オン・トップ・オブ・ザ・ワールド その1
ウォーリアー戦よりさらに数十分前
3人の男は会場内の人のいなくなった食堂を歩く。壁一面はガラス張りで3階まで吹き抜けのいかにもオシャレという感じの場所だ。
「あの男が言ってた「ハナオカ」ってのはどこにいるんだァ?」
白いスーツを着て、全身にアクセサリーをジャラジャラと付けた男。マデュア・スダニが言う。
「分からないから探しているんでしょう」
眼鏡をかけた根暗そうな男。アルフレッド・コールマンはスダニに向かって親のように言う。
「ったく…なんであの日本人は俺らに頼んだのかなぁ…」
屈強な体格をしたタンクトップ姿の黒人。オドゥオール・キバキは溜め息をつく。
「おっ、人まだいるじゃあねぇかァ~」
スダニは遠くの方で前を歩いていた男を指差す。
「聞いてみますか、あの鷹匠って人も誰かに聞けばすぐ分かるって言ってましたらからね」
コールマンはその前を歩いていた男に駆け寄る。
振り返ったスーツ姿の男。顔を見た感じアジアの人だろうか、恐そうな顔をしている。
コールマンとその男は何かを話すと、コールマンが帰ってきた。
「知らないらしいです」
少し息を切らしている。
前にいたあの男は会釈をすると振り返って再び奥の方へと歩いて行った。
「ホントにこんな所にいんのかァ?」
「調べてみるか」
キバキはポケットから携帯電話を取り出すと、指で素早く操作する。
「ハナオカ…ハナオカ…」
不気味そうに日本語でハナオカという文字を調べてみる。
すると画面の予測検索の一番上出てきたのは「花岡慶一」という文字。とりあえずキバキはそれに触れ、検索する。
「誰だ…この男」
少し下にスクロールすると出てきた男。魔王みたいに堅そうな男だ。
スダニとコールマンは画面に顔を近づける。
「…こいつを探すのか?」
スダニは顔を強張らせやる気のなさを見せる。
「いや…どこかで見たような…」
コールマンが何かに気づき、目を瞑り記憶を整理する。一休さんのように長々と深く考えたコールマンは目をパッと開く。
「あ!さっきの人!」
「あのーすいません」
申し訳なさそうにコールマンがそっと先程の男のまた話しかける。
男ほ振り向くと、笑顔を見せる。
「どうしましたか、コールマン様」
その男はまるで自分が花岡慶一ではないように返答する。
「あッ!こいつ昨日の夜にホテルの部屋に来たやつじゃあねぇか!」
目を大きく見開きスダニは無駄なリアクションをとる。昨日のホテルに泊まっていた選手全員に挨拶をして回った男だった。
「そういえば名乗っていたような名乗ってなかったような…」
「それよりもこれ、あなたですよね?」
コールマンは手に持った携帯電話に映る男の写真を見せる。それは目の前にいた男と瓜二つだった。
「……」
男は怒ったような表情で黙り込んだ。
「なんか怪しいよなァ…?おい、こいつを写真撮ってあの日本人に見せようぜ」
そう言ってスダニがコールマンの手から携帯電話を取った瞬間。
「……!?」
スダニが携帯電話を床に落とす。割れてはいないようだが、心配そうにコールマンが拾い上げる。
「どうしたんですか、汗なんかかいて」
スダニの顔中には大量の汗が浮かんでいた。目を点にしてスダニは驚いた表情を見せる。
「手が…!右手が…!動かねぇんだよォォッ!!」
左手で右手を掴むと、腕をガタガタと震わせ、食堂内に大きく響く声でスダニが叫んだ。2人は呆れた目で見つめる。
「…お前、遂に頭がおかしくなったか?」
「違ぇよォ…!右手だけが無くなったみたいに…手首に冷たい重りが付いたみてぇに動かねぇんだよォッ!!!」
その普通じゃ様子を感じとり2人は目を合わせる。
「病気じゃあ…なさそうですね」
「ビンゴ…だったな」
2人はあの男に目を向ける。
鋭く覚悟を決めた眼差しはその男。花岡慶一を睨む。
何か花岡の背後にドス黒いオーラのようなものが現れる。それは花岡自身を表したように黒く、重い瘴気。
「なんだお前達…実験台か…?」
そのオーラは花岡の右肩辺りに集まると、少しずつ色が変わり、質感が出てくる。
「見られたら終わりの奴と見たら終わりの奴…面白い」
ニヤリと花岡は微笑むと、オーラは完全に固まる。
ワインレッドを基調とした刺々しい体。切り裂かれた傷のようにワインレッドの棘に重なる白の鱗。眼は薄黄色で、鬼のような形相をした顔に長く細い髭をたなびかせ、禍々しい印象をあたえる「龍」であった。
「…潔く…死ね」




