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静電気は最強に憧れる  作者: ウエハル
開会
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開戦の狼煙とイン・ディスペア





「秋雄さんの部屋はここになります。」

トイレの清掃員みたいな格好をした50代ほどの男性が秋雄を部屋へと案内する。

「ありがとうございます。」

秋雄は軽く会釈をし、部屋へと入る。中には椅子やテーブル、鏡やソファがある。新築のような見た目をしている。

「では、9時半から開会式が御座いますので、9時半には控え室へと来られるようにお願いします。」

そう言うとその男は部屋を出て行った。

秋雄は何度も見た大会の予定表を開く。出場者は名前はあるが、能力などはさすがに書いていない。しかも日本人は秋雄しかいなく、秋雄を含めて8人しかいない。

「案外少ないんだな…」

他の情報は全て見知った情報ばかりで、9時半まで残り20分をどう過ごせばいいのだろうか。


何も考えずに秋雄は部屋を出る。緊張からなのか、上の空だ。


「そこの人、そこの男の人」

声から分かるいかつい感じは、秋雄をびっくりさせた。

「出場者の人ですよね?」

振り向くとそこに肌が真っ黒に焼けた中年の男がいた。顔や体格の良さから見て黒人だろうか。まるでテレビに出てくるSPのようにガタイの良い体をし、ハリウッドスターみたいな顔をしている。

「はい、そうですけど…」

急に話しかけられるものだから、焦ってしまう。

「日本人の人ですよね?日本だとお互いの手を合わせて挨拶するって知ってますよ~」

そう言うとその男は右手を不器用に秋雄の顔の前に出す。

「は、はあ…どうも」

「それと、私の国の挨拶知ってます?」

笑顔で男は手に顔を近づける。

「ベッ!」

男は合わせたまま秋雄の手に唾を吐きかけた。

「げっ!」

聞いたことがある、どこかの国では手に唾を吐いて挨拶するって…悪気はないんだろうけど、やっぱ無理だ

「では、また開会式で!」

そう言うと男は手を離し、秋雄の横を通り過ぎていった。

秋雄はすぐに洗面所へ向かうと、手を入念に洗う。石鹸を出していると、横に人が来たのが見えた。


「日本ってずっと来てみたかったんだ…あんたアジアの人でしょ?中国人?日本ってこんな水出してどうするんだろうかね、戦争でも起こそうとしているのか?」

横に秋雄よりも20cm程身長が高い男がいた。鼻が高く、海外ドラマからそのまま出てきたような特徴的な顔をしている。

「もしかして出場者の方ですか?」

勇気を振り絞って話し掛けてみる。こんなところで勇気を出してしまってどうするんだろうか。

「あれ、あんたもそうなのか」

すると男は洗面台の水を出したまま去っていった。秋雄は自分の分とあの外国人の分の蛇口をひねり、もう出場者に会いたくないと思い部屋に戻っていった。





「これより、異能省主催第1回特殊特異能力大会開会式を始めます。」

野太い声で始まった開会式は、会場にいる観客をさらに盛り上がらせる。天下一武闘会みたいな土台に置かれたステージから見知らぬ男が降り、大会のルール説明が始まる。

「試合はトーナメント方式で時間無制限。勝敗の決定は試合続行不可になる、相手が降参する、場外に出た場合に決定いたします。特異能力の大会ですので、特異能力を使わない攻撃は反則とし、反則2回で負けとします。防御の場合は特異能力を使わなくても反則となりません。消極的と見なされた場合は反則と致します。特別ルールとして、選手一人に一つだけ武器の持ち込みを可とします。ですがこちらも攻撃ですので、同様に特異能力を使わない、または介さない武器での攻撃は反則となります。他の細かなルールはパンフレットをご確認ください。」

 

