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聖王の娘と悪皇帝の息子のドタバタ恋物語! 天翔ける竜  作者: 梨香


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6  お父ちゃん? お父様? 父上?

 ドラゴー砦で嫌われ者だったジジは、ここより酷い場所は無いと思っていたが、道中目にしたサリオン王国の惨状に驚いた。


 ベラム男爵の屋敷に着いた途端、豪華な部屋に一人で置き去りにされたジジは、休憩した宿屋で働いていた女の子を思い出して、ゾクッと身を震わす。


「ウチと同じ年ぐらいの女の子が酒場で男の相手をしとった。ウチも子竜が生まれん年があったら、売られてたかも」


 休憩で寄った宿屋で見た衝撃だけでなく、長年の戦争で負け続けているサリオン王国は荒れ果てていた。竜の牙にへばりついているドラゴー砦は、野盗に襲われる心配も無かったが、焼き討ちにあった家の残骸なども目についたのだ。


「それにしてもベラム男爵やらは、豪華な屋敷に住んどるし、ウィンチェスター伯爵もキラキラの服やカツラとか、かなり金を持っとるみたいやけど……この人達の領民でのうて良かったわ。すごく威張っとるし、へいこらして暮らさなきゃいけんもん」


 ドラゴー砦は竜を飼育しているので、昔からどこの貴族の領地になっていなかった。その代わり、年に数頭の竜を国に納める義務を課されていた。納める頭数以上の子竜が産まれないと、現金収入が無くなる。近頃は小型竜を売って、大型竜のエサになる山羊や羊を確保する厳しい生活だった。それでも、贅沢な貴族に税金を納めるよりマシだったと、ドラゴー砦の頑固な男衆達を懐かしく思い出すジジだ。


 騎士達が持っている紫の地に銀糸で竜が刺繍してある旗は、聖王の使者の印だ。その旗のお陰か、竜に乗っている騎士に威圧されたのか、野盗に遭うこともなく、途中の町でも衛兵に止められる事もなかった。


「大きい町やなぁ! これが王都フローレンスかぁ?」


 ジジを乗せている騎士は、クスッと笑った。


「ここはフローレンスではありません。花の都、フローレンスはこの町の数倍の華やかさです」


 ウィンチェスター伯爵に馬鹿にされたが、ティルーガー砦と麓の村しか知らないジジには大きな町に思えた。竜は大きな町も通り越し、夕方に王都フローレンスに着いた。


 ウィンチェスター伯爵が言った花の都の意味が、竜で通り過ぎただけのジジにも分かった。立派な屋敷が建ち並び、竜や馬車が大通りを行き来している。


「なんかの祭なんか? えらい人やけど?」


「王都では、いつもこの様な感じですよ。さぁ、王宮に行きましょう。ジェラルディーナ様、お願いですから、口を開かないで下さいね」


 聖王の使いで隠し子をドラゴー砦まで迎えに行ったが、こんなに訛りが酷い山出しの少女だとは思ってもみなかったウィンチェスター伯爵は、さっさと使命を終えてしまいたかった。


 王宮の門の前で、ジジはポカンと口を開けた。門を護る衛兵は、紫の旗を持った聖王の使者をすんなりと通したので、竜で宮殿の前に乗りつけた。


「さぁ、参りましょう」


「ウチのチビ竜は?」


「小型竜なら部屋にお届けします」と言う騎士から、ジジはバスケットを強引に受け取る。


 昨夜、ベラム男爵の屋敷でも部屋に持ち込んだのだ。ジジの財産はチビ竜しかない。絶対に目を離さないと抱き抱える。


「そんな物を持ったまま……まぁ、良いでしょう」


 ウィンチェスター伯爵は、こんな少女と一緒なのを見られたくないと、王宮の中を急ぐ。


「ウチは知らん間に死んだんやろか? ここは天国みたいや」


 ジジは金色の柱や、天井に舞い飛ぶ竜や戦士の絵を見てポカンとしていたが、夢では無いかと頬を抓る。


「痛い! これは夢の国みたいやが、夢じゃ無いんや」


 ここまで竜に乗せて来てくれた騎士とは、宮殿の入口で別れていたので、男なのにヒールを履いているウィンチェスター伯爵の足音だけがカツカツと響いていた静かな空間に、ジジの声がこだました。


「ジェラルディーナ様、お願いですから口を閉じておいて下さい。ああ、貴族達が退出した後で良かったです」


 ジジは母親と自分を捨てた父親に過度な期待をしないようにとしていたが、やはり夢も見ていた。


「あんたは、ほんまに口うるさいなぁ。きっとお父ちゃんはウィンチェスター伯爵みたいな貴族にお母ちゃんと別れるように説得されたに違いない。泣く泣く別れたんやろう」


 ドラゴー砦育ちのジジでも王様が竜飼いの少女と恋愛するのが普通は有り得ないと分かっていた。それに、今まで自分の存在を無視していたのに、突然呼び出したのは怪しいと警戒をしている。それでも父親という存在が現れたのだ。舞い上がる気持ちを抑えるのが難しく、昨夜も生まれて初めてのふかふかのベッドでも眠られなかったぐらい揺れ動いていた。


 ジジは警戒と期待の間を乱高下しながらバスケットをぎゅっと抱きしめてウィンチェスター伯爵の後ろをついて王宮の奥へと進んでいく。


 衛兵が二人立っている豪華な扉の前で、ウィンチェスター伯爵は立ち止まった。


「ジェラルディーナ姫をお連れしたと、エリオス聖王にお伝えして下さい。それと、この書類を宰相に」


 ジジは、お父ちゃんに会える! と興奮していた。


「あっ、お父ちゃんではまずいんじゃないかな? 王様なんやから、お父様? そうや、父上とか呼ぶんかなぁ?」


 ジジがあれこれと妄想し、百面相している間に取り次ぎされて、豪華な扉が開かれた。


「さぁ、どうぞ」


 今まで案内してきたウィンチェスター伯爵は、どうやらここまでみたいだとジジは驚く。


「ウチだけで?」


 急に心細くなり、煌びやかな王宮に不似合いの服や革靴が恥ずかしくなる。しかし、ティルーガー砦ではこれが普通なのだと、ジジは深呼吸して扉の中に一歩踏み出した。


 サリオン王国のジェラルディーナ・ジニー姫としての第一歩は、謁見の間の豪華さに見惚れた挙句、ふかふかな絨毯に蹴躓くという格好の悪い物になった。

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