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第二幕 アリストテレス

 パスカル先生が紅組に、アナクサゴラス先生が白組に加わって、両チームとも九人ずつになった。紅組白組のそれぞれの少女たちはカーテン裏の両陣営の楽屋で作戦会議を始めた。

 私は人のいなくなった真ん中の麻雀部屋でテーブル上に置いたコップの水を飲んで一息ついた。

「では両チームで作戦会議を行っている間に、ソーカルさんに麻雀について解説をお願いしたいと思います。ソーカルさん、麻雀とはどういうゲームなのでしょうか?」

 言われたソーカルは、一つうなずいて答え始めた。

「はい! そうですね! 麻雀とは別名、闘雀とうじゃくと言いまして、闘うスズメと書くんですよ。つまり書いて字の如くスズメを闘わせる遊びです。いわゆる闘鶏のスズメバージョンですね。……と言っても軍鶏しゃもと違って闘争本能に乏しいスズメですから、闘わせるために一種の麻薬を使用して興奮状態にするんですよ。その麻薬漬けの状態の雀を指して麻雀、中国読みでマージャンと言うようになりました。スズメの代わりにあのちっこい石、麻雀牌をぶつけあうようにルールが変更されたのは近年の動物愛護の流れによるものです」

 よどみなく言うソーカル。

「……嘘ですよね」

「はい」

 いい笑顔だ。

 私はこめかみに指を当てた。

「スラスラとありがとうございます。解説にあなたを選んだのは致命的な人選ミスではないかと思いますがどうでしょうか?」

 ソーカルは顔の前でチョップの形にした手をひらひらと振った。

「そんな。褒めても何も出ませんよ」

 にこやかに笑ったソーカルを見つめ、私も笑顔を返して言った。

「解説交代」


 *


 両軍とも作戦会議を終え、いよいよ大会開始である。私は交代した解説係を紹介する。

「改めましてこんにちは。急遽、解説はアリスに変更になりました」

「はい、代打のアリストテレスです。……あの、私、一応紅組の選手なんですが……」

「大丈夫、アリスの代わりにソーカルが紅組に入ります。紅組のみなさんには気の毒ですが」

「そこまで言わなくても」

 古代クラスのアリストテレス。通称アリス。この学園では数少ない常識人である。彼女は学園を代表するツッコミ係であり、その現実的な性格がどうにか学園の破綻を防いでいると言ったら過言であるが、言いたくなるほどの安定感がある。しかもこの女、個性の強い面々に隠れているが、実は知識の幅と深さでは学園でも一、二を争う才女だ。いつも抱えている分厚い本は今日も携えてきており、解説席の机上に置かれていた。……その中に麻雀についてのページがあるのかは定かでないが。

「では今日はよろしくお願いします、バークリー」

 言ってぺこりと礼をするアリス。

「はい、よろしくお願いしますアリス。それでは早速ですが麻雀はどんなゲームですか?」

 私はアリスに尋ねる。

「はい、麻雀は、言ってしまえばトランプや花札のようなカードゲームの一種です。ただカードの代わりにあの親指大の直方体の石、はいを使います。表に図柄が書かれていてトランプと同じように一から九まで、絵柄は三種類あります」

「絵柄ですか。スペードとかクラブみたいな?」

「丸っこいのが筒子ピンズ、漢数字が書かれているのが萬子マンズ、竹っぽいのが索子ソーズと言います。それぞれ一から九までで計二十七種類。加えて、漢字一字が書かれた字牌じはいが七種類です。東、西、南、北、白、發、中ですね。足して三十四種類が四枚ずつ、つまり合計すると百三十六枚です」

「多いですね」

「ルールはざっくり言うとポーカーです。ただ五枚でなく十四枚で役を作ります。普段は十三枚と一枚欠けた状態で持っておき、四人でそれぞれ一枚取っては一枚捨てるという形で交換していきます。この一枚取るのを「ツモる」、一枚捨てるのを「切る」と言います。また他の人の捨てた牌を貰うこともできて、それが「ポン」や「チー」とです」

「ポンとチーとは何でしょう?」

「同じ牌を三つ揃える時がポン、同じマークで数字を連続で……たとえば三、四、五、みたいに揃えるのがチーです。二枚持っててあと一枚でそうなる、という時にポン! とかチー! とか宣言して他の人の牌を貰う訳です」

「なんか可愛いですね」

「さあ、どうでしょうか。……もうひとつ、他の人の捨てた牌が役を作るための最後の一枚だった場合はロン! と宣言してそれを貰うことができます」

「ロン……ですか。役ができて上がる時はロン! と言うわけですね」

「それは人の捨てた牌で上がる時で、自分で取ってきた……ツモった牌で上がる場合はツモ! と言います」

「なんかいちいち言うことが間抜けなゲームなんですね」

「い、いや別に単に上がり、と言ってもいいんですが。ま、まあいいじゃないですか」

 別にアリスを批判した訳じゃないが、なぜかアリスが麻雀を弁護した。

「とにかく、役を作れば勝ちなんですね?」

「はい。ちなみにこのゲームは点数制で、役を上がるとそれに応じた点数を他のプレイヤーから貰います。作るのが難しい役ほど高得点です。また各ゲームで一人、親を決めますが、親は子に比べ得失点ともに高いです。なお親が上がれなければ交代して次の人が親に。そうやって親がグルグル回ります」

 アリスはそこで手元に置いてある紙を見た。解説者席に置かれたルール説明の紙だ。

「なお、持ち点が0点になることを「ハコ」と言いますが……この大会ではその時点で退場して次の人と交代するんでしたね。えーと、さっきバークリーが言いましたが、交代はハコにならなくてもできます。その場合は次の人に点を引き継ぐ……と。それと……逆に誰かの持ち点を0点にすることを「飛ばす」と言いますが、この大会では誰かを飛ばしたらボーナスポイント「飛び賞」として二万点を貰えることになっているそうです」

 アリスの解説は完璧だった。

「ふむ……飛ばすのに飛び賞、ですか」

「ええ。あと、普通の麻雀では親が二周すると終わりで一旦精算しますが、この大会はエンドレス。交代した人だけ前の人の点を引き継いだ上で二万五千の初期点が加わって、後は点数をずっと継続して続けます。なので、終盤になると持ち点が凄いことになりますね」

「なるほどぉ……」

 私はしきりに感心していた。

「ええ……って、もしかしてバークリー、麻雀知らないんですか?」

「ええ。放送委員だという理由だけで実況を押し付けられましたので。麻雀やったことないんです」

 本当、アリスさまさまである。

「それはまた無謀な……」

 アリスが青ざめているような気がしたので、私は微笑んで親指を立てた。安心したようで、深いため息をつくアリス。

「いえ、私もさすがに一人では無理だと思って、それで実況だけでなく解説が必要だと言ったんですが、そしたらあんなのが来ちゃったので弱っていたところだったんです。本当に助かります」

 ふと視線を感じて振り向くと、カーテンをちろりとめくってソーカルがあっかんべーをしていた。あ、聞こえてたのか。そりゃそうか。楽屋の待機陣に向けて放送してるんだもんね。

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