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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第七章~聖剣の復讐者~
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第六十九話  鮮血の蝙蝠


 ダーク達が共同墓地を後にした頃、アルメニスの片隅にある宿屋の一室にルー達の姿があった。宿屋は古く、宿泊代が安い為、新人冒険者や旅人が使うが多い所だ。その為、どんな人物が泊まったかなど細かい記録などを残しておく事もないので、ルー達の様な目立ちたくない者達が泊まるには打ってつけの宿屋と言える。小汚く、薄暗くて狭い部屋の中にルー意外にキルティア、ジュリー、ジムス、ガントの四人の姿もあり、五人は静かに椅子に座りながら輪を作っている。

 部屋の中心で椅子にもたれるルーとその左右に座るキルティアとジュリー。三人と向かい合う形でジムスとガントの男二人が座っている。ルーは目を閉じており、キルティアとジュリーは呆れた様な顔でジムスとガントを見ていた。


「……何をやっているんだ、お前達は?」

「そうですわよ」

「……申し訳ない」


 キルティアとジュリーにガントは座りながら頭を下げて謝罪する。その隣でジムスは腕を組みながら目を閉じて黙り込んでいる姿があった。

 彼等はアリシアとリーザの暗殺の事について会話をしている。昨夜、ルー達はリーザを暗殺した後、別行動を取っていたジムスとガントと合流する為に待ち合わせ場所であるこの宿屋へ戻り、それぞれの成果を報告しあった。ルー達はリーザの暗殺に成功したが、ジムスとガントはアリシアの暗殺に失敗し、何もできずに戻ってきた事をルー達に報告し、それを聞いたルー達は驚いた。

 メダルの回収と二人の暗殺が目的だったルー達はやるべき事を終えたら夜明け前に首都を出る予定だった。だが、ジムスとガントがアリシアの暗殺に失敗してしまった為、首都を脱出する事ができなくなり、翌日となった今でもアルメニスに残る事になってしまったのだ。


「何で昨夜の内に始末しなかったんですの?」

「仕方がないだろう。あの女騎士が仲間と合流して騒がしい街の方へ行ってしまったんだ。あのまま尾行しても一人になる可能性は低かったし、尾行がバレる可能性があったんだ」

「フッ、情けない奴等だ」

「何だと?」


 呆れるキルティアをジムスはキッと睨む。キルティアもジムスを睨み返し、緊迫した空気が部屋の中に漂い始める。するとルーが勢いよく床を踏み、部屋の中に低い音が響く。その音に反応してキルティア達は一斉にルーの方を向いた。


「やめなさい。今は仲間内で揉めてる場合じゃないでしょう?」

「ですがお姉様……」

「ジムス達の考え方も一理あるわ。それに今重要なのは私達の事が騎士団のお偉いさんに知られる前に残りの女騎士をどうやってるかって事よ」

「……ハイ」


 ルーに注意されてジュリーはシュンとする。他の三人も仲間割れをしている場合ではないと全員黙ってルーに視線を向けた。


「幸いメダルの事が騎士団のお偉いさんに知られる前にあのリーザとか言う女騎士を殺す事ができたし、リーザを殺した犯人が私達である事にも気付いていない。リーザを殺した事に繋がらないのであれば多少目立った行動をしても大丈夫よ」

「なら、すぐに残りの女騎士の暗殺に移っても問題無いって事だな?」

「ええ、きっと騎士団はリーザを殺したのは騎士団に恨みを持つ者の仕業か何かだと考えているはず。もう一人の女騎士を殺さない限り私達には辿り着かないわ」

「確かにリーザに続いてもう一人の女騎士を殺せばあの村を警護した騎士が二人殺されたって事で騎士団もわたくし達に繋がると気付きますわね」


 ジュリーはルーの話を聞いて騎士団がリーザが殺された本当の理由に気付かない事を知って納得の表情を浮かべた。

 ルー達はリーザが回収したメダルを回収し、アリシアとリーザを暗殺する為に首都アルメニスにやって来た。メダルをマーディングの様な騎士団を管理する貴族達などに見られれば自分達の正体がバレてしまう。それを避ける為にメダルを取り戻し、そのメダルを見たリーザを暗殺したのだ。アリシアを狙う理由も同じだった。

 だがアリシアはメダルの事は知らず、リーザからメダルの事を聞いていない。つまり、彼女を殺さなくてもルー達の正体がバレる事は無いという事だ。しかしルー達はその事を知らず、アリシアも自分達の正体に気付くのではと考え、リーザと同じように暗殺しようと考えていた。

