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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第六章~天性の魔術師~
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第五十七話  魔法の授業


 ノワールが教室で生徒達に自己紹介をしている頃、ダークとアリシアも騎士養成学院で自分達が担当する教室の生徒達に挨拶をしていた。教室は魔法学院と同じ階段教室になっており、多くの生徒が席に付いてダークとアリシアを見ている。

 教師としてやって来たダークを見る生徒達の表情にはいろいろなものがあった。黒騎士で冒険者という事から軽蔑するような目で見る生徒がいれば七つ星でコレットを救ったという事から尊敬する目で見る生徒もいる。しかしダークは生徒達の表情を気にする様子を見せてはいない。


「あれがコレット殿下をお助けした黒騎士のダークだってよ?」

「へぇ~、そうなんだぁ……」

「コレット殿下を助けただけじゃなく、この首都を襲おうとしたネクロマンサーも倒して首都を救ったんだってよ」

「おいおい、それじゃあ英雄って事かよ、あの黒騎士?」

「ああ。あと、隣にいるアリシアって人はこの学院の卒業生でダークと一緒にコレット様を救った聖騎士らしいぞ?」

「凄~い、そんな人達から剣を教えてもらえるなんて、私達ラッキーよね?」


 教卓の前で教師に紹介されているダークとアリシアを見て、生徒達は二人に聞こえない様な声でコソコソと話をしている。見習い騎士で実戦経験の無い彼等にとっては英雄扱いされているダークとアリシアから剣を教わる事を幸運に思っているらしい。

 しかし、中にはそれを幸運と呼ばない者も何人かいた。


「何がラッキーだよ。所詮は国への忠誠心を無くした黒騎士だぞ? そんな奴から教わるなんて、冗談じゃない」

「まったくだ。俺達はこれから国に忠誠を尽くす騎士になるのに、忠誠心を無くした奴から剣を習うなんてよぉ」

「何よ、その言い方? 黒騎士でも彼がこの町の為に尽くしてきたのは事実でしょう?」

「黒騎士でも彼の騎士としての実力は優れているんだ。黒騎士だからって軽蔑するなよな?」


 ダークを黒騎士だという事で冷たい目で見る生徒達をダークとアリシアを尊敬する生徒達が注意し、お互いに睨み合う。小声でもめているが、その表情は徐々に険しさを増していった。

 席で言い合いをする生徒達を見た教師は呆れた様な顔で溜め息をつき、手をパンパンと叩き生徒達の注目を集めた。


「お前達、コソコソ話していないでちゃんと話を聞け! これからこの後の授業の流れについて話すんだからな!」


 教師に注意されて生徒達は全員黙り込む。全員が黙ったのを確認すると教師は今日の授業の流れを説明し始める。その後ろではダークとアリシアが並んで立っており、生徒達の様子を観察していた。


「やはり、黒騎士である私の事を軽蔑する者もいるようだな?」

「ああ……だけど貴方の実力を知れば見方も変わるはずだ。訓練の時にそれを教えてやればいい」

「……そうだな」


 生徒達と同じように聞こえない様な小さな声で会話をするダークとアリシア。生徒が黒騎士であるダークを軽蔑する事を予想していたダークとアリシアは驚いたり生徒達に怒りを露わにする事は無かった。


「最初の授業は戦士系の職業クラスとその長所と短所、そして戦闘時の陣形について勉強する。その後は外で剣の訓練だ」


 教師は今日の授業内容を生徒達に話し、生徒達はそれを黙って聞く。ダークとアリシアはそれを黙って聞いていた。


「ダーク殿、アリシア殿、お二人には外での訓練の時に生徒達に指導していただきます。それまでは教室の隅で授業をご覧になっていてください」

「分かりました」


 教師に指示され、ダークとアリシアは教室の隅へ移動して用意されていた自分達の椅子に腰を下ろす。二人が頼まれたのは剣の訓練の時に生徒達に指導するという事だけなので学科の授業ではやる事がない為、授業を見学する事になっているのだ。

 ダークとアリシアも剣を教える事はともかく、教師の資格を持っていないので知識を教えるはできない。それ以前に二人は知識を生徒達にちゃんと教える自信が無かった。だから知識を教えなくてもいいという事に少し安心している。


