ウォーリアー その4
母親は長男と絶縁しアクアだけを連れて遠方に引っ越した。
アクアに隠れながらも惚れていた長男は想いに耐えきれず、一ヶ月後、アクアに会おうと引っ越し先に向かった。
しかしそれが悲劇を助長させた。
被害者の親は長男の家族ごと恨み、引っ越し先に向かった長男の後を追いかけた。そして母親とアクアの住む家に先回りし、母親を息子達と同じように刺し殺した。遺体は数日後床下で見つかったらしい。
アクアは海外に売り飛ばされ、日本の誰かに買われた。
そして長男がアクアに会うことはなかった。
「なんで防火シャッターなんて閉じてたの…」
咲妃は防火シャッターの外で息を切らしながらも鷹匠を探して走り続けていた。咲妃の能力であれば多少強引だが巨大な防火シャッターでさえも咲妃に触れることはできず、防火シャッターが咲妃を通過する。
「こっちは最初に来た道だし…一回戻ろうかな…」
咲妃が後ろに振り返ったその瞬間。
大きな爆発音が聞こえた。
「…!?」
防火シャッターを挟んでも聞こえるその轟音は、すぐに爆発だと分かった。シャッターが突然膨らみ、咲妃の歩を止める。
「…まさか」
こめかみに汗が浮かぶ。
咲妃の頭に最悪の事態が思い浮かんでしまう。
「お兄ちゃん!!!」
咲妃は防火シャッターに向かって一心不乱に何も考えずに走り出す。
咲妃は兄を一切恨んではいない。咲妃のためにやった行動なのだがら。自分が売り飛ばされたのは兄を巻き込んでしまった代償だと思い、オーストラリアに帰ろうとは思わなかった。無意識に封印し、制限してしまった時間操作の能力はいくらでも人を殺せるし、兄の罪をなかったことにもできる。
だが年月が経ってしまった。そして秋雄という人間に会ってしまった以上、過去に帰る勇気は咲妃にはなかった。
「止まれ!!!!」
廊下に響き渡る大声。
ビックリした咲妃はブレーキをかけ、声のした後方を振り向く。
視線の先には黒いパーカーを着た、堀の深く顔立ちの整った男がいた。その青い瞳には不思議な信念を感じる。
「さっきの音は爆発だろう。このまま入っても煙を吸って死ぬだけだ」
咲妃にとっては見たことのない男。
「可愛いな、だけどあんた誰だ?」
どちらも初対面のようだ。おそらく年上だろうが、どこか失礼な感じがする。
この男も鷹匠に雇われたのだろう。
「咲妃…雛形咲妃。多分あんたの味方」
そう言っている間に男が壁に付いた銀色の箱を開け、何かのスイッチを押した。
「これで建物全体の排煙口が開くだろう…多分」
数分後
アダムズ・ハントと名乗る男と咲妃は防火シャッターを開閉スイッチで開ける。煙は見る影もなく、雲もなくなっていた。
「お兄ちゃん…?」
咲妃は遥か遠くまで見渡すものの、どこにも人影はなかった。真下にいたために。
咲妃は足下に倒れているストライカードを見下げる。
「……」
言葉を失う
「もう戻って来たか…その男の能力はいらない、もう用済みだ…」
雲がないはずの廊下にあの龍の声が響く。
用済みという言葉に咲妃が反応した。
「花岡…許さない…やっと会えたと思ったのに……」
「お前に何が出来る…?その男がいない今、お前に勝つ術はない」
目の前に白い雲が現れた。
「希望がなくったってやる…光がなくても進む…私は」
咲妃は拳を握り締める。
「鷹匠は既にもらった…あとは奴が起きて改心するだけだ」
雲は完全に龍となり、あの青い瞳を光らせる。
「ッ……ウォォォアァアア!!!」
全速力で走り出す、数メートル先にいる龍に向かって。
「死に急ぐ奴が多いな…」
低圧にしようとする。
「そんなに死にたいなら殺してや……」
龍の動きが突然止まる。時間が止まったようにピタッと止まった。もちろん時が実際に止まったワケではない。
どこかを見つめ、ボーッとする。
「!」
フワッと。なんの前触れもなく龍は雲となり、消えていった。
咲妃は周りを見渡すも、雲も龍も一つも見えなかった。
「逃げた…のか?」
咲妃は怒りと悲しみの混じった落胆したような顔をする。
「いや、本体をやったのかもしれない」
ここにきてハントが喋りだす。
「…え?」
咲妃に歩み寄る。
「俺とそのオーストラリアの奴以外の選手も全員鷹匠に雇われている。誰かが本体をやってくれたんだろう」
ハントは鷹匠の顔を思い出しながら体の力の抜く。あの白い龍を一応は警戒していたようだった。
ほぼ同時刻に秋雄達が戦っていたのを知らずに。
ナイト・ヴィジョンズが使っていた気流を読むという能力は一応本来はウォーリアーのものです。




