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静電気は最強に憧れる  作者: ウエハル
閉会後の決戦
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ナイト・ヴィジョンズ その2




「しぶとい奴め…」

龍は鬱陶しそうな声でシャッターの外に出た秋雄に向かう。

雨に濡れ秋雄は考え込む。

「(ヤバい…本当に丸腰だぞ…静電気だけで勝てるわけないし、あの龍を殴って本体にダメージがいくとも限らない…)」

つまりやることは1つ。


「逃げるッ!!」

咲妃と鷹匠を助けたいのはやまやまだが、死んでしまっては元も子もない。秋雄は周りを見渡し、道路を挟み車庫の向こう側に立っていたビルに我武者羅に逃げ込んだ。



咲妃と鷹匠は壁伝いに移動していた。

「あった!出口!」

咲妃は鷹匠に向かって嬉しそうに叫ぶ。

しかしそこは秋雄が出たシャッターとは違う、別の建物に繋がる通路だった。とりあえずはそこに逃げ込むように入ると、2人は奥を見つめる。

「てゆーか…こっからどうすんのよ…」

咲妃は服についた雨を絞りながら心配そうな顔をする。

「本体をやるしかない…」

膝に手をつき休憩をする。

本体をやれば問題はないのだが、そんなに簡単に言えることではない。

「本体?」

咲妃はあの黒い龍を思い出す。秋雄のことで頭がいっぱいの咲妃が思い出すのに少し時間がかかった。

「花岡だ…」

花岡…当てはまる人物は一人のみ。開会式の際に挨拶をしていたあの強面の男。

「花岡って…え?」


「異能省大臣の花岡慶一だよ」





「はぁ…はぁ…」

鳴り止まない銃声に耳を塞ぎながら、秋雄は建物を走り回る。宙に浮かんだ機関銃はどこまでも秋雄を追ってくる。

「クソッ!…どうすりゃあいいんだよ…」

絶望に慣れるということはない。今までの絶望よりも大きく強大で間近な「死」という感覚。


「お前の動きは気流で分かる…潔く死ね…」

銃声に混じって聞こえる声。ジワジワと秋雄を追い詰める。

「ここか…」

機関銃となっている龍はドアをぶち破り、強引に入る。そこは印刷室で、灯りのない薄暗い場所だ。

「オルァッ!!」

入った直後、暗闇から秋雄が現れた。

秋雄は力技でコピー機を持ち上げ、豪快に機関銃に振り下ろす。

コピー機は平面の部分で真っ平らに押し潰した。

すると何かグチャッという音が聞こえ、床とコピー機が接した。

「…こんなもので潰せると…思ったか?」

コピー機の下から黒くヘドロのような液体が漏れる。

それは一ヵ所に集まり、噴水のように盛り上がると、またあの龍の形になった。

「液体は潰しても意味ねぇよな…へっ…」

心身共に疲労している秋雄は満足に笑う力も残っていなかった。龍と秋雄は至近距離で睨み合う。

「『ウォーリアー』が2人のもとに向かった…お前も奴らの見本になるように…死ね」

すると目の前でいつの間にか剣に変形していた龍は情けをかけずに秋雄に飛ぶように向かう。

秋雄は恐怖を感じ反射的に走り出す。無慈悲の刃は秋雄を部屋の奥へと追い詰める。

「さっきよりデカくねぇか!?」

行き場を失った秋雄は、やけくそ気味に窓に向かってタックルする。


「ッ!」

秋雄は再び窓を割り外に飛び出る。2度目の飛び込みは二階からだったため特に躊躇いなくできた。

空中で秋雄は体を回転させ空に顔を向ける。その視線の先には秋雄を追って窓から外に飛び出した剣が見えた。

秋雄は空中で余裕を見せる。

「もう1つ言うのを忘れてたんだが」

両手で中指と小指以外の指を握り、ピストルに似た形を作ると、その両手を合わせる。不思議な形だが、これが一番適した形だ。


「意識すりゃあ電気を溜め込めるんだぜ…俺」


バンッ――と秋雄が受けた雷と同じような音と共に指から放たれた雷撃は真っ直ぐに剣へと当たり、剣は花火のように四方に弾けた。秋雄の視界は浅緋色の光に覆われる。

ビルの窓は割れ、壁は焦げ、秋雄は仰向けの体制で地面に落ちる。水溜まりは水飛沫を上げ、秋雄の体を濡らす。


「ったく…もう慣れてきたな…」

ストライカードとの試合の際に2回も地面に打ちつけられているともう慣れる。二階よりも高い位置から落ちたこともあるので、受け身はとれた。



「雷を撃ち出すとは…底の知れない男だ…」


「!」

液体に戻って弾け飛んだはずだった剣は秋雄の目の前に集束し、龍の形を創り出す。

秋雄は後ずさりする。

「こっちの台詞だよ…」

どうすれば倒せるのかを考える余裕もなく、自暴自棄気味になった秋雄が逃げる次に考えたのも、1つだけだった。

「(本体をぶっ叩くッ!)」

そう思った直後。

「本体をやるしかない…そう考えただろ…?」

秋雄は呆然とする。

やはり単純すぎる考えは読まれていたが、今はもうそれしかない。

「自分が生きて帰れるとか…思ってるんじゃあないよな?…ここは駐車場だ…お前に逃げ場はない…」

機関銃のことを思い出す。おそらく奴の能力は「なんにでも変身できる」能力。限界があるかは分からないが、この広い駐車場に身を隠し奴から逃れられる場所は1つもなかった。


ガチャガチャ――と機関銃に変身する音であり、死を告げる鐘。龍は嬲るようにゆったりと形を形成していく。

「ッ……!」

雨と汗が混じり、形容しがたい感覚になる。

もう死んでいるかのような、厭世の感覚。


三度、銃声は繰り返される。火花を散らしながら無造作な銃弾が秋雄に向かっていく。

秋雄は防御することもなく、ただその事実を無情に受け止めた。

冷酷非情な弾丸が秋雄の眼前に到達する。


刹那。その声がこだまする。

懐かしく思えるその声と同時に、高速で大きな何かがぶつかった。

秋雄はその高速の何かに体を押され、銃弾を紙一重で垂直に回避する。

そして機関銃から遠く離れ、ビルの裏側に辿り着くと、秋雄は濡れたコンクリートの地面に不器用に降ろされた。


全身黒ずくめのガタイの良い男。その男の視線は鋭く、雨に打たれながらも厳格とした態度だった。

「外が騒がしいと思ったらこのザマだ…全く」

男は角から顔を出すと、あの機関銃を見つめる。音は鳴り止まり、まだ追ってこない様子だ。

すると男の視線は秋雄に戻る。

「この青二才が…死んだら俺の面子はどうしてくれるんだ…」

その傲慢な態度は相変わらずだった。

「同い年だろーがよ…ロッシ!」



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