「では、昨日の復習から始めるぞ? まず、戦士系の職業クラスだが……」


 教師は黒板の方を向き、チョークで職業クラスの名を一つずつ書いて行く。生徒達は教科書やノートを開いて昨日まで習った授業の内容をチェックし始めた。


「……私も学院にいた時はああやって黒板に書かれた内容をノートに書き写していたなぁ……」


 生徒達が黙って授業を受ける姿を見てアリシアは懐かしそうな表情を浮かべる。彼女も騎士養成学院の出身である為、生徒達の姿を見て昔の事を思い出していた。

 アリシアの隣に座るダークも腕を組んで生徒達を見ている。彼も少し前までは現実リアルの世界で大学に通い、今いる階段教室で講師が書いた内容をノートに書いて勉強していた。それを思い出してダークも現実リアルの世界での暮らしを懐かしく思っているようだ。しかし、今となればそれもただの思い出に過ぎない。今はこの世界で暗黒騎士ダークとして生きていく事が彼の現実である為、そんな懐かしい気持ちはすぐに消えてしまう。


「……そう言えば、ノワールは今頃どうしているだろうなぁ」


 ダークが教室の窓から外を眺めながら呟く。それを聞いたアリシアはダークの方を向いてノワールの事を考える。


「ノワールなら大丈夫だろう。彼は幼いが頭がいい。きっとすぐに生徒達とも仲良くなるさ」

「フッ、やっぱり君もそう思うか?」

「ああ」

「なら、私もノワールに訊かれた時に胸を張って答えられるよう、頑張らないといけないな」


 ダークはノワールに負けられないとやる気を出す。アリシアはそんなダークを見た後に笑いながら再び生徒達の授業を見学する。二人ともノワールなら上手くやると信じているようで心配そうな様子は一切見せなかった。


――――――


 同時刻、ノワールが担当する教室でも授業が始まっていた。ノワールもダークと同じで学科の授業は教える事ができない。その為、実技の授業が始まるまでは教室の隅で椅子に座りながら学科の授業を見学する事になっていた。

 教室の隅で椅子に座るノワールの姿を見て生徒達、特に女子生徒の殆どがノワールの可愛らしい姿に見惚れており、授業を聞かずにノワールを眺めている。ノワールは自分に注目する女子生徒達を見て不思議そうに小首を傾げていた。


「……あのぉ、どうして女子の人達は僕の事を見ているんでしょうか?」


 ノワールは隣に座っているマーガレットに女子生徒達が自分を見ている理由を尋ねた。するとマーガレットは生徒達を見た後にノワールの方を向いて微笑んだ。


「ウフフフ、それはノワール君が可愛いからよぉ~」

「可愛い? 僕がですか?」

「ええぇ。あれぐらいの歳の女の子って言うのはねぇ、小さな動物や貴方みたいな幼くて礼儀正しい男の子を可愛いって思うのよぉ~」

「そう、何ですか……」


 いまいち理解できないノワールは女子生徒達の方を向いてまばたきをする。ノワールは自分が可愛い姿をしているのかがいまいちよく分からない。だから他人から可愛いと言われてもいまいちピンと来なかったのだ。

 LMFでは全てのプレイヤーがノワールと同じ使い魔を連れており、その使い魔の人間の時の姿は全てノワールと同じくらいの容姿をしている。つまり、LMFの使い魔全てが幼い少年や少女の姿をしているのだ。だからLMFでは幼い人間の姿をした使い魔を見慣れているプレイヤー達は使い魔の事を可愛いと言う事が少なく、ノワールも自分以外の使い魔を見て自分の姿は普通だと思っている。だから女子生徒から可愛いと思われていると言われてもよく分からなかった。

 女子生徒達がノワールを見ている時、男子生徒の大半はマーガレットに注目している。マーガレットはその外見と露出の多い服装で学院中の男子生徒達を虜にしている。しかし本人はその自覚がまるでない。マーガレットの姿から学院の風紀を乱すのではと考える教師も大勢いるが、マーガレットはそんな事は気にもせず、服装を変えようともしなかった。その為、マーガレットは一部の教師達からは変人扱いされている。


「……何だか皆、黒板じゃなくってノワール君とマーガレット先生の方ばっかり見てるね?」


 周りの生徒達が授業に集中していない姿を見てアリアは苦笑いを浮かべている。その隣に座るリゼルクも呆れた様な表情を浮かべていた。


「勉強になるって先生は言ってたけど、あの二人が来た事で逆に勉強に集中できなくなってるじゃねぇか」

「ア、アハハハ、そうだね……」


 勉強ができない状況にリゼルクは頬杖を突きながら溜め息をつき、それを見たアリアは笑う。二人以外に真面目に授業を受けている生徒達も授業に集中していない生徒達を見て呆れ顔になっていた。


