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聖王の娘と悪皇帝の息子のドタバタ恋物語! 天翔ける竜  作者: 梨香


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5  旅立ち!

「ほら、暴れんの! 大型竜のエサになんかさせへんから。一緒に王都へ行くんや」


  小型竜の小屋でジジが餌にされるのではとパニックになって暴れる年老いた二頭を出荷用のバスケットに入れていると、ハンツがやって来た。


「オカンから聞いたんやけど……ジジは王都に行くんか? お前がお姫様やなんて、なんか信じられん話やし、俺は行かん方がええと思う。いや、行かんといてくれ! 俺はお前のことが……」


 ポッと頬を赤らめるハンツにジジは驚く。カルマに色目を使っていると非難されたが、事実無根だと思っていた。


 今まで何とも思っていなかった年下のハンツなのに、何故かジジもドキドキしてくる。ハンツはこの機会を逃したら、一生後悔すると勇気を振り絞る。


「今までお前の事を忘れていた王様が、急に呼び寄せるのは何か怪しいで! 俺はお前が好きや。だから、ここにいて俺と結婚すれば良い」


 結婚! と言われて、ジジは冷や水を頭から掛けられたような気がした。


「無理や! あんたと結婚なんかしたら、一生ガンツとカルマと縁が切れん!」


 年下のハンツは嫌いではないが、あの親がついている。初めて恋の告白をされてポッとなっていたジジだが、あの意地悪なカルマが姑になるのは勘弁して欲しいと正気に返った。チビ竜が入ったバスケットを持って、一目散に駆け出した。


「ジジ……」呆気ない失恋に立ち尽くすハンツだった。


 ジジが小型竜の小屋から出ると、砦の前に大型竜が鞍をつけて待っていた。騎士達は紫色の地に銀糸で竜が刺繍してある旗を持って大型竜に素早く乗る。


「さぁ、ジェラルディーナ様、王都へ参りましょう」


 ジジは、手を差し出すウィンチェスター伯爵にバスケットを押し付けると、祖父が居る広間に駆け込んだ。


「お爺ちゃん、元気でな」


  厳しい祖父だったが、王都に行ったら二度と会えないかもしれないのだ。


「ジジ、戻ってくるんやないぞ」


 マソムは自分がもう長くはないと感じていた。娘を捨てた王様が、何を考えてジジを呼び寄せたのかは分からなかったが、ここに居るよりはマシだと言い聞かせる。


「分かってる。 どうにか生きていくさかい、心配せんでええよ」


「お前はドラゴー砦の娘や。王都の人間なんかに負けたらあかんぞ!」


 逞しいジジの言葉に頷くマソムだった。


「急いで下さい。日が暮れる前にここを立ちたいのです」


 祖父と孫の別れに痺れをきらしたウィンチェスター伯爵に急かされて、外に出る。


「しまった! 竜に乗るならズボンを履かんとあかん」


「ジェラルディーナ姫、失礼いたします」


 慌てて砦に帰ろうとするジジを竜から騎士が飛び降りると、軽く抱き上げて鞍に横座りさせる。


「こんな横座りやと、落ちそうで怖いわ」


 ジジもティルガー砦で育ったので、時には機嫌の良い男衆に大型竜に乗せて貰ったこともあったが、いつもズボンを履いていたので、跨っていたのだ。


「鞍壺に片方の膝を乗せると安定しますよ。ご安心下さい。ジェラルディーナ姫を落としたりはしません」


  貴婦人を竜に乗せ慣れている騎士に女乗りの方法を教えて貰い、ジジはどうにか竜の上で落ち着いた。


「あっ、ウチのチビ竜はどこや?」


  酷い訛りに騎士は吹き出しそうになるが、グッと我慢して、誰も乗せていない騎士の竜を指し示す。


「さぁ、出発しましょう」


 ウィンチェスター伯爵の号令で、竜は崖に向かって走り出す。


「うわぁ〜! 落ちるぅ!」


  ジジは竜の滑空を何百回も見たことはあるが、男衆は子どもを乗せて飛ぶ事はなかった。騎士はクスッと笑うと、片手でジジのウエストを持ってくれた。


「大丈夫ですか?」


 恐怖のあまり気絶したのでは?  と騎士は心配して声をかける。


「すげぇ! ウチは空を飛んどるんや。あっ、ハンツ! さいなら〜」


 砦から離れた崖の上でハンツが手を振っているのに、ジジは手を振り返す。


  騎士は田舎育ちの女の子が、あの洗練された王都の貴族とお淑やかにお茶を飲んでいる姿が想像できない。しかし、それは自分が心配する事ではないと、着地に集中する。


 竜の牙から滑空した竜は、麓の村の手前の草地に順に着地した。ウィンチェスター伯爵は、高い所は苦手なのか少し青ざめた顔をしている。


「やれやれ、こんな田舎ではロクな宿もありません。夜までにベラム男爵の屋敷まで着けば良いのですが……」


 乱れた髪を気にしているウィンチェスター伯爵を見ていたジジは、変だな? と首を傾げる。


「頭がズレとる! あん人は大丈夫なんやろか?」


 プッと吹き出した騎士は、そっと「カツラなんですよ」と教えてやる。


「へぇ、噂には聞いちょったが、ハゲなんか?」


 ウィンチェスター伯爵は。田舎者め! と軽蔑を込めた視線をジジに向ける。


「王都では、貴族は儀礼的なカツラを使うのが常識です。私はハゲでは断じてありません!」


「ああ、恥ずかしがらんでもええのに。年をとったらハゲる人も多いんやから」


「違います!」


 そんな低次元の言い合いをしている間も竜は走り続け、麓の村を通り抜けた。


「ああ、ウチは王都とかやらに行くんやなぁ」


 ジジも麓の村には何度か来た事があった。ここから先は知らない世界なのだ。後ろを振り返ったジジは、騎士の肩越しに麓の村を見た。


「小さい村やなぁ」


 ジジにとっては、麓の村は大勢の人が住んでいる別の世界だった。あっと言う間に通り過ぎる程の小さな村だったのだと驚きを隠せない。


 目線を竜の牙に向け、そこにへばりついているドラゴー砦に別れを告げた。


「ウチは二度と帰っては来られんのや」


 逃げ出したくて堪らなかったドラゴー砦が、何故か自分の一部のように感じたジジだった。

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