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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第六章~天性の魔術師~
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第五十九話  影響


 ノワールが魔法学院で生徒達に中級魔法を教えている頃、ダークも生徒達に戦い方などを教えていた。最初はダークに教えてもらう事を不服に思っていた生徒達もダークと訓練試合をして騎士として重要な事や自分達の欠点を教えてもらい、ダークを認めたらしく今では素直に教えを受けている。

 ダークが全ての生徒達との訓練試合を終えると、今度は生徒同士で訓練試合をして欠点を克服したり、相手の欠点を見つけたら教え合うように指示をする。生徒達は文句を言わずに言われた通りに訓練試合を始めた。

 生徒達が訓練している姿をダークとアリシアは離れた所で見守る。生徒達の目つきが少しずつ戦士らしくなっていき、それを見てアリシアは笑顔を見せた。


「ダークと出会った時と比べると嫌な顔一つせずに皆真剣に訓練を受けているな。どうやらやる気を出したらしい」

「ああ、この調子なら弱いモンスターを倒せるくらいの力を得る事ができるだろう。あとは敵を前にしても怯まない強い意志を持てればいい」

「それも貴方が教えればすぐに強くなるのではないのか?」

「いや、意志や勇気と言ったものは私でも教えられない。それは自分自身で身に付けるしかない。私もそう教わったからな」

「え? 教わった?」


 アリシアは少し驚いた様子で訊き返した。


「ダークも誰かから戦い方を教えてもらったのか?」

「おいおい、当然だろう? 私だって初めから強かったわけではない。最初はとても弱く、自分よりも強い人と出会って戦い方を教えてもらい強くなったんだ」

「信じられないな、ダークにも弱かった時があったなんて……それで、貴方に戦い方を教えてくれたのはどんな人だったのだ?」


 強大な力を持つダークに戦い方を教えた人物が何者なのかアリシアは興味が湧きダークに尋ねた。


「何だ、知りたいのか?」

「勿論だ。神の様な強さを持つ貴方に戦い方を教えた師がどんな人なのか、気にならない方がおかしいだろう? それに同じ騎士として是非知っておきたいのだ。貴方の様な騎士を育てた人の事をな」


 微笑みを浮かべるアリシアを見たダークは腕を組みながら俯いてしばらく考え込んだ。アリシアはダークを見つめながら彼が答えを出すのを待つ。

 しばらくしてダークは顔を上げて遠くで訓練をしている生徒達の方を見ながら声を出す。


「……まぁ、知られたら困るような事でもないし、君にはちゃんと話しておいた方がいいかもしれないな。私がLMFにいた頃の事や私の師、そして仲間について……」

「本当か!?」


 ダークがLMFの事を話してくれる事になり、アリシアは笑って目を輝かせる。それを見たダークは心の中で目を輝かせるほどの事かと感じた。


「え~っと……まずは私に戦い方を教えてくれた人だったな?」


 アリシアはコクコクと頷く。ダークはすっと空を見上げながら昔話を始める。


「私に戦い方を教えてくれたのはジャスティス・ナイトウさんと言う人だ」

「ジャスティス・ナイトウ? 変わった名前だな?」

「ハハハ、そうだな」


 小首を傾げるアリシアを見てダークは小さく笑う。ジャスティス・ナイトウと言うのはLMFでのアバター名でありその人の本名ではない。ダークはアリシアやレジーナ達にはLMFは一つの世界であり、自分はその世界の出身であるという事にしてある。だからダークは今の自分のダークと言う名やジャスティス・ナイトウと言うのを本名という事にしていた。

 

「ダークに戦い方を教えたという事は、そのジャスティス・ナイトウと言う人も暗黒騎士なのか?」

「いや、彼は聖騎士だ」

「ええっ!?」


 ダークの師が自分と同じ聖騎士だと知り、アリシアは驚いて声を上げる。当然だ、暗黒騎士、この世界で言う黒騎士と聖騎士は対となる職業クラス。にもかかわらず聖騎士がダークに教えたとなれば誰でも驚く。


