静かな雷は気高く臨む
シリーズの中に入ってはいますが一応は外伝です。
「エントルィィィーーッナンバァァーッ!!ワァァアーン!!!!金崎ィィイ!!秋雄ォォオオオ!!!!」
無駄に巻き舌な司会者の耳障りな声と笑い声の混じった歓声が秋雄をさらにイラつかせる。秋雄は待合室の真っ青なベンチから立ち上がり、光へと歩き出す。
~4週間前~
「秋雄、一緒に帰ろっ!」
白銀の髪を風になびかせマフラーを首に巻き、可憐な少女は昇降口にいる俺のもとへと駆け寄ってくる。高校生にもなって付き合ってもいない男女同士が一緒に帰るなんて見世物みたいだ。
彼女の名前は雛形咲妃。特に幼馴染というわけではないが昔から仲が良く、なぜかいつも俺にまとわりついてくる。可愛いから許せるけど。
「おっ秋雄じゃーん!今日もお前の特異能力はイケてんなーっ!」
これまた昇降口から出てきた4人組は悪い奴じゃないんだが、いつもバカにしてくる。もう慣れてるから俺の「特異能力」がバカにされようとどうということはない。
そろそろ俺の自己紹介をしよう。俺の名前は金崎秋雄。顔はギリギリでイケメンの部類だと思う…顔だけは。問題は俺の「能力」。
2030年、突如として地球に接近してきた超巨大隕石は人類を絶望のどん底に陥れた。だかその隕石は大気圏でいきなり爆発し、地球上を全て覆う強力な閃光を放った。その数日後から世界中から超常現象や超能力の報告が相次ぎ、その数カ月後には全ての人類は「特異能力」と呼ばれる超能力に目覚めた。もちろん特異能力は千差万別で人それぞれだし、人によっては世界を滅ぼせるぐらいの特異能力を持つ人間だっている。それに比べて俺は…
「あれっ?秋雄くぅーん、君の能力ってなんだっけ?忘れちゃったよぉ~」
これは毎日恒例の俺のイジりだ。最近は飽きてきたので適当に返答している。
「俺の能力はお前えら4人をぶっ殺す特異能力だよ!」
俺は4人に向かって走りだし、手を伸ばす。
「静電気マスター金崎は今日も絶好調だぁーっ!逃げろーっ!ギャハハハハハハハ!!」
4人組は仲良く校門へと走って行った。毎日こんなのが続いている。
「秋雄も毎日大変だね、さっすが静電気マスター金崎!」
静電気マスター金崎。俺はこれを自分からアピールして自虐ネタにすることで、バカにされてもネタに変えられるようにしている。
4人にバカにされて咲妃と他愛ない会話をしながら帰路につく。これがいつもの俺の日課だ。
「秋雄-!お手紙きてるわよー!」
母のばかでかい声が1階から聞こえる。手紙?しかも俺になんて、なんの手紙だろうか。気怠い体をベッドから上げて1階に向かう。
「はいこれ」
母のむくんだ手から渡された手紙。横長の外装に包まれた中から1枚の紙が出てきた。
『金崎秋雄様 この度は御当選おめでとうございます。あなたは審査によって特異能力が規定範囲内だと認められ、「異能省主催第1回特殊特異能力大会」への参加権が与えられました。それにつきましては、12月15日に行われる第1回特異能力大会への受付を行うため、東京都港区異能省本省へとお越しくださいませ。お越しにならなかった場合は参加は取り消しとさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。 異能省特別広告本部より』
なんだこれは、イタズラとしか思えない。住所とかは小綺麗に書かれてはいるが、どうせまたあいつらが入れたんだろう。特異能力で競い合う大会なんて聞いたことがないし、似た特異能力は世界に3人だけと言われてるぐらい特異能力は人と被ることなんてない。だから平等な条件下で特異能力を使って競い合う、というのは不可能に近い。ましてや俺を選ぶなんて目が腐ってるんじゃないのか。
「港区って…遠すぎんだろ…」
明日は休日だったが、俺は手紙を机の上に置き早めに眠りについた。手紙がもう1枚あることにも気づかず。
~翌朝~
「秋雄-!咲妃ちゃんきてるわよー!」
あれ、デジャヴかな…そんな母の声に起こされた俺は時計を見る。時刻は7時12分、こんな朝早くに来るなんて迷惑なやつだ。
「…何か用…?」
俺は眠い目をこすりながら咲妃の顔を見る。咲妃は眠気が吹っ飛ぶほどの笑顔でこう言う。
「デートしよ!」
まだ夢の中なのだろうか、俺は本気で頬をつねってみた。
「っ…」
おかしい、痛いはずがないのに。咲妃とは確かに周りの皆が冷やかすのすら飽きたほどに仲が良いが、デート?何を言っているんだ…。
「夢じゃないって!ちょっと遠くに出掛けてみたいだけだよ」
咲妃は可愛く笑いながらそう言った。高校生だし遠くに行くのも悪くはない、だがデートって…
「別にいいでしょ?」
咲妃の満面の笑みに押し負け、俺は許諾してしまった。
「そんで、どこ行くの」
俺は電車に揺られながら咲妃に話しかける。
「まあまあ、それは私に任せといて!」
『次はー新品川~新品川~お出口は左側です』
