ノックは夜中に
ハントとの戦いの後、決勝は諸事情で翌日になったらしい。やろうと思えば日没までには終わるとは思うが、選手達の疲労も考えてのこと、らしい。俺はもう敗者復活戦の途中からヘタヘタだが…。
全選手には日本のホテルが提供された。帰ろうとする奴は一人もいなかったらしく、全員がホテルに泊まった。
俺は何の変哲もなく小綺麗な部屋のベッドに寝転がる。良い部屋ってのはベッドから分かるもんだ。
「ふぅ~~」
大きく息をつきながら、仰向けになる。
最後の戦い、オーストラリアのジェイス・ストライカードとの決勝試合。正直不安だらけだが、さっきの戦いで少しは自信がついた。
「そういえば…」
俺は鞄から携帯電話を取り出し、電話帳を開く。
画面には「雛形咲妃」の文字が見えると、特に迷いもなく電話をかけた。
プルルルルル―――
その音が何回繰り返されただろうか。いっこうに咲妃が出る気配はない。
「こんな時にあいつは…」
咲妃にも一応は大会のことは伝えたが、大雑把すぎて情報が少なかったのか電話は繋がらなかった。
ちょっと寂しい気分になったが、今は試合のことだけを考えようと思った。
「ダウン・アンダー…か」
コールマンに聞いたところによると、物を落とすと自分だけ「重力」が逆転する特異能力。普通に強くね?とか思ったが、コールマン曰く、ストライカードの持ち込み武器は口の中にある木の実のような物で、それを全て使わせるかどうにかして無くせばいいらしい。
「普通に戦うか…」
炎が上に落ちる奴に通用するだろうか。
コンコン――
ドアがノックされた。
「誰だよ…こんな夜中に」
もう10時半だぞ…俺を勝たせないための刺客か何かか?
怠そうにベッドから立ち上がり、ドアの前に立ちスコープを覗く。
「…え」
ドアの前に立っていたのは開会式の時にもいた異能省の大臣。花岡だった。ニコニコと愛想笑いをしながら、ドアの前に番人のように立っていた。
「奇妙なジジイだ…」
ふとそう呟き、ドアを開ける。するとすぐにあのヤクザみたな男が視界に入った。
「どうもー金崎さん。調子はどうですか?」
印象としては優しいおじさんだが、どこか裏がありそうな感じがプンプンする。
「別に…大丈夫ですよ。あの医師の人のおかげですけどね」
「それはよかった。今選手の方々に挨拶に回ってるんですよ、感謝ということで」
「は、はぁ」
「今更ですが、この度の大会参加、誠にありがとうございます。そして、明日の決勝、私共心から応援しておりますので、是非正々堂々と戦ってください」
何か突っかかる言い方。どうでもいいので正直早く帰ってほしい。
「じゃ、じゃあもう寝ますので…それでは」
秋雄がドアを閉めると花岡はペコペコとしながら秋雄の視界から消えていった。
「鷹匠、分かっているな」
花岡は取調室のような陰湿な空間で一人の男に話し掛けた。
「はい…」
その男は乗り気じゃないような返事をする。鼻立ちがスッキリとして凜としたスマートな顔の男。鷹匠瀧雄。花岡と同じようなスーツを着て、背筋を伸ばして立っている。
「お前がやるんだ…いいな」
花岡がそう言うと、2人は視線を部屋の奥の方向に向ける。
そこには、椅子に座り下を俯き、電源が切られたみたいに暗い顔をした艶のある白髪の少女がいた。




