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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第一章~黒と白の騎士~
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第七話  冒険者ギルド

 詰め所を出たダークとアリシアは冒険者ギルドへ向かって歩いていく。ギルドへ向かう途中でまた大勢の住民や冒険者たちがダークに注目しているが、ダークはただ前を見て歩いていた。

 アリシアやダークの肩に乗っているノワールは周りの視線を気にしているのかチラチラと周りを見ている。


「……皆、マスターのことを見てますよ」

「気にするな。視線をいちいち気にしていたらこの先大変だぞ」

「マスターは気にしないんですか? 周りの人たちがジロジロ見てるのに……」

「別に気にしない。暗黒騎士がこの世界では珍しく、騎士団から忌み嫌われている存在だってことはアリシアから聞いたからな」

「そ、それはそうですけど……」


 耳元で囁くノワールにダークも小声で返事をした。

 自分が暗黒騎士、つまり黒騎士である以上、周りから珍しく思われたり、変に思われることはダークも承知している。これからこの世界で暮らす以上は周りの視線に慣れ、その中でも普通に暮らせるようにならないといけない。ダークはそのことだけを考え、周りの視線は一切気にしないことにしたのだ。

 しばらく歩いていると、ダーク達は大きな建物の前にやってきた。建物の入口の上には大きな看板が掛けられており、そこにはこの世界の文字で何かが書かれてあった。

 ダークは入口前に立ち、建物を見上げる。その隣でアリシアが同じように建物を見上げていた。


「アリシア、此処が冒険者のギルドなのか?」

「ああ、此処で冒険者としての登録や依頼を受けたりすることができるんだ」

「つまり、此処は常の多くの冒険者が出入りしているということか」

「そうだ、冒険者は騎士団と違っていろんな依頼を受けていろんな場所へ自由に行くことができる。ある意味で騎士団よりも優れた情報網を持っているな」

「そうか……なら、やはり俺にはこっちの方が合っているということか」


 色々な情報を求め、自由に依頼を受けることのできる冒険者の方が自分にピッタリだと感じたダークは納得する。

 この世界の常識はアリシアから教えてもらうとして、この国にどんな町や村があり、どんなモンスターが何処に生息しているのかは自分で調べるしかない。ダークが冒険者として生きていくにはそういった知識が大量に必要になる。それにこの世界のモンスターに自分の力がどれだけ通用するのかも分かっていない。まずは、この世界で自分がどれだけの実力を持っているのかを知る必要があった。

 ダークは早速冒険者として登録するためにアリシアと共に建物の中へ入った。扉を開いて中に入ると、広い場所に大勢の冒険者が集まっており、一斉に入ってきたダークに注目する。戦士風の冒険者や魔法使い、老若男女といったいろんな冒険者がいた。

 冒険者たちの視線を気にせずに中へ入るダークとそれに続くアリシア。冒険者たちは黒騎士と聖騎士の二人が一緒にいる光景を見て意外に思っていた。


「おい、あれって騎士団の聖騎士じゃないのか?」

「その隣にいるのはなんだ? アイツも騎士団の人間か?」

「いや、あの黒い全身甲冑フルプレートアーマーは騎士団の物じゃねぇ」

「……あっ、もしかして、アイツ、黒騎士ってやつじゃないか?」

「黒騎士? 国に忠義を尽くさない騎士のか?」

「本当? どうしてそんな騎士がこの国にいるのよ……」

「知らないわよ。大方何処かの国から追放された放浪者でしょう?」

「いるいる、居場所がなくて亡命してきたって奴」

「でも、それならどうして騎士団の人間と一緒にいるんだ?」

「さぁ? 何か悪さでもして捕まったんじゃないの?」


 周りの冒険者たちがダークを見てコソコソと話しており、中にはわざと聞こえるように大きな声で話している者もいる。やはり騎士団だけでなく、冒険者からもあまり評判は良くないようだ。

 ダークを悪く言う冒険者たちをダークの肩の上に乗ったまま睨み付けるノワール。アリシアも複雑そうな顔で冒険者たちを見ており、ダークのことを気に掛ける。だが、当の本人はそんな冒険者たちの言葉を無視して近くにある受付の方へ歩いていくのだった。

 受付の前に来るとダークは目の前の受付嬢を見つめる。受付嬢はダークに睨まれているような感じがし、一瞬ビクッと驚いた。

 冒険者ギルドの制服と思われるワンピースを着ており、茜色のショートボブヘアーに頭にはメイドカチューシャのような物を付けた若い受付嬢。彼女は目の前にやって来たダークを見て少し驚いたような表情を浮かべた。


