第六十四話 謎の一団
首都アルメニスから数km離れた所にある草原。空は青く、涼しげな風で草原の草や花は静かに揺れる。そんな草原の中にある一本道をダーク達は歩いていた。先頭を歩くダークの肩にはノワールが乗っかっており、その後ろをレジーナとジェイクがついて歩いている。ダーク達は仕事を終え、首都に戻る為に歩いていた。
静かな草原の中を進みながらレジーナは空を見上げた。仕事が終わり、草原の中を歩きながら首都へ戻る彼女はとても爽やかな気分だった。
「あ~、疲れたぁ。今回の仕事はちょっとキツかったから首都に戻ったら美味しい物でも食べて寛ぎたいわぁ」
「何言ってんだよ。今回は薬草採取の仕事でそんなにキツイ仕事じゃなかっただろう?」
「それはそうだけど、首都から依頼のある場所まで行くのがキツイのよ」
「お前なぁ、冒険者がそんな事を言っててどうするんだ」
ジェイクはレジーナの発言に呆れ顔を浮かべる。レジーナはそんなジェイクの言葉にムスッとした顔を見せた。
「二人とも、それぐらいにしておけ。薬草は手に入れたがまだ首都の外にいるんだ。いつモンスターと遭遇して戦闘になるか分からない。気を抜くな」
言い合いをするレジーナとジェイクにダークが前を向いて歩きながら注意する。二人はダークの言葉を聞いて反省したのか言い合いをやめて黙り込んだ。
今回、ダーク達は冒険者ギルドに依頼された薬草採取の仕事を引き受け、アルメニスから10kmほど離れた場所にある森へ行っていた。そこには凶暴なモンスターが多く生息しており、六つ星以上の冒険者でなくては立ち入る事ができないと言われている。この依頼は元々六つ星冒険者への依頼だったのだが、最近は七つ星冒険者への依頼が少なく、ダーク達も仕事が無くて退屈していた。それで今回は誰も受けていないこの六つ星の依頼を引き受けたのだ。
「それにしても、最近は本当に七つ星への依頼が少ないわよね?」
「確かにそうだな。兄貴達が学院の教師の仕事を引き受けた時ぐらいから七つ星への仕事が減って来てたからな」
レジーナとジェイクは最近冒険者ギルドに七つ星冒険者への依頼があまり来ていない事を振り返り、複雑そうな顔を見せながら話した。
冒険者は自分のランク、もしくは一つ下のランクの依頼しか受ける事はできない決まりがある。仕事の依頼で冒険者同士がもめ事を起こさないようにする為だ。ダーク達は七つ星なので七つ星か六つ星の依頼しか受ける事はできない。そして六つ星の依頼を受ける時、もし六つ星冒険者がその依頼を受けようとした場合は彼等に優先的に回されるのだ。
ダークは後ろから聞こえるレジーナとジェイクの話を聞いて立ち止まり、ゆっくりと二人の方を向いた。
「七つ星の依頼が少ないのは仕方がない事だ。七つ星の依頼は王族や上級貴族、そして普通の冒険者では熟せない様な難易度の高い依頼ばかりなのだ。そんな難易度の高い依頼がポンポン入ってくる訳ではない」
「だけどよぉ、それだと七つ星冒険者の仕事が少なくて生活も困るんじゃねぇのか?」
「七つ星冒険者にしか依頼できない難易度の高い仕事だからこそ報酬が普通よりもいいんだ。仕事が無くてもしばらくは安心して暮らせるだけの額を出している。冒険者ギルドもその事を計算して報酬額を決めているんだろう」
ジェイクはダークの説明を聞いて納得の表情を浮かべながら手をポンと叩いて軽く頷いた。確かに七つ星の依頼は六つ星以下の依頼と比べると報酬がかなり高い。それが七つ星の依頼が少ない事を計算して設定された額だとジェイクは初めて理解した。
「私達が今まで受けた七つ星の依頼も殆どがしばらく楽に暮らせるだけの額だった。だからこうして七つ星の仕事が無くても普通に冒険者として活動できるんだ」
「確かに、それなら納得できる」
「……でもさぁ、だとしても、もう少し七つ星に仕事を回してくれてもいいんじゃないの? 例えば六つ星でも熟せる仕事を七つ星の仕事として依頼するとかさぁ。いくら生活に困らなくても仕事が少ないんじゃ冒険者としての腕が鈍っちゃうわ」
「まあ、それも一理あるな」
レジーナの言っている事も間違ってはいないと感じ、ジェイクは難しい顔を浮かべながら腕を組んだ。
「あと、上級貴族の護衛や盗賊の討伐とかの仕事ももっと冒険者ギルドに回した方が冒険者達も仕事が増えていいじゃない。ダーク兄さんもそう思うでしょう?」
「貴族の護衛や盗賊の討伐などは騎士団の仕事だ。そういった仕事はアリシア達に任せておけばいい」
「ちぇ……」
つまらなそうな顔をしながらレジーナは頬を小さく膨らませる。そんなレジーナを見てダークはやれやれと言いたそうな素振りを見せた。
「そう言えば、アリシアさんはどうしてるんでしょうか? 今朝から見かけませんけど……」
ダークの肩に乗って話を聞いていたノワールが騎士団の話を聞いてアリシアの事を思い出す。ダーク達もノワールの言葉を聞き、彼の方を向いた。
「アリシアは今朝から仕事で首都を出ている。何でも首都の南東にある小さな村から依頼があってリーザ隊長の部隊と一緒に村へ行ってるそうだ」
「へぇ? どんな仕事なの?」
レジーナが仕事の内容について尋ねる。するとダークは軽く首を横に振った。
「さあな、私も詳しくは聞いていない」
「そう……でもアリシア姉さんとリーザ隊長の部隊が一緒に行くって事はそれなりに面倒な仕事って事になるわね」
どんな仕事なのか気になり、レジーナは南東の方を向く。今自分達がこうしている間にアリシア達は何処にいて何をしているのかダーク達は少し気になっている。だが、その表情にはアリシア達を心配している様子は見られなかった。
「まぁ、アリシアさんはレベル70ですから。並のモンスターや盗賊が相手ならまず負けませんよ。そうですよね、マスター?」
「ああ、今のアリシアの強さは恐らく騎士団でも最強と言える。よほどの強敵じゃない限り大丈夫だ。それに彼女にはマティーリアも一緒にいるからな」
ダークはノワールを見て頷きながら答え、レジーナとジェイクはダークの言葉を聞いて笑みを浮かべた。彼等は全員アリシアの強さをよく知っている。だからこそアリシアが雑魚には負けないと分かっており、心配する様子を見せなかったのだ。
「……さて、お喋りはこれぐらいにして、そろそろ行くか」
休憩を兼ねた会話が一段落するとダークは再びアルメニスに向かって歩き出した。レジーナとジェイクもその後に続いて歩き出す。ダークと出会った事でアリシア達は強くなり、離れた所にいる仲間の事も大丈夫だと信じる事ができるようになった。彼等の絆は簡単には壊れたりはしないだろう。
――――――
ダーク達がアルメニスに向かって草原を歩き出した頃、アルメニスと南東にある小さな川の近くで騎士団の二個小隊が休息を取っていた。大勢の兵士が川の水を飲んで喉を潤したり、自分達が乗っていた馬を休ませたりなど、再び目的に向けて出発する為に体を休めている。
兵士達から少し離れた所では数人の騎士が目的地の村へ向かう為のルートを確認しており、その近くでアリシアとリーザが休憩を取っていた。アリシアは大きめの石に座って一枚の羊皮紙を見ている。そこには騎士団に依頼をして来た村の住民からの依頼内容が書かれてあり、アリシアは内容を確認していた。その後ろにはマティーリアが立っており、後ろから羊皮紙を覗き込んでいる。
「……数日前から周辺の村を盗賊らしき一団が襲っているという情報が入り、その一団が少しずつ自分達の村に近づいてきている為、騎士団に村の警護と盗賊らしき一団の討伐を依頼する。か……」
内容を読み上げたアリシアは羊皮紙を丸めて自分の腰に付いている革製にポーチにしまう。アリシアは立ち上がって目の前を流れている川に近づき、水面に映る自分の姿を見下ろす。
「数日の間にいくつもの村を襲撃する盗賊らしき一団……本当にただの盗賊なのか? しかも襲撃された村は全てセルメティアとエルギス教国の国境近くにある村、これも偶然なのだろうか……マティーリア、お前はどう思う?」
アリシアが振り返ってマティーリアに尋ねる。マティーリアは興味の無さそうな顔で自分の髪を捻じった。
「さぁな、妾にはさっぱり分からん」
「少しは真面目に考えたらどうだ?」
「妾は正式な騎士団員ではないからのう、必要な事以外でお主達に力や知恵を貸す気は無い」
「まったく……」
マティーリアの態度にアリシアは呆れ顔になりながら溜め息をつく。マティーリアの知恵を借りるのをやめたアリシアは再び水面を見下ろして難しい顔をしながら襲われた村の共通点を考えた。
騎士団に依頼をして来た村の周辺には幾つもの村があり、この数日の間にその村全てが謎の一団の襲撃を受けている。しかも襲われた村の住民達の目撃情報から村を襲ったのは同じ一団である事が判明した。
幾つもの村が襲撃され、村人の殆どが殺されてしまった。そのせいで騎士団に謎の一団の討伐を依頼する事もできずに数日が経ってしまい、まだ襲撃を受けていない村の住民達が危険を感じて急ぎ騎士団に依頼をし、アリシアとリーザの隊がその依頼を受けて村へ向かったのだ。
朝に首都を出て、半日経って予約三分の二の辺りまで来れた。アリシアは早く村人達を助けたいという気持ちを胸に水面に映る自分の顔を見つめている。するとそこへリーザが近づいて来てアリシアの隣に立つ。
「どうした? そんなに難しい顔をして?」
「リーザ隊長……いえ、早く村へ行き、村人達を助けてあげたいと思っていただけです」
「そうか、私も同じ気持ちだ。だが、早く助けたいからと言って焦ってしまったら肝心なところで失敗してしまう。どんな時でも冷静に平常心を保っていけ」
「……ハイ」
嘗て隊長であったリーザの教えを聞いてアリシアは頷いて返事をする。そんなアリシアを見てリーザは成長した妹に喜ぶ姉のような表情を浮かべた。
リーザは持っている水筒の水を飲み、飲み口を軽く拭いてそれをアリシアに差し出す。アリシアは水筒を受け取り、水を一口飲むと同じように飲み口を拭いてリーザに返した。
水筒を受け取るとリーザは水筒を自分のポーチにしまい、別の何かをポーチから取り出す。それは手の平サイズの小さな女の子の人形だった。見た目からして手作りの人形のようだ。
人形を見て微笑みを浮かべるリーザを見てアリシアはリーザの手の中の人形に注目する。
「可愛い人形ですね?」
「ん? ああぁ、これか……リーファが作ってくれたんだ」
「リーファちゃんがですか?」
「ああ、お守りだと言ってプレゼントしてくれたんだ。初めて作った人形らしくてな、全く可愛い事をしてくれる」
自分の娘からの手作りのプレゼントにリーザは微笑みを浮かべる。母親として子供からのプレゼントは何よりも嬉しい贈り物だ。アリシアは人形を見て優しく笑うリーザを見て自然と笑みを浮かべていた。
アリシアとリーザが川の前に立っていると背後から一人の騎士が地図を持って駆け寄って来た。足音を聞いたアリシアとリーザは振り返り、隊長らしい真面目な表情を浮かべる。
「リーザ隊長、アリシア隊長、村へのルートなのですが、やはりこのまま予定通りのルートで行った方が早く到着できそうです」
「そうか……分かった、ではこのまま予定していたルートを通る事にしよう。五分後に出発する。皆に出発の準備をするように伝えておけ」
「ハッ!」
リーザの命令を聞いた騎士は力強く返事をして仲間達の下へ戻って行く。騎士が走って行く姿を見てアリシアとリーザは表情を変える事無く、真剣な表情を浮かべていた。
「アリシア、村まであと僅かだ。此処からは休息を取らずに村へ向かう。部下達にそう伝えておけ」
「分かりました」
休まずに真っ直ぐ目的地の村へ向かうと言うリーザの言葉にアリシアは返事をして部下達の下へ歩いて行く。リーザもアリシアと同じで村人達を早く助けたいと言う気持ちを胸に、少しでも早く村へ向かおうと考えていた。真面目なアリシアとリーザの背中を見てマティーリアは真面目だな、と言いたそうに肩をすくめる。それから五分後、予定通りアリシア達は馬を走らせ目的地へと向かった。
出発をしてから数十分後、アリシア達は予定通り休む事なく決めていたルートを進んだ。全員が馬に乗り、固まって一本道を走って行く。先頭にはアリシアとリーザが乗る馬がおり、その後ろを二人の部下である騎士や兵士達が乗る馬が続いた。マティーリアは隠していた竜翼を広げてアリシア達の真上を飛びながら移動している。全員が何も喋らず無言で馬を走らせていた。
やがて1km程先に目的地の村が見え、それを確認したアリシアとリーザは馬の速度を上げる。二人の部下である兵士達も村を見てアリシアとリーザにつられる様に馬を速く走らせた。
アリシア達が村に近づくと村の入口前には大きな木製のテーブルがいくつも倒して置かれてあった。誰も村に入れないようバリケードにしているようだ。村の入口前まで来たアリシアが馬を止めて周囲を見回す。すると入口近くにある物置らしき小さな建物や木の陰から数人の男達が姿を現した。その表情はとても鋭く、手には鍬や鎌などが握られている。どうやら彼等はこの村の住人でいつ来るか分からない盗賊らしき一団を警戒して入口を固め、武器になりそうな物を手に取り警戒していたようだ。
「アンタ達、何者だ?」
一人の男が入口に近づきアリシア達に問いかけた。手には鍬が握られ、アリシア達を睨みつけている。アリシア達の正体が分からない以上、警戒するのは当然だ。
村人達を見てリーザが馬を降り、ゆっくりと村の入口に近づく。近づいて来るリーザに村人達は警戒し持っている武器を構える。リーザはそんな敵意をむき出しにする村人達を見つめながら落ち着いた様子で口を開いた。
「我々は依頼を受けて首都アルメニスより派遣された王国騎士団の者です。私は部隊の指揮官を務めるリーザ・ナルヴィズと申します。村長を呼んでいただけますか?」
リーザは落ち着いて自分達が何者なのかを語り、村長に会わせてもらうよう村人達に頼む。村人達はリーザ達が自分達を助ける為に来た騎士団だと知ると敵意を見せていた表情が変わり警戒を解いた。数人の村人が小声で何かを話すと一人の男が村の奥へと向かう。数分後、男は村長らしき五十代後半ぐらいの男を連れて入口前に戻って来た。
村長は入口前に待機しているアリシア達の姿を見て彼女達が騎士団の人間だと知るとバリケードのテーブルを村人達に退かさせてアリシア達を村の中へ招き入れた。全員が村の中に入ると再びバリケードを動かして入口を塞ぐ。村長はリーザの前までやって来ると軽く頭を下げた。
「お待ちしておりました。私がこの村の村長を務めている者です」
「今回の部隊の指揮官を務めるリーザです。こっちが副官のアリシア・ファンリードです」
「よろしくお願いします」
リーザが隣に立つアリシアを紹介するとアリシアは軽く挨拶をする。村長はアリシアにも頭を下げて挨拶をし、周りにいる村人達は黙ってアリシア達の姿を見ていた。
「先程は失礼しました。何せいつこの村が襲われるか分からないので村の者は全員ピリピリしておりまして……」
「いえ、当然の事です、お気になさらないでください……早速で申し訳ありませんが、例の一団の事を詳しくお話しいただけますか?」
「分かりました。どうぞ、私の家へ」
話を聞く為にリーザは村長に案内されて村長の家へと向かう。アリシアは兵士達に村の外を警戒するよう指示を出してリーザの後を追った。
村長の家に着くとリーザとアリシアはテーブルの挟んで村長と向かい合う形で椅子に座り、ここ数日の間に周辺の村を襲う一団の話を村長から聞いた。
「では、お話しいただけますか、村長?」
「ハイ……奴等は数日前に突如現れ、この国とエルギス教国の国境近くの村を次々に襲って行きました。襲われた村の住民達は殆ど殺されましたが、奇跡的に生き残った者達は別の村へ向かい、助けを求めるのと同時に奴等の詳しい事を教えてくれたのです。私どももそうやって奴等の情報を得ました」
「では、この村にも襲われた村の住民達が?」
「ハイ、三人ほど逃げ込んできています。その者達の話では村を襲った連中は二十数人の団体だそうです。ただ、盗賊とは思えない良い装備をしており、連携も取れているとの事。まるで騎士団や冒険者のパーティーの様だと言っておりました」
「騎士団や冒険者達の様に連携の取れた連中か……」
「リーザ隊長、その一団、やはり盗賊などではなさそうですね」
