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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第五章~王国の暗躍者~
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第五十話  疑わしき人物


 マクルダムたちと別れたダークたちは正門を潜って城の外へ出る。正門が大きな音を立てて閉じるとダークたちは振り返ることく歩き続けた。星が輝く空の下でダークたちは横一列に並びながら歩く。


「しっかし、今回は大変じゃったのう? まさかこんな大事になるとは思ってもいなかったぞ」

「そうですね……それにしても王女であるコレット様の命を狙おうなんて、敵の目的はなんなのでしょうか?」

「さあな、ドラゴンである妾にはさっぱり分からん」


 両手を後頭部に当てながら他人事のように言うマティーリアを見てノワールはダークの肩に乗りながら苦笑いを浮かべる。いくら自分がドラゴンで人間の社会には興味がないと言ってもコレットの襲撃を目の当たりにし、彼女を守ったのだから少しは真面目に考えてほしいとノワールはマティーリアを見ながら思っていた。

 めんどくさそうな顔をしながら歩くマティーリアの隣ではアリシアが呆れた顔でマティーリアを見ている。今の発言と言い、昼間のコレットとのやり取りと言い、マティーリアの態度の悪さをなんとかしないといつか問題を起こすと考え、アリシアはマティーリアの性格改善を考えるのだった。

 アリシアがマティーリアを呆れながら見ているとアリシアの隣でダークが低い声を出しながら何かを考え込んでいる。ダークの声を聞いたアリシアがふとダークの方を向き、考えながら歩いているダークを黙って見つめた。


「どうした、ダーク?」

「ん? ……ああぁ、コレット様を襲わせた黒幕についてな」


 ダークがコレットを仮面の男たちに襲わせた黒幕のことを考えていたと知り、アリシアの表情が変わる。マティーリアを見て苦笑いを浮かべていたノワールやめんどくさそうな顔をしていたマティーリアも反応してダークの顔を見た。

 四人の周りの空気が変わり、ダークたちは真剣な表情で歩く。するとアリシアが前を向いたままダークに問いかけてきた。


「……ダーク、貴方は今回の事件の黒幕、どんな奴だと思う?」

「どんな? それは黒幕の性格についてか? それとも黒幕の正体についてか?」

「両方だ」

「そうだな……」


 星空を見上げながら歩くダークは黙り込む。今ダークは頭の中で今分かっていることを整理し、それをどういう順番に話すかを考えている。アリシアたちは黙ってダークが答えるのを待った。

 しばらくしてダークは空を見上げるのをやめてチラッとアリシアの方を向いて声を出した。


「まず、敵の性格だが、かなりずる賢く、卑劣な性格をしているな」

「なぜそう思う?」

「どうやったかは知らないが、黒幕はマッケン家の紋章の入った装備を手に入れてそれをならず者たちに渡している。これはもし暗殺に失敗してもコレット様暗殺の罪をマッケン家に擦り付けるためだ。マッケン家が捕まって騎士団に拘束されれば黒幕が追われることは無くなるからな」

「マッケン家に全てを押し付けるために紋章の入った装備をならず者たちに渡したと?」

「私はそう考えている」

「クッ! 確かにその黒幕と思われる男、相当卑怯な奴だな」


 自分の罪を他人に擦り付ける黒幕にアリシアは怒りを覚える。騎士として人を利用し、罪を擦り付けるという行為を平気でする黒幕をアリシアは許せないのだろう。


「あと、黒幕の正体だが……恐らく貴族だろう。それもかなり上位のな」

「何っ?」


 ダークが口にした黒幕の正体を聞き、さっきまで怒りの表情を露わにしていたアリシアの表情が一気に驚きへと変わる。ノワールとマティーリアも少し意外そうな顔をしており、黙ってダークを見ていた。


