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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第八章~小国の死神~
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第八十五話  一方的な戦い


 北門にセルメティア王国軍が現れた事はすぐにグラシードの町中に広がり、あちこちでエルギス教国軍は騒いている。町の住民や捕虜となっているセルメティア王国軍の兵士、冒険者達は閉じ込められている倉庫や牢屋の中から外の様子を伺っていた。彼等はまだセルメティア王国軍の仲間達が町を解放しに来た事を知らず、不思議そうな顔をしていた。

 グラシードの町の中心にある町長の家と思われる屋敷ではエルギス教国軍の騎士達が数人書斎らしき部屋に集まっており、外の騒ぎを聞いて驚いていた。その中に他の騎士達よりも高貴な鎧を着た三十代後半ぐらいの騎士がいる。薄い茶色の短髪でエルギス教国の紋章が描かれた赤いマントを羽織っていた。どうやらこの男がグラシードの町に駐留しているエルギス教国軍の指揮官のようだ。


「どうした! 何の騒ぎだ!?」


 指揮官の騎士が状況を確認する為に同じ部屋にいる騎士達に尋ねる。だが、他の騎士達も状況が分からず戸惑いの表情を浮かべていた。するとそこに一人の兵士が扉を勢いよく開けて飛び込む様に部屋に入って来る。指揮官達はいきなり部屋に入って来た兵士に驚き、一斉に入室して来た兵士の方を向いた。

 飛び込んできた兵士は呼吸を乱しながら両手を膝に付けて、大量の汗を流している顔を上げて指揮官達の方を見た。


「ほ、報告します! 北側より敵が出現し北門に攻撃を仕掛けてきました!」

「何だと!?」

「敵は何者だ!? セルメティアか?」

「ハ、ハイ、敵の中にセルメティア王国の国旗を掲げる者がいましたので間違いないかと……」


 兵士の報告を聞いた指揮官や騎士達は驚きの表情を浮かべる。セルメティア王国軍にこの町を奇襲されるなど予想もしていなかったのだろう。そんな中、一人の騎士がある事に気付き、表情をそのままに兵士に尋ねた。


「……待て、北側にセルメティア軍が現れたという事は奴等はジェーブルの町から来た連中という事か?」

「え? あ、ハイ、恐らくは……」

「ジェーブルの町には先遣隊が向かったはずだ。奴等がジェーブルの町から来たのであれば必ず先遣隊と遭遇するはず、それなのにセルメティアがこの町に攻めてきたという事は……」


 騎士の話を聞いた他の者達は騎士が何を言いたいのか悟り更に驚きの反応を見せる。そう、セルメティア王国軍がグラシードの町に辿り着いたという事は送り込んだ先遣隊に勝利したという事を意味していた。

 ジェーブルの町の防衛力を確かめる為だけに編成したとはいえ、六百以上の先遣隊が負けたなど騎士達には信じられなかった。しかし現に、セルメティア王国軍はグラシードの町に攻め込んできている。先遣隊が負けた、指揮官達はそれを受け入れるしかなかった。


「……先遣隊が敗れたからと言って驚いている場合ではない。今は敵を迎え撃つ事だけを考えるぞ!」


 指揮官は今やるべき事をやるべきだと周りの騎士達に言い聞かせ、それを聞いた騎士達も表情を鋭くして指揮官の方を向く。


「おい、敵はどれ程の戦力で攻め込んで来た?」


 作戦を立てる為に指揮官はまずセルメティア王国軍の戦力について兵士に尋ねた。兵士は落ち着いたのは膝から手を離して姿勢を正し指揮官達の方を向いて質問に答える。


「ハッ、見張りの兵士によりますと敵の戦力は約四百程だそうです」


 兵士から聞かされた敵戦力を聞いた指揮官や騎士達は意外そうな反応を見せる。どうやらもっと多くの戦力で攻め込んで来たのかと思っていたようだ。


「四百……奴等の狙いはこの町の解放だろうな……」

「だとすると、四百という戦力は少なすぎますな?」

「ああ、恐らく他にも戦力を隠しているはずだ。もしかすると残りの戦力を西門に回り込ませて二つの門を同時に攻撃して来るかもしれん……戦力を北門と西門に回せ、南門には最低限の戦力だけ残し、残りは二つの門の防衛に就かせろ!」


 指揮官はセルメティア王国軍の作戦を読み、北門と西門に守りの戦力を集中させるよう指示を出す。騎士達も指示を聞いて真剣な表情を浮かべた。すると、指揮官達の部屋にもう一人別の兵士が慌てた様子で飛び込んで来る。指揮官達と先に来ていた兵士は驚きながら兵士に視線を向けた。


「た、大変です!」

「どうした? 西門にも敵が現れたか?」

「ハ、ハイ……」

「やはりな、動ける戦力を北門と西門に向かわせろ。もし西門の敵戦力が北よりも多かったらそちらに多くの兵を回せ」


 騎士と兵士に落ち着いて指示を出す指揮官を見て騎士達の顔に少しずつ余裕が出てきた。部屋にいる者全員が彼の指示に従えばセルメティア王国軍に勝てると思っているようだ。ところが、あとから部屋に来た兵士の顔には余裕が見られない。それどころか驚きの表情を浮かべたまま僅かに震えている。