「ど、どうも……今日はどのような御用でしょうか?」

「此処で冒険者の登録ができると聞いてやってきたのだ」

「あ、ああぁ、新しく冒険者になられる方ですね……私は冒険者ギルドで受付をやっているリコと申します。よろしく願いします」

「ダークだ……」


 リコと名乗る受付嬢を見てダークも名を乗り簡単な挨拶をする。挨拶が終わるとしばらく沈黙となり、リコは慌てた様子で話を進める。


「あ、ハイ、ダークさんですね。では早速、登録をいたしますので、こちらに手を乗せていただけますか?」


 そう言ってリコは受付カウンターの下から20cm四方の石板を取り出してダークの前に出す。いきなり目の前に出された石板をダークは黙って見つめる。

 

「……これは?」

「これは登録のために使う石板です。この上に手を置いていただければ石板がその人の現在のレベルや職業クラスを調べて情報を記録し、スフィアになるんです」

「スフィア?」


 初めて聞く言葉にダークは訊き返す。すると、ダークの後ろにいたアリシアが隣に来て何かを見せる。それは手の平サイズの円盤状の物で中央にレンズのような物が埋め込まれていた。


「これがスフィアだ。スフィアには冒険者の名前やレベル、職業に冒険者ランク、あとその冒険者が受けてきた依頼の履歴を浮かび上がらせる物だ。勿論、依頼が成功したか失敗したのかも浮かび上がる」

「ほぉ、冒険者の証明書みたいな物か」

「まぁ、そんな物だ。因みに私が持っているこれはナイトスフィアと呼ばれる騎士団専用のスフィアだ」


 アリシアからスフィアの細かいことを聞いたダークはリコの方を向き、目の前に出されている石板をもう一度見つめる。

 石板に手を置けばどのように情報が記録され、どんなふうにスフィアになるのか気になるが今はそんなことは重要ではない。

 ダークはとりあえず言われたとおり、石板の上に右手を置いた。すると石板が水色に光りだし、ダークの右手をまるでスキャンするように調べ始める。石板が右手を調べるのを見て少し驚くダークと彼の肩の上から見つめるノワール。アリシアはそれを黙って見守っていた。

 しばらくすると、記録が終わったのか石板の光が治まった。ダークが石板から手を放すと、再び石板が水色の光りその形を変えていく。石板は徐々に小さくなり、やがて手の平サイズの円盤状に形を変える。光が完全に消えた時、そこにはアリシアが持っていたナイトスフィアに似た灰色のスフィアがあった。


「お疲れさまでした。これで登録は完了しました」

「これで私も冒険者の仲間入りということか」

「ハイ。では、最後にちゃんと記録されているのかチェックだけさせていただきます」


 リコは出来上がったスフィアを手に取り、中心にあるレンズを軽く押す。するとレンズから立体映像のような物が浮かび上がった。

 浮かび上がった映像を見て内容を確認するリコ。すると、映像を確認したリコは突然目を見開いた。


「……ええっ!?」


 いきなり声を上げたリコ。彼女の声にダークとアリシア、周りにいる冒険者たちが一斉に注目する。


「どうかしたか?」

「い、いえ! ……あ、あの、ちょっとスフィアのチェックをさせていただきますね……」


 情報ではなくスフィアのチェックをすると言い出すリコをダークは黙って見つめる。

 明らかに様子がおかしい、そう感じたダークは受付の奥へ行こうとするリコから自分のスフィアを素早く取った。


「あっ! ちょ、ちょっと……」


 リコはスフィアを取られたことで少し慌てたような素振りを見せる。ダークはそんなリコに背を向けて自分のスフィアから映し出された映像を見た。

 そこにはこの世界の文字で何やら細かくプロフィールのような物が映し出されている。だが、書かれてある内容が分からないダークはその映像をただジッと見つめていた。


「……アリシア、何て書いてあるんだ?」

「ん? ああぁ、ちょっと待ってくれ」


 ダークは自分の前で同じように映像を見ているアリシアに内容を尋ね、アリシアは内容を確認すると説明するために声に出して映像の情報を読み上げていく。


「……ダーク。職業、黒騎士。冒険者ランク、一つ星。レベルは……100と書かれてある」

「100……」


 自分のレベルがLMFと同じ100であることを知ったダークは少し意外そうな声を出す。もしかすると、自分の予想していたレベルよりも低いんじゃないかと思っていたが、本当にレベルが100だったことに少し驚いたようだ。

