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静電気は最強に憧れる  作者: ウエハル
開会
23/49

ブリング・ミー・トゥー・ライフ その3




雷鳴。

それは空からではない。横に、真っ直ぐと、目に見えない速さで視界を駆けていった。

雷電を背負った少年が。



「……え?」

ハントの右手にはスプレー缶は握られていなかった。夢でも幻覚でもなんでもない、紛れもない現実。

そして、背後にいたはずの秋雄はいなかった。



『これ…は…どういうことなのでしょう。秋雄選手がハント選手と背中合わせの状態になったと思った瞬間に…秋雄選手が場外ギリギリの…ハント選手の遥か前方に移動していました…』


それは説明不足だ。「轟音と雷鳴と共に雷を背負った秋雄が」移動していた。


秋雄自身でさえも何が起こったのかわからない。

ハントからスプレー缶を奪い返そうとしたら、ハントに左手に必死こいて溜めていた静電気に向かってガスを噴射されてまさに一触即発で…



「…」

驚いていた秋雄に次の試練が襲いかかる。

それは「痛み」。慣れない「何か」に体が適応できず、形容しがたい激痛と苦痛と鈍痛が否応なしに秋雄の体を内部から切り裂くように貫いていく。



「ヴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァアアーーーッッッ!!!!」


秋誰にも分からない悲痛の叫びが雷鳴のように会場に響き渡る。



「アァァァア!!!!」

しかし悲鳴は徐々に小さくなる。

睾丸を蹴られた時のように、鳩尾を殴られた時のように、激痛は一瞬だけであり、すぐに痛みはひいていき、後味のような痛みも少しだった。



「ハァ……ハァ…ハァッ」

犬みたいに荒々しく息をつきながら、少しずつ息を整えていく。案外すぐに楽になった。



意識を完全に戻す。

「(…これは、おそらくだが…危機を感じて…命が危険に陥ったときみたいに、溜めていた静電気が暴走したと言うか…火事場の馬鹿力というか…)」

考えたって答えは出てこない。自分の体のことが全く理解できない。

だがスプレー缶は取り返した。これで有意義に戦えるはずだ。

秋雄は後ろを振り向くと、遠くにいるハントと目を合わせる。


『両選手ッ!ゆっくりと歩き出したッ!』



「(あいつ、力を隠していたのか?…さっきの雷が起きた時にあいつを間近で見ていれば…!)」

ハントには先ほどの電気を直に喰らえばエヴァネッセンスは発動できるという確信があった。生きていれば、だが。



2人の距離はまだまだ遠い。それは秋雄が再び静電気を溜める最大のチャンスであった。

「(あれはなんだったんだ…?)」



2人はほぼ同時に歩く速度を上げ、どんどん早歩きになる。


『両選手ッ!遂に走りだしたァッ!!』


走りだした秋雄だが、ほぼノープランだった。左手で静電気を溜め、右手で炎を放射し威嚇と攻撃を兼ねる。


2人は再びすれ違う。

やっとハントに近づいた秋雄はガスを噴射し点火することで炎をいつものように放射する。


「ッ!…忘れたか!俺に炎を当てるということの意味をッ!」

トラウマが蘇ることはエヴァネッセンスの発動条件…。

「ああ!そうだったな!」

ナチュラルにに忘れていた。


炎が晴れると、ハントが仕掛ける。

ワンツーからのストレート。ローキックからの回し蹴り。

どれも当たることはなく、間一髪の位置で静止する。



「お前がいくらそうやったって徒労だぜッ!俺は動じない!」

秋雄には少しだが自信が芽生えてきた。先程の雷による絶対的自信が。

「もうどうでもいいわ!」

シュッシュッ――と何度も何度も蹴りや拳をギリギリの位置で止める。どこかやけくそのようにも見えてきた。


「諦めたかッ!」

挑発気味に言ってみる。

「あぁそうだよ!」

予想外の答えだったが、楽に終われるかもしれない。

「降参したらどうだ!」


「それは名誉に関わるね!あと最後だし言っておくけど!」


「あ!?」

遺言か何かだろうか。当たらない攻撃による攻防を繰り返しながら話を進める。


「恐怖を感じようがトラウマが蘇ろうが俺の「エヴァネッセンス」は発動しないぜッ!!俺の父親がマクロイ・ハントってのも実験に利用されてたってのも嘘だ!!」



「なんだよ!全く…」


秋雄は溜め息をつく。

「それ」に気づくことなく。


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