 兵士が震えている事に気付いた騎士は不思議に思い兵士に近づいた。


「どうした?」

「……じ、実は」


 震えた声を出す兵士を見て騎士や指揮官達は小首を傾げる。すると兵士は大量の汗を流しながら震えて口を開く。


「て、敵戦力の中にモンスターの姿があり、門を守らせていた亜人達が次々にそのモンスターに倒されています」

「何だと? セルメティアがモンスターを従えて来ているのか?」


 兵士の報告を聞いた指揮官が訊き返し、兵士は黙って頷く。

 指揮官達は敵の中にモンスターがいるくらいで何をそこまで怯えている、と思いながら少し呆れた様な表情を浮かべていた。倒された亜人達も所詮は奴隷なので失っても問題ではないと考えているようだ。しかし、次の兵士の言葉で指揮官達の顔が急変する事になる。


「そして……そのモンスターが門をこじ開けようと攻撃し、現在門は半壊状態となっております」

「何だとっ!?」


 門が壊されかけている、その報告を聞いた指揮官は声を上げ、騎士達も一斉に驚きの表情を浮かべて兵士を見つめた。

 指揮官達が驚くのも当然だった。町の門は外敵からの侵入を防ぐ為にとても重く、丈夫な素材で作られている。もし門を破壊するとすれば人間なら上級魔法か最上級魔法を使うしかない。そしてモンスターなら異常なくらい強いパワーがあるモンスターか高レベルのモンスターでなければ破壊するのは不可能と言われている。

 しかし、人間の場合は魔法を使う者が倒されてしまえばそれでお終いだし、城門を破壊できるほどの力を持つモンスターはそうはいないし、滅多に人里には現れない。何よりもそれほどの力を持つモンスターを人間が制御する事は無理だと言われている。つまり、常識的に考えると門を破壊する事は無理なのだ。だがセルメティア王国軍が門を破壊する程の力を持つモンスターを引き連れ、更に破壊されかけていると聞き、指揮官達は耳を疑ったのだ。


「門を破壊するモンスターだと? そんなモンスターが人間に従っていると言うのか?」

「ど、どうやらそのようです……」

「ふざけているのか!? 我が国にすらできない事をあんな小国にできるはずがない!」

「で、ですが本当なのです! 私だけでなく他の兵士達も目撃しております!」


 興奮する指揮官を見て兵士は自分の目で見たと説明し、それを聞いた指揮官は歯を噛みしめて黙り込む。他の騎士達も驚きのあまり目を見開いていた。

 指揮官は兵士に背を向けて口に手を当てながら小さく俯く。とりあえず冷静な判断をする為に落ち着きを取り戻す。


「……そのモンスターはどちらの門にいる?」


 興奮が治まった指揮官は兵士にモンスターが北と西のどちらにいるのかを尋ねる。騎士達は指揮官が落ち着いたのを見て安心した様子を見せたが、報告しに来た兵士の表情は変わっていない。


「……北と西に、二体ずつです」


 兵士が小さく震えた声で答えると指揮官達はゆっくりと兵士の方を向き呆然とする。北門と西門に門を破壊する事ができるモンスターが現れ、しかも各門に二体ずついると聞けば言葉を失うのも無理はない。指揮官達が部屋の中で固まっていると外から轟音が聞こえてくる。しかし、指揮官達はショックのあまりその轟音が聞こえていなかった。

 指揮官達が町長の家で呆然としている時、町の西側では激戦が繰り広げられていた。西門の外には町の北側でダークが召喚したのと同じ岩の巨人が二体立っており、西門に太い腕でパンチを打ち込んで門を破壊しようとしている。巨人達の百m程後ろではアリシア達の部隊が待機している姿があった。

 西門を攻撃するセルメティア王国軍の部隊はパージュが指揮を執っており、その部隊にアリシア、ノワール、レジーナが同行している。パージュ達もリダムス達が攻撃を仕掛けようとした頃に行動に移ろうとしたが、アリシアが攻撃を仕掛ける直前にパージュを止め、ダークから受け取ったサモンピースを使って岩の巨人達を召喚し、町への突破口を作る為に門に攻撃させたのだ。巨人を見たパージュ達はリダムス達と同じように巨人の姿に驚き騒ぎ出したが、アリシアの説明で何とか落ち着き、今では黙って巨人達の戦いを見守っている。