「まったく、こんな事で授業に集中できないなんて、情けないわね」


 アリアとリゼルクの真後ろから聞こえてくる女の声に二人は振り返った。二人の後ろには一段高い席があり、そこには一人の女子生徒が座っていた。年齢はアリアと同じくらいで眼鏡をかけた小麦色のミディアムヘアーをしており、少し目つきが鋭い少女だった。

 女子生徒は周りでノワールとマーガレットを見ている生徒達を見てくだらなそうな顔をする。そんな女子生徒を見てアリアはそっと声をかけた。


「まあまあ、ユーリちゃん。可愛い男の子と綺麗なお姉さんが授業を見てるんだもん。皆、気になってしょうがないんだよ」

「これぐらいで集中力を途切れるようじゃ、立派な魔法使いになるなんて到底無理よ」


 ユーリと呼ばれる女子生徒は低い声を出しながら黒板に書かれたる内容を羽ペンでノートに書いて行く。そんなユーリを見てアリアは困り顔を浮かべた。


「ヘッ、流石はクソ真面目な委員長様だなぁ。クラスで一番成績がいいからって他の連中を平気で見下すとは、随分お偉い事ですねぇ」

「……何ですって?」


 アリアの隣で会話を聞いていたリゼルクが自分の教科書を読みながらユーリを挑発し、それを聞いたユーリは低い声を出しながらリゼルクを睨む。リゼルクは後ろを向いてユーリを睨み返し、アリアは睨み合うリゼルクとユーリを見ながらアタフタする。

 すると、黒板に文字を書いていた教師が授業に集中していない生徒達に気付き、深く溜め息をついた。そして持っている教科書で教卓を強く叩き生徒達の注目を集める。教卓を叩く音に反応してアリア達生徒は一斉に教師の方を向いた。


「お前達、ここは次の学科テストに出るところだぞ? ちゃんとノートに書き写しておけ!?」


 教師に注意され、生徒達は慌てて黒板の内容をノートに書き写す。その光景を見ていたノワールはまばたきをし、マーガレットはクスクスと笑っていた。

 それから一時間後、学科の授業が終わり、生徒達は次の授業を受ける為に外にある魔法訓練場へ移動する。ノワールとマーガレットも生徒達と共に魔法訓練場へ向かう。その間、ノワールは多くの女子生徒達に囲まれて色んな事を質問された。


「ノワール君、君、何処に住んでるの?」

「歳は幾つ?」

「どんな魔法が使えるの?」

職業クラスは何? ウィザード?」

「その頭に付いている角って髪飾り?」


 多くの女子生徒に囲まれながら色んな事を訊かれるノワール。そんな女子生徒達に戸惑いながらもノワールは一つずつ質問に答えていく。その様子をノワールから数m後ろで見ているマーガレットは小さく笑っており、その隣を歩くアリアとリゼルクは目を丸くしながらノワールを見ていた。


「初日からあんなに人気になるなんて、ノワール君も大変ねぇ~」

「そ、そうですね……」

「そりゃあ、あんなに小さいのに魔法使いであの有名な暗黒騎士ダークの知り合いだって言うんだから、皆が興味を持つのも当然だろうな」

「ウフフフ、そうねぇ……それにしても、あんなに小さいのに魔法を使えるなんて、あの子本当に何者なのかしらぁ? 学院長は特別な体質を持った子供だって言ってたけどぉ~」


 マーガレットはノワールを見つめながらザムザスの説明を思い出す。アリアとリゼルクもノワールの秘密に興味があるのか女子生徒に囲まれているノワールを見つめている。

 ザムザスはノワールの正体がダーク使い魔である子竜である事を知っている。だが、子竜が人間の姿になれるという事が広がれば大騒ぎになる為、ザムザスはノワールが子竜である事を隠し、特別な体質を持つ子供だとマーガレットや学院関係者に話した。

 生徒達はノワールの事で騒ぎながら廊下を歩き、学院の外へ向かう。そしてしばらく歩いて目的地の魔法訓練場へ辿り着いた。

 魔法訓練場に着くと生徒達はすぐに整列する。ノワールとマーガレットは魔法を教える教師と共に整列する生徒達の前に立ち、授業の説明を聞く。生徒達は真面目な表情で教師の話を聞いている。


