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静電気は最強に憧れる  作者: ウエハル
閉会後の決戦
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龍と黒騎士




『この大会を征したのはッ!!なんという奇跡か偶然か!!!記録にも記憶にも残る名勝負を繰り広げたこの男ォッ!!!』

その司会の声が響き終わると、俺は光射す場所に歩き出した。




「金崎様、どうぞこちらへ」

表彰式と閉会式が終わり、俺は鷹匠という若い男に案内された。

コンクリート打ちっ放しの質素で何もない取調室のような部屋。

長くだだっ広い部屋に灯りは2つだけで壁一面に窓があり、窓の外には巨大な車庫がある。どうやら三階に位置しているようだ。

途轍もなく暗い雰囲気を醸し出している。


「あれ、なんでいるんですか」

秋雄の視線の先には秋雄の怪我を何度も治したあの医師がいた。優しく微笑みながら部屋の隅の方に立っている。

「特異能力譲渡の際の万が一に備えて。らしいですよ」

本人もあまり理解していない様子だ。

「は、はぁ」


部屋には鷹匠という男と例の医師と秋雄。

部屋の奥には大きく白い仕切りがあった。

「準備はよろしいでしょうか」

鷹匠が自分の体の真ん中に縦に仕切りが来るようにし、秋雄に言った。


「では、特異能力の譲渡を行います」

鷹匠が左手を仕切りの向こう側、秋雄には見えない方に伸ばした。おそらくだが奥には人がいるのだろう。

「……」

静かだ。仕切りの向こう側でなにをしているのだろうか。

鷹匠が左手の伸びる方向をじっと見る。その鷹匠を秋雄はじっと見る。よく見ると秋雄とさほど年齢も変わらないぐらいに若く見える。

間が不思議と長く思えた。



「秋雄!」

ガバッと突然秋雄に被さり目の前に現れた人影。

秋雄よりも背丈は小さく軽かった。

白銀に光る美麗な髪。頭だけしか見えなかったが、秋雄には十分過ぎるぐらいに見覚えがあった。

「!?」

その少女は秋雄に抱きつきながら顔を見上げる。

毎日見ているあの可愛らしく明るい表情。

秋雄は唖然とする。


「咲…妃?」

秋雄の目の前には紛れもなく咲妃がいた。

だが突然前触れもなく瞬間移動したように現れる姿に違和感を覚えた。

「(咲妃の能力は瞬間移動…でもこの大会の場所もこの部屋のことも知らないはずなのに…)」

咲妃はニコニコと秋雄を見つめる。



「はぁ…雛形様、説明よろしいでしょうか」

鷹匠が溜め息をつき面倒くさそうに聞く。

「うん」

咲妃がすぐに答えると、鷹匠はしょうがなさそうに話し始める。

「「時間操作」の能力、私の周りでは『オール・タイム・ロウ』と呼ばれておりますが…その特異能力の能力元は雛形咲妃様でございます。今回の譲渡を提案されたのも雛形様でございます」