「黒幕が上位の貴族?」

「マスター、それは本当なんですか?」

「これも私の推測だ……だが可能性は高いだろう」

「根拠はあるのか?」


 マティーリアが興味のありそうな口調でダークに尋ねる。するとダークは立ち止まってマティーリアの方を向き、何も言わずに頷いた。

 根拠があると知ったアリシアも立ち止まり、マティーリアもつられて止まった。アリシアとマティーリアが立ち止まるとダークは二人の方を向いて根拠を話し出す。


「まず、夕方に私たちを襲った仮面の男たちだ。アイツらは格好も名前も変えていたコレット様の正体を見破った。私たちは町に入ってからずっとコレット様をコニーと呼んでいたにもかかわらずだ」

「ああ、確かに……」

「……で、それがどうかしたのか?」

「おかしいと思わないか? 町に入ってからずっとコニーと呼んでいたのになぜあの男たちはコニーがコレット様だと分かったんだ?」

「あっ! 確かにそうだ。いつものドレスとは違い、今日の殿下は町の娘たちと同じような格好をしていたのだ。その姿でコニーと呼んでいれば周りの人は王女だと思わない」

「そうだ。つまりアイツらは最初からコレット様がコニーと名乗って外出することを知っていたということになる」


 仮面の男たちはコニーがコレットで彼女が城を出て町へ行くことを知っていた。予想外のことにアリシアは驚きのあまり目を見開く。マティーリアは意外そうな顔でダークの話を聞いている。


「メノルから聞いた話では今日コレット様が外出することは知っているのは王族の方々を除いて極一部の上位貴族だけだ。しかしそうなると新たに疑問が浮上する……なぜ王族や貴族しか知らないコレット様の外出のことをあの男たちが知っていたのかということだ」

「……ただのならず者が王族の外出予定の情報を得るなど不可能だ……ということは……」

「コレット様が外出することを知っている人物があの男たちに情報を流した、ということになる」

「そ、そんなことが……誰がそんなことを……いや、それ以前になぜ上位の貴族が殿下の御命を狙うんだ?」

「それはまだ分からん。情報が少なすぎるからな」


 驚きの事実にアリシアは驚きの表情を浮かべながら俯く。自分の国の上位の貴族が王族の命を狙う事件に関係していると聞けば驚くのは当然だった。

 アリシアが驚いている隣ではダークが星空を見上げながら黒幕が誰なのか、なぜコレットの命を狙うのか理由を考える。だが、彼自身が言ったように情報が少なすぎるため、まだ詳しいことは分からない。しかしそんな状態でもダークには黒幕の手掛かりが一つだけ分かっていた。


「そういえば、ガーヴィンと言ったか? コレット様の婚約者」

「ん? ああ、そうだが」

「……あの男は注意した方がいい」

「え?」


 またしても予想外の言葉を聞いたアリシアは思わず声を漏らした。


「注意した方がいいって、どういうことだ?」

「あの男、もしかすると今回の一件の黒幕か、その黒幕の協力者かもしれないということだ」

「馬鹿な! あの人はコレット殿下の婚約者だぞ? なぜガーヴィン殿が婚約者であるコレット殿下のお命を狙うのだ!?」

「落ちつけ、あくまでも可能性だ……しかし、ガーヴィンが黒幕に関係のある人物である根拠はある」

「何だ?」

「さっきあの男が私たちの前に現れてコレット様の心配をしていただろう? その後、アイツはこう言った……その仮面の男たちは何者なのでしょうか? とな……」

「ああ、確かにそう言われたな」


 アリシアはエントランスでガーヴィンが自分達の前で言った言葉を思い出す。ノワールとマティーリアも同じように思い出している。


「……あっ!」


 ダークの肩に乗って考えていたノワールが何かに気付いてふと顔を上げる。するとダークはノワールの方を向いて低い声を出す。


「気付いたか? そうだ、あの段階ではまだコレット様を襲ったのはマッケン家の紋章の入った装備をした男たちとだけしか陛下たちに伝えていない。なのにガーヴィンは陛下たちに話していない仮面のことを知っていた。襲ってきた男たちを目にした私たちしか知らないことをガーヴィンが知っているなんてどう考えてもおかしいことだ」