「聖騎士が暗黒騎士の貴方に戦い方を教えたのか?」

「いや、少し違うな。その時の私はまだ暗黒騎士ではなく、見習い戦士だったんだ」

「見習い戦士?」

「ああ、当時の私はまだLMFで戦士になったばかりの新米だった。強くなる為に多くのモンスターを倒して少しずつレベルを上げていった」


 LMFで戦士にばかりの新米、それはLMFに登録してゲームをやり始めたばかりの初心者という事を意味している。話をややこしくしない為にダークはアリシアが理解できるように説明していたのだ。アリシアはそんなダークの話を黙って聞いている。


「ある日、私はレアなアイテムを手に入れる為に深い森に入って行った。そこで危険な奴に目を付けられた」

「危険な奴?」

「その森に住むモンスターで一番凶暴と言われている奴だ。レベルは50もあった」

「レベル50のモンスター?」


 今のダークなら苦戦しそうもないレベルのモンスターにアリシアは意外そうな顔を見せる。


「ああ、その時の私はまだレベルが低く、一方的に攻撃されていた。そして追い込まれてやられそうになった時、ジャスティスさんに助けられたんだ」


 ダークは空を見上げながらジャスティス・ナイトウとの出会いを思い出す。

 LMFを始めてからしばらく経った頃、安物の武器や防具しか持っていないにもかかわらず、ダークは無謀にも中級モンスターが出る森へ入ってしまい、そこでその森に出現するモンスターの中で最大レベルのモンスターと出くわしてしまう。当時、レベルが低かったダークはそのモンスターにダメージを与える事ができず絶体絶命の状態に追い込まれる。そんな時、そのモンスターを一撃で倒し、ダークを助けてくれたのは一人の聖騎士だった。二本の騎士剣を持ち、白銀の全身甲冑フルプレートアーマーで身を包み、青いマントを羽織っている。顔はユニコーンの様な一本角を付けた兜を被っていて見えないが体格からその聖騎士が男である事は分かった。これがダークとジャスティス・ナイトウの出会いだ。

 ダークを助けた後、ジャスティス・ナイトウはダークを自分のギルドであるパーフェクト・ビクトリーの拠点へ案内する。そこでダークは多くの仲間と出会い、ギルドの新メンバーとして彼等の仲間になったのだ。


「私はジャスティスさんのギルドに入り、そこで多くの仲間の力を借りながらレベルを上げた。そしてジャスティスさんから接近戦の基本や戦い方などを教わり、一人でも強いモンスターを倒せるほどにまでなった」

「成る程、そんな事があったのか」

「それからある程度レベルが上がった私はジャスティスさんと一緒に行動するようになり、PK、プレイヤーキラーと呼ばれる殺人を犯す連中を見つけては一緒に倒していき、多くの人を助けた。そんな事を繰り返している内に私達はLMFでPKK、プレイヤーキラーキラーと呼ばれるようになった」

「殺人を犯すものを倒し人々を助けるか……フフ、LMFの人々にとって貴方達は正義の騎士だな」


 ダークとジャスティス・ナイトウの活躍を聞き、アリシアは笑う。それを聞いたダークも小さく笑い声を出した。


「そうだな……私はともかく、ジャスティスさんは間違いなく正義の騎士だ。とても正義感が強く、困っている人を見捨てられないという強い意志を持っていた。だから彼は光と正義をイメージする聖騎士を職業クラスに選んだのだろう」

「……だけど、聖騎士であるジャスティス・ナイトウから戦い方を教わったのになぜダークは暗黒騎士になったんだ? ジャスティス・ナイトウは貴方が暗黒騎士になる事に反対しなかったのか?」

「反対などしない。ジャスティスさんは自分が戦い方を教えたからと言ってその人の選んだ職業クラスに文句を言ったりするような人ではないからな。それにLMFでは誰がどんな職業クラスを選ぶもその人の自由だからな」