 アリシアがメダルの事を知らない事を知らないルー達はアリシアをどう暗殺するか作戦を練り始める。


「やはり、リーザを殺した時の様に人気の少ない夜を狙った方がいいんじゃないか?」

「いや、恐らく騎士達はリーザが殺された事で夜中に外へ出る事を避けるはずだ。あの女騎士も夜の外出を避けるだろう」


 夜の奇襲を提案したジムスにガントは騎士達の行動を予想してその作戦は上手くいかないと話す。ガントの話を聞き、一理あると考えたのかジムスは腕を組みながら難しい顔をする。


「それなら、逆に人気の多い時間、夕方頃に狙うのがいいと思いますわ」

「確かに明るいうちなら女騎士も外に出ているだろうし、成功する確率も高いな」

「じゃあ、それで決まりですわね」

「それで人数はどうする? 流石に全員で殺しに行くのはマズいだろう。女騎士を殺したらすぐに首都を出ないと気付かれるからな。暗殺する者達と首都を出る準備をする者達の二手に分かれた方がいい」


 キルティアは暗殺を終えた後の事を考え、誰がどっちの役割に就くか周りにいるルー達を見ながら話す。ジムスとガントは昨日暗殺に失敗した為、汚名返上の為に自分達が暗殺に行きたいと考えており、逆にキルティアとジュリーは一度失敗した男達には任せられないと考えており、自分達が行くべきだと心の中で思っている。

 双方が自分達が暗殺に就くと口にしようとする。その時、椅子に座っていたルーが立ち上がり四人よりも早く口を開いた。


「暗殺は私がやるわ。アンタ達は首都を出る準備をしておいて」

「えっ? お姉様、いくら何でもそれはちょっと……」

「ああ、女騎士が警戒して護衛を付けているかもしれないぞ?」


 ジュリーとキルティアが一人で行くのは無理があると考えてルーを止めようとする。ルーは二人を見ながら余裕の表情で髪をなびかせた。


「それは無いわ。その女騎士はリーザがメダルの事で殺されたとは知らないはず。自分がリーザと同じ村の警護に就いていたから狙われているという事に気付いていない。つまり、その女騎士は次に自分が狙われている事を知らないから護衛もつかない、楽に殺せるって事」

「あ、成る程、よく考えたらそうですわね」

「それじゃあ、あの女騎士の暗殺はリーダーに任せていいんですね?」

「フッ、当り前でしょう。私を誰だと思ってるの、ジムス?」


 心配するジムスを見ながら鼻で笑うルー。そんな彼女を見てガントとキルティアは心配は無いなと小さく笑う。ジュリーは自信たっぷりなルーに感動でもしたのか目を輝かせながらルーを見ていた。


「それでルー、いつ始めるんだ?」


 キルティアがルーにいつアリシアの暗殺を行うのかを尋ねる。ルーはキルティアの方を見るとニッと笑いながら自分の右手を見せてゆっくりと握った。


「……今から?」

「既にあの女騎士の行きそうな所は特定してあるわ。すぐに実行するわよ? あまり時間を掛けていられないんだからね」


 騎士団に感づかれる前に全てを終えようと考えていたルーを見てキルティア達は何も言わずに一斉に立ち上がる。それを見たルーは静かに部屋から出て行き、キルティア達もそれに続く。ルー達はアリシアを暗殺し、何の問題も無くアルメニスを脱出できるよう、それぞれの作業に移った。


――――――


 その頃、ダーク達はリーザ殺害に使われていた短剣を見せてもらう為に騎士団の詰め所の一室にいた。書類などが保管されている部屋の真ん中で木製の机を囲んで立つダーク、レジーナ、ジェイク、マティーリアの四人。アリシアは凶器である短剣を借りる為にマーディングに会いに行っており、ダーク達は黙ってアリシアが来るのを待つ。ダーク達が静かに待っていると出入口の扉が開き、アリシアが静かに入って来た。


「待たせたな?」

「ちゃんと借りられたか?」

「ああ、これだ」


 アリシアは借りて来た短剣を机の上に置く。ダーク達は机の真ん中に置かれた短剣をジッと見つめる。アリシアから聞いていた通り、何処の武器屋でも買える様な安物の短剣だ。切っ先や刃の付け根には僅かに乾いた血が付着しており、それを見てリーザがどんな風に殺されたのかを想像し、レジーナとジェイクは僅かに表情を曇らせた。アリシアも短剣を見てリーザの無念を感じ、少しだけ表情が暗くなる。

