ウォーリアー その1
ナイト・ヴィジョンズ戦より数十分前
咲妃達は無駄にだだっ広く大きい廊下を走る。白い灯りが2人を照らし、途方もなく長い廊下を見せる。
「花岡!?なんであいつが!?」
咲妃は花岡が自分達を襲ったことに驚いた。
「単純さ、子供みたいに」
鷹匠が言いかけた瞬間。
「そう単純に…「最強になりたい」…その志だけでいい…」
白い雲が咲妃達の前方に突如発生した。
声は雲から出ていおり。雲は丸く集束すると固まり、光沢が顕れ、徐々に形を形成していく。
先程あの部屋で機関銃を乱射した真っ黒な龍とは違う「白い龍」。大きさ自体はあの黒い龍と同じで小さいが、眼は青く煌めき、白い鱗と鱗の隙間には水色の光を覗かせている。
「鷹匠…今なら許してやる…さぁ…渡せ」
龍は口を少し開けると、鷹匠を見た。
「『オール・タイム・ロウ』までを手に入れてしまったお前は壊れる…世界が壊れる…」
『オール・タイム・ロウ』とは咲妃が持っていた「時間操作」の能力。
三つの能力を持っている時点でこの横暴なザマだ。時間操作なんてものを加えたら世界が危機に陥るだろう。
「何を馬鹿なことを言っているのだ…長い付き合いじゃあないか…」
「たった一年半の付き合いをあんたの業界じゃ長い扱いなのか……お前の私利私欲はこれ以上進んではいけないということだ」
「あのカス共の戦いを見て感化されたか」
「まあ…そうかもしれないな」
「そうか…今まで上手くやってきたと思っていたが…ここにきて交渉決裂…だな」
ゴロゴロ――という轟く音。
突然室内に黒雲が現れた途端、雨が降り、雷鳴が轟く。灯りが隠れ、辺りが薄暗くなってくる。
「鷹匠!下がってて!!」
咲妃は意気揚々と鷹匠を手で静止させる。
「(全く性格の分からない女だ…)」
鷹匠は潔く後退する。黒雲が届いていない場所まで来ると、咲妃を静かに見守る。
バンッ!!――それは銃声のようにも聞こえるが、全く違う。緋色と白色の雷光は全て咲妃に向かって降り注ぐ。雷撃は全て咲妃に向かっていく。
しかし咲妃も鷹匠も全く動じていない。どこか自信満々の様子だった。
「鷹匠!これの名前なんだっけ!?」
轟音のなかに混じって声が聞こえる。
咲妃は無数の雷を体に浴びながら、能力名を聞く余裕をアピールしている。
「『パーフェクト・ストレンジャー』だ!」
運動会で子供を応援する親のように、軽く返答をする。
雷をこれでもかというぐらいに浴びているが、それは一つも残さず地面に逃げている。
「(『パーフェクト・ストレンジャー』…あの女にやるにはおしい能力だ…)」
雷によって灯りにチカチカと故障が生じる。
「当たらないか…ならば…」
雷が一瞬でピタッと止むと今度は雲が渦を巻く。
「竜巻かな?あれ」
天井の雲から縦にゆっくりと伸びていく渦巻き状の雲。咲妃の3倍以上はあろうその竜巻は少しずつ大きくなっていく。
円柱状に伸びているその竜巻は回転し、天井と床を抉りながら咲妃に向かって移動していく。
「「天気を操る」能力だ」
鷹匠が他人事のようにそう言うと、突然咲妃は竜巻に向かって走りだした。
躊躇せずに竜巻に飛び込む。
すると不思議な事に、いつのまにか咲妃の背後に竜巻があった。瞬間移動したかのように一瞬で竜巻が咲妃の後ろに移動していたのだ。咲妃が動いたわけではなく、竜巻が移動していた。
「触れようとしたものを背後に移動させる能力……いや、違うか」
咲妃は微笑みながら更に龍に近づき、距離を縮めていく。
「ならば…」
龍がそう言い放つと、咲妃の走りか鈍くなる。
「うっ…うぅっ」
咲妃が完全に止まり、頭を手で覆い呻き声を上げる。
いきなり頭を抱え苦しむ咲妃を見て、鷹匠は感づいた。
「頭痛…まさか、低気圧…!」
気圧を低くすることで拡張した血管によって起こる頭痛。
簡潔に言うとあの龍がこれを更に強めれば真空に近い状態となり死に直結するであろう。
「マズいッ!!」
鷹匠はすぐさま走り出す。
しかし龍がそれを拒まないはずもなかった。
「黙って見ていろ…」
突如、鷹匠に強大な向かい風が吹き荒れる。鷹匠は走ることはもちろんのこと、立つことすらままならなくなり、その場に屈む。
「クッ…!」
歩を進めようとするが、強すぎる風に逆に後ろに押されていく。
「アァァァァアア!!!!!」
咲妃の声は大きくなり、耳を塞ぎたくなるほどの悲痛な叫びを鷹匠は救ってやることができない。
「鷹匠…お前がこの女に関わる理由はもうない…見殺しにすればいい…」
ここで終わってしまうのか。あの男に世界が壊されてしまう。いつも花岡の指示に従い動いていた鷹匠には味わったことのない感覚。
「これが…絶望か…」
「遂に会えたな…」
咲妃の叫びに混じって聞こえる男の声。
どこから聞こえているのか、それを探す余裕なんてない。
すると何者かが咲妃を掴み持ち上げた。それはお姫様抱っこやおんぶとかというものではない。
「クレーンゲーム」のように咲妃は真上からガシッと掴まれ持ち上げられる。
そして咲妃は雲を突き抜け龍の「天気を操る」効果の範囲外に飛び出した。よく見ると咲妃は宙に無造作に浮き、天井に足を着ける男に掴まれていた。
「あ…!その顔は…!」
「衝撃の事実ってやつだな…アクア」
「…お兄ちゃん!?」
咲妃を上から掴んでいたのはストライカードだった。