「ああ、一体何者なんだ……」
盗賊とは思えない一団の正体が分からず、アリシアとリーザは難しい顔をして考え込む。すると、村長が何かを思い出したような表情を浮かべた。
「それと、その一団なのですが、村を襲った時、最初は何かを探している様子だったと生き残った者達から聞きました」
「何か? それは何なのですか?」
リーザが尋ねると村長は軽く首を横に振る。
「すみません、奴等が何を探していたかまでは……ただ、その探しているものが村に無いと分かると、村にある金品や食料を奪い、村の住人達を殺したそうです」
「なんて酷い事を……」
アリシアは村を襲った者達の無慈悲な行動に怒りを感じ拳を強く握る。その隣に座るリーザは苛立ちを見せずに落ち着いて村長の話を聞いていた。
「奴等が何の為に村を襲っているのかは奴等を捕らえて聞き出せばいい。村長、今日から我々が村の警備をします。奴等が現れたら村の人達には建物の中に避難するよう伝えてください」
「分かりました。よろしくお願いします」
村長は深く頭を下げてアリシアとリーザに感謝する。二人は村長や村人達の為にも絶対に村を護ると決意した。
話が終わり、アリシアとリーザが村長の家を出ようとした時、突然一人の村人らしき男が村長の家に飛び込んで来た。飛び込んで来た男にアリシア達は驚き男の方を向く。
「そ、村長、大変です!」
「ど、どうしたのだ?」
「き、来ました! 例の盗賊みたいな連中が!」
「何じゃと!?」
さっき話していた謎の一団が現れたと聞き、村長は目を見開いて驚き、アリシアとリーザの顔にも緊張が走る。その直後、家の外から数人の男の声が聞こえ、アリシアとリーザは声の聞こえてくる方を向いた。
「今、兵士の方々が村の外で奴等の相手をしています。ただ、敵の中に魔法使いもおり、兵士の方々も手が出せないでいるようです」
「魔法使いがいるだと? やはりただの盗賊ではないという事か」
敵が只者でないと知り、リーザの表情が鋭くなる。隣に立つアリシアはエクスキャリバーを抜いて考えているリーザを見た。
「リーザ隊長、とにかく村の外へ行きましょう!」
「ああ、そうだな。考えるのはその後だ!」
リーザも腰に納めてある騎士剣を抜き、アリシアとリーザは村長の家から飛び出して行く。残された村長と村人は村長の家の中でアリシア達が謎の一団を倒してくれる事をひたすら祈った。
村の入口前ではアリシアとリーザの部隊の兵士達が武器を構えている姿があり、彼等の十数m先には謎の一団と思われる男達が同じように武器を構えて兵士達と向かい合っていた。数は二十三人で男達は全員が赤と黒のフード付きの服を着ており、フードで顔を覆っている。鎧で体を守り、剣や短剣、弓矢を持っており、中には杖を持った魔法使いらしい者の姿もあった。村長の言った通り盗賊とは思えない装備をしている。
男達が笑いながら村の入口を守る兵士達を見ており、兵士達は真剣な表情で男達を睨んでいる。数では兵士達の方が上だが、盗賊とは思えない装備をしているのを見て警戒している様子だった。すると一人の男が前に出て来た。剣が握られており、他の男達と違って肩を守るショルダーアーマーを装備している。装備からしてこの男が一団のリーダーの様だ。
「おやおや、こんな辺鄙な所に王国の騎士団がいるとは驚いたぜ。どうしてこんな所にいるんだぁ?」
リーダーらしき男は笑い余裕の態度を取り、兵士達を挑発する様に尋ねる。兵士達はリーダーの質問に答えず、ただ剣や槍を構えて警戒し続けた。何も喋らない兵士達を見てリーダーはつまらなそうな顔で自分の剣の切っ先で地面を軽く叩く。
「つまんねぇなぁ、うるせぇ~とか、黙れぇとか言い返せないのかねぇ? 最近の騎士団は言い返せない腰抜けばかりって事か……ハハハハハハッ!」
再び兵士達を挑発するリーダーは大きな声で笑い、周りにいる男達もつられる様に笑い出して兵士達を挑発した。そんな男達の笑う姿に兵士達は腹を立てて歯を噛みしめる。どうやら男達は笑って挑発し、敵の冷静さを失わせようとしているようだ。この時点で男達が心理戦に慣れているという事が分かる。