「今日の実技の授業は新しい魔法の習得と練習をする。お前達はそれぞれ得意な属性があるだろうが、今日は自分が苦手とする属性の魔法に挑戦するように!」

『ハイ!』


 教師の言葉に生徒達は声を揃えて返事をする。その様子を見てノワールは少し驚いた。学科の授業の時、生徒達は教師の話を聞いていなかったが、実技の授業になると突然やる気に満ちた顔をしている。それを見てノワールは生徒達は学科は嫌いだが実技は好きなのだと気付く。

 授業が始まると生徒達は一列に並び、数m先にある的に向かって魔法を放つ練習を始める。生徒達の使う魔法は全てファイヤーバレットやウインドカッターのような下級魔法ばかりだった。やはり魔法使いの見習いで魔力が少なく知識も無い為、中級魔法以上を使う事はできないようだ。それでも生徒達はしっかりと魔法を放ち、正確に的に命中させていった。


「ウフフ、このクラスの生徒達は実技は遅れているけど、皆魔力の扱いが上手い生徒なのぉ。だから練習すればすぐに苦手な魔法も覚えられわぁ~」

「へぇ、そうなんですね……」

「だ、か、ら、貴方にはこの子達にできるだけ多くの魔法の使い方を教えてほしいのよぉ~」

「多くの……それは下級魔法だけですか? 中級の魔法とかも教えてもいいんでしょうか?」


 ノワールの質問を聞き、マーガレットは少し驚いた様な顔を見せる。目の前にいる少年は下級だけでなく中級の魔法まで教えようとしている。それはつまり、ノワールは中級魔法も使えるという事だ。まだ幼い少年が中級魔法を使えるなんて知ればマーガレットも驚くのは当然だった。


「……貴方、中級魔法も使えるのぉ~?」

「ええ、少しだけですが」


 ノワールは表情を変えずに小さく頷き嘘をつく。

 魔法使いが使える魔法の種類によってその魔法使いのレベルや職業クラスが分かる。もしノワールが上級以上の魔法が使えるという事がバレればノワールが人間の子供ではないと疑われるかもしれない。ノワールは自分の正体がバレないように自分が使える魔法が中級までだとマーガレットに説明した。

 マーガレットは少し怪しむ視線をノワールに向けながらしばらく彼を見つめる。やがて小さく息を吐きながら練習をする生徒達の方を向いた。


「……まぁ、貴方の様な男の子が魔法を使えるという事自体が驚く事だからねぇ。学院長も特別な体質だって言ってたし、中級魔法を使えても不思議じゃないかぁ~」

「……フゥ」


 何とか納得したマーガレットにノワールは小さく息を吐いて安心する。

 ノワールとマーガレットが会話をしている間に生徒達が魔法の練習を終えて次の生徒達と交代した。順番が回って来た生徒達は一列に並び遠くの的を見つめる。その生徒達の中にはアリアとリゼルク、そしてユーリの姿があった。

 アリアは杖を両手でしっかりと持ち、杖の先に魔力を送る。そして一定の魔力が溜まると杖の先を的に向けて狙いを付けた。


「……水の矢アクアアロー!」


 魔法の名前を叫ぶとアリアの杖の先から水の矢が放たれて的に向かって飛んで行く。ところが水の矢は的のアリアと的の丁度真ん中あたりで高度を落とし、的に当たる事なく地面に落ちてしまった。


「あ~あ、また失敗だぁ~」

「お前は本当に水属性の魔法が苦手だな?」


 アリアの右隣に立つリゼルクが呆れた表情を浮かべる。するとアリアは頬を膨らませながらリゼルクの方を向く。


「仕方ないでしょう? 上手く魔力を練り込めないんだからぁ!」

「そんな苦手を克服する為に今回は苦手な属性の魔法を練習してるんだろう? 俺だって水属性は得意だけど風属性が苦手だからこうして練習してるんだぞ」

「むぅ~! それはそうだけどさぁ~!」


 苦手な魔法が上手くできない事にアリアは不貞腐れ、そんなアリアを見てリゼルクは溜め息をついた。するとリゼルクの右側から大きな音が聞こえ、リゼルクとアリアは音のした方を向く。そこにはユーリが杖を構えている姿があり、彼女の視線の先には一部が焦げている的があった。どうやら魔法が上手く命中したようだ。


