討て!エヴァネッセンス! その1
観客の声は次の戦いに望みを賭ける。
『さて一回戦二戦目ェーッ!左手より登場いたしますはァ!?アメリカ出身アダムズ・ハントォッ!そして右手より登場するのはァァー!我が国日本よりィ!金崎秋雄ォォーーッ!!!』
ゆっくりと歩を進め、闘技台へと登っていく。胸は高鳴り、希望と緊張がゴチャゴチャになる。
「僕はアダムズ・ハント、よろしくね」
ハントはこれから戦う相手とは思えない程の笑顔で話し掛けてくる。端整な顔立ちに薄く生えた髭、青色の目はまさに外国の人って感じだ。
「あ、あぁよろしく」
ぎこちない挨拶を返す。もう能力は始まっているのだろうか。
『アダムズ・ハント選手の能力は「エヴァネッセンス」!そして秋雄選手の能力は「静電気」!そのままだァーッ!』
「両者位置に着いてッ!試合、始めェェェーーーッ!!!!」
間近で聞くともっと耳障りな審判の声と共に試合が始まる。
すると開始と同時に即座にハントは秋雄に向かって走り出す。秋雄は警戒し、少し下がる。
『試合開始ィ!先程と同じような状況だが、期待はずれにならないでほしいッ!』
司会の声がプレッシャーになる。
陸上選手のような速さでハントは秋雄を追い詰める。
「ハァァーッ!」
ハントは大きく右腕を振り上げ、秋雄へと振り下ろす。
「きたッ!」
秋雄は左前に大きく跳び、ハントの死角をとる。
「容赦しないッ!」
秋雄はすぐさま腰に付けておいたスプレー缶を取り出し、ハントの顔に向けて少量噴出する。それに色や液体はなく、何が出たかはわからない。噴出に合わせて秋雄はスプレーから出た気体に左手を近づける。
ボフッ!!
ハントの顔を大きく火が覆う。
『おッーとこれはァッ!秋雄選手持ち込んでおいた可燃性ガスの入ったスプレー缶に静電気で火をつけたァーッ!』
「あちち…これで倒れてくれればいいんだが…」
秋雄は煙に顔を覆われるハントを見つめる。
「大丈夫…大丈夫…」
ハントは自分に言い聞かせるように力んだ顔で姿を現す。
「案外効かないな…」
再び秋雄は右手に握っていたスプレー缶を再び前にかざす。そしてガスを出そうとする。
「あッ!」
何かに気づいたのかハントは叫ぶ。それに驚き秋雄は少し怯んでしまう。
「オートロックのホテルに鍵入れたまんまだ…」
「…あ?」
「もやしを燃やした…!」
「…は?」
秋雄は眉を動かさず、心底呆れる。
「今呆れましたな…呆れたんだ…」
ハントは何か決定的なものを掴んだかのように悠々とした表情をしている。
「何だと…?」
「僕の勝ちだ…!」
勝ち誇る。とはまさにこのことだ。
「…ウォォッ!!なんだこれはッ!」
ガタガタガタガタガタガタ
秋雄の脚が意思関係なく震え出す。やがてそれはまともに立てないほどの震えになる。
『どうした秋雄選手ッ!まるで脚が生まれたての小鹿だァーッ!』
「そう…これが私の能力…「エヴァネッセンス」ッ!」
今更ながら自分の能力を名前をつける文化なんて初めてだ。恥ずかしくないのか。
「くっ…立てない!」
脚に全く力が入らない。
『説明の許可が出ました!ハント選手の特異能力「エヴァネッセンス」は相手を呆れさせると相手の脚を「生まれたての小鹿」のようにする能力ッ!なんとも使いづらい能力だァッ!』
「このまま場外に運んでやる!」
そう言うと、なぜかスタッフが闘技台に上がり金属製の大きな荷車を持ってくる。
『なんとこれはハント選手の武器ッ!このまま場外に運ぶつもりだッ!なんとこれは特異能力を使用しているとして審判から許可が出ているゥッ!その光景はまさにシュールだッ!』
ハントは重たそうに秋雄の腹を持ち上げる。
「クソッ!」
秋雄は反射的に指をハントの肌に近づけようとする。
ハントの足元にスプレー缶が転がっていた。
「……」
ふと出来心で何も考えずにハントは足をスプレー缶の上に置く。
「フンッ!」
それを易々と靴で踏みつぶし、中のガスを全て出す。
「あっ」
バチッ…それは静電気を出す音。
会場に耳が痛くなるほどの爆発音が鳴り響く。その風圧は会場の一番上の席まで届き、黒煙と業火が立ち上る。
毎回こんな感じで短くいきます。