 アリシアは以前にダークのレベルが100なのではないかと聞いていたため、スフィアの情報を見てもあまり驚いた様子を見せなかった。


「……フッ、まさか本当にLMFにいた時と同じレベルだったとはな」


 ダークはリコがやったようにスフィアの中央にあるレンズを押して映像を消すと手の中のスフィアを見ながら少し嬉しそうな態度を取る。LMFでの自分の本来の力を出せることが内心では嬉しいのだろう。そんなダークを見てアリシアは小さな苦笑いを浮かべた。

 スフィアの情報をチェックしたダークは振り返り、受付台に体を乗り出してリコに顔を近づける。

 リコはいきなり顔を近づけるダークに驚き一瞬ビクッとしながら少し後ろに下がった。


「あ、あの、スフィアのチェックをしないといけないので……返していただけますか?」

「いいや、その必要は無い。このスフィアの出した情報は正しい」

「え、で、でもスフィアが間違った情報を得た可能性も……」

「今までに石板が冒険者の情報を間違って得た例はあるのか?」

「い、いいえ……」

「なら、この情報も正しいということになるのではないか?」

「え、え~っと……」


 なんと返せばいいのか分からないリコは困り顔で黙り込む。確かに今までスフィアを作る時に石板が冒険者の情報を間違えたことは無かった。だから今回のダークの情報も正しいと言うべきだろう。だが、レベル100の人間がこの世にいるなど、聞いたことがない。故にリコは驚きスフィアに異常があるのではないかと考え、調べようとしていたのだ。

 ダークのレベルが100であることが町中に広まると色々と面倒なことになる。ダークは黙り込むリコが自分の情報を他の者に話してしまうかもしれないと考え、ダメ押しを入れることにした。


「リコ、と言ったな? 私のスフィアの情報は誰にも話すな」

「え?」

「もし話せば、私はお前を消さなければならない……」


 赤い目を光らせながら脅しのような発言をするダークを見てリコは寒気を走らせる。

 彼なら本当に私を消す、そう感じたリコは顔を少し青くしながらコクコクと数回頷く。それを見たダークは「もう大丈夫だ」と感じ、近づけている顔をリコから離す。アリシアはそんなダークを見て呆れたような表情を浮かべる。

 ダークは自分の情報が他の者に知られる心配はないと考え、冒険者のことについての話に戻った。


「それで、これで私は正式に冒険者になれたのか?」

「え? ……あ、ハイ! で、では最後に冒険者の依頼やランクについて簡単な説明をさせていただきます」


 問いかけられたリコはこれ以上レベルのことに首を突っ込んではいけないと感じたのか、本来の仕事に戻りダークに冒険者の簡単な説明を始める。


「冒険者になられた方には依頼を受ける際に必ずお持ちいただかなければならない物があります。それがこれです」


 リコは受付台の中から一つの腕輪を出してダークの前に置いた。その腕輪には七つの穴が開いており、その穴の一つに水色の宝玉がはめられてある。

 ダークは腕輪を手に取り、簡単に全体を見回す。


「この腕輪は?」

「そちらが冒険者の証である腕輪です。その腕輪を付けていなければたとえ冒険者であったとしても依頼を受けることはできませんのでご注意ください」

「なるほど、気を付けよう。それでこの穴はなんだ?」

「その穴は宝玉をはめ込むための穴です」

「宝玉? この水色の玉のことか?」

「ハイ。冒険者には七つのランクがありまして、下から順番に一つ星、二つ星、三つ星とあり、一番上に冒険者ランク最高の七つ星があるんです。腕輪にはその冒険者のランクと同じ数の宝玉がはめ込まれることになっています」

「つまり、私は一つ星の冒険者だから宝玉は一つしかはめ込まれていないということか」

「そのとおりです。ランクは冒険者の功績によって上げられ、場合によっては一気に二つランクを上げられることもあります」


 リコの説明をほうほうと頷きながら聞くダーク。LMFにはそういったギルドのランクアップ制なんてものは存在しないため、興味津々で話を聞いていた。


「次に依頼の受け方についてですが、依頼は羊皮紙に書かれてあちらの掲示板に貼り出されてありますので、受けたい依頼がありましたらそれを持って受付までお越しください」


 遠くに見える掲示板を見せ、ダークとアリシア、そしてノワールは一斉に掲示板の方を向く。

 掲示板の前には大勢の冒険者が集まっており、どの依頼を受けるか話し合っている姿があった。中には依頼の取り合いで口論している者もいるが、すぐに話が終わり、片方が羊皮紙を掲示板からめくり取って内容を確認し始める。他にもチームでどの依頼を受けるか相談してから依頼を探す者たちもいた。