 門を攻撃する巨人達の周りには巨人に戦いを挑んだと思われる奴隷の亜人達が倒れていた。その殆どがボロボロの姿でピクリとも動かない。そんな倒れている亜人達を見てアリシアは少し心を痛める。エルギス教国に奴隷とされ、無理矢理戦わされていた彼等を傷つけるのはやはり気が引けるようだ。アリシアは先遣隊にいた亜人達の様に助けようとも考えていたが、既に戦場に出て戦う態勢に入っている者達を大人しくさせ、奴隷から解放するのは難しく、仕方なく心を鬼にして戦う事にしたのだ。勿論、戦う意志の無い亜人がいればアリシアは助けようと考えている。ノワールとレジーナもそんなアリシアの考えを聞いて協力すると言った。

 西門の見張り台の上ではエルギス教国の兵士達が巨人に向かって矢を放ち攻撃する。だが放たれた矢は巨人達の岩の体に弾かれてしまい効果が無かった。矢が効かない光景を目にし、兵士達は動揺の顔をする。


「ダ、ダメだ、矢は効かない! 魔法使い達を呼んで来い!」


 矢が効かないと判断した兵士は仲間に魔法使いを呼びに行くよう指示を出し、指示された兵士も慌てて見張り台を下りて魔法使いを呼びに行く。その間も巨人達は門を向かって強烈なパンチを打ち込んで行く。既に門は大きく凹んでおり、いつ崩壊してもおかしくない状態になっていた。

 巨人達の後ろではアリシア達が見張り台の兵士達からの攻撃を警戒しながら巨人達の後ろ姿を見ている。パージュや兵士達は敵の攻撃に怯まずに少しずつ門を破壊していく巨人達の姿を見て目を見開いている。門を破壊すれば後々面倒な事にはなるが、グラシードの町を解放する為には仕方がないとパージュは判断し、巨人が門を破壊する事を許可した。さっきまで巨人に驚いていたのにパージュ達の顔からは巨人達に対する恐怖はすっかり消えている。


「あの丈夫な門が二体のモンスターによってあそこまで破壊されるとは……信じられん」


 パージュは入口である門を殴って壊そうとする巨人達の姿に目を丸くしながら呟く。兵士や騎士達もまばたきをしながら巨人達の攻撃する姿を見つめている。

 アリシアが巨人を召喚し、その巨人達に普通に命令する姿を見た時、パージュ達は最初、夢を見ているのではと思った。だがすぐに目の前で起きている事が現実だと理解し、同時にリダムスの言ってた事、六百のエルギス教国軍を倒した事が真実だと知る。モンスターを召喚し、それを従わせるアリシアとそのアリシアが慕うダークが普通では考えられない力とマジックアイテムを持っている事にパージュは呆然としていた。


「私は、あまりにも視野が狭かった……世界には私達が想像もできない様な力を持つ者がいるという事か……」

「た、隊長、大丈夫ですか?」

「あ、ああ、大丈夫だ……」


 パージュは少し戸惑いが感じられる口調で声を掛けてきた赤薔薇あかばら隊の女騎士に返事をする。女騎士はパージュにちゃんと意識がある事を知ってとりあえず安心の表情を浮かべた。


「あんな大きな巨人を召喚する事ができるマジックアイテムがあるなんて、いまだに信じられません。そもそも彼女はあんなアイテムを何処で手に入れたのでしょう?」

「分からない。ただあのアイテムはダーク殿から貰った物だと言っていた」

「暗黒騎士ダーク……彼は何者なのでしょう?」

「リダムスの話ではレベル60の英雄級の実力を持つ黒騎士、だそうだ」

「人間の限界であるレベル60に達して未知のマジックアイテムを持つ……彼は何処かの国で王族に仕えていた騎士だったのでしょうか? そして王族を裏切り、黒騎士になった時にその国の秘宝であるアイテムを奪ったとか……」

「……彼の正体も気になるが、今はグラシードの町を解放する事が重要だ。そういうのは後にしろ」

「ハ、ハイ!」


 ダークの正体を気にする女騎士にパージュは戦いに集中するよう注意をし、女騎士も返事をして気持ちを切り替える。パージュ自身もダークの正体が気になっているが、王女であるコレットを救い、ミュゲルの一件を解決した事からセルメティア王国にとって危険な存在である可能性は低いとパージュは考えていた。そして同時に、強大な力を持つダークと彼の仲間達を敵に回さなように気を付けようと自分に言い聞かせる。

 パージュ達が巨人達を見ながら会話をしている時、アリシア達はパージュ達の十数m前で巨人達の戦いを見届けていた。巨人が門を殴る度に轟音が響き、門の上の見張り台にいるエルギス教国の兵士達は門が殴られる時の衝撃で体勢を崩し混乱している。


「お~お~、すっごいわねぇ?」


 巨人達が門を攻撃する姿にレジーナは少し興奮した様子で驚く。その隣ではアリシアは真剣な顔で巨人達の姿を見ており、ノワールもアリシアの肩に乗って巨人達の戦いを眺めていた。


