やられる前にやれ! その2
ヴェロニカは走っていると、急に脚に力が入らなくなり、バランスを失って転倒する。
「勝ったッ!速く荷車を持って来いッ!」
場外にいるスタッフに大きな声で合図をすると、すぐに金属製の荷車が運ばれてきた。ハントの真横に荷車を置くと、スタッフは去っていく。
「っ…クソォッ!」
ヴェロニカは床をグーで叩く。手はヒリヒリと赤くなるが、その悲痛な叫びと動作にハントは目もくれない。
「女に触るのはなんかあれだな。まあ、ちょっと触っても…ね」
ハントはヴェロニカの顔を見ないように体の下に手を伸ばす。
ヴェロニカはうつ伏せになっているし、目を見ることはないだろう。
「私は負けない…」
「…私の「イン・ディスペア」は、目を合わせることが条件じゃない…目から一直線に出る「見えない光」を相手の目に入れると発動する…」
ヴェロニカがうつ伏せのまま籠もった声で話し出す。
「…?」
「それは「光」…「光」をあんたの目に届ければいいッ!」
ヴェロニカは顔を横にしながら、見つめた。
その手に持っていた手鏡を見つめていた。
「「光」を…!反射させて…」
「私にだけ見える「光」ッ!あんたは今「光」を見たんだッ!」
ハントは俯く
「……あぁ」
ハントはガタガタと震え出す。汗を流し、顔に影をつくる。
「またやってくる…もうやめて…助けて…」
一回戦のコールマンの怯え方とはまた違う、静かな絶望を見せる。何かに追われているような、気づかれたくないような怯え方だ。
「僕はもうやりたくない…うっ…うぅぅ……」
大人とは思えない涙を流し、その場に膝をつく。目を瞑り、現実から目を背けるその様子は異様であった。
「アァァァアア!!」
ハントは場外へは走らなかった。横にあった荷車を上からかぶり、体を小さくうずくまらせて暗闇に隠れた。
光を拒むように顔を手で覆い、そこから出てくることはなかった。
この怯え方は予想外。なんて考えている頭脳はなくヴェロニカは匍匐前進のように手で地面を這い、動かない脚をものともせず手をボロボロにしながら場外に向かう。
「イヤァァァァァア!!!!」
その叫びはヴェロニカが場外に出るまで延々と続いた。