「仲間の事をよく考え、見守っている……本当にいい人なんだな」


 他人に進み道を強要する事も無く、仲間に好きな道を歩ませるジャスティス・ナイトウの精神にアリシアは感動する。同時に自分が同じ聖騎士である事を誇りに思った。

 アリシアはもっとジャスティス・ナイトウの事が知りたくなり、ダークにジャスティス・ナイトウの事を詳しく訊く。


「ダーク、もっとそのジャスティス・ナイトウと言う人の事を教えてくれないか? 彼はどれ程の強さでどんな剣術を使えるんだ?」

「そうだなぁ……まず、ジャスティスさんはLMFの中でも五本の指に入るくらいの実力を持っている。LMFで開催されるプレイヤーバトルトーナメントでは優勝し続けていた」

「プレイヤー、バトル? 何の事か分からないが、それはダークよりも強いという事なのか?」

「ああ、強い。私もレベル100になってから何度か彼と手合わせをしたのだが一度も勝った事はない」

「ダークが一度も勝てなかった……そ、それじゃあ、ジャスティス・ナイトウのレベルは……」

「私と同じ100だ」


 ダークの言葉にアリシアは驚いて目を見開く。この世界ではあり得ないレベル100を持つ者がダーク以外にLMFの世界にまだいると聞けば驚くのは当然だった。

 驚くアリシアを見てダークは彼女の顔の前で手を振る。するとアリシアはハッと我に返った。


「……大丈夫か?」

「あ、ああ、すまない。少しボーっとしていた……それで、彼はどんな戦い方をしてどんな剣術や武器を使っていたのだ?」


 アリシアは気持ちを落ち着かせながら詳しくジャスティス・ナイトウの事を尋ね、ダークは質問に一つずつ答える。そんな二人の会話は授業が終わる時間まで続いた。


――――――


 日が沈んで夕方になった頃、魔法学院と騎士養成学院では全ての授業が終わり下校時間となる。生徒達はそれぞれ学院を出て自分達の家に帰っていく。生徒達が全員帰った頃、教師をしていたダーク達も学院を出て帰宅する。

 魔法学院を出たノワールは屋敷に向かって歩いて行き、その途中で騎士養成学院から帰るダークとアリシアと会う。そして三人はそれぞれの学院での出来事などを話しながら帰っていく。途中でアリシアと分かれ、ダークはノワールと自分の屋敷へ向かう。ノワールは子竜の姿へと戻り、ダークの肩に乗って休みながら屋敷へと戻った。

 屋敷に着いた頃には空はスッカリ暗くなり、町も静かになっていた。ダークとノワールが屋敷に戻るとモニカが二人を出迎え、二人は屋敷に入る。既に夕食の準備はできており、食堂ではレジーナ、ジェイク、そして子供達が自分の席に付いてダークとノワールが来るのを待っていた。ダークは兜と鎧を外して食堂に入り、ノワールも空を飛んでダークの後をついて行く。

 二人が食堂に入るとレジーナは待ちくたびれた様な顔を見せる。ダークは苦笑いを浮かべながら簡単に謝り、自分の席に付いた。ノワールもテーブルの上に下り、座り込んで目の前に並べられている料理を見つめる。全員が席に付くとようやく夕食となり全員は食事を始めた。

 ダーク達は料理を静かに口へ運んでじっくりと味わう。料理はモニカが作っており、その味はとてもしっかりとしている。


「んんん~! 流石はモニカさん、今日の料理も美味しいわねぇ?」

「当ったり前だろう? モニカの作る料理にはどんな一流料理人の作る料理だって敵わねぇよ」

「うん、確かにね!」


 モニカの作る料理を褒めるレジーナとジェイク。そんな二人の感想を聞き、モニカは小さく笑う。二人のリアクションを見て大袈裟だと思っているようだがどこか嬉しそうにも見えた。

 レジーナとジェイクが騒ぎながら料理を食べている間、ダークとノワールはそんな二人を見て小さく笑いながら食事を続ける。


「……あっ、そう言えば学院の方はどうだったの?」


 レジーナはダークとノワールを見て二人が今日学院でどんな事をして来たのか気になりダークとノワールに今日一日の事を尋ねた。するとダークとノワールは食事を止めてレジーナの方を見る。