「……フッ」


 魔法が上手く的に当たり、ユーリは自慢げに笑う。それを見たアリアとリゼルク、そして他の生徒達は驚きの表情を浮かべている。


「相変わらず凄いよな、ユーリの奴?」

「ああ、アイツの場合は苦手な属性もすぐに使えるようになっちまうもんなぁ」


 男子生徒達の話を聞いてノワールはユーリに注目する。他の生徒と違って少しクールな雰囲気を出すその少女を見てノワールは隣にいるマーガレットに声をかけた。


「あの人、誰ですか?」

「んん? ……ああぁ、あの子はユーリ・フォールズよぉ。このクラスの委員長で入学当時からその優秀な成績で話題になっている子よぉ~」

「エリート、ですか」

「ええぇ、何でも小さい頃から魔法の勉強をしてたらしく、将来は学院長の様なメイジになるって言ってたわぁ~」

「え? メイジ?」


 ノワールはマーガレットの言葉を聞き、思わず聞き返した。


「あら、言ってなかったかしらぁ? ザムザス様の職業クラスは魔法使いで最高と言われているメイジなのよぉ?」

「へ、へぇ~、そうなんですか」

「そう。因みに私はファイア・ウィザード、炎の魔法を得意とする職業クラスよぉ~」


 ザムザスの職業クラスを話した後に自分の職業クラスを笑顔では話すマーガレット。しかしノワールはマーガレットの職業クラスの事は何も気にしておらず、ザムザスの事を考えていた。


(この世界で魔法使いの最高職がメイジ……という事は僕の職業クラスであるハイ・メイジは存在しないって事かぁ……これは尚更僕の職業クラスが他の人に知られるのはマズくなったぞぉ? 存在しない職業クラスを持っているって事がバレれば僕やマスターが別の世界から来たって事がバレるかもしれない……気を付けないと)


 改めてアリシア達以外の人間に自分とダークの正体がバレないように用心するノワール。そんなノワールをマーガレットは不思議そうに見つめていた。

 生徒達が一通り魔法の練習を終えると教師が生徒達を集める。生徒が全員集合すると教師はノワールの方を向いて手招きをした。それに気づいたノワールは教師の下へ向かう。


「どうしたんですか?」

「生徒達の練習は一通り終わった。ノワール君、早速生徒達に君の知っている魔法を教えてほしい。できれば下級の魔法がいいな。そして生徒達が上手くできなかったらアドバイスをしてあげてくれ」

「あ、ハイ。分かりました」


 いよいよノワールが生徒達に魔法を教える時が来た。ノワールは集まっている生徒達の方を向いて生徒達の反応を見る。

 目の前に並んでいる生徒達はいろいろな表情を浮かべていた。ワクワクした様子の生徒やノワールを可愛いと思い微笑む生徒、そしてこんな子供に何ができるんだと言いたそうな蔑む様な顔をする生徒もいる。ノワールはそんな生徒達の反応を簡単に見た後に一度目を閉じて深呼吸をし、閉じていた目を開く。


「え~っと……それでは、皆さんは下級魔法は一通り使えるみたいなので、中級魔法を教えようかなと思います」


 ノワールの言葉に生徒達や教師は一斉に反応した。いくら七つ星冒険者であるダークの仲間でザムザスに推薦されたとは言え、自分達よりも幼い少年が自分達がまだ使えない中級魔法を使えるなど信じられないのだろう。生徒達の中には驚く者もいればノワールが中級魔法を使えるはずがないと馬鹿にしている様な顔をする生徒も何人かいた。

 当然ノワールも生徒達がどんな反応をするかは分かっていた。だが、下級魔法を使える生徒に下級魔法を教えても生徒達の不満を買うだけだ。だったら思い切って中級魔法を教えた方がいいと考え、中級魔法を教える事にした。


「それでは、まずは火属性中級魔法を教えようと思います。それじゃあ、あっちの的を――」

「待ってください」


 ノワールが的の方を向いて魔法の説明をしようとした時、ユーリが手を上げてノワールの説明に割り込む様に発言して来た。ノワールや周りの生徒達は一斉にユーリの方を向く。ユーリは生徒達の間を通り、ノワールに近づいていく。

 近づいて来るユーリをノワールは表情を変えずに見つめている。そして目の前にやって来たユーリをまばたきしながら見上げた。


「何でしょうか?」

「私達はまだ下級魔法を完全に使いこなしていません。中級に入るのは下級魔法を完全に使いこなせるのようになってからの方がいいと思います」

「僕は皆さんが下級の魔法を使いこなしていると考えて中級を教えようと思ったんですけど……」

「いいえ、私達はまだ下級の全てを覚えた訳ではありません。私だって、まだ半分程度しか覚えていないのですから」


 ユーリがノワールに言った言葉を聞き、一部の生徒達は反応してユーリを睨む。今のユーリの言い方は自分は半分覚えても他の生徒は半分も覚えられていない。つまり遠回しに馬鹿にされたように聞こえたのだ。


