鎮めよ賢女、讃えよ勇士 その3
岩場を離れ、川沿いを歩く。どこまでもあの無様な悲鳴が聞こえてくる。
「おいあれ、いつまで続くんだ?」
「3分ぐらいですね」
唐突だが彼、アルフレッド・コールマンは今年で24歳。彼の能力は決して万能で最強というわけではない。男性だけをひたすらに苦しめ、その性格のせいかいじめや注意不足で今まで何十人もがその能力の犠牲になり、中には苦しみ悶え自殺や暴力で解決しようとする者もいた。それ故、噂は次第に大きく広がり、彼に仲良くしようと近づこうとするものはおらず、その能力を利用しようとするガラの悪い輩ばかりが近づいてくるようになった。そしてその輩までも能力の犠牲となり、遂に彼は1人になった。
皆を見返してこの能力を克服する。それが目的であったが、内気な彼は既に諦めかけていた。
「ウゥゥウ…アォォォア……!」
川の奥。滝があるであろう場所から水の激しく打つ音と呻き声が聞こえる。
「1人っぽいな…あれが本体か?」
ゴロゴロと転がっているおかしな男がいた。先程の多分分身みたいなものであろう3人のロッシと同じ格好をした1人のロッシ。も悶え苦しんでいる。
「もう少しで3分経ちます…すぐにネックレスを取りましょう」
2人は軽くだが走り出す。どうやらまだロッシは気がついていないようだ。
「ウォォオオ!!」
走る2人に不気味に掛かる人影。
四体目のロッシの分身がスタンバイしていたようだが、それもまた苦しむ声を上げている。
「わっ!」
その秋雄とコールマンの2人はそのロッシに押され水飛沫を上げ川に落ちる。
「いってぇ…」
川はとても浅く、尻餅をつく程度で終わった。体を少し濡らしながら、同じく川に落ちていた分身を踏みつけ川沿いに上がる。
「あっ!秋雄さん!あと10秒ほどで3分ですよ!」
2人は一瞬驚くが、余裕綽々に再びロッシに走り出す。どこか微笑んでいるような気もする。
「もう一回あれ使えるか?」
走りながらコールマンのアトミック・スウィングの事を話す。女になっている秋雄から見ればこれさえあれば勝てるという心持ちだ。
「ええ、替えの眼鏡が…」
ポンポン―とコールマンは腰の辺りを摩る。何度も何度も摩る。
「え?あれ…?ハハハッ…」
額に汗を浮かべ、苦笑いをする。
「もしかしてお前…」
秋雄をつられて汗を浮かべる。もうなんとなく察しただろう。
「眼鏡が…ないッ!!」
一周回って清々しい答えが返ってきた。コールマンはブレーキをかけ、後ろを振り向く。
その視線の先には不敵な笑みを浮かべ、眼鏡の入った箱を持ちながら川の向こうの森に入っていく分身のコールマンがいた。
「さっきの…!僕の眼鏡ケースを奪いやがったッ!」
それほど大事な物らしく、コールマンは本体のロッシとは逆の方向に躊躇せず走り出す。
「お、おいッ!待てよ!」
「そっちは頼みました!僕は眼鏡ケースを取らないと何もできませんから!」
何故か見捨てられた気分になる。だが眼鏡のないコールマンは何もできないオタク同然だから多少はしょうがない。
「クソッ!もう10秒経ってるぞ!」
コールマンに当てつけのように言い残し、本体のロッシの方向に振り返る。
しかし先には呻き転がるロッシはいなかった。
「あ!どっか行きやがった!」
周りを見渡すが、全く見つからなかった。
ガサッ…
「クソがァァーーッッ!!!」
「うおッ!」
ロッシが横の森に潜んでおり、豪快に木の棒を振っていた。痛みからの憤怒は、見たことのない鬼も顔負けの表情を浮かべている。
「秋雄ォ…俺のこと…忘れたわけねぇよなぁ?」
今にも倒れそうに息を切らしながら、また答えの分かる質問をしてくる。
「はぁ…お前誰だよ…」
呆れながら、挑発するように答える。
「お前は良かったよなァ…そんなカスみてェな特異能力なのにいじめられなくてよォ…俺は外国から来た名前の変な奴ってだけでいじめられてたよなァ…何でだろうな…」
突然ロッシが語りだす。何の話かまだ秋雄は分からず、眉をハの字にする。
「俺の時は悲惨だったなァ…今でも思い出せるが、もう思い出したくないねェな…。お前もいじめられかけてたんだぜ…?なのにお前の時だけ不思議な事に何も起こらなかった…」
「?」
いつのことが分からない。必死に思い出そうとするも、全く出てこない。
「バケツの水をかけようとした時は水道が壊れて水が出なくってよ…靴を隠された時はお前脚を骨折したよなァ?物をいくら隠しても隠したはずの物が毎回元の位置に戻っててよォ…笑えるぜ…ヘヘヘヘッ…ハヒハホハヒヒヒッッ!!!」
気味の悪い笑い方をしても、一切思い出せない。記憶でも消されたみたいに思い出せない。
「まだ思い出せないか…?小学2年生の時に4ヶ月だけいたロッシだよ…」
「いや…ホント誰だよ」
「……」
「小二のことなんて覚えてるわけねぇだろ」