「別に何も問題は無かったぞ? 最初は生徒達も不満そうな顔をしていたが、最後にはちゃんと話を聞いてくれた」

「僕の方も同じような感じでした」


 ダークとノワールは今日の学園での出来事や生徒達の態度をレジーナ達に話す。話を聞いたレジーナ達は少し意外そうな顔を見せる。黒騎士であるダークと少年の姿をするノワールに教えを受ける事に生徒達が不満に思い、真面目に授業を受けなかったのではと思っていたようだ。

 しかし、レジーナ達の予想と違い、生徒達がダークとノワールを教師と認めた事を知って全員が安心する。


「あたし達、最初は生徒達が言う事を聞かないんじゃないかって心配になってたんだけど、問題無かったみたいね」

「だな。二人の強さを見せれば生徒達も自然に兄貴とノワールの凄さに気付いて真面目に授業を受けようと考えるさ」

「二人ってさぁ、意外と教師に向いてるんじゃないの?」


 レジーナはフォークを咥えながらダークとノワールを見てニッと笑う。するとダークは苦笑いを浮かべながら首を横に振る。


「やめてくれ。俺は他人に教えると言うのが苦手なんだ。俺よりもノワールの方が人に教える事に向いている」

「そんな事はありません。僕だって人に教えるのは得意じゃありませんよ。僕よりもマスターの方が……」


 お互いに自分の相棒が教える側に向いていると話すダークとノワールを見て、レジーナ達は二人のやり取りが面白いのか二人に気付かれないように小さく笑う。


「……まぁ、その話は置いておいて、ノワール、お前は明日学院で何を教える予定なんだ?」

「明日ですか?」


 ダークがノワールに明日の予定を尋ねるとノワールは食事の手を止め、ダークの方を向き真面目な表情を見せる。


「……明日は僕が担当しているクラスが初めての実戦訓練をするんです」

「実戦訓練?」


 思ってもいなかった答えにダークは少し驚いた反応を見せた。勿論レジーナ達も同じ反応をしている。


「それって、首都を出てモンスターと直接戦うって事?」


 レジーナが細かい内容を尋ねるとノワールはレジーナの方を向いて頷く。


「ハイ、下級魔法を使いこなせるようになったクラスには一度実戦経験をさせておくのが魔法学院の決まりだそうです」

「ちょっとちょっと、それって大丈夫なの?」

「その生徒達は今まで学院の中で動かない的とかを使って魔法の練習をしてたんだろう? いきなりモンスターと戦って大丈夫なのかよ?」


 いきなり実戦訓練を始めていいのかと、レジーナとジェイクは不安そうな顔で尋ねた。


「勿論、実戦経験ゼロの生徒達だけで行かせる事はできないので訓練には学院の教師が同行するそうです。あと、戦うモンスターはレベルの低い下級モンスターだけですからそんなに心配する事ではないと言っていました……」

「心配する事はないねぇ……ダーク兄さん、どう思う?」


 レジーナはフォークで皿の上の料理を突きながら食事を続けるダークの方を見た。ノワールとジェイクもダークの方を向き、彼の意見を聞こうと黙ってダークを見つめる。


「……まあ、生徒達だけならともかく、ノワールや教師も一緒に行くなら問題ないだろう。それに相手にするのは下級モンスターだけなんだし、生徒達がよっぽど無茶な事をしなければ悪い結果にはならないさ」