「た、確かに……」

「しかし若殿、あの男が別の者から情報を聞いたという可能性もあるのではないか?」

「城に戻ってから私たちは襲ってきた男たちの人数と装備品のこと以外は話していない。つまり仮面のことは男たちを直接見た私たちしか知らない情報だったのだ」

「なるほど、確かにそれを考えるとあの若造が仮面のことを知っているのは確かにおかしいのう」


 マティーリアは腕を組みながら難しい顔をする。アリシアもコレットの婚約者であるガーヴィンがコレットの命を狙う黒幕と繋がりがあるということに驚き、同時になぜそんなことになっているのかを考え始めた。

 ガーヴィンがコレットと結婚すればガーヴィンの家であるラパルタン家は王家と血縁関係となる。そうなればラパルタン家はセルメティア王国の歴史に名前が残すことになるのだ。だがコレットが死ねば当然婚約も無かったことになり、ラパルタン家は王家と血縁を結ぶこともできず、名門家として名を残すチャンスを失う。ガーヴィンにとって、そしてラパルタン家にとってもコレットが死ぬのは都合の悪いことのはずだ。それを考えればガーヴィンがコレットの命を狙う黒幕と繋がっているというのは考え難かった。

 本当にガーヴィンがコレットの暗殺を狙っている者と関係があるのか、全く分からないアリシアは難しい顔で考え込む。マティーリアはアリシアほど真剣に考えていないのか、分からなくなった途端に考えるのをやめた。

 ダークは小さく俯きながらガーヴィンが何を狙っているのかを考えている。ノワールも肩に乗りながら目を閉じて考え込んでいた。


「……マスター、やはり今のままでは何も分かりません。もう少し情報を、特にガーヴィンの情報を集めた方がいいかもしれません」

「お前もそう思うか?」

「ハイ」

「……なら少し調べてみることにしよう」


 そう言ってダークは腰のポーチに手を入れて何かを取り出す。ダークの手の中にはチェスの駒のポーンのような物が三つあった。三つの駒は全てガラスのような素材でできており、力を加えれば砕けてしまいそうな物だ。三つの内、一つは赤に黒い斑模様が入っており、残りの二つは黄色に黒の虎柄模様が入っている。

 ダークは手の中の三つの駒をしばらく見つめる。するとアリシアとマティーリアがダークの手の中の駒に気付き、近づいてきてその駒に注目した。


「ダーク、これは何だ?」

「またLMFの世界のマジックアイテムか?」

「ああ」


 簡単に返事をしたダークは斑模様の駒を指で摘まみ、残りのニつの駒を地面に向かって投げ捨てた。虎柄模様の駒は地面に落ちると全て高い音を立てて粉々になる。すると砕けた駒は光の粒子となり空中に集まりだした。

 光の粒子は空中で二つの光の塊となり、その光は徐々に形を変えていく。形が変わると光はゆっくりと弱くなっていき、やがて完全に光は消えた。光が消えるとそこにはスズメバチのような姿をした生き物が二匹飛んでおり、飛びながらダークたちを見つめている。しかもその生き物はスズメバチのような姿をしているがカラスと同じくらいの大きさをしており、誰が見てもモンスターだと分かった。


「ダ、ダーク、このモンスターは……」


 アリシアが突然現れたモンスターを指差しながらダークに尋ねる。その間、アリシアはモンスターが襲ってくることを警戒し、いつでもエクスキャリバーを抜ける態勢に入っていた。


「コイツはウォッチホーネット。拠点や隠れ家の周辺に敵がいないか監視するモンスターだ」

「監視するモンスター?」

「そうだ。そして……」


 ダークは斑模様の駒を見て指に力を入れて駒を砕いた。駒はさっきの二つの駒と同じように光の粒子となりