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聖王の娘と悪皇帝の息子のドタバタ恋物語! 天翔ける竜  作者: 梨香


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15  逃亡計画

 最悪な家族との顔合わせ食事会を終えたジジは、ドラゴー砦の嫌いだった人たちの方がまだましだと思った。


「お偉い人達って感じ悪い! それにカルディア帝国なんて、戦争ばっかりしてるんや。もっと嫌な人に決まってる。ああ、やだやだ! アルディーン皇太子だなんてヘリオスを戦争好きにした感じかも。それならハンスの方が優しくて良かったかもね。でもガンツやカルマに一生こき使われるのはごめんだわ」


 ラルゴー砦を懐かしく思ったジジだったが、よく打たれたガンツや意地悪なカルマの顔が目に浮かび、ブルブルっと身震いした。


「父上は……綺麗な顔をしているし、頼りないけど、優しい人だとは思う……でも、ウチにはあんまり会ってくれない。それはウチが邪眼だから嫌いになったからかな?」


 唯一、ジジが好意を持っているエリオス聖王にも会えないし、邪眼だから避けられているのかもと落ち込む。


「父上に嫌われたんなら、ウチはカルディア帝国になんか嫁ぎたくない」

 

 ジジは祖父のマソムの『そうなったら逃げ出せばええ。お前を育ててくれた訳でも無いんだから、義理は無いわ』という言葉を思い出す。


「父上は……ウィンチェスター伯とかに金貨を持って来させたし、それまでの養育費も払うようには命令していたみたいやけど、ウチを育てたくれたわけじゃないし、養育費がちゃんと届いているか確認もしてくれへんかった。ウチのことなんか忘れていたんや」


 カルディア帝国から第一王女を嫁にと要求されて、金髪のアンジェリーナが条件に合わなかったから自分を引き取っただけなのだと、ジジは父上と決別することにした。


「父上にとってもウチは邪眼で嫌な子なんや。だから会ってくれないし、すぐにカルディア帝国に行かすんや」


 夢に見た父親だったし、見た目も好きで、性格も嫌いじゃなかったが、ジジには自分をカルディア帝国に売り払う人でしかない。そうなれば、自分の道は決まる。


「カルディア帝国に嫁ぎたくない。ウチはサリオン王家にこれっぽっちも恩義も感じへんもん。妹には大嫌い! と言われたし、弟には軽蔑されてる。王妃は意地悪やし、父上は、ウチが邪眼やから他所にやりたいみたいや」


 ジジの心の中でカルディア帝国に嫁がないのは決まったが、それを実行するのは大変だ。


「うう〜ん、ここから逃げ出しでも、竜騎士に捕まえられるのがおちや。逃げるなら、カルディア帝国に入る前、フローレンスから離れた辺りならチビ竜を売ればどうにかなるかも?」


 それにはカルディア帝国までの道中が分からないと逃げ出すタイミングが決められない。


 早速、次の日、ジジは、家庭教師に地図を持ってきて貰う。


「やっと勉強に身がはいりましたか。それに嫁がれるカルディア帝国について知りたいなど、素晴らしい進歩です」


 生徒がやる気になって喜ぶ家庭教師に見せて貰った地図を見て、ジジは首を傾げる。


「先生、この赤い線は?」


 地図には何本もの赤い線が引いてあり、ジジにはよくわからなかった。


「ああ、これは……昔はこの大陸全土がサリオン王国でした。でも、この地図が作成された頃は、ベンダー王国、シュミット王国、ナサニエル王国、カルア王国がなどが独立し、ここまでがサリオン王国になったのです」


 確かに地図では、真ん中のサリオン王国を取り巻く北のベンダー王国、東のシュミット王国、西のナリオス王国、南のカルア王国が書いてあった。その上に赤い線が何本も書いてある。


「あっ、そういえば歴史でサリオン王国から独立したら四王国がさらに分裂したと習ったような……」


 家庭教師は、サリオン王国の歴史を中心に教えていたので、独立というか反旗を翻した四王国はさらっとしか触れていなかった。


「よく覚えておれらましたね。そうです。最初に独立した四王国は、それぞれサリオン王国の聖王の王子達が始祖となっています。その四王国も何度も分裂して、最大時には十八王国にもなりました。その分裂と統合を繰り返す戦いに巻き込まれて、サリオン王国はこのような有様に……」