「依頼を受けるのに何か決められたルールのようなものはあるのか?」

「ハイ。まず、自分のランクよりも上のランクの依頼は当然受けられません。一人の冒険者、一つの冒険者チームが受けられる依頼は一つずつになっています。これは一度に多くの依頼を受けて他の冒険者とのもめ事を減らすためのものです」

「なるほど」

「あと、冒険者が受けられる依頼は自分のランクの依頼と一つ低いランクの依頼となっています。つまり、三つ星の冒険者は三つ星と二つ星の依頼を受けることはできますが、一つ星の依頼を受けることはできないということです」

「それも冒険者同士のもめ事を減らすためのルールか……」

「そのとおりです。高ランクの冒険者が低いランクの依頼を受けてしまうと低いランクの冒険者が受けられる依頼が無くなってしまいますから。あと、低いランクの依頼を受ける時にその依頼と同じランクの冒険者が自分と同じ依頼を受けようとした場合はそのランクの冒険者を優先しますので依頼を譲ることになります」


 よくできている冒険者ギルドのルールにダークは驚く。どのランクの冒険者も依頼を受けられるように計算され、依頼を受けられなくならないようになっている。全ての冒険者のことを考え、もめ事を減らそうとするギルドにダークは感服した。

 一通り冒険者ギルドのルールを聞いたダークは腕輪を付けようと左腕のガントレットを外そうとする。すると、腕輪が突然光り出し、一瞬にしてガントレットの上からダークの左手首に付いた。

 突然の出来事にダークとは驚き、自分の手首に付いた腕輪を見つめた。


「これは……」

「あ、申し訳ありません、言い忘れていました。その腕輪はどんな装備をした冒険者でも装備できる特別なマジックアイテムになっております。重装備をした冒険者の方でもガントレットの上から装備できるようになっているんです」

「そうなのか……」

「それと、その腕輪は他人に悪用されないために持ち主以外の人は装備できないようになっていますので」

「……そうか」


 説明し忘れたことにリコは申し訳なさそうな顔で改めて説明し、ダークはそれを普通に聞いた。リコはダークの機嫌を損ねてしまったのではないかと心配していたが、ダークの態度を見て怒っていないと感じ心の中でホッとする。


「……では、以上で説明は終わりです」

「ありがとう……それと、リコと言ったな?」

「あ、ハイ……」

「もう一度言っておくが、私のスフィアの情報はくれぐれも……」

「ハ、ハイ! 誰にも話しません」

「助かる……」


 ダークは自分の情報を話さないようもう一度リコに忠告をし、リコは驚きながらコクコクと頷く。

 話が終わるとダークはアリシアと一緒に建物から出ようとする。すると奥から一人の中年の男が歩いてきた。


「あのぉ、そこの聖騎士の方」

「ん? 私か?」


 突然呼び止められたアリシアは足を止めて近づいてくる男の方を向く。外見からしてその男が冒険者ギルドの人間のようだ。


「貴方は王国騎士団の方ですよね?」

「ああ、そうだ」

「実は最近この周辺でちょっとした事件が起きているので、その報告をしたいのですが、お時間を頂けますでしょうか?」

「事件?」

「ハイ、詳しいことはあちらでお話ししますので……」


 男が奥にある部屋にアリシアを招こうとする。アリシアはしばらく考え込み、やがてダークの方をチラッと見る。


「ダーク、すまないがちょっと話をしてきてもいいか? すぐに戻る」

「ああ、私は構わない」

「すまないな、貴方の案内をすることになっているのに……」

「君は騎士だろう? なら騎士としての務めを果たすのは当然のことだ」

「……ありがとう」


 アリシアは自分のことを考えてくれるダークを見て微笑みを浮かべて礼を言った。

 話が済むとアリシアは男と一緒に奥にある部屋へとは向かった。残ったダークは壁にもたれながら腕を組み、アリシアが戻ってくるのを待つ。するとそこにガラの悪い二人の男がダークに近づいてきた。見た目は金属製の鎧を着て腰に剣を納めた戦士風の男たち、どうやら彼らも冒険者のようだ。


「ようよう、随分とご立派な鎧を着てるじゃねぇか? どこの家の坊ちゃんだぁ?」

「聖騎士様と仲良くして、随分とデカい態度を取ってるようじゃねぇか」


 男たちはどう見ても友好的ではない態度を取り、ダークに笑いながら話しかける。どう見ても強請ゆすりだった。

 二人の男がダークに強請る光景を周りの冒険者やリコは見て見ぬふりをしている。面倒事に巻き込まれるのが嫌なのだろう。


(やっぱりこういう世界にもいるんだな、こんなチンピラみたいな連中が。大方騎士団の人間であるアリシアがいなくなって俺をゆすりに来たんだろう……)


