてみたが、無視されたんだが」
「あんた…ホント馬鹿ね」
2人の男が床に伏せていた。白いスーツの男に筋骨隆々の黒人。
「…よく見たらこいつら大会参加者じゃあないか…」
ハントは何か発明したような表情をするが、それを見て咲妃は呆れる。
「あんたの最初の強者の雰囲気はなんだったのよ」
そう言うと咲妃は、2人の男を見つめる。
「……」
白いスーツの男の左手首は茶色く変色し、口を大きく開け、顔が青ざめており、もう一方の黒人は眠ったように横たわっている。
「もしかして…」
外傷は一切ないが、よく考えれば分かることだった。
参加者2人、要は鷹匠に雇われた2人が殺された。
誰に殺された?
「花岡…」
「この携帯、男の写真映したままフリーズしているぞ」
ハントが一つの黒い携帯電話を拾い、咲妃に見せた。
「……」
「ハナオカケイイチ…異能大臣…こいつを探しているのか?」
どうやら納得したようだ。
携帯電話に映っていた花岡。微笑みながらも厳格な顔つきをしている。
「もしかしたらまだ近くにいるかもしれない、はやく探そう」
「分かった」
「(奴はどこだ…)」
ロッシは薄暗い監視室へと続く扉をゆっくりと開ける。
そこには無数の監視カメラの映像と機械類が目眩が起きそうなほどに並んでいた。
「(ここにも人がいない…つまりは使い放題ってことだな)」
ロッシは並ぶ映像を虱潰しに端から見ていく。
動くものは何一つ映らず、たまに秋雄やヴェロニカを見つけて花岡と間違えそうになるぐらいだ。
「(しかし多いな……ん…?)」
ロッシの目の前に一つの不思議な映像があった。
その映像はフリーズしたように止まっており、時刻が他の映像と違って一切動かない。
「(2051年12月16日2時43分37秒…)」
日付が今日だということに気づき、ふとポケットから携帯電話を取り出すと、電源をつけた。
すぐに日付と時刻が目に入る。
【15:43 2051.12.16.】
日付も時分も同じ。分が同じだということは止まったのは最低でも今から22秒前。
「止まったのはついさっきじゃないか…!」
普通に考えればただの偶然だと思うかも知れないが、この状況ではおかしいとしか言いようがなかった。
ロッシは監視室を見渡す。
一定間隔で配置された机と椅子。そこら中に設置され、映像を映し出すモニター。パソコン、飲みかけのコーヒー。
何ら変哲はなかった。
「気のせいか…?」
その瞬間。
スッ…――と、ロッシの頭上から足元までを何か幽霊のようなものが通り過ぎた。
突然ロッシの体は棒のように床に倒れた。
モニターから出る粗い光に照らされ、彼の背中は悲壮的だった。
床が波のように蠢く。
「後味の悪い能力だ…」
床の白いタイルが液体となりドロドロと溶け、液体の中からその姿が露わになる。
黒いスーツに隠れた筋肉。
貫禄のある渋い顔が徐々に現れる。
「吐き気も頭痛もする…」
顔色が悪く、這うように移動する。たまに嘔吐くような動作も見せた。
暫くして立ち上がり、倒れているロッシを鋭く睨んだ。
「『成し遂げんとした志をただ一回の敗北によって捨ててはならぬ』…絶望を乗り越えてこそ私は「昇華」する…」
「しかし、まだだ…」
花岡は後方を振り向く。
獲物を噛み砕くような細く鋭利な目をその人影に向ける。監視室と廊下の間に立ち、背に灯りを浴びるその男は睨み返した。
「分身に何したか分かんねぇけどよ…「こっち」にダメージが来ないってことは衝撃や痛み以外の「何か」が分身だけを殺した…」
人影は徐々に顔を見せる。
「助けを呼んだほうがいいんじゃあないのか?」
「3対1で虐められてぇのか?」
「こちらは常に私を含めて4体でいくが、そちらは一人でいいのかという話だ」
花岡の背後から突如3体の龍が現れた。
「生憎こっちも4人でいかせてもらうぜ…」
ロッシも対抗し、3人の分身を作り出す。
「愚かな…すぐに地獄に送ってやる」