秋雄の目が蜷局を巻き始めた。

「つ、つまりは…咲妃の本当の能力は時間操作…?」

聞きたいことはまだまだある。理解するまで時間がかかりそうだ。

「ごめん…今まで黙ってて」


「学校の皆にも黙ってたのか?」


「うん、大会の人に言ったのが初めて」

俺のためを思ってくれていたのか、それとも咲妃なりの謙虚さというものなのだろうか。

「そんな能力を手放すなんて…最強の能力だろ?」


「最強なんかじゃないよ…秋雄の心は動かせない」

雰囲気が暗く重くなっていく。

「へ?」


「秋雄、気づいた?さっきの戦いで木の実を奇数個から偶数個にしたのも私…」

秋雄は先程のストライカードとの戦いを思い出す。

「な…」

言葉に詰まる。喜ぶべきか、怒るべきか、言うべき言葉が見つからない。

「9個の木の実を10個にしたの」

増やした?どうやって?疑問しかないが、もう咲妃に言う言葉はなかった。

「じゃ、じゃあ咲妃の能力は俺に――

「秋雄が虐められそうになってたのを阻止したのも私…秋雄が物を忘れたときも家から持ってきたのも私…」

全てが記憶に当てはまる。欠けたピースが埋められたように、秋雄の中での長年の謎が解けていく。

「処女を捧げて秋雄の初めてになったのも私…今だって一日一回は

秋雄とヤって、一日三回以上はキスするのは日課にしてる…」

秋雄が知らない事に頭が混乱し、唖然とする。それと同時に咲妃に少しながら恐怖を感じていた。

「秋雄に近づく女は秋雄と会わせないようにした。生殖機能を潰したことだって、存在自体を消したことだって…」

汗が体中を気味悪く滴り、背筋に悪寒がする。


「全ては秋雄のために」


なんと言えば、なんと思えばいいのだろう。

咲妃と俺は、不思議な関係だった。どちらかが本気で想いを伝えたことはない。踏み切った関係ということでもなかった。

だからこそ、怒っていいのか、誉めていいのか分からない。

頼んだわけてもない。嫌がったわけでもない。

口を半開きにしながら、咲妃と目を合わせる。



「雛形様、そろそろ…」

鷹匠が静寂を切り裂く。


「それでも秋雄は答えてくれない」


「なんでなの…?私は秋雄のためならなんだってやる。死んでもいい」


「なのになんで…?好きって言ってよ…」


「秋雄が本気で好きって言うまで能力は譲渡しないし、能力をもう使わない…私、本気だからね」


汗がダラダラと流れ、鼓動が速くなる。

「好き」その二言を言えばいいだけなのに、咽から言葉が出て行かない。



「……!」

秋雄は声を出す前に見た。

咲妃の背後に何かボヤのような、黒く蛇のようなモノが浮かんでいる。2つの赤い光が妖しく蠢き、その姿は徐々にハッキリとしてくる。


それは「龍」。四足の蛇のように、長く細い髭を蓄え、黒い鱗に身を纏い、赤い眼光で何かを見つめている。小さく、咲妃の上半身ほどの長さしかない。


「ガグルルルル…」

喉を鳴らし、その黒い龍はウネウネと不思議な動きをする。

すると、龍はスクリューのように回転したかと思うと形状も色もガラッと変わり、完全に龍は「剣」となる。鋭く、光沢を放つその刃先は秋雄の後ろに向いているようだった。


「お、おい…それ」

秋雄がここで初めて声を上げ、咲妃の背後に指を向ける。

鷹匠と咲妃は指を差した方向を振り向くと、既にそこにはあの龍はなかった。



「ガァアッッ!!!」

突如、部屋に何かが貫かれる音が響く。3人はすぐに音の聞こえた部屋の入り口近くに目をやると、そこには腹に大きな穴を開け、多量の血を噴水のように出すあの医師がいた。

「…!?」

そして腹の穴からは、あの剣が浮かんでいる景色が見えた。


「予想外だった…能力の譲渡が許可されないとはな…」

剣が喋ったのだろうか。


「アギャアァァァァア!!!!」

剣は浮かびながら自由自在に動き、医師を無惨に、無情に切り裂く。

気色の悪い音でさらに血を流し、もうそれは原形をとどめない赤黒い肉塊と化していた。

3人は無言で見つめるしかなかった。



「鷹匠…やれ…お前にしか…できない…」

剣は再び変化し龍に戻る。龍は口を開き、口角も舌も動かさずに肉塊の上で話し出す。

秋雄と咲妃は即座に鷹匠の方に振り向く。


「…すいません…私には…」

下を向き、下唇を噛み締める。


「今更何を言っている?…」


「……」

鷹匠は言葉を失う。

「…そうか」

ガチャガチャ―と何かが絡む音を立て、龍は再び変化すると、今度は円柱状に伸び素早く何かの形を形成していく。

鷹匠はすぐにそれが何か分かった。


「2人共ッ!!窓に飛び込め!!!」


鼓膜が破れそうな程の重い金属音と衝撃音は銃声として、3人を容赦なく襲う。機関銃の止まない音は3人を一瞬で行動させた。

脚を伸ばし身を守りながら窓に飛び込むと、3人は窓を突き抜ける。

「ウォォオ!!」

3人はガラスと共に飛び出し、宙に放り出される。



しかし3人の中に三階の高さから落ちて無事でいられる者は一人しかいない。

秋雄は落ちながら咲妃を見る。

「ッ…!咲妃お願いだ!能力を使ってくれ!」

しかし咲妃は無言のまま反応しない。


秋雄は眉間に皺を寄せ口を大きく開くと

「あぁ!!好きだよ!いつも近くにいて好きじゃないわけないだろ!!」

少しやけくそ気味な秋雄の声は車庫内に響き、十分に咲妃に届いただろう。

しかし咲妃は冷静沈着のまま

「行動で示して…」

その急な指示に秋雄は反応できた。しなければならなかった。

秋雄は咲妃を抱き寄せると地面スレスレの位置で覚悟を決め行動した。



「…!」

秋雄がこの状況で思いついたのは1つだけ、キスだった。

それはどちらも抵抗はなかったし、遂にできたという達成感さえあった。

地面にぶつかりそうな所で咲妃は目を瞑り淑やかに微笑む。



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