 心の中で呆れ果てるダークはめんどくさそうに溜め息をつく。するとその溜め息に男たちは馬鹿にされたと思ったのかダークを睨みながら腰に納めてある剣を抜こうとする。


「おい、何溜め息なんてついてるんだ? 俺らを馬鹿にしてんのかぁ!?」

「あんまりナメてると痛い目に遭うぞ!」


 脅しをかけてくる男たちにダークは腕を組んだまま黙り続けた。一方で肩に乗っているノワールは男たちを睨み付ける。しかし、男たちはダークを睨んでおり、ノワールには気付いていなかった。


「おい、どうした? ビビッて声も出ねぇのか? ああぁ?」

「見逃してほしかったら有り金と装備品を全て置いていけ。でないと、あの聖騎士が戻る前にお前を半殺しにしてやるぞ?」

「…………」

 

 しつこく自分を強請ってくる男たちにダークも鬱陶しくなってきたのかゆっくりと腕を組むのをやめ、勢いよく自分がもたれている壁を左手で叩いた。ダークが叩いた箇所は凹み、そこを中心に大きくひび割れる。

 壁にひびが入る光景を見て、さっきまでダークを強請っていた男たちやリコ、そして周りの冒険者たちは全員目を丸くして青ざめる。全員が静まり返る中、ダークはゆっくりと左手を目の前にいる男たちの顔の前まで持っていく。


「……俺はお前たちのような男を過去に何度も見てきた。自分の力の無さも理解せずに口だけ達者で相手を脅すしか能のない奴らをな。俺はそんな奴を見る度に全力で殴ってやりたいと思っている」


 本来の口調と声で呟くダークは左手を強く握って震わせる。男たちはさっきまでダークを強請っていた態度から一変してガタガタと震えていた。


「お前たち、運が無かったな?」


 目を赤く光らせながら楽しそうな口調で言うダーク。口調は楽しそうでも兜で顔が隠れているため、楽しそうな顔をしているのかは誰にも分からない。だが、一つだけハッキリしていることがあった。ダークは目の前の男たちを半殺しにしようとしているということだ。

 数十秒後、男と話を終えたアリシアが部屋から出てきた。するとアリシアは周りを見てふとあることに気付く。冒険者たちは黙り込み、リコも俯いている。自分が部屋に入る前と比べて屋内がとても静かになっていたのだ。

 不思議そうな顔で辺りを見回すアリシアは受付前で二人の男と向き合っているダークを見つける。男たちはダークの方を向いてアリシアに背中を向けて立っていた。


「ダーク、待たせたな」

「おお、アリシアか」

「いったいどうしたんだ? さっきと比べて静かになっているが……」

「いや、なんでもない。それよりも、もう話は済んだのか?」

「あ、ああ……」

「よし、なら行くか……おっと、先輩がた、アドバイスありがとう」


 そう言ってダークは目の前の二人の男の肩をポンと軽く叩いて出入口の方へ歩いていく。アリシアも出入口へ向かい、扉の前でダークと合流し、ダークは扉を開けた。


「あの男たちとなんの話をしていたんだ?」

「なに、冒険者の世界とやらを教えてもらっていただけだ」


 ダークとアリシアはそんな会話をしながら歩いていき、二人が外に出ると扉はゆっくりと閉まった。ダークとアリシアが出ていくと黙っていた冒険者たちは小声でざわつきだす。そしてさっきダークを強請っていた二人の男は顔面を何発も殴られたのかあちこち腫れており、歯が折れ、鼻血を出したまま呆然と突っ立っていた。


「お、おい、見たかよさっきの……」

「ああ、なんなんだあの黒い騎士は?」


 二人の男をボコボコにし、何事も無かったかのように出ていったダークに冒険者たちは若干恐ろしさのようなものを感じていた。リコもダークの強さを目にし、絶対にスフィアの秘密を話さないようにしようと固く決意する。

 冒険者たちがダークのことでざわつく中、屋内の隅にある小さなカウンターで飲み物を飲んでいる一人の少女がいた。濃い緑色のポニーテールにへそ出しの水色の服の上から革製の上着を着ており、灰色のショートパンツを穿いた姿で腰には短剣が納められている。外見からして盗賊のようだ。

 少女は木製のジョッキをカウンターに置くと出入口の方を向いて小さく笑った。


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