「それに中級魔法を使うには多くの魔力が必要になります。私達の魔力の容量ですら中級魔法を使えるか分からないギリギリなのに私達より幼い貴方が中級魔法を使えるほどの魔力を持っているとは思えません」


 その言葉を聞いた途端、生徒達のユーリを睨む目が消え、目を見開いてユーリを見た。確かにユーリの言う通り、幼い少年の姿をするノワールが魔法学院の生徒よりも魔力容量を持っているのは考え難い。それは生徒だけでなく、マーガレット達学院教師も同じだった。


「……もしかすると、貴方は自分の使える魔法を中級魔法と勘違いしているんじゃない? それか中級魔法は使えないのに使えると嘘を付いているのか……」


 鋭い目でノワールを見つめるユーリを生徒達は少し緊張しながら黙って見ている。他の生徒達にはその光景はユーリが幼くして目立っているノワールをいじめている様に見えていた。

 ユーリはクラスの中でも最も成績が良く、クラスの委員長を務めていた。優秀な魔法使いになる為に人一倍の努力をして来た彼女は常にクラスでトップに立っている。そのせいか、自分よりも目立つ存在が気に食わないと思う一面も時々見せていた。その度にユーリはその相手に屁理屈を言ったり、自分の成績を見せつけて自分よりも目立たないように大人しくさせていた。その為、ユーリはリゼルクや一部の生徒から嫌われている。

 子供相手に大人げない態度を取るユーリを見てマーガレットは止めようとする。するとノワールは落ち着いた様子でユーリを見上げながら口を開く。


「確かにこの状況では僕が中級魔法を使えると言っても信じられませんね……分かりました。では、証明も兼ねてお見せします」


 ノワールの意外な言葉にユーリや生徒達は驚きの表情を浮かべる。マーガレットも少し驚いた様子を見せていた。

 再び的の方を向いたノワールは持っている杖の先を的に向けて魔力を杖に送り込む。そしてある程度魔力を送り込むと遠くに見える的を見つめる。


火炎弾フレイムバレット!」


 ノワールが叫んだ瞬間、杖の先から大きな火球が現れて的に向かって放たれる。火球は的に当たると大爆発を起こして命中した的だけでなく、近くにある別の的も吹き飛ばした。

 <火炎弾フレイムバレット>は火弾ファイヤーバレットの強化版である中級魔法。大きな火球を放ち、敵に命中すると爆発して近くにいる敵も爆発で吹き飛ばしてダメージを与える為、非常に使える魔法だ。火弾ファイヤーバレットよりも攻撃力が高いだけでなく射程も長くなり、火弾ファイヤーバレットでは届かない場所にいる敵にも攻撃は当たるようになった。

 教師や生徒達は目の前で起きた爆発に目を丸くして驚く。勿論マーガレットも目を見開いて驚いていた。ノワールは振り返ってそんなマーガレット達の反応を見てまばたきをする。


(あれぇ? 強すぎたかなぁ? ギリギリまで魔力は抑えたつもりだったんだけど……)


 マーガレット達の様子を見たノワールは魔力をコントロールするのに失敗したかと感じ、杖を見ながら小首を傾げる。するとさっきまで驚いていたマーガレットが我に返り、ノワールに近づいて声をかけて来た。


「ね、ねぇ、ノワール君? さっきのって、火炎弾フレイムバレットよねぇ~?」

「……ハイ、そうですけど?」

「私も火炎弾フレイムバレットは使えるけど、あんなに大きな爆発は起こらないわぁ。貴方、一体どれだけの魔力を持っているのぉ~?」

「どれだけって……僕にも正直分かりません」


 肩をすくめながらノワールは自分の魔力がどれだけあるのか分からないと嘘をつく。魔力の容量、LMFで言うところにMPの事を話せばそこから正体がバレる可能性が出てくると考えて誤魔化す事にしたのだ。

 分からないと言うノワールを見てマーガレットは目を丸くしたまま呆然とする。そんなマーガレットをそのままにノワールは驚き続けている生徒達の方へ歩いて行く。固まっているユーリの前へやって来ると小さく笑った。


「これで、信じてもらえますか?」

「……え、ええ……」


 驚いたままユーリはゆっくりと頷く。ノワールは自分の実力を信じてもらえた事でニコッと笑みを浮かべた。


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