「攻撃を始めてからまだ十数分しか経っていないのにもうあんなに凹んじゃったわよ?」

「ああ、これほどのモンスターが召喚されるとは私も思わなかった……ノワール、あの巨人達は何なのだ?」


 アリシアは肩に乗るノワールに巨人達がどんなモンスターなのかを尋ねる。LMFのマジックアイテムであるサモンピースによって召喚されたモンスターの事はLMFの世界から来たダークかノワールしか知らない。アリシアは自分が召喚したモンスターの事を一応理解しておこう思ってノワールに訊いたようだ。


「あのモンスターはストーンタイタンと言うゴーレムと同じ種族のモンスターです。レベルは50から55の間ですね」

「ゴーレムと同じ……という事は物質族のモンスターか」

「ええ、動きは鈍いですが、その分攻撃力と防御力が優れています。あの程度の門なら簡単に破壊できるでしょう」

「動きが鈍くて力がある、その辺りは普通のゴーレムと同じなんだな」


 ストーンタイタンの生態を聞いたアリシアは少しつまらなそうな声を出す。LMFのマジックアイテムで召喚されたモンスターだからもっと凄い力を持っていると思ったようだ。しかしノワールの説明で自分が知っているゴーレムと殆ど変わらない生態だと知りガッカリしたらしい。


「ええ……でも、アリシアさん達が知っているゴーレムとは違うところがありますよ?」

「え?」


 ノワールの言葉を聞いたアリシアはフッと自分の肩に乗っているノワールを見る。その時、ストーンタイタンが門に向かって右ストレートを放つ。岩の拳が門に命中し、その衝撃で門は轟音を上げながら大きく吹っ飛ぶ。門の内側にいたエルギス教国の兵士達は頭上を通過する大きな門を見上げながら言葉を失う。門は集まっている兵士達の数十m後ろに落ちて砂煙を上げ、その光景に兵士達の表情が固まった。

 兵士達が飛んだ門を見て驚いていると、二体のストーンタイタンは開いた門を通り町へ入る。門を破壊するストーンタイタン達の姿に驚いていたパージュは町へ入れるようになった事でハッと我に返り、騎士剣を抜いて兵士達に向けて声を上げた。


「門が破壊された! 我々も町へ突入するぞぉ!」


 パージュの言葉に兵士達も我に返り、武器を掲げながら声を上げる。パージュは町に向かった馬を走らせ、兵士達も声を上げながらそれに続く。走り出す兵士達を見たアリシアとレジーナも武器を手にして走り出した。

 ストーンタイタンに門を破壊された事に驚いていた見張り台のエルギス教国の兵士達は声を上げながら走って来るセルメティア王国の兵士達に気付くと彼等に向かって矢を放つ。門を破壊されて敵のモンスターの侵入を許してしまった為、せめて一人でも多く敵兵を倒そうと攻撃しているのだろう。

 見張り台から飛んで来る矢をセルメティア王国の兵士達は走りながらかわしたり盾で防いだりする。その中には矢を受けて倒れる兵士もいるが他の兵士達は気にする事無く走り続けた。仲間がやられたのを見て立ち止まればいい的になってしまう。兵士達は仲間が倒れる姿に心を痛めながらも走り続ける。

 アリシアは飛んで来る矢をエクスキャリバーで叩き落しながら門に向かって走って行き、レジーナもアリシアについて走る。二人は周りの兵士達を追い越しながら門に向かい、遂に壊れた門を通ってグラシードの町に入った。門の前の広場では既に先に町に入った兵士達が敵と戦っている姿があり、両軍の兵士の死体が転がっている。

 ただ、セルメティア王国よりもエルギス教国の兵士の死体の方が多い。その理由にアリシアとレジーナはすぐに気づいた。数十m先で二体のストーンタイタンがエルギス教国の兵士達を太い腕で殴り飛ばしている姿があったのだ。倒れているエルギス教国の兵士の殆どが何か大きなもので殴り殺された様な傷を負っており、その傷を見たアリシア達はストーンタイタンにやられたのだと知った。


「凄いわねぇ……門が壊されてからまだ数分しか経っていないのにもうあんなに沢山の敵を倒したんだ……」


 レジーナはエルギス教国の兵士達を次々に倒しているストーンタイタンの姿に目を丸くする。アリシアや近くにいる数人のセルメティア王国の兵士も何も言わなかったが同じような顔で驚いていた。だが、更にアリシア達を驚かす出来事が起きる事となる。

 大勢のエルギス教国の兵士達が二体のストーンタイタンの前に集まりストーンタイタンと戦っている。兵士達は槍や剣で応戦し、仲間の魔法使いが到着するのを待っていた。物理攻撃が通用しない相手を倒すには魔法に頼るしかないと考え、門を破壊された直後に魔法使いの増援を要請したのだ。仲間の魔法使いが来るまで何としても持ち堪えると兵士達は必死にストーンタイタンの足止めをする。

 兵士達がストーンタイタンに無意味な攻撃をしていると一体のストーンタイタンが左腕を空に向かって掲げる。すると兵士達の頭上に突然砂色の立方体が現れ兵士達に向かって落下した。真上から落ちて来る立方体に兵士達は驚き逃げようとするが、兵士のほぼ全員が立方体の下敷きになってしまう。そして落下と同時に立方体は崩れて大量の砂となり下敷きにならなかった兵士達を呑み込んだ。


「な、何だ今のは?」


 アリシアは敵兵士の真上に落ちた立方体に驚く。レジーナやセルメティア王国の兵士達もストーンタイタンの攻撃を見て驚いている。そんな中、ノワールはアリシアの肩に乗りながら落ち着いた様子で口を開いた。


「あれは土属性の魔法の一つ、砂の四角形サンドキューブです」

「ま、魔法!? あのモンスターは魔法も使えるのか?」

「ハイ」


 ノワールはアリシアの問いに普通に答え、それを聞いたアリシアとレジーナは更に驚く。二人はストーンタイタンが魔法を使えるモンスターだとは思ってもいなかったのだろう。実はこれがノワールがアリシアに言っていた普通のゴーレムとは違う点だったのだ。

 <砂の四角形サンドキューブ>は敵の頭上に砂で出来た立方体を落として攻撃する土属性の中級魔法。真下にいる敵を押し潰してダメージを与えるだけでなく、落下攻撃から逃れた敵を砂で呑み込みダメージを与える事ができる。ただ、砂に呑み込まれた時に敵に与えるダメージは少なく敵を倒す事はできない。その代わり、呑み込んだ敵の体に砂を纏わりつかせ、動きを一時的に鈍らせる事ができる。LMFではこの魔法の砂に呑まれた者は移動速度が遅くなり戦い難くなってしまう。

 ストーンタイタンの魔法を受けてエルギス教国の兵士達は砂の下敷きとなり、運よく下敷きにならなかった兵士達も砂が体に纏わりついて思う様に動けず砂の中でもがいている。そんな兵士達にストーンタイタンは容赦なく攻撃を仕掛けた。動けなくなっている兵士達をストーンタイタンは太い腕で殴り飛ばして倒していく。目の前に敵がいなくなるとストーンタイタンは町の奥へ進んで行った。


「よ、よし、広場の敵は殆ど倒した。私達もあとに続くぞ!」


 驚いていたアリシアはレジーナや他の兵士達に声を掛けてストーンタイタンの後に続く。それからアリシア達はエルギス教国軍を次々に倒していき、少しずつ町の西側を制圧していった。

 アリシア達が西門を突破して進軍している頃、北門を攻撃していたダーク達もストーンタイタンに門を破壊させて町に突入していた。北門前の広場では兵士同士が剣を交えて激しい戦いを繰り広げており、ストーンタイタンもエルギス教国の兵士達を次々に倒していく。そんな中でジェイクとマティーリアもスレッジロックとロンパイアを振り回して敵兵士を一人ずつ倒していった。

 大剣を構えるダークは一人、大勢のエルギス教国の兵士達に囲まれていた。敵兵士の数は約三十人、全員が剣や槍、斧を持ってダークを睨んでいる。一方でダークは敵に囲まれても慌てる事無く大剣を肩に担いで自分を取り囲む敵兵士達を見ていた。


「この状況、何か前にも見た事があるな」


 ダークはエルギス教国軍の先遣隊と戦った時の事を思い出しながら小さな声で呟く。あの時は更に多くの敵兵士に囲まれていたが今回は僅か三十人ほどでダークは敵が少ないのを見て心の中でつまらなく思う。

 そんなダークに一人の兵士が背後から剣を構えながら突っ込んで来る。ダークは背後からの敵の気配に気づき、振り返りながら大剣を横に振って攻撃し兵士をあっという間に切り捨てた。切られた兵士は大量に出血しながら仰向けに倒れて動かなくなる。背後から隙を突いて攻撃したつもりだろうがダークにはまったく意味のない攻撃だった。

 倒された仲間を見て他の兵士達は一瞬驚くもすぐにダークの方を向き、今度は数人で同時に攻撃を仕掛ける。ダークは自分に突撃して来る敵の位置を素早く確認すると大剣を構え直して一番近い敵に向かって走り出す。兵士の前まで移動したダークは袈裟切りを放ち、一瞬にして切り捨てる。そしてすぐに別の兵士に向かって走り出し、敵が驚いている隙に倒す。そして再び走り出して敵を切る。これ繰り返し、襲い掛かって来た敵兵士を次々に切っていった。


「な、何て奴だ、次々に兵士を倒していくなんて……」


 集まっている兵士達の中でダークの姿を目にしたエルギス教国の騎士が怯えた様子を見せている。周りにいる兵士達も武器を握ったまま震えていた。

 エルギス教国軍がダークの戦う姿に震えていると離れた所ではジェイクとマティーリアがエルギス教国の兵士達と戦っている姿があった。英雄級の実力を持つ二人にとって、普通の兵士など敵ではなく次々と敵を倒していく。

 ジェイクはスレッジロックを振り回して重装の敵兵士を簡単に倒していく。ジェイクの攻撃は重く、スレッジロックの刃は兵士の体を安物の鎧ごと切り裂いた。目の前の兵士を倒すとジェイクはすぐに次の敵を探し戦闘を始める。兵士達はジェイクのパワーに怯えてゆっくりと距離を取った。

 兵士達がジェイクを警戒していると彼等の頭上から竜翼と竜尾を生やしたマティーリアが下りて来てロンパイアを振り下ろして兵士の一人を両断する。突然現れたマティーリアに驚いた兵士達は慌ててマティーリアから離れた。だがマティーリアは兵士達を逃がすまいと竜翼を広げ、低空飛行で兵士達に突っ込みロンパイアを勢いよく振り攻撃する。目の前の兵士を倒したマティーリアは飛んだまま別の兵士達の方を向いて口から炎を吐いて攻撃した。兵士達は炎に呑まれ、火だるまになりながら声を上げて苦しむ。火だるまとなった仲間の姿に兵士達は恐怖を感じ、何人かの兵士は無意識に後退し始めていた。


「何をしている! 怯むな、エルギス教国軍の底力を見せつけてやれぇ!」


 後退し始める兵士達を見て、騎士は騎士槍を掲げながら声を上げる。だがダーク達の力を目にして士気が低下した兵士達には騎士の声は聞こえなかった。騎士は戦おうとしない兵士達を見て舌打ちをする。


「逃げるな! 間もなく魔法使いと亜人どもの部隊がやって来る。それまで我々の力で持ち堪えるのだ!」


 騎士は兵士達の方を見ながら仲間の魔法使いや奴隷の亜人達が来る事を伝えて兵士達を戦わせようと叫ぶ。すると、叫んでいる騎士にストーンタイタンがゆっくりと後ろから近づいて来た。騎士は背後からの気配に固まり、震えながらゆっくりと振り返る。目の前に立っているストーンタイタンを見上げながら騎士は驚愕の表情を浮かべた。ストーンタイタンはそんな騎士を見下ろしながら右腕を上げ、騎士に向かって勢いよく振り下ろす。


「うわあああああぁ!」


 悲鳴を上げながら騎士はストーンタイタンに叩き潰される。潰された騎士の血が周囲に飛び散り、その光景を見た兵士達はショックのあまり言葉を失う。

 既に大勢のエルギス教国の兵士が倒れ、広場はダーク達セルメティア王国軍がほぼ制圧した。生き残ったエルギス教国の兵士達もセルメティア王国の兵士達に取り囲まれて武器を突きつけられており、状況から勝機は無いと考えた敵兵士達は次々に武器を捨てて投降していく。その姿を見たリダムスは数十人の兵士を広場に残し、残りの兵士達を連れて町の奥へ進軍していく。ダークもジェイクとマティーリア、そして二体のストーンタイタンを連れてリダムス達の後を追う。広場から移動するストーンタイタンの後ろ姿をセルメティア、エルギスの両国の兵士達は驚きながら見つめていた。

 北門と西門が突破され、ダーク達が町を制圧していく頃、町の中央にある町長の家では指揮官と数人の騎士達が兵士達の報告を聞いている。その内容はどれも自分達にとって都合の悪い内容だった。


「北門、西門の防衛部隊壊滅、応援に向かった部隊も敵と遭遇し交戦するも殆どが敗れました! 敵は真っ直ぐ此処へ向かって進軍しています!」

「魔導士部隊、敵の巨人モンスターと交戦し魔法で攻撃するも殆ど効果が無く全員がやられました!」

「亜人どもを特攻させて敵軍を迎え撃ちましたが押し戻せません!」

「我が軍の被害は既に二百を超えております!」


 兵士達の報告を聞いて指揮官は頭を抱える。一緒にいた騎士達もセルメティア王国軍に一方的に押されている事が信じられず青ざめていた。


「ど、どうなっているのだ……数日前まで我が軍が敵を押していたのに、なぜ今は我が軍がセルメティアに押されている?」

「情報では敵の戦力は約八百、僅か百しか戦力に違いがないのにそんな数で守りに入っている我らを圧倒するなどあり得ん!」

「いや、そんな事よりも奴等はどうやってモンスターを飼いならした!?」


 あまりにも信じられない戦況に騎士達も混乱して話の内容がまとまらなくなっている。そんな騎士達の話を聞いていないのか指揮官は頭を抱えたまま何も言わなかった。兵士達も指揮官と騎士達の様子を見てどうしたらいいのか分からない顔をしている。そこへ新たな兵士が部屋に飛び込んで来た。


「報告します! 敵戦力について新たな情報が入りました」

「今更戦力の情報など持って来ても意味など無い! 戦況の情報を持って来い!」


 混乱と戦況の悪さから苛立つ騎士は兵士に当たる様に声を上げる。報告に来た兵士は騎士達を見ながら少し驚いた様な表情を見せた。


「し、しかし、敵の中に明らかに普通ではない者がいるという報告が入りましたので、一応お知らせに……」

「普通ではない?」


 兵士の言葉の意味が分からずに騎士は訊き返した。すると兵士は一度頷いて自分が聞いた情報を指揮官達に説明し始める。


「セルメティア王国軍の中に他の兵士や騎士とは明らかに雰囲気の違う二人の騎士がおり、その二人の騎士達が次々に我が軍の兵や亜人達を倒していると報告しに来た者が言っておりました」

