ウォーリアー その2
「お兄ちゃん!なんでここに!?」
咲妃は天井に足を着けるストライカードと目を合わせる。
「こっちの台詞…と言いたいところだが、そこの男に雇われたんだよ」
横にいた鷹匠に指を差す。ストライカードはいつにもなく明るそうな表情だ。
「全員雇っておいた…まだどこかで走り回ってる奴がほとんどだ。…それよりも、あっちを気にしたらどうだ」
強風は既に止み、あの龍がハッキリと見えてきた。
1人は天井に、2人は床に、三角形の形で並ぶ。
「1人増えようが変わりはしない…」
再び黒雲が天井に蔓延り、黒雲の中で数多の雷が蠢く。
「おい、報酬の前払いとかないのか」
ストライカードは鷹匠にに聞く。今のところ雷を凌げるのは咲妃だけだ。
「…仕事は必ず成功させろよ」
ストライカードと鷹匠は左腕を上げ、手を合わせる。
1…2…3。3秒経つと鷹匠は手を離した。
特に見た目に変化はなく、いつものストライカードだったが、表情はいつにもなく覚悟を決めたような、凜とした顔だった
「注文はちゃんと承ったぞ」
「ああ」
咲妃とストライカードは走り出す。
ストライカードは今の喜び叫びたい気分を堪えて、顔に少し笑顔を浮かべる。
「お前達に用はない…」
低圧。能力の範囲内の圧力を減圧させる。
急激な減圧によって発生した気泡が血管を塞ぎ、すぐに関節痛などの症状が現れ、その後さらなる減圧で運動障害が起こる。
低気圧とはまた違った方法で龍は殺しにかかる。
「…!」
しかし2人は止まることなく走ってきた。何も起こらなかったかのように龍に向かって駆けてくる。
おそらく減圧を喰らわなかったのはストライカードの新たな能力。ならば方法を変えて殺すだけのこと。
2人の視界が薄白くなる。
廊下の気温が急に低くなり、何か頬に冷たい物が張り付く。
「これ…雪?」
咲妃がふと呟くと、再び風が吹き荒れる。
咲妃は能力によって風と雪を受けることはないが、視界は真っ白になる。
何も見えなくなり、周りを見渡した。
「お兄ちゃん!」
咲妃は近くにいるであろうストライカードと合流しようと試みるも、目もマトモに開けられず、体も震えてくる。
白い息も背景に同化し、咲妃の白銀の髪は雪に混じり妖艶な雰囲気を醸し出す。
「アクア!奴の目的はあくまで鷹匠だ!鷹匠を探せ!」
どこかはわからないがストライカードの声が聞こえた。
咲妃は記憶を辿り鷹匠がいるであろう後ろ側に走る。
「脱出はさせない…」
龍は咲妃に向かい風を吹かせ、能力の範囲内に閉じこめようとする。雪も風も咲妃へと向かい、吹雪が起こる。
そんなものを物ともせずに咲妃は走る。
「『パーフェクト・ストレンジャー』は私に触れようとするものを「通過」させる能力」
生命活動のために必要なもの以外は全て咲妃に触れることはてきない。積もった雪に足をとられることも向かい風に走行を阻止されることは決してない。
咲妃は容易に能力の範囲外に出た。
「鷹匠は…」
一方ストライカードは苦戦を強いられていた。
「ダウン・アンダー」によって天井を歩いているため雪を真下から被り、体が半分程雲に埋まっている。
ストライカードは何かを考えつく。
そして、突如としてストライカードの下半身を覆う雲が消え、ストライカードの周りだけ晴れていく。少し様子を見ると雲はすぐに再生した。
「(最初からやっておけばよかったな…)」
ストライカードは周りの雲を消しながら天井を駆けていく。とりあえずは進んできた方向を逆走する。
「圧縮する能力…か…?」
天からの声のように龍の声が響く。
龍は何かに気づいたのか、ストライカードにも風が発生した。
それは向かい風ではなく、乱雑で規則性のない細い風。向かい風かと思えば追い風、と思えば横や上からも風が吹く。
まるでどこかへ誘導するかのように。
ストライカードはその風を避けながら、白銀の世界を進んでいく。
「ウォッ!」
すると突然ストライカードは足を踏み外す。何か落とし穴のようなものにストライカードは落ちた。
「なんだ…この抉れたような穴…」
ストライカードには全く見覚えのない1mほどの大きな穴。
それは先程ストライカードが来る前に咲妃を襲った竜巻が作り出した穴だった。
ストライカードはやれやれという風に穴の角に手を当て穴から抜け出そうとする。
風の音が聞こえる。さっきよりも大きく強い風。
「グォッ…!!」
それは上昇気流。つまりストライカードにとっては下降気流となり、穴に体を押さえつける。
髪をたなびかせ、目を瞑る。
「台風か…」
低気圧を伴う大規模な上昇気流。台風はストライカードを中心として不気味に留まっていた。
しかしストライカードはどうとも思わず、いつもの冷静な顔をしている。
「台風ごと消す…させると思うか…?」
再びあのエコー気味の龍の声が響く。
ゴロゴロ――と、ストライカードのすぐ周辺にその音は聞こえた。渦巻く雲の中で無数の雷が光を覗かせる。
雷であることは一瞬で理解でき、台風全体の圧力を高めることにより消そうとする。
「こいつ…!次から次へと…」
消しても消しても消えなかった。外側からどんどん渦巻きが増え、途方もない台風が廊下を支配する。
雪も雨も雷も何もかもが混ざり合い、不思議な天候に変貌する。
「まずは一人目…」
銃声のようで爆発音のようで、その雷鳴と雷撃はほぼ同時に起き、中心へと向かっていく。
鷹匠は特に何もやってません。天候や圧力の知識は間違ってる可能性大です。