 マティーリアは腕を組みながら無表情で短剣をしばらく見ており、チラッと隣に立つアリシアの方を向いた。


「……よく借りられたのう? マーディングはなぜ貸してほしいのか訊いてこなかったのか?」

「勿論訊いて来た。大切な証拠品だからちゃんとした理由がない限り貸し出しはできない事になっているからな。だが、ダークが見せてほしいと言っていたと話すと深く追及する事無く貸してくださった」

「ほお? 若殿の名を出しただけでか」

「ダークはこれまで多くの事件を解決して来たからな。ダークになら見せても大丈夫だと考えられたのだろう」


 マーディングから信頼されている事をアリシアから聞かされたダークは聞こえないくらい小さな声で笑う。この国の騎士団を管理しているマーディングから信頼されているとなればある程度無茶をしても大丈夫という事になる。自分の立場が少しずつ良くなっていく事をダークは心の中で喜んだ。

 ダークが腕を組みながら心の中で喜んでいるとアリシアが真剣な顔でダークに声を掛ける。


「それで、どうやってこの短剣から持ち主を調べるんだ?」

「うむ、それにはこれを使う」


 そう言ってダークは自分のポーチに手を入れて中から丸めた羊皮紙を一つ取り出して机の上に広げる。羊皮紙の真ん中には魔法陣が描かれており、ダークはアリシアが持ってきた短剣を魔法陣の上に置いた。

 見た事の無い魔法陣が描かれた羊皮紙をアリシア達はまばたきをしながら見つめた。


「ダーク、これは?」

「これは探索者の巻物と言って魔法陣の上に乗っている物の持ち主を調べる為のマジックアイテムだ。これを使えばこの短剣を使っていた奴の事が分かるはずだ」


 アイテムの事を効果を聞いてアリシア達は驚きの表情を浮かべる。この世界には物から持ち主を調べる様なアイテムなどは存在しない。これまで何度もダークの持つアイテムに驚かされてきたが、自分達が想像もしていないようなアイテムばかりを出すのでアイテムを見せられる度にアリシア達は驚いてしまう。

 <探索者の巻物>はアイテムや武具などの持ち主を調べる事ができるLMFのマジックアイテム。別のプレイヤーから盗んだり、PKプレイヤーキルで倒したプレイヤーがドロップしたアイテムを奪い、そのアイテムを魔法陣の上に置く事でプレイヤーの画面に持ち主であるプレイヤーの名前と所属しているギルド名が表示される物。ただし、このアイテムで分かるのはプレイヤーの名前とギルド名のみ。レベルや性別、職業クラスなどは表示されないようになっている。それはLMFで各プレイヤーの詳しい情報が漏れないようにする為であり、他にも別のプレイヤー達から集中的に狙われてPKされないようにする為である。こっちの世界では使った者の頭の中に持ち主の名前と所属する組織の名前が浮かび上がるようになっている。

 ダークは魔法陣の上に乗っている短剣を黙って見つめている。アリシア達もどんな効果があるのか気になりまじまじと羊皮紙を見ていた。


「ダーク、このマジックアイテムを使えば本当にリーザ隊長を殺した犯人が分かるのだな?」

「ああ。ただし、分かるのは持ち主の名前と所属している組織の名前だけだ。性別やレベル、職業クラスや容姿など詳しい情報は得られない。LMFでそういう効果だったからこっちの世界でも同じだろう」

「そうか……」


 詳しい情報は得られないと聞かされてアリシアは少し残念そうな顔を見せる。だが、名前と組織名だけでも分かればそこから犯人に繋がる手掛かりを見つける事ができるかもしれない。アリシアはすぐに表情を戻してダークの方を向く。

 ダークはアリシアが自分を真面目な顔で見ているのを確認すると探索者の巻物を使い始める。短剣の下に描かれてある魔法陣が水色に光り出し、上に乗っている短剣も水色に光り出す。一同は光る短剣に驚き、何も喋らずに黙って見つめている。

 やがて光が治まり、短剣の下にある羊皮紙が突然燃え出して消滅した。いきなり燃えた羊皮紙にアリシア達は一瞬驚きの表情を見せる。羊皮紙が燃えた時の火が机に移って机も燃えたのではと思ったが、机には焦げ跡すらついていない。羊皮紙だけを燃やした火にアリシア達は思わず目を丸くした。