「二人の騎士……どんな奴等だ?」

「一人は全身甲冑フルプレートアーマーの黒騎士でもう一人は女の聖騎士だとの事です」

「聖騎士に、もう一人が黒騎士? 国への忠誠心を持たぬと言われている黒騎士がなぜセルメティアの軍にいるのだ?」

「そ、そこまでは……」


 忠誠心を失った騎士が堕落した存在だと言われている黒騎士が国同士の戦争に参加し、しかも敵軍にいる理由が分からずに騎士達は頭を悩ます。しかもその黒騎士ともう一人の聖騎士が自軍の兵士達を次々に倒していると言うのだから更に驚いていた。

 セルメティア王国軍は町の北側と西側から少しずつ町の中心に向かって進軍して来ている。しかも敵軍にはモンスターがおり、亜人や魔法使いでも太刀打ちできない。このままでは今自分達がいる町の中央にもすぐにやって来てしまうだろう。そんな不安を抱えながら指揮官は必死にどうすればいいのかを考える。


「町の中央、つまりこの地区にいる部隊と南側に配備してある部隊を全て迎撃に向かわせろ!」

「しかし、それでは此処の守りが手薄になってしまいます。それに現在南側には南門を防衛するだけの戦力しか残っておりません。彼等を向かわせても殆ど意味はないかと……」

「無意味だからと言って何もしないよりはマシであろう!?」

「し、しかし……」

「では増援は!? 別の町にいる友軍に増援を要請できんのか?」

「ダメです、今から要請しても間に合いません」

「ぐうううぅ!」


 八方塞がりの状態になってしまった事に指揮官は低い声を出す。騎士達ももう策は無いのか、と言いたそうに俯きながら表情を歪ませた。もはや彼等に残された道は潔く投降するか、町から脱出するかのどちらしかなかったのだ。

 指揮官達がどうすればいいのか悩んでいると、部屋の外から大きな音が聞こえ、部屋にいた者達は一斉に扉の方を向く。


「何だ、今の音は!?」


 騎士の一人が驚きながら力の入った声を出す。するとまた別の兵士が部屋に飛び込んでいた。今度の兵士は更に驚いた表情を浮かべている。


「た、大変です! セルメティア王国軍が西側の街道から現れました!」

「な、何だと、いつの間に!?」


 少し前まで離れた所にいたはずのセルメティア王国軍がいつの間にか町の中央地区に近づいていた事に騎士達は驚きを隠せずにいた。勿論、指揮官である騎士も驚きのあまり愕然としている。


「警備の者達はどうした!?」

「セ、セルメティア王国軍が現れた時にすぐに迎え撃ったようなのですが、敵のとんでもない兵力に押されて……」

「ば、馬鹿な……」

「敵は既にこの屋敷を取り囲んでおります。屋敷の周りにいる敵部隊は守備隊が応戦していますが何人かの侵入を許してしまいました……」

「さっきの音はそれか……チッ! 屋敷に侵入して来た敵の数は?」

「全部で二十人です。その内の一人は女の聖騎士です」

「女の聖騎士? まさか、例の騎士の一人か?」


 突入して来た聖騎士が兵士から聞いた普通ではない二人の騎士の内の一人だと知り、騎士は舌打ちをする。指揮官は敵が屋敷に攻め込んで来た事で動揺を隠せずにいた。


「この屋敷にいる兵士達を全て侵入して来た敵部隊の下へ向かわせろ!」

「ハッ!」

「お前達も行け!」


 騎士は報告に来ていた兵士に指示を出し、兵士達は慌てて部屋を後にする。部屋に残った騎士達は一斉に騎士剣を抜いて戦闘態勢に入り、指揮官も動揺しながらも自分の騎士剣を抜いて戦闘の準備に入った。

 屋敷のエントランスでは屋敷に突入したセルメティア王国軍の部隊がエルギス教国の兵士達と戦っていた。その中にはアリシアとレジーナの姿もあり、二人はエクスキャリバーとエメラルドダガーを振り回して次々に敵兵士を倒していく。セルメティア王国の兵士達も負けずと敵と戦っていた。

 僅か二十人の敵に大勢のエルギス教国の兵士達は押されている。ここまで攻め込んで来たセルメティア王国軍を恐れているのか兵士達の士気は低下し、まともに戦う事ができなかったのだ。逆にセルメティア王国軍はエルギス教国軍を押して指揮官がいる屋敷に突入した事で士気が高まっており、敵兵士を圧倒していった。