笑う男達を睨んでいる兵士達の後ろではマティーリアがロンパイアを肩に担ぎながら兵士達の様子を見物していた。その顔はとても呑気そうで時々欠伸をしていた。そこへ村長の家から走って来たアリシアとリーザがやって来てマティーリアと合流する。
「マティーリア、状況はどうなっている!?」
「おお、アリシアか? 見ての通りじゃ……兵士達、敵に挑発されて今にも攻撃しそうなくらい熱くなっておるぞ」
「なっておるぞって、お前もこんな後ろの方で見物していないで皆を宥めるとかしたらどうだ?」
「それは隊長であるお主等の役目じゃろう?」
「ああぁ~~っ! もういい! まずは皆を落ち着かせる。その後に奴等の相手をするぞ!」
屁理屈を言うマティーリアに腹を立てるアリシアは村の外へ向かって歩き出す。リーザもマティーリアを少し呆れた顔で見ながらアリシアと一緒に外へ向かった。残されたマティーリアは悪戯っぽく笑いながら二人の後を追いかける。
兵士達の間を通り、アリシア達は男達の前に姿を見せる。兵士達はアリシア達が来た事で落ち着いたのか表情が少しだけ和らいだ。一方で男達は突然前に出た二人の美しい女騎士と幼い少女の姿を見て笑うのをやめて三人に注目する。リーダーの男もアリシア達を見ながら目を細くした。
「ほぉ~? なかなか綺麗な騎士様がいるじゃねぇか。アンタ等、何モンだ?」
「私はセルメティア王国騎士団のリーザ・ナルヴィズだ。お前達だな、最近この辺りの村を襲っている一団と言うのは?」
「さあ? 何の事だか知らねぇな」
「とぼけるな! なぜ村を襲う? お前達の目的は何だ? 金か?」
とぼけるリーダーにリーザが声を上げて目的を問う。するとリーダーの男はニッと笑いながら持っている剣の刀身を光らせた。
「アンタ等に話す義理はねぇな。そもそも、答えろと言われて答えると思うか?」
「……フン、予想通りの答えだな。まぁ、お前達の目的が何であれ、私達の任務はお前達からこの村を護る事だ。お前達を捕らえろという命令は受けていない。場合によってはお前達を切り捨てる事も考えている!」
「おおぉ、綺麗な顔して怖い事言うねぇ。大人しくしないと言うのなら殺すってか? 最近の騎士様はおっかないねぇ~」
「略奪を繰り返し、無慈悲に村人を殺める愚か者に言われたくないな」
「ああぁ?」
リーザの挑発にリーダーはカチンと来たのかリーザを睨みながら剣を構える。他の男達も一斉に武器を構えてアリシア達を睨み、アリシア達も戦闘態勢に入る男達を見て構え直した。
「面白れぇ、だったらアンタ等に味合わせてやるよ。その愚か者に殺されるっていう屈辱をなぁ! お前等、村を潰す前に騎士団の連中を殺せ! 女の騎士や兵士は生かしておけよ。奴隷商に高く売れるからなぁ!」
命令を聞いて男達は揃って声を上げる。するとアリシアは野心と欲をむき出しにする男達を睨みながらエクスキャリバーを掲げた。
「皆、必ず奴等を倒すぞ! 此処で奴等を倒さなければまた多くの犠牲者が出る。私達はこの国を守る騎士団、盗賊やモンスター達に怯える民を守る義務がある。奴等を倒し、この村の人々を、他の村や町に住む人々を守るんだ!」
アリシアの言葉を聞き兵士達は声を上げて返事をする。リーザは兵士達の士気を高めたアリシアを見て小さく笑う。マティーリアもニッと笑いながらアリシアを見つめていた。
目の前で武器を構える男達を睨み付けるアリシア達。男達もアリシア達を見て武器を構えている。睨み合う二つの戦力を村人達は建物の中から見守っており、村人の全員が心の中でアリシア達の勝利を願っていた。
「……やっちまえぇーーっ!」
緊迫した空気の中、リーダーは部下達に攻撃を命令する。男達は武器を握りながらアリシア達に向かって突っ込んでいく。
向かって来る男達を見てアリシア達も自分達の武器を構えながら一斉に男達に向かって走り出す。今、小さな村の前でアリシア達と謎の一団の戦闘が開始された。
第七章投稿開始します。今回はアリシアをメインにする予定です。