鎮めよ賢女、讃えよ勇士 その2
「ホントにいいのか?お前のネックレスも貰って」
2人は距離を開けながら、深い森の中を足元に注意しながら進んでいく。
「ええ、僕はもういいんですよ。ただあなたを助けたという事実さえあれば…」
どこまでも謙虚で内気な奴だ。完全に信頼はしていないが、ネックレスを渡すとは予想外に良い奴だった。
「やはりなかなか見つかりませんね…」
「うおっ!」
石にでもつまずいたのか、コールマンが派手に転ぶ。
「おい、大丈夫かよ」
顔や体に土がついている。マヌケと言うか森の中なのに足元を見ていないのが実にバカと言うか。
「ははっ…すいません」
コールマンは膝に手をつきながら、申し訳なさそうに立ち上がり、服を手で払いながら歩き出す。
「うわっ!」
またもや情けない声が響く。ここまではただのドジだった。
「なんだよ…脚でも怪我して…ぅおっ!」
コールマンのもとへ行こうとした秋雄まで見事に転ぶ。まるで足を誰かに掴まれたような感覚があった。
「…こ、これって!」
2人とも顔を見合わせ、すぐに察した。ロッシがはやくも自分達を襲いにきたということに。
「転ばせる能力…か?」
転ばせる能力。普通にこの場に似合わない使える能力だと思うが、何か大きな欠点があるのだろうか。
2人で周りを警戒するが、人の気配はない。転ぶのを覚悟して秋雄は立ち上がる。
するとすぐに茂みの中から手が伸びて秋雄の左脚を掴んできた。
「オラッ!」
秋雄は右足で咄嗟にその手を踏む。感触はちゃんとあり、実体がないというわけでもないらしい。
「「「イデェッ!!」」」
痛みの声が聞こえた。だがおかしかった。秋雄の踏んだ手の先からも聞こえたが、コールマンの周り、そして全く関係のない遠くからも悲鳴が聞こえた。
「さ、三ヶ所から声が聞こえましたよ!?」
コールマンも気づいたらしく、2人は顔をしかめる。
「と、とりあえず開けた場所に出よう!」
今思えば森に入ったのが失敗だった。コールマンが言い出したことだが、普通に考えればおかしなことだ。
2人は手を振り払い後ろに向かって走る。葉だとか汚いとかはこの際どうでも良くなっていた。
「はぁ…はぁっ…」
諦めたのか、森から誰かが出てくる気配はない。
「あれがロッシの能力か…?」
「まだ全貌がよく掴めませんね…これからは開けた場所を歩きましょう」
お前が森に入ろうって言ったんじゃないか。その言葉が出そうになるが辛うじて飲み込み、森の方を警戒しながら比較的標高の高い岩場を歩く。
その声は足音もなく突然聞こえた。
「久しぶりだなァ…秋雄…」
「「!」」
背後から低い声が聞こえ、2人はすぐさま振り向く。
そこには全身真っ黒コーディネートの彫りの深い顔立ちの男がいた。しかも3人。
「あ…?スティーブ・ジョブズの仮装大会でもしてんのか?」
後ずさりしながらその3人の同じ背格好の男を見つめる。
「そんなに偉大に見えるか…嬉しいなァ。それよりも秋雄お前、性転換手術したのか?」
真ん中の男は話しながら不気味に笑みを浮かべる。どうやら聞く限りは顔見知りのようだが、秋雄は全く見覚えがない。
「初対面で呼び捨てか?お前、イグナツィオ・ロッシだろ?」
「テメー…」
眉間に皺を寄せ、怒ったような顔をする。何がしゃくに障ったのだろうか。
「テメェーッ!俺のこと忘れたとは言わせねェぜッ!思い出すまでボコボコにしてやるァッ!」
3人のロッシは急に怒り走り出す。ここで逃げてもらちがあかないので秋雄とコールマンもぶつかり合うように走り出す。
「うォォーッ!!」
コールマンが大振りな素人丸出しのパンチを繰り出すが、ロッシは顔色1つ変えずに突っ込む。
ロッシは無言で左に体を反らせながら避け、コールマンに軽く足をかける。
「うわっ!」
今日で三回目の豪快な転びを見せる。その様は滑稽であった。
ロッシは自ら攻撃することはなく、手加減をしているのか、コールマンを見つめる。
「アチィーッ!!」
「!?」
突然コールマンに足をかけたロッシが叫びながら肩を辺りを叩き、ジタバタする。
それはそのロッシだけではなく、他の秋雄に向かっていたロッシも同様であった。どうやら秋雄がスプレー缶を使い攻撃したようだが、2人は確信した。
「「(1人への攻撃は他の2人にも入るッ!)」」
コールマンは眼鏡を外し、目の前に立っているロッシを睨む。
すると唐突に眼鏡を地面に叩きつけ、バリンッ――と自分の眼鏡を容赦なく割った。眼鏡の破片は地面に飛び散るが、コールマンはそれを見向きもしない。
「「「ギギグウオオァァァァァァァア!!!!」」」
3人のロッシは突然股間を押さえつけ、無様にもその場に倒れ込む。いつまでも苦痛の叫びは終わらず、悶え転がる。
これが彼、アルフレッド・コールマンの能力「アトミック・スウィング」。自分が所持している眼鏡を割ると視界に入っている男性の睾丸を締め付ける能力である。
「女に変わってて命拾いしたぜ…」
敵にすると案外恐ろしい能力だ。股間を蹴られた時の痛みは十分に分かるからこそ、女になっててよかったとつくづく思う。
先程からずっと3人のロッシは叫び続けている。耳障りになってきた。
「この3人、全員ネックレスをかけていませんね」
「本体を探さなきゃいけねぇのか」
「ですね」