「捕らえた敵から得た情報からこの屋敷に敵の指揮官がいる事は間違いない。皆、敵を倒しながら徹底的に調べろ!」


 アリシアの声にレジーナや兵士達は声を揃えて叫ぶ。敵は更に士気の高まったセルメティア王国軍を見て表情を歪ませる。アリシア達はエントランスにいる敵を倒す為に一斉に突っ込んで行った。

 エントランスの方から聞こえて来る声に指揮官と騎士達は緊張を走らせる。敵は北門と西門を突破し、自分達がいる町の中央まで攻め込んで来たのだ。何か予期せぬ事が起きるかもしれないとそれなりの警戒をしていた。


「クッ! 僅か二十人の敵に何を手こずっておる!」


 指揮官は聞こえて来る戦いの音を聞いて少し苛立つ様な顔をしていた。


「敵が此処に攻め込んで来る可能性があります。重要書類などは念の為に隠しておいた方がよろしいか……」


 一人の騎士が指揮官の方を向いて敵に奪われると困るような物は隠しておいた方がいいと話そうとした。だが次の瞬間、騎士は指揮官の後ろにある窓を見て驚愕の表情を浮かべる。

 窓の外には大剣を構えたダークの姿があったのだ。騎士はダークの姿を見て目を見開きながら無言になっていた。指揮官や騎士達がいる部屋は町長の家の二階にある。なぜ二階の窓の外に人間の姿があるのか、それに対する疑問と突然現れた敵の姿に騎士はただ驚いていた。

 驚いている騎士の姿を見て指揮官や他の騎士達も窓の方を向く。そして外にいるダークを見て一斉に驚いた。その直後、ダークは大剣を勢いよく横に振って壁ごと窓を破壊する。部屋の中に轟音が響き、破壊された壁の欠片がもの凄い勢いで指揮官達に向かって飛んで行く。すると欠片の一部が数人の騎士の頭部や顔面に命中し騎士達はその場に倒れて気絶する。欠片に当たらなかった者達もいるがそれは指揮官と二人の騎士だけだった。

 突然の攻撃に指揮官と騎士達は驚きなら後ろに下がる。そんな中、ダークは部屋に侵入し怯んでいる指揮官達を見つめた。


「外から失礼する」

「な、な、何だ貴様は?」

「間抜けな質問だが答えよう。セルメティア王国軍だ」


 驚く指揮官の質問にダークは素直に答える。エントランスからではなく、外から壁を壊して入って来たダークに指揮官は言葉が出て来なかった。


「では次にこちらが質問させてもらおう……貴様がこの町にいるエルギス教国軍の指揮官か?」

「……」


 ダークの質問に指揮官は答えずに目を逸らして黙り込む。ダークは目の前にいる騎士の反応から彼が指揮官で間違いないと考える。そんな中、気絶しなかった二人の騎士が体勢を直して騎士剣を構えながらダークを睨む。目の前にいる黒騎士が敵であり、もう一人の普通ではない騎士の片方である事を知って倒そうと考えているようだ。

 騎士達は騎士剣を両手で握りながらダークに向かって走り出す。ダークは襲って来る二人の騎士を見ると持っている大剣を素早く振った。すると騎士達は一瞬で鎧ごと体を切られ、血を噴き出しながらその場に倒れる。あっという間に仲間の騎士が倒された光景に指揮官は恐怖を感じ持っている騎士剣を落とす。ダークは立ったまま震えている指揮官に大剣の切っ先を突きつけた。


「大人しく投降しろ。間もなくこの中央地区に北側の部隊もやって来る。北側と西側の両方の部隊を同時に相手にして貴様らが勝つのは不可能だ。今投降するのであれば命は保障する。しかし、抵抗すれば……」


 目を赤く光らせながら投降を要求するダークに指揮官は青ざめながら息を飲む。このまま戦っても勝ち目は無い、戦っても犬死するだけだ。そう感じた指揮官は目を閉じながら握り拳を作り悔しそうな顔で俯く。


「……わ、分かった。投降しよう。だから攻撃をやめてくれ」

「賢明な判断だ」


 投降を受け入れた指揮官を見てダークは大剣を背負う。それからダークは指揮官を連れてエントランスにいるアリシア達に指揮官が投降した事を伝えた。アリシア達はダークがいつの間にか屋敷に来ていた事、指揮官を捕まえていた事に驚いたが、戦いに勝利した事を聞かされるとセルメティア王国軍が勝利した事に喜ぶ。逆にエルギス教国軍は敗北した事に絶望し、全員がその場に座り込んだ。

 それからすぐに町中にエルギス教国軍が投降した事が伝わり戦いは終わった。セルメティア王国の兵士達は歓喜の声を上げ、エルギス教国の兵士達はショックを受ける。捕虜となっていたセルメティア王国の兵士、冒険者、そして町の住民達もセルメティア王国軍が勝利した事に喜んだ。

 激しい戦いを繰り広げながらセルメティア王国軍はエルギス教国軍に勝利し、グラシードの町は無事に解放される。戦いが始まってから僅か二時間後の事だった。


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