ブリング・ミー・トゥー・ライフ その4
「それ」はつまり憂虞ではなく「呆気」
秋雄は遂に満たしてしまった。
『エヴァネッセンス』の発動条件を。
「呆れたな…条件を満たしたんだ…「エヴァネッセンス」の発動条件をォッ!!」
達成感・自尊心・優越感。そしてエヴァネッセンスの発動条件。
満たされた心と発動条件は、ハントを高揚させた。
秋雄は両手で後頭部を覆う動作をする。
「ウッ!しまったァァァアーーーッッ!!!」
ガタガタガタ―と脚の震えが止まらない。いや、止まらせることはできない。
「クソォッ!!」
秋雄は地面を叩く。そして脚はほとんど動かなくなる。
「フフフフハハハハハッ!!やった!勝ったぞ!」
そしてすぐに通例のごとく荷車が運ばれてくる。荷車を受け取ると、ハントは今までと同じように秋雄を持ち上げようとする。
しかし秋雄は諦めない。諦めてはいけなかった。
「ウォォォォオオオーーーッッッ!!!!!」
秋雄は腕を高々と上げると、左肘をスプレー缶に押し当てる。
プシュッ――という音が聞こえる。それはガスが漏れた合図であり、すぐに秋雄は右手を近づける。
「ヴッ!」
その算段はすぐにハントに阻まれた。右手を踏みつけ、秋雄の右手をガスに届かせない。
「テメー…また同じことする気か?あ?」
勝った気分でいるハントはなめた態度をとる。それは秋雄には十分屈辱だった。
「こっちが呆れるぜ…」
秋雄と地面の間に手を挟み、秋雄を持ちあげようとする。真顔だったが、どこか嬉しそうだった。
「諦めない…諦めちゃあいけないんだァッ!」
母さん、咲妃、学校の皆。諦めたら全てが終わる。全てを失ってしまう。
「鬱陶しい奴だなぁ…ほら、一人でやってろ」
コロッと秋雄を手放したかと思うと、秋雄をボールのように軽く蹴った。ハントは早歩きでその場を立ち去る。
そして、秋雄の右手はすぐにガス缶に到達し、爆発した。
二度、爆音が響く。
雷鳴のように轟き、大波のように強大で、嵐のように立ち去る。
威力は十分過ぎるぐらいで、黒煙は上り、会場中は再び混乱する。
『再びッ!再びッ!因縁の決着は!悲劇にも同じ物語を描いて!終焉を迎えたァァァァァァァァアアア!!!!!!』
司会のその声が大きく長く聞こえると、会場中は歓声に包まれた。鼓膜が破れそうな歓声の中、数人の観客は気づいた。
煙を抜け、歩み寄る男がそこにはいた。
「生命を賭けた大博打だったが…ふぅ…」
ハントの真後ろで聞き慣れた声が聞こえる。
「正解みたいだったな…」
背後には左手をピストルのようにハントの後頭部に当て、悠々と立っている秋雄がいた。所々火傷はしているが、確かに立っていた。
「…!」
「お前を信じさせてもらった…お前の父親はマクロイ・ハントだってことをな…」
秋雄はボロボロの顔を動かし、最後の話を始める。
「信じる…か」
「マクロイ・ハントのの特異能力による電磁波の研究…もしやと思ったんだ。ハント、お前の『エヴァネッセンス』は電磁波を相手の脳に直接当てて脚の自由を奪う能力だってな…」
「あぁ…そうだ、正解だよ…大正解だ…ハハハッ…」
ハントは呆れたように、溜め息をつく。
「…そして、俺のスプレー缶は前まではスチール製だったんだが、それをアルミ製に変えておいたんだ、電磁波を断つため。まさかあんなアルミ缶如きで電磁波が防げるとは思わなかったからな…結構特殊な電磁波だったりするのかもな…」
アルミは電磁波を遮断することができるが、あんな円形のアルミ缶で防がれるとは夢にも見なかった。
ハントはエヴァネッセンスに掛かったフリをした時の秋雄の後頭部を両手で覆う動作を思い出した。
「それで小脳を守り……俺の隙だらけの背後をとる…か」
「ちょっと強引だし、ただの偶然かもしれないけどな…」
少しだがハントは微笑み、空を見上げる。
「(父様…俺は…あんたに永遠に適わないみたいだ)」
ハントは自分の過去を思い出す。あの永久の暗闇で月明かりにも縋れない哀れで醜い自分の昔を。
テメー!勝手にあのクソアマの所に行ってるんじゃあねェッ!――
おい!気絶なんてしたら飯抜きだからなッ!!――
大会…?フザケるなッ!今までの恩を忘れたとは言わせないぞッ!――
「お前の昔の話なんて知ったこっちゃあねぇが…たっぷりと言わせて貰うぜ」
「フッ…勝手にしろ…お前は強い…次のストライカードにも勝てるだろう」
ハントは下を向く。
「俺の勝ちだ」
静かで寂しく儚い空間に、軽く気の抜けた放電の音が聞こえた。