咲妃の声に続いて言うようにアナウンスが耳に入る。新品川は5年ほど前に異能省建造に合わせて出来たという駅。
つまりは港区異能省本省がある…
「咲妃、ここで降りよう。」
俺はすぐさま立ち上がり、咄嗟に咲妃の手を引っ張る。
「えっ…ちょっ、行きたい所ここじゃないのに~」
咲妃は少し嬉しそうな顔をしながら電車を出る。咲妃には申し訳ないが、どうせまだ朝方だしたっぷり時間はある。
「ごめんな、ちょっと異能省に用事があるんだ。」
大会に参加する、という訳ではない。大会の目的や賞品を聞きたいだけだ。
「異能省に!?秋雄が!?」
咲妃はありえないという顔をする。確かに高校生、ましてや俺が異能省に用なんて天変地異レベルのことだ。
「新品川だって結構最近に出来たんだし、いろいろあるだろ。時間はいくらだってあるんだ。」
駅を出て、俺は駅の目の前にある異能省へと向かう。
「秋雄がそう言うんなら…いいけどさ」
咲妃を外へ待たせ、俺は異能省へと進む。
「あのーすいません。」
お客様窓口という所に俺はいた。案外部外者立ち入り禁止とかではなさそうだ。
「はい、なんでしょうか」
黒髪のお姉さんっぽい人が窓口の椅子に座る。
「えっーと…」
言葉に悩む。本当にイタズラだったりしたらと思うと大恥だし、なんと言えばいいのだろう。
「金崎秋雄様ですね、ご案内します。どうぞこちらへ」
突然横から聞こえる中年の声に俺は少しビクついた。横には渋い顔のスーツを着た男がいた。
「君はもう下がっていいよ」
その男は微笑みながら先程のお姉さんに言った。
「は、はい!」
男を見ている慌てている様子だ、もしかしたらこの男はお偉いさんなのかもしれない。
俺は左にあった階段から3階まで上がり、趣ある茶色い木製のドアの部屋に案内された。
「椅子に座って少々お待ちください」
男は部屋を出ていく、椅子に座り静寂の部屋をキョロキョロと見回していると、ドアの開く音がした。
「金崎秋雄様でお間違いありませんね?」
少し小太りで初老と男が目の前に立っていた。白髪混じりの髪の毛は威厳がある。
「はい」
いきなり案内されていきなり凄い偉そうな人来たな…すっげぇ緊張する。
男は椅子に座り、ファイルを机へと置く。
「今回は我が異能省主催の特殊特異能力大会へのご参加、誠にありがとうございます。」
参加だと?これはヤバい状況だ。
「あ、あの、その大会について気になることがあるんですが。」
「はい、なんでしょうか」
男は不気味に微笑む。
「その大会の目的とか、あとは賞品とかもあれば教えてほしいのですが。」
参加の事なんて後回しだ、その大会の内容を知らない限りは判断がてきない。
「あれ、もしかして2枚目の紙が封入されておりませんでしたか。これは本当に申し訳ありません。」
2枚目の紙…?もしかしたら見えないかも。
男は机に置いてあったファイルから1枚の紙を取り出した。
「こちらをご覧ください。」
男はもう1枚の紙を取り出す。
紙には何か書いてあった。ルール説明…参加条件…優勝賞品…俺の知りたいことが全て書いてあった。
「簡潔に申しますと、試合ルールは時間無制限の一対一。どちらかが気絶・降参・場外になるまで戦ってもらいます。もちろん特異能力を使わずに攻撃するのは反則となります。特異能力を使っての攻撃しか認められません。また、好きな武器を一つだけ持参することができます。」
「参加条件はこちらによって決められた規定条件を満たした方のみで、12歳以上60歳未満の方。これは機密情報なので言えませんが、必ず互角の戦いになることをお約束します。」
「優勝した方には賞金120億と「最強の特異能力」を譲渡致します。」
賞金120億とは目が回りそうな値段だ。これが国の力なのか。
「最強の能力…と言うと?」
どちらかというとこっちの方が気になる。俺からしてみれば夢のまた夢だ。
「それにつきましては大会当日にの花岡異能大臣から発表されますので、お楽しみということになります。」
お楽しみ…それじゃあ参加者が減るだけじゃないのか。
「譲渡に関しましては受け渡す特異能力の者が担当致します。安心してください。史上最強の能力であることは保障されています。」
そのまで言うのなら期待ができる。だが参加となると荷が重い。
「参加者の方の命ももちろん保障致しますのでご安心ください。」
命の保障なんて今時簡単な事だ。それよりも気になるのは
「他の参加者って…どんな人がいるんですか?」
答えるまでの間が少し長く思えた。他の参加者によっても参加するかしないかは変わるだろう。
「他の参加者の能力についてはお話はできませんが、皆さんも金崎様と同じような能力ですよ。おっと、失礼しました。」
皮肉っぽい言い方だ。俺の異能が弱いのは事実だが、それと同じ?俺並みに弱い能力なんて見たことがない。
「他に何か質問はありますでしょうか?」
「…いいえ」
「では、最後の確認となります。異能省主催第1回特殊特異能力大会への参加を許諾しますか?」
「…はい」
気分次第で投稿します