「……成る程な」


 アリシア達が驚いている中、黙っていたダークは低い声で呟く。そんなダークの呟きを聞いたアリシア達はフッとダークに視線を向けた。


「マスター、分かりましたか?」


 机の上に乗ってダークを見上げていたノワールが尋ねるとダークはノワールを見下ろして頷き、アリシア達に頭の中に浮かんだ持ち主の名前と組織名を話す。


「この短剣の持ち主はルー・シュペーシュと言う奴だ」

「ルー・シュペーシュ……名前からして女か?」

「そこまでは分からない。だがリーザ隊長を倒したという事は少なくともレベル40以上あると考えて間違いないだろう」

「な~んだ、たったの40かぁ。あたし達は全員レベルが50以上なんだから戦う事になっても楽に倒せそうね?」


 推定レベルを聞いてレジーナは笑いながら余裕の態度を取る。そんなレジーナを見てジェイクとマティーリアはジロッとレジーナを睨む。


「軽く考えるな! 兄貴は40以上って言ったんだぞ? もしかすると40どころか、英雄級の50から60の間かもしれねぇんだぞ?」

「どんな相手か分からぬ以上、油断はできん。気を抜かないようにしろ、死ぬぞ?」

「うっ……わ、分かってるわよ! ちょっとふざけただけじゃない……」


 ジェイクとマティーリアに注意されてムスッとした顔をするレジーナ。彼女の反応に二人はやれやれと言いたそうな顔で首を横に振る。ダークとアリシアはレジーナ達はやり取りを何も言わずに見ていた。


「……で? そのルーとか言う奴が所属している組織は何て名前なんだ?」


 気持ちを切り替えてジェイクがダークにルーの所属している組織の名前を尋ねる。アリシアも組織名が気になりダークの方を見て答えを待った。


「ああぁ……組織名は鮮血蝙蝠団というらしい」

「何? 鮮血蝙蝠団?」


 名前を聞かされたジェイクはフッと反応して組織名を訊き返す。ダーク達はジェイクの反応を見て彼に注目した。


「ジェイク、何か知っているのか?」


 ダークはジェイクを見つめながら低い声で尋ねる。ジェイクはダークの質問に真面目な顔で頷く。


「ああ、盗賊をやっていた時にちょっと小耳に挟んだ程度だがな……」

「どんな奴等だ?」

「確か、何処の国にも属さず、国中を渡っては奴隷商なんかから依頼を受け、エルフの様な亜人達を捕まえる事を生業としている一団だって聞いたぜ?」

「亜人を捕らえる組織、か……」


 ジェイクからルーの組織名を聞いたダークはなぜ亜人狩りをする一団がこの国にいてリーザを殺したのか腕を組み考え込む。だが、敵の名前と組織名だけでは何も分からない。もう少し情報が必要だった。


「そう言えば……」

「どうした? アリシア」

「昨日、私とリーザ隊長が任務で戦った謎の一団も奴隷商がどうこう言っていたのを思い出したんだが……もしかして、奴等はその鮮血蝙蝠団の一員だったのか?」

「何? 奴等がそう名乗ったのか?」

「いや、直接は聞いていない。戦いで生き残った奴等から話を聞く前に何者かに殺されてしまい、結局正体が分からなかったんだ……」

「殺された?」


 アリシアの説明を聞き、ダークは何か引っかかるのか低い声を出す。すると、黙っていたマティーリアがダークとアリシアの会話に参加して来た。


「奴等の仲間が他にもおって自分達の情報が漏れると考えて口封じの為に殺したのじゃろう」

「うわぁ、惨いわねぇ……」


 仲間を平気で手に掛ける非道なやり方にレジーナは思わず引いてしまう。ダーク達は残酷なやり方に心の中で嫌なものを感じていた。

 アリシアとマティーリアの話からダークはルーとアリシア達が倒した謎の一団に繋がりがあるか考える。だが、ルーとその一団を繋げる手掛かりが無い為、何も分からない事に変わりはなかった。するとダークはある事に気付き、ふと顔を上げてアリシアの方を見る。


「おい、アリシア。その謎の一団が使っていた武器などは回収したのか?」

「え? ああ、正体を調べるのに使えると思って一応全ての武具を回収してある……あっ!」


 武器や道具を全て回収している事をダークに話している時、アリシアはダークが考えている事に気付いたのか表情は変わる。そんなアリシアの表情を見たダークは小さく笑う。


「フッ、私が何をやろうとしているのか気付いたか?」

「ああ、さっき使った探索者の巻物を使うのだろう?」

「その通りだ。探索者の巻物でその一団の奴等が使っていた武器を調べれば組織名が分かる」

「それでルーと繋がっているのかが分かるという事だな?」

「ああ」


 ダークが頷くとアリシアは自然と笑みを浮かべる。何も分からなかった状況で少しずつリーザを殺したと思われるルーと組織の繋がりが分かって来る事に嬉しさを感じているのだろう。

 レジーナ達は二人だけで話を進めていく事にただ茫然としており、ノワールはダークの肩に乗りながら小さく笑っている。どうやらノワールは話の内容についていけているようだ。

 やるべき事が決まるとアリシアは部屋を飛び出して一団が使っていた武器を取りに行く。レジーナ達は呆然としたまま部屋を飛び出したアリシアを見つめている。そんなレジーナ達に気付き、ダークとノワールはアリシアが戻って来るまでの間に三人の細かく話の内容を説明した。

 数分後、アリシアが一本の剣を持って戻って来た。その剣はアリシアとリーザの部隊が戦った謎の一団の一人が使っていた物だ。ダークはアリシアが剣を持ってきたのを見るとポーチから新しい探索者の巻物を取り出して机の上に広げた。アリシアは広げられた羊皮紙の上に剣を置き、ダークは探索者の巻物を使用する。羊皮紙に描かれた魔法陣が水色に光り、剣を水色に光らせる。そして光が治まると羊皮紙は燃えて消滅した。

 ダークは剣の持ち主の名前と所属している組織の名前を知るとアリシア達に理解した事を話し始めた。


「……アリシアの読み通りだった。この剣の持ち主は鮮血蝙蝠団に所属していた」

「やはりそうだったか」


 ダークの言葉を聞いたアリシアは目を鋭くする。レジーナ達も関係ないと思われていた一団がリーザを殺害したルーと同じ組織の者だと知り、表情が少し険しくなった。

 ルーとアリシアとリーザが戦った一団の繋がりを知ったダークは再び腕を組んで考え込む。さっきと違い今度はリーザを殺したルーと昨日アリシアとリーザの部隊が戦った一団が繋がっている事を知っている為、推理しやすくなっていた。


(……リーザ隊長を殺したルーとか言う奴はアリシアとリーザ隊長が倒した連中の仲間だった。それを考えるとリーザ隊長は仲間を倒された事で敵討ちの為に殺されたと考えるのが普通だ。だが、口封じで仲間を殺すような奴等が敵討ちでリーザ隊長を殺したとは思えない。となると、リーザ隊長は別の理由で殺されたという事になるな。その理由は何だ?)


 ダークは頭の中でリーザが狙われた理由を考える。アリシア達も机の上に置かれてある剣と短剣を見ながらなぜリーザが襲われたのか、リーザを殺したルーはまだこの町に潜んでいるのかと色んな事を考えていた。


(奴等は仲間を殺して口封じをした。つまり奴等の情報はアリシア達には漏れていないという事になる。それなのになぜリーザ隊長は殺されたのか……ん? 情報が漏れる?)


 何かに気付いたダークはフッと顔を上げる。そんなダークを見たアリシアは彼を見ながら不思議そうな顔を見せた。


「どうしかしたのか?」

「……もしかすると、リーザ隊長は何か鮮血蝙蝠団の正体に繋がる情報を得てしまって殺されたのかもしれない」

「何だと? だが生き残った奴は殺されて私達は何の情報も得られなかったのだぞ?」

「確かに敵からは何も聞きだせなかった。だが、もし奴等の持ち物の中に鮮血蝙蝠団の仲間である事を表す物があり、リーザ隊長がそれを見つけてしまい、正体がバレると恐れたルーがリーザ隊長を殺したとすれば……」

「……考えられますね」


 ダークの推理を聞き、肩に乗るノワールが納得の反応を見せる。


「しかし若殿、仮にお主の推理が正しかったとしてもじゃぞ? どうやってルーはリーザがその仲間である事を表す物を持っていると知ったのじゃ?」

「アリシア達が一団の生き残りを捕まえた直後にソイツ等は殺されたんだぞ? それならその殺した奴がまだ村に残っていてリーザ隊長がその仲間である事を表す何かを手に入れたのを盗み見していたとすれば……」

「成る程な、それならルーとか言う奴がリーザ隊長がその何かを持っている事を知っててもおかしくねぇ」


 ジェイクもノワールと同じようにダークの推理を聞いて納得したのか頷きながら呟く。


「……まぁ、もっともこれは私個人の推測だ。もしかしたら別の理由でリーザ隊長が殺されたのかもしれないし、あまり鵜呑みにしないほしい」


 あくまでも考えられる事の一つあと伝え、ダークはアリシア達に本気にしないよう忠告する。だが、アリシア達は今の状況で一番考えられる理由である為、ダークの考えた通りではないかと思っていた。


「だが、これだけは覚えておけ……奴等はアリシアも狙って来る可能性が高い」


 アリシア達が難しい顔で考えているとダークは突然目を赤く光らせて低い声を出す。それを聞いたアリシア達は一斉に緊迫した表情を浮かべてダークの方を向く。


「ダーク、それはどういう事だ?」

「私の推理が違ったとしても、奴等が何らかの方法でリーザ隊長が組織の情報を得たという事を知ったのは事実だ。そうなると、彼女と一緒にいたアリシアも組織の情報を得たと思い狙って来るかもしれないという事だ」

「つまり、アリシア姉さんを殺しに来るって事?」

「恐らくな」


 ダークの言葉にアリシアの表情が鋭くなった。リーザは鮮血蝙蝠団の情報を得た為に殺されてしまった。だがアリシアは何も聞かされておらず、何も知らない。だが、鮮血蝙蝠団がそんな事を知っているはずもなく、自分達の情報を得たと思われる者は全て殺そうと考えている。

 自分が命を狙われていると聞いたアリシアは一度目を閉じ、静かに深呼吸をしてから落ち着き、ゆっくりと目を開いた。


「……まぁ、少し前ならともかく、今ではその鮮血蝙蝠団の情報を得てしまっているんだ。狙われても文句は言えないな」

「アリシア姉さん、随分落ち着いてるわね?」

「取り乱しても現状は変わらないからな。それに私はリーザ隊長を殺した奴を倒す事が目的なんだ。私を殺す為に現れてくれるのなら寧ろ好都合だろう」

「そ、そう言うものなのかなぁ?」


 冷静なアリシアを見てレジーナは苦笑いを浮かべながら汗を掻く。ジェイクも同じように苦笑いを浮かべてアリシアを見ていた。

 アリシアが落ち着いているのは取り乱しても何も変わらないからだけではない。自分がレベル70で並の敵には絶対に負けないという自信があったからである。アリシアは必ずこの手でリーザの仇を討つと心に誓い右手で握り拳を作った。


「……で、この後はどうする?マーディング卿にこの事を知らせるか?」


 一通り敵の情報が集まるとアリシアは今後どうするかについてダークに尋ねる。いくら敵の情報が集まっても自分達だけではできる事に限りがあった。アリシアは騎士団の力を得る為にマーディングに情報を提供する事を提案する。するとダークは首を横に振った。


「いや、マーディング殿にはまだ話さないでおいた方がいい。今情報を騎士団に提供したら騎士団はきっと町中を探し回る。騎士団が騒ぎ出したらリーザ隊長を殺したルーと言う奴が町から逃げ出してしまう可能性がある。ルーの姿が分からない状態でそんな事になったらまず捕まえる事はできない。まずはアリシアの前に現れるのを待ち、姿を確認してからだ」

「おいおい兄貴、それって姉貴を囮にするって事か? せめて俺等の誰かが一緒にいた方が……」

「確かに護衛を付けた方がいいかもしれない。だがそれでは敵が現れない可能性がある。敵のレベルや職業クラスが分からない状態で一人にするのは危険だが、それ以外に奴等をおびき寄せる方法はない」

「そ、それはそうだが……」


 アリシアを囮にする事に不満そうな顔をするジェイク。彼の言っている事ももっともな事だ。正直ダークもアリシアを囮にするのは気が引ける。だが容姿の分からない敵をおびき寄せるにはそれしか方法がなかったのだ。

 ダーク達が黙ってアリシアに視線を向けていると、アリシアは小さく笑ってダーク達を見た。


「何暗い顔をしているんだ? リーザ隊長の仇を討つ為なら私は喜んで囮にでもなってやるさ。それに私が囮になるという事は皆も近くで私を見張ってくれているという事なのだろう?」

「ああ、私達全員が離れた所で周囲を警戒する」

「なら、安心して囮になれるというものだ」


 笑いながらダーク達を信じていると話すアリシアを見てダーク達は小さく笑う。ここまで信頼されている以上は全力でアリシアを守らなければならないと考え、ダーク達は必ずアリシアを守り、敵を捕まえると決意する。

 それからダーク達は敵をおびき寄せる作戦を練り、それぞれの役割を決めた。


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