「続きまして、花岡異能大臣からの挨拶」

進行役がそう言うと、会場が静まり返る。壇上へと登る男は、その体からも分かる異様で厳格な雰囲気、なにか恐怖さえ感じる。

「会場の皆さん、選手の皆さん、今日は天気にも恵まれこれまでにない最高の日となりました。」

そんな意味の分からないお世辞から始まる言葉は聞こうとは思わなかった。

「そして、この大会で優勝した選手への優勝賞品。パンフレットには賞金120億円、それと特異能力と記されておりますが、その特異能力を今ここで私が発表致します。」

誰もが耳をかたむける。それは秋雄のこの大会最大の目的であり、優勝しなくてはならない理由だった。


「優勝した際の特異能力、それは「時を操る」能力でございます。」

案外しれっと放ったその言葉は秋雄にとっては最高に魅力的であった。

「自由度は過去最高!時間を止めることはもちろん、過去へ遡ることや自身だけでのタイムスリップや部分的に時間を早めることでの光速の攻撃!」

秋雄の胸が高鳴る。まさに史上最強だ、どんどんやる気が湧き出してくる。

「使い方はあなた次第!何をしようが勝手です!」


「では、健闘を祈らせていただきます。」


秋雄なはここからの開会式の内容は聞こえなかった。心臓の激しい鼓動が収まらず、興奮が抑えきれない。どこか病的な部分があった。


「これより、第一回戦を開始します。選手の入場をお待ちください」

そのアナウンスが秋雄を正気に戻す。はっと思い秋雄はすぐに会場の特別席へと向かう。

会場の熱気は収まらず、声援や怒号や笑い声が混じった歓声は秋雄をさらに緊張させる。



開けたスタジアムの大きすぎるとも思える台は、障害物など何もなか整っている。

「選手入場です。」

そのアナウンスが響くと、会場は声で包まれ、耳鳴りのような感覚になる。

『選手入場です、司会は私、総合格闘技司会歴を33年の渡部利長です。 遂に選手入場!左手の入場口より現れた色白のモデルのような女性はロシア出身のヴェロニカ・アンドレーエヴナ・ニコラエフ選手!そして右手より入場するのはスウェーデン出身のアルフレッド・コールマン選手!どちらも余裕の様子です!』

2人の見慣れない外国人はどちらも戦うような人とは思えない。どちらも美人のロシア人とオタクのスウェーデン人にしか見えない。


「試合、始めェェェエーーーッ!!!!」

無駄なほどに大きな審判の声で試合のゴングは鳴らされた。

『さあ待ちに待った試合開始!手元の資料によりますとヴェロニカ選手の能力は「イン・ディスペア」!詳細な情報は言えません!対するコールマン選手の能力は「アトミック・スウィング」!!どちらも未知数です!』

「(能力に名前なんてあるのか…?そういえば受付の時の書類にそんなのあったな…静電気って書いちゃったよ…)」

2人は広すぎる闘技台の上で睨み合いを続ける。


するといきなりヴェロニカは走り出す。

『おっとヴェロニカ選手仕掛けた!対してコールマン選手は後ずさりする!』


「あなたは先に仕掛けなかった…そして下がってしまった…私の勝ちよ」

コールマンに近づいたヴェロニカは大きく目を見開き、コールマンの目を見つめる。

「何の能力か分からないが、まずいッ!」

コールマンは目を閉じる時間が間に合わず、ヴェロニカと目を合わせる。


「あっ…あぁ…もうダメだ…」

コールマンは足を震わせ、汗を滝のように流す。顔には恐怖しかなく、今にも溶けそうな様子をしている。


「あ…ぁあ…うわァァァァァァアァアーーッ!!!!!」

コールマンは恐れを成し、叫びながら振り向き台の外に走り出す。


『能力解説の許可が下りました!ヴェロニカ選手の特異能力「イン・ディスペア」は目を合わせた相手の感情を絶望の淵に陥れる能力!そしてそれは…』

解説の意味深な説明は会場の者の目をヴェロニカへと向けさせた。


「あぁ…なんで…」

ヴェロニカも汗を垂れ流し、口を半開きにして強張った顔をする。

「アァァァァァーーーーッッ!!!!」

ヴェロニカもコールマンのように走り出す。まるで意味の分からない行動に観客達はポカーンとした顔をする。


そんなことはつゆ知らず、既にコールマンが場外に出ていた。


『おっーとここでヴェロニカ選手勝利ィッ!能力の説明を続けますと、「目を合わせた相手を絶望させ、その後自分も絶望してしまう能力」ッ!これは意味が無い能力だァッ!開始1分に満たず決してしまった勝利!なんともあっけないィィーーッ!!!』

秋雄も唖然とする。コールマンの能力も気になるが、あまりにも早すぎる勝利に口を半開きにする。

ヴェロニカもその後に場外へと飛び出し、スタッフに捕まえられた。


『なんとも拍子抜けな一回戦!ロシア出身ヴェロニカ・アンドレーエヴナ・ニコラエフ選手の勝利ですッ!ヴェロニカ選手は二回戦へと進みますッ!』

これが同じレベルの特異能力…秋雄は複雑な感情と共に希望を感じ始めた。


諸事情により全員日本語です。ジョジョリスペクトで、外国人の名前に違和感とか覚えても気にしないでください。

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