始まりは終わりを告げる
秋雄は異能省の入口を出て咲妃の元へと向かう。
「ごめんごめん、ちょっと手間取っちゃった…ってあれ?」
陽気に話しかけたその先には誰もいなかった。
周りを見渡しても寂しく思えるだけ
「秋雄、ねぇ秋雄ってば」
「うおっ」
いつのまにか横に咲妃が立っていた。いきなり現れたようで気配なんて感じなかった。少し恐かったが咲妃のことだしまたどこかをふらついていたのだろう。
「何してたの?異能省なんかで」
目をじっと見つめて言ってくる。咲妃は無意識に追い詰めてるつもりだろうが何度も同じ手はくらわない。
「いや、間違いだったみたい」
素っ気ない態度をとる。
「ふーん。ま、いいや早くいこっ」
「ただいまー、はー疲れた」
俺は家の玄関でデートしたというアピールをしてみる。
「あら秋雄帰ってきちゃったの?秋雄ももう高校生なんだからやるとこやっとかないとよ~」
母は食器を洗いながらを取り込みながら言う。余計なお世話だ。
互角の戦いが出来る特異能力の大会。それだけ聞けば不可能だと思うだろう、だが俺の特異能力は「両手の小指と中指から静電気を放つ」能力。これと同じような奴らが集まるってのは相当なもんだが、あり得る話だ。
「夕飯そこにあるから自分で温めなさい」
俺はラップのかかった生姜焼きとご飯を大雑把に電子レンジに入れる。頭の中は大会のことでいっぱいすぎて母の声に返答する気力もない。
「ちょっと秋雄、サラダとご飯電子レンジに入れてるわよ」
その声が聞こえてふと電子レンジを見ると生姜焼きではなくサラダが入っていた。
「あ…」
秋雄は眠くもないが眠そうな顔をしている。母親との間には静かな空間が生まれる。
「秋雄…それ食べ終わったら話があるから…」
今までにない冷たい声に敏感に反応した秋雄は母の顔を見る。そこには何かに不安と落胆を感じたような無表情の自分の母親がいた。
「う、うん…」
抱いていた信頼や期待が一気に崩れたような何かを感じた。
俺は話を聞きたくなかったためにいつもより夕飯を遅く食べ、やりたくもない皿洗いをして時間稼ぎをした。それでも結局その時はやってきた。
「…母さん…話って」
母は目を少し開き、息を吐く。さらに恐怖が増してくる。
「今日の9時頃に担任の先生から電話があってね、12月の15日まで秋雄は学校に来なくていいって…」
12月15日…大会の日だ。まさかそこまで影響力があったとは思わなかった。
「秋雄、ちゃんと答えて、何をしたの?」
唾を飲み込む。軽い気持ちで参加した俺が悪いが、それを正直に言っていいのだろうか。
「…」
言葉が見つからない。頭が不思議な感覚になって何も考えられなくなる。
「秋雄、何か隠してるんじゃないの?」
汗が滲み出てくる。もういい、我慢することはない、正直に話せば楽になれるんだ。
「俺さ、大会に出るんだ。特異能力で戦う大会に」
「…大会…?」
母も思っているだろう、俺の特異能力なんかでは戦いにもならないことに。それ以前に特異能力で戦うなんて言語道断だ。
「今日異能省に行ってきて正式な参加手続きしたんだ、俺と同じような特異能力を持つ人達が集まるんだって…だから絶対に互角の戦いが出来るって言われて…」
「…そう」
同情でもされたのだろうか。俺だってこんなショボい特異能力に生まれたくなかった。幼稚園の頃からずっと、いつか成長して最強の雷を操る能力者になれると思ってた。けどそれが実現しなかった今、俺は俺の特異能力に自信を持てなくなっていた。
「ごめんなさい…まさか休むことになるなんて思ってなくて。でもその大会で優勝したら特異能力を貰えるんだ。しかも史上最強の特異能力を」
「…秋雄騙されてるのよ。秋雄は昔から真面目だから、そんな話あるわけないじゃない。異能省に連絡して確認して、もし本当だったら断るわ」
母は携帯電話を持ち上げると、何かを打ち込み始める。
「待ってくれよ母さん!俺は皆を見返してやりたいんだ!」
母は打ち込むのを止め、こっちを見る。
「見返す?あなたは今受験生なのよ?この大事な時期にそんなことをやって、もし万が一優勝できなかったらただの恥さらしになるのよ?受験に響くに決まってるわ」
母は再び携帯電話に目を向ける。やはり目は冷え切っている。
「俺は必ず優勝するから!俺は自信を取り戻すから!」
「自信?」
「俺は自分の特異能力に自信なんて持てない…だけど優勝したら…しなくても、ちゃんと戦えれば自分を信じることができるんだ!このままじゃ嫌なんだよ!」
涙目になりながら母を説得する。こんなことが今まであっただろうか。
「…駄目よ」
「なんでだよ!優勝したら特異能力と賞金120億なんだよ!」
「!………ちゃんと勉強もするのよ…そしてお母さんを悲しませないで…」
「ありがとう母さん!」
認めてくれた、だが優勝が目標としても今の貧弱な体では可能性は低い。俺は筋トレを毎日かかさずやり、勉強も今まで以上にやった。動画サイトで武術や護身術をうろ覚えだが頭に叩き込み、静電気の勉強だってしまくった。全ては優勝のために
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ここまでが前日談みたいなものです。