落とせ恐怖に打ち克つまで その1
『二回戦2戦目ッ!先程は闇が垣間見えましたが今回は期待の一戦です!』
『左から入場するのはッ!中国出身!朱 俊豪選手ッ!』
左の入場口から黒いジャケットを着こなした若い男が入ってくる。
『対して右よりィッ!オーストラリア出身!ジェイス・ストライカード選手だァッ!』
右からは先程の中国人とは対照的に、ダウンコートを着た放浪者みたいな格好をした男が現れる。
「(あいつ…開会前に洗面所で会った.)」
直前に対戦表を確認したが、ジュンハオはスダニを倒しており、ストライカードはキバキを倒していたらしい。しかし能力が分からないのは同じである。
「両者位置についてッ!試合!始めェェーーッ!!!」
個人的にはスダニを破ったジュンハオのほうが気になるが、なにか深淵にいるような目に光のないストライカードのほうも気になる。
『両選手様子を窺い攻めようとはしませんッ!』
さっきの戦いとは打って変わって、あまり動こうとしない。どちらかは何か近づいてはいけない能力なのだろうか。
『おっといきなりジュンハオ選手走りだしたァ!先手を打ったのはジュンハオ選手だァーッ!』
迷いなくストライカードに向かって走るジュンハオ。その手には何かフックのようなものを握っていた。
「キミの能力『ダウン・アンダー』はとても恐ろしい能力だ…だが私の前にはどうということはない…」
目の前に来たジュンハオはその手に持っていた二又のフックを、ストライカードのダウンコートの下に見えるTシャツの内側にかけた。ストライカードは抵抗しないまま、フックは下に引かれる。
ビリビリッ――とTシャツが破れ、ストライカードの鍛え抜かれた肉体が露わになった。
「懺悔しろッ!後悔するがよいッ!我が『アングザイアティ・インヒビター』をッ!」
ジュンハオが左の手のひらを何故かストライカードの右胸に向ける。
「ゲボフッッ!!!」
遂にストライカードが動く。
ストライカードの膝はジュンハオの顎にクリーンヒットしていた。
だがおかしい。飛び上がって膝をジュンハオの顎に当てた訳ではない、滞空時間に違和感があった。そしてストライカードの髪の毛が逆立っていた。
まるで宙に浮かぶよう。そう…いいなれば
「上に落ちている…?」
ストライカードはそのまま上に行くことはなかったが、着地するとすぐに、倒れているジュンハオのもとへと歩いていく。
そしてジュンハオをうなじを掴まれた猫のように持ち上げようとする。
「あんなもので気絶するわけない…そして、キミはもう我が能力の餌食となっている」
Tシャツを破ぶことで露わとなった右胸には、白い粉末のような物が付着していた。
だがストライカードの顔色は何一つ変わらない。
「速く場外に運んだ方がいいんじゃあないか?ん?」
そんな挑発を聞いていないのか、ストライカードは口をほんの少し開ける。
開いた口からポロッと豆や木の実ともとれる5mmほどの小さな物体を唇の間に挟む。
「ハハハハハ…最高の良い気分だよ…フハハハハ…」
「…速く場外に運んだほうが身のためだぞ?」
「お前の『アングザイアティ・インヒビター』は不安や恐怖を取り除くんだったか?」
「…あぁ」
「俺にははなっから不安も恐怖もない…常に自信だけで生きている…気づかないか…?お前は既に落ちている…」
「!」
ジュンハオは宙に浮いていることに気づく。体重はストライカードのほうが上のため、かなりの速度でに上に落ちていく。
ストライカードの髪は逆立ち、10mほど落ちた時、ストライカードの口からあの小さな粒が上に落ちていった。
「物を落とせば…「重量」は「逆転」する…」
そう言うと、ストライカードはジュンハオの上に足を乗せる。
「ッ!…ウオォアオァァァァァァア!!!!!」
嘆きの声を上げようが許しを請おうが、ストライカードは耳をかたむけようともしない。
2人は10mの位置から風を切り落下する。
ゴッ――と鈍い音が会場に響いた。
「アガァッ!………ハッハッハァッハッ…」
ストライカードが上に乗っているため体を背中から地面に強く打ちつける。息が薄くなり、犬のように息を荒くしても、徐々に意識が薄れてくる。




