極月のスパイス・ボーイズ その3
「もっかい女にしてやりたいけど、もう無理かなァ。アジア人も別にイケるけどなァ」
キバキは踊る秋雄を見つめ、嘲笑う。
「(スダニ自身には攻撃できないが…キバキにはできるはず…)」
秋雄はクルクルと回転しながらキバキに走り、裏拳を繰り出す。
「うっ…と」
余裕で腕を掴み、離そうとしない。
秋雄は足でリズムをとろうとするも、キバキに足を踏まれる。
「クソォォオオーーーッ!!踊りてェーッッ!!!」
秋雄がそう言うとキバキは秋雄を解放し、踊る姿を馬鹿にする。
「末恐ろしい能力だなァ…あんたの『トゥルトゥルダダダ』は…」
秋雄は屈辱的であったが、踊りたい気持ちの方が強かった。
それはそうと、コールマンは腰に少しずつ手を伸ばし、眼鏡を掴んでいた。
「(なんとか…秋雄さんを視界に入れずにスダニを見ないと.)…」
踊りながら地面に眼鏡を叩きつけられる機会を伺うも、そのような踊りがなかなか出てこない。
キバキがこちらを振り向く。
「おいそこのオタクの兄ちゃん…何眼鏡持ってんだァ?」
「(気づかれたッ…!思い出せ…眼鏡を強く叩きつけろ…!)」
キバキがゆったりと近づいてくる。逃げる術はない、ただ眼鏡を握り踊り続けるだけ。手汗がだらだらと出てくる。
「(そ、そうだ!マイケルジャクソンのビート・イットを…!)」
記憶の隅から取り出した「今夜はビート・イット」を踊り出す。簡単な振り付けだが、最初に前腕を上下斜めに振る部分がある。それがなかなかに長いのだ。
「(途中からやれよッ!なんでやろうとしないんだッ!?)」
踊る衝動に妥協はない。ちゃんと最初から踊らないとどうしようもなく気が済まない。前に行ったり後ろに行ったりするのを長々と続ける。
「その眼鏡…」
そしてその時が来た、背筋をピンと伸ばし、まず眼鏡を握っている右腕を高々と真っ直ぐと天に掲げる。そしてその後左腕を同じように真っ直ぐ上げるのだが、その時左腕を上げると同時に右腕を激しく下げる時があるのだ。
「(次は左腕を上げる番ッ!!)」
「ウォォオオーーーッッ!!」
握り掲げる眼鏡を地面に叩きつける。
コールマンの視界には大きな影が一つだけ現れた。
「マイケルジャクソンってよォ~肌が白いよなァ?最初は黒かったのになァ-?これって俺たちに対する冒涜…なのかなァ?」
コールマンの低い身長を遥かに越え、高見から見下す男…ではなく女であった。
そこには、高身長で見たことのない黒人の女性がいた。
「自分で自分を「カッケー」とかって思うとよォ…少しでも本気で思うとよ…俺自身も女になれるんだぜェ…?」
それは女になったキバキであり、コールマンのアトミック・スウィングは男性にしか効かない。
視界を大きな女性に覆われたコールマンは、スダニを視界に捉えることはできなかった。
「クソォォォオオ!!!」
踊りながら悲嘆する。シュールであるが、涙を浮かべ、不甲斐ない気持ちを心から謝罪するが、踊りたい衝動は絶対に消えない。スダニが踊っている限りは。
ガシッ!
「うおっ!」
キバキの右腕を2つの手が掴み、綱引きのように引っ張る。突然の出来事にキバキは少しよろける。
キバキは秋雄に引っ張られ、秋雄の眼前に来ていた。
「何だ…?その変な踊ゴブガァッッ!!!」
腕を掴まれた次はキバキの顎に痛烈で強引なアッパーが入る。本気のアッパーはキバキの舌を噛み切る勢いで傷つける。
「いふェ…いふェよォオーーッ!!」
キバキは口から血をダラダラと流し、情けない声を上げる。キバキの涙を浮かべる目には顔を上げ、手を万歳のように上げる不思議な踊りをする秋雄がいた。
「知らない?ソーラン節」