「そう思う?」

「ああ、少なくとも俺は大丈夫だと思ってるぜ」


 ノワールや教師がいるから大丈夫だと考えているダークは心配する様子を見せずに答えた。レジーナとジェイクはダークがそう言うなら最悪の結果にはならないだろうと考える。

 するとダークは食事をする手を止めて目の前で座り込んでいるノワールを真剣な表情で見つめる。それに気づいたノワールも食事を止めてダークの顔を見上げた。


「でも、だからと言って気を抜いていいわけじゃない。実戦では何が起こるかは分からない……ノワール、自分の生徒達をしっかりと守ってやれよ?」

「ハイ、マスター」


 忠告を聞いてノワールは返事をした。自分を信頼してくれているダークの為にも明日の実戦訓練を必ず成功させるとノワールは強く思った。


――――――


 その頃、魔法学院の学院長室には城から戻ったザムザスとマーガレットの姿があった。ザムザスは自分の机について目の前に立っているマーガレットを見ている。


「……で、どうじゃった? ノワール君は?」

「ええぇ、とっても凄い素質を持っていましたよぉ? 中級魔法を使えますし、とても子供とは思えませんでしたぁ~」


 マーガレットは相変わらずの力の抜けた様な口調でザムザスの問いに答える。なぜマーガレットはザムザスとこんな会話をしているのか、実はマーガレットはザムザスからノワールのサポートをしながらノワールがどんな魔法を使え、魔法使いとしてどれだけの素質を持っているのか調べるように指示されていたのだ。

 ザムザスはノワールが子竜で人間の姿になって魔法が使える事以外は何も知らない。少しでもノワールがどんな存在なのかを知る為に魔法学院の教師をやってもらうよう依頼し、マーガレットを付き添いとしてノワールの事を調べる事にしたのだ。


「そうか……他には何かないか?」

「そうですねぇ……あと、中級魔法が使えた事で彼が担当したクラスの生徒達の殆どが彼を慕うようになりましたぁ~」


 それを聞いたザムザスは目を閉じて笑い出し、立ち上がって窓から夜の首都を眺める。


「フォッフォッフォ、そうかそうか。実は騎士養成学院の学院長も似たような事を言っておった。暗黒騎士ダークは一日で担当していたクラスの生徒達の心を掴んだような気がする、とな」

「本当ですかぁ? そのダーク殿と言い、ノワール君と言い、あの二人は何者なのでしょぉ~?」

「さぁな、儂も詳しくは分からん。マーディングから聞いた話ではこのセルメティア王国とは違う国の出身でアリシア・ファンリードに案内され、この首都にやって来て冒険者になったとか……」

「この国とは違う国ぃ? 何処なんですかぁ~?」

「分からん。マーディングも気になって訊いたらしいのじゃが、ダーク殿が話してくれなかったらしい」

「話してくれない……もしかして、よその国から来たお尋ね者なのではぁ~?」


 マーガレットはダークが他国から逃れて来た犯罪者ではないかと考え込む。素性や素顔、そして出身地を何も明かさないのだからそう思うのは無理もなかった。するとザムザスが振り返り、少し呆れた様な顔でマーガレットの方を向く。


「これこれ、そんな事を言うものではないぞ? 何者であれ、彼等はコレット様をお救いしてくれたのだ。素性を明かさないからと言って悪人だと決めつけてはならん」

「ハ~イ、すみません~」


 ザムザスに注意されてマーガレットは小さく俯いて反省した。

 彼女もダークの活躍は知っている。ミュゲルのアンデッド軍団を全滅させて首都アルメニスへの進攻を防ぎ、ガーヴィンのコレット暗殺計画からコレットを守った二人の功績は決して小さくない。今ではダークは首都アルメニスでは英雄と称えられている。そんな彼を悪人呼ばわりするのは流石に失礼だった。


「確かにダーク殿は黒騎士でどんな人なのかは分からん。じゃが、儂には彼が悪い人とは思えない。それに彼がこの町に来てから彼の周りが彼に影響されて少しずつ変わっていっているような気がするのじゃ」

「影響ぅ~?」

「調和騎士団の活躍、魔法、騎士養成の両学院の生徒達の成長、人間と言うのは特別な存在を見るとその存在に影響されて自然と何かが変わったり、自分から何かを変えようと考えるものなのじゃ」

