ブリング・ミー・トゥー・ライフ その2
「恐怖を感じたときとトラウマが蘇ったとき…?」
「簡単なことだよ。あんたが炎を俺に当て続ければトラウマは蘇るし、同時に恐怖を感じる。憶測だけどね」
脅しだろうか、本当だろうか。これがこの男の恐ろしいところだ。頭のイカれたところがこの戦いでは有利に動く。
「静電気はどうなんだ?」
少し挑発的に言ってみる。しかしハントは顔色1つ変えない。
「電気も点火剤になりうる。静電気も同じことだ」
自信満々の様子で牽制してくる。
静電気も火も使わない攻撃。どれほどアウトなのかは分からないが、ここは挑発に乗って静電気も火も抑えておくことにしよう。
「(何もしないわけじゃあない…一撃で決める…)」
「今どうやって倒すか考えてるでしょ?」
最初のイメージとは違いどんどん話し方に一貫性がなくなってきた。だがハントに出来ることはせいぜい阿呆面かますだけだろう。
「(自分の体質を利用して…3分稼ぐ…!)」
ハントは秋雄に近づいてきた。すると姿勢を低くすると
「こいつッ…!」
見事に秋雄が手に持っていたスプレー缶を蹴り上げた。
予想外の行動に一瞬動揺するが、すぐに打ち上げられたスプレー缶を取ることだけを考える。
2人は一斉に跳び上がる。
「「ウォォオッ!」」
バスケのジャンプボールのように2人は競り合う。
しかし非情なことにハントの身長のほうが上であり、ハントが先にスプレー缶に触れた。
「しょうがねェッ!」
パチパチッ!――と音が鳴り少しの雷光が見えたと思うと、その静電気はハントの手に当たり、手首が曲がり怯む。
しかしハントも諦めなかった。宙に浮かびながらもハントは口を開く。
「マイケル・ジョーダンのまあイケる冗談ッッ…!」
「(ッ…!呆れるなッ!耳を貸すなッ!)」
この気持ちが命取りだった。「呆れてはいけない」その気持ちが他の感情を除けてしまった。
そしてハントは腕を上げもう片方の肩を下げ、限界まで腕を伸ばすと、スプレー缶を完全に鷲掴みにする。
『ハント選手!なんと見事に秋雄選手のスプレー缶を奪ったァァァアーーーッッ!!!』
着地するとハントはすぐにバックステップをし、距離を置いた。
「お前のさっきの静電気、少し電圧・電流共に強かったような…」
やはり感づかれてしまった。常に手を握っていたため、さすがに怪しいところがあったか。
秋雄は表情一つ変えず、ポーカーフェイスをする。
「(まだ左手が残っている。あと2分ぐらいか…?右手だけで切り抜ける…!)」
ハントはスプレー缶をキャッチボールのように投げて取りながら、屈託のない顔で深呼吸をする。
「さて…と。どうやってあんたを呆れさせるか…」
中指と人差し指でこめかみをトントンとしながら、顔を俯かせる。
「さっきのロシア人みたいには上手くいかなさそうだなぁ…」
すると突然秋雄が走り出す。もちろんスプレー缶を奪い返すため。
「オラァッ!」
バッ――とキレのあるハイキックをハントの顔のすぐ右に繰り出す。
さっきよりも強く力んだハイキックは当てるつもりはないが、ハントは横によろけた。
そのまま上げた脚を方向を変え大きく股を広げ、ハントの右手に握られているスプレー缶めがけて足をかかと落としの要領で振り下ろす。
「!」
ガンッと当たる音はしたが、ハントの強い握力の手からは転げ落ちなかった。
2人は眉間に険しく皺を寄せると、睨み合う。
「ウォオッ!!」
秋雄はかかと落としで振り下ろしたついでに踏ん張った脚で、ハントから見て右側に向かって駆り出す。
すれ違う体制になりながら、秋雄は手を伸ばす。
「甘っちょろいな…激甘だ…!」
ハントは右手を即座に上げ、秋雄の手をいとも容易く避けると、その後右側に大きく跳び、秋雄と背中合わせの形になる。
「お前の左手…もちかして静電気をずっと溜めてるんじゃあないのか?」
核心。気づかれるのが早すぎた。
「!」
プシュゥッ――と後ろ側から、ハントは秋雄の静電気を溜めていた左手に向かってガスを噴射する。
手を握っているとはいえ、少しは緩むし、ほんの少しは静電気は漏れる。
つまり1分半は溜めていた静電気を無駄に放電し、そして手が燃えてしまうということになる。
「ッ!!やらせるかァァアーーッッ!!」
「どうやって避けるってんだァ?」
バチッ―――
その閃々とした浅縹の雷光と共に会場中に隙間なく轟く雷鳴は、秋雄の後ろに続いていた。
心臓が爆発しそうな程の驚嘆と激痛に耐えながら、秋雄はスプレー缶をハントの遥か後方。場外ギリギリの位置で握っていた。