 悲しそうな家庭教師の視線の先には、内乱を繰り返す四王国の戦いの最中にどんどん浸食されて小さくなったサリオン王国の小さな領土があった。


「ええっと、この赤い線に囲まれたところが今のサリオン王国ってことやねんね。えっ、サリオン王国ってこんなに小さいの?」


「ええ、それとこの青い線がカルディア帝国です」


 よく見ると地図には青い線も何本も書いてあった。


「えっ、すごく大きんじゃ?」


 重い溜息をついて、家庭教師は地図を指して説明する。


「カルディア王国は、元々はカルア王国から分裂した小さな南の国でした。先の王がカルア王国を滅ぼし、今のギデオン王がナサニエル王国を併合して、カルディア帝国としたのです」


 ジジは地図を見て、エリオス聖王が『玉の輿だよ』と言っていたのを思い出す。確かに小さなサリオン王国と比べると大国だ。でも、ジジはとても嫁ぐ気になんてなれない。


「ふうん、じゃあカルディア王国は、サリオン王国の分家のカルア王国のそのまた分家だったってことなんじゃな。それが、本家のカルア王国や、そのまた分家なんかを滅ぼして、別のサリオン王国の分家のナサニエル王国を部下にしたのか……父上が戦争好きだとは言ってだけど、ほんまじゃな」


 相変わらずジェラルディーナ・ジニー姫の方言は酷いが、複雑なカルディア帝国の成り立ちをあっさりと理解したのを家庭教師は喜んだ。


『このお方はやはりサリオン王国の姫君なのだ。優れた頭脳をお持ちだ』


 その後も、カルディア帝国の首都メディナまでの道のりを詳しく質問するジジだ。


「えっ、ナサニエル王国ってカルディア帝国に併合されているんだよね? そこの王都タリーズに寄り道するん?」


 初めは王都フローレンスを離れて、サリオン王国のそこそこの街でとんずらしようと考えていたジジだが、あまりのサリオン王国の領土の狭さに計画を変更せざる得なかった。


「ナサニエル王国のビクトリア王女がカルディア帝国に嫁がれて、アルディーン皇太子をお産みになられたのです。ナサニエル王国はカルディア帝国に併合されましたが、王族はそのまま統治を許されています。勿論、カルディア帝国に反抗は許されませんが。現在のナサニエル王国のヘンリー王はビクトリア皇后の弟に当られるのですよ。そして、お二人の母君はエリオス聖王の伯母上でした」


 ジジはややこしい血縁関係を考えた。


「ええっと、つまりビクトリア皇后とヘンリー王は父上の従兄弟ってことやねんな。なら、アルディーン皇太子とウチはハトコになるんか」


 家庭教師は、ポンと手を打って褒める。


「その通りです! ジェラルディーナ・ジニー姫。でも、ウチではなく、私とおっしゃって下さい。明日にはアルディーン皇太子との初顔合わせなのですよ」


 それからは、マナーの講義になり、ヘトヘトになるまでしごかれた。でも、ジジは地図を家庭教師から「もっと見て勉強したい」と手に入れてご機嫌だった。


「アルディーン皇太子とかとの顔合わせなんか、どうでもええわ。そんなことより、どこで逃げ出すかや」


 どうやら、顔合わせが済んだら、旅立ちも近いようだ。ジジは、身篭っているチビ竜がいつ頃子竜を生むかも脱出計画には大事だと、お腹を撫でる。


「なぁ、もうそろそろ産む? あんたらの子竜を売るけど、許してな」


 それどころか、このチビ竜も手放さないといけないかもしれないのだ。ジジは、逃げ出した後の生活を考えてみるが、辺境のドラゴー砦育ちなので街暮らしがどんなものかもわからない。


「何処かで女中とか出来たら良いんやけど……マーニャやアリーみたいに髪の毛を結ったりは出来へんけど、お湯を運んだり、床を拭くぐらいはできる。でも、雇ってくれる人はいるんかなぁ?」


 ジジの脱出計画は、なかなか上手くいきそうにない。

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