「学院長はダーク殿がどんな影響を与えていると思うんですかぁ~?」

「さぁのう……少なくとも、悪い影響を与えてはおらんじゃろうな」


 ザムザスのダークに対する見方を聞いてマーガレットはへぇ~と言いたそうな顔をする。確かにザムザスも黒騎士の見方を変えた様な気がした。そうでなければ黒騎士であるダークに騎士養成学院の教師を頼んだりしない。マーガレットもザムザスの話を聞いてダークは他の黒騎士とは違うのではと感じ始めた。


「……ダーク殿は普通の黒騎士とは違い、何か特別な力を持っている、という事なんですねぇ~?」

「特別な力……フォッフォッフォ、そうかもしれんなぁ」

「ウフフフ」


 マーガレットは笑いながら自分の三角帽を取り、髪を整えてから再び帽子を被る。そしてザムザスを見ながら微笑みを浮かべた。


「引き続き、ノワール君のサポートをしながら彼がどれ程の魔法使いなのかを観察しますぅ~」

「ウム、頼んだぞ。もし彼が困っていたら助けてあげなさい」

「分かりましたぁ~」


 簡単は返事をしてマーガレットは学院長室を後にする。一人残ったザムザスは静かに窓から夜空を見上げた。


「影響か……そんな事を口にするという事は、儂も彼等から少しは影響をうけているのかもしれんのう……この歳になって影響を受けるとは、儂もまだまだという事か。フォッフォッフォ」


 髭を整えながらザムザスは楽しそうな顔で笑う。長い事生きて来た自分は若者から影響を受けるとは思わなかったのだろう。そんな自分に何かしらの影響を与えるダークにザムザスは興味を持つようになった。


――――――


 月明かりに照らされるダークの屋敷。レジーナ達は既に眠りに付き、屋敷の中は静寂に包まれていた。

 ダークの自室ではノワールが部屋の隅にあるダークのキングサイズベッドの枕元で丸くなって眠っている。しかし、ダークだけはまだ眠りに付いておらず、窓を開けて夜空を見上げていた。


「……こっちの世界に来て仲間の事を話す事になるとは思わなかったなぁ」


 夜空を見上げながらダークは昼間にアリシアに話したジャスティス・ナイトウの事を思い出す。こっちの世界に来て新しい生活を始めたダークはLMFでの仲間の事を話す事は無いと考えて今までずっと黙っていた。しかし、騎士養成学院で生徒達の訓練する姿を見て昔の自分を思い出して仲間であるジャスティス・ナイトウの事を話す事に繋がったのだ。


「まぁ、別に話しても困るような事でもないし、協力者であるアリシアに話すのは問題ないだろう……」


 呟きながらダークは話を聞いていた時のアリシアの顔を思い出す。同じ聖騎士でダークを強くしたジャスティス・ナイトウに興味を持ち、途中から目を輝かせながら話を聞いていたアリシアを見てダークは思わず笑ってしまう。

 昼間の事を思い出して笑っていたダークは自分を救い、強くしてくれたジャスティス・ナイトウの事を振り返る。真っ直ぐな心を持ち、ギルドの仲間達から信頼されているジャスティス・ナイトウ、当然ダークも彼の事を心から信頼していた。彼がいなければ今の自分はおらず、LMFで仲間達と出会う事もなく寂しくLMFをプレイしていただろう。ダークはそんな自分を変えてくれたジャスティス・ナイトウに改めて感謝する。


「ジャスティスさんと出会い、あの人の真っ直ぐな姿を見ていたからこそ俺はこの世界で忌み嫌われている黒騎士でも上手くやっていけてるのかもしれないな」


 ジャスティス・ナイトウのおかげでダークは強い意志を持つ事ができた。だからこそ、黒騎士でありながらも騎士団からも、冒険者ギルドからも信頼される存在になれたのだ。

 ダークもまた、ジャスティス・ナイトウの影響を受けた事でプレイヤーとしても一人の人間としても強くなったのだ。


「さて、明日も早いし、そろそろ休みますかねぇ」


 そう言ってダークは軽く肩と首を回して窓を閉める。そしてノワールを起こさないように静かにベッドに向かって歩いて行った。


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