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第十二幕 一休

「なぜだか……何故だかわかりませんが、オッカムの常勝が止まりました」

「ええ、どうしてでしょうか。オッカム以上にパスカル先生の上がりが早いです。オッカムの捨てる牌を鳴いて役を作っていきます!」

「くっ……どうして……私の無駄のない麻雀が……」

「無駄のない麻雀……それが強いなんて思っているようじゃまだまだね。無駄がないということは、それだけ行動を読みやすいということなのよ。あなたの最初に捨てる牌、配られた牌、私の牌に鳴かなかったこと、それらを考慮に入れてあなたの手牌の「期待値」が計算できる。どんな牌を持っていてどんな役を狙っていて何を捨てるかも、手に取るようにわかるわ」

「なっ。配られた牌まではわからない筈じゃ……」

「今の配牌は私の山からよ? 自分が積んだ山の牌くらい全部覚えておきなさい」

 パスカル先生の後ろに麻雀の鬼が見えた。

「どう? ちょっとは考える気になったかしら? か弱い葦さん?」

 パスカル先生の笑顔は実はとても怖いものだったということを私たちは思い知ったのだった。


 *


 オッカムが点をどんどん失っていっていた。パスカル先生に狙い撃ちにされているのだ。

「な……どうして……私ばかり」

 がっくりとうなだれるオッカムに、パスカル先生は笑った。

「あなたに比べればまだ無駄の多い一休のほうが読みにくいわ」

「こんな筈はないの。こんな筈はないのよ……。私には信仰の力が……」

「これは友人の言葉だけどね……」

 パスカル先生は指を立てて言った。

「神はサイコロ遊びをしない、らしいわよ」

 オッカムはぎっと先生を睨む。

「くっ……まだ……まだよ! まだ終わらないわ」

 そう言うと、手牌を穴が開くかと思うような眼光で睨み始めた。

「ちょ、ちょっと、オッカムちゃん……?」

「まだ無駄が……多いのよ!」

「え?」

「もっと無駄を……無駄をそぎ落としていけば! 勝負よ、パスカル先生!」

「ふっ。かかってきなさい!」

 そして、その勝負はあっさりついた。

「これで完璧! これで一層無駄が無くなったわ!」

「で、でもオッカム……」

「何よ! 何か文句あんのアダム!」

「その……言いにくいんだけど……」

「何よ!」

「稗が十枚しか無いんだけど」

 そう、今オッカムの牌は十枚しか無かった。本来なら十三枚無ければならない。

「だから何! 無駄をそぎ落としたらこの枚数になったのよ! これ以上無駄に稗を増やしてはいけないのよ!」

「でも少稗だよ!」

 一休が悲鳴に似たツッコミを入れている。

 アリスがすかさず解説する。

「ルール上、十三枚、稗を取ってきて捨てるまでの間だけ十四枚。これが規定枚数です。これより牌が少なくなってしまったら少牌しょうはい、多くなってしまったら多牌たーはいと言い、どちらも反則ですね」

「反則。負けですか?」

「多牌の場合はチョンボ、つまりそのゲームは負けで罰符として満貫払いです。少牌の場合はチョンボ扱いにはせずゲームは続行ですが上がり放棄、つまりそのゲームでは上がれなくなります」

「だそうだよオッカムちゃん! 上がれないよ!」

「上がりなんて不要! 上がるまでもなくすでに完成しているのよ!」

「意味が全くわからないよオッカムちゃん!」

 追いつめられたオッカムが既に現実を見失っていた。

 そしてなおもツモった牌を無駄だと言って即座に切り捨てるオッカムと、それを拾って上がるパスカル先生。

「ロン。……ええとあの、オッカム、もう諦めたほうが……」

「くっ……まだ無駄が……無駄があるんだわ」

 次のゲームもオッカムはツモを不要とばかりに行わないため手牌が減っていく。

「ダ、ダメだ、オッカムちゃんが頼りにならない今、私がしっかりしないと!」

 一休がこめかみに人差し指を当てた。

「そ、そうだ! こうすればいいんだわ! 大丈夫よ! オッカムちゃんの代わりは私が受け持つわ!」

 急に笑顔になった一休に、アダムが身構える。

「何をする気? いっ……!?」

 一休が山から牌を「二つ」取った。

「友が少ない稗を持つのなら、代わりに私がその分稗を余分に持てばいい。二人あわせれば枚数は同じ! 帳尻は合うわ!」

「うわ……頭いい……。さすが一休」

 アダムがげっそりしている。

「友情パワーで凄い役が完成したわ! 必殺、十二対子!」

 一休が私の知らない役を上がった。たぶんアリスも知らないだろう。というか無いだろうそんな役。

「凄い……まさか十二ものペアを作るなんて……普通なら考えられないわ」

「またの名を、「二十四の瞳」! 点数は前代未聞の二十四万点よ」

 得意げな一休に、パスカル先生がポツリと言った。

「うん、多稗ね。満貫払いよ一休」


 こうして、何かを見失った白組コンビは仲良くパスカル先生に飛ばされたのだった。

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