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聖王の娘と悪皇帝の息子のドタバタ恋物語! 天翔ける竜  作者: 梨香


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4  重要な書類

「ウィンチェスター伯爵、結婚証明書も探してくるようにと言われていたのでは?」


「そんな事ぐらい分かっている!」


 お付きの騎士に言われて、ウィンチェスターは書類の提出を要求する。


「若かりし頃のエリオス王子が、一時の気の迷いで竜飼いの娘と結婚なさったのだ。だから、ジェラルディーナ様は正式な第一王女になられる。その証明書が無ければ、その金は返してもらうぞ」


 祖父の足に縋り付いたまま、ジジはウィンチェスターとガンツの話に聞き耳をたてる。


 もしかして、あの手紙だろうか? ジジは山の牧場で読みかけていた手紙ではないかとピンときた。でも、どうもウィンチェスター伯爵という男は気に入らない。ジジは、自分の袋の中にある書類だと気づいたが、どうも話が旨すぎ、信用できないので口を閉ざして様子を見ることにする。


「一時の気の迷いじゃと! 勝手な事ばかりぬかすな!」


 マソムも娘を見下した態度のウィンチェスター伯爵に腹を立てていたので、昨夜ジジに渡した手紙ではないかと思ったが、素知らぬ顔をする。


「親父! 書類は何処にあるんや?」


「さぁのう? ジニーは父親のことは一言も告げんと死んだからのう。それに、聖王の娘ならもちっと早うに迎えに来るべきじゃったろう」


 ガンツはマソムの部屋をひっくり返して探したが、どこにも見つからなかった。ベッドや布団をナイフで引き裂いて、藁や羊毛を床に投げ散らかしているガンツをカルマが止める。


「あんた、気でも狂ったの?」


「お前、古い手紙を見たこと無いか? あれが無いと、金貨を返さないといけない。あの金貨があれば、麓の村の牧場が買える! 竜達のエサに困らんようになるし、ハンツが望むなら村で暮らす事もできるんや」


 元々、麓の村から嫁いできたカルマは、ドラゴー砦での暮らしに満足していなかった。息子のハンツに麓の村で生活させてやれるかもしれないと、女衆も総動員して必死で砦中を探した。


「何処にも見つからん! もう捨てたんやろうか? ハンツにはこんな不便な暮らしはさせとうなかったのに……」


 一度夢に手が届きそうになっただけに、カルマは腹立たしく思い、台所の床に落ちていたジジの袋を蹴り飛ばす。中からカチカチになったパンとチーズが転がり出て、鶏のエサにでもしようとカルマはかがみ込む。


「なんや! これは探していた手紙やないか! 性悪め、ウチらが必死で探しとるのに黙ってたんやな」


 意地悪なカルマに性悪なんて言われたく無いジジだが、ウィンチェスター伯爵は、その手紙を読むと満足そうに豪華な上着の内ポケットにしまい込んだ。


「さぁ、これでこのような場所から立ち去れます」


 ウィンチェスター伯爵は、嫌な臭いがするとでもいわんばかりに、香水が振りかけてあるハンカチをヒラヒラさせる。


「お爺ちゃん、あんな奴と行きとうない! ウチをここに置いといて!」


 マソムも王都の貴族には不信感を抱いていたが、ジジがドラゴー砦にいても良い事が無いのもわかっている。


「どういう事情かはわからんが、お前の父親が迎えをよこしたんじゃ。ちょっと遅すぎたが。じゃが、ここにおるよりはマシな生活ができるやろう」


 ジジはマソムが言わんとする事が理解できた。国に納める頭数より多くの子竜を産まない年があったら、ガンツとカルマがジジを売り飛ばすのは目に見えていた。どんな父親がわからないが、それよりはマシだろうと決意する。


「でも、お爺ちゃん、ウチの父親が今更引き取りたいと言い出したんは怪しい。何か理由がありそうや。金持ちの変態爺の所へ嫁にやるつもりかもしれん」


 マソムはジジに小声で諭す。


「そうなったら逃げ出せばええ。お前を育ててくれた訳でも無いんだから、義理は無いわ」


 ジジも会った事も無い父親に義理立てる気持ちは無い。その時に金目の物を盗んだりしたら、泥棒になるか? 金ピカの装身具を付けたウィンチェスター伯爵を見て考える。


 王様だという父親の家には金目の物もあるだろう。それを売り飛ばしたら暮らしていけるかもと、ジジは一瞬考える。でも、きっと後ろに控えている騎士達につかまってしまうだろうと首を横に振る。


 厳しい暮らしのドラゴー砦で育ったジジは、お金が無い若い娘が暮らしていけないのもわかっていた。だから、家出をなかなか実行できなかったのだ。


「あのう、ウィンチェスター伯爵……ウチのペットも連れて行っても良いやろうか?」


 ウィンチェスター伯爵は、ペット? と怪訝な顔をする。


「ウチはチビ竜を二頭ほど可愛がっているんや。それと一緒じゃ無いと、王都とやらに行けへん」


 チビ竜と聞いて、ウィンチェスター伯爵も「連れてきて良いです」と許可する。王都では小型竜を飼うのは、貴族のステイタスになっていたので、山出しの姫にしては良い趣味だと満足する。しかし、ガンツは黙っていない。


「何やと、勝手な事を言うな! チビ竜なんか渡さんぞ」


「ふん! 今朝、叔父さんは大型竜のエサにしようとしたやんか。年を取っているし、このまま置いとったらエサにされちまう」


「この性悪め! お前は産まれてくる子竜目当てで連れて行くんじゃな」


 ジジは舌打ちする。ガンツには見抜かれたが、このまんまあのチビ竜を置いて行くのが心配なのは確かだ。子竜を売れば、当面の生活資金になるとも思ったのも本音だけど、むざむざ餌にされるのも見逃せない。


「叔父さんはウチが八歳の頃からチビ竜の番をさせとったやろ。ろくに飯も食わしてもろうてないし、チビ竜二頭ぐらい貰うてもバチは当たらんわ」


「この性悪が!」


 ガンツが振り上げた手は、騎士が素早く掴んだ。不貞腐れた態度で悪態をついているこの少女は、信じがたいことだが聖王の第一王女なのだ。竜飼いに殴らせるわけにいかない。


 口汚い二人の言い争いに、ウィンチェスター伯爵はウンザリする。


「さっき十分な養育費を払ったであろう。チビ竜の二頭ぐらいジェラルディーナ様に譲りなさい」


 騎士がガンツを捕まえているのを幸いに、ジジは二頭のチビ竜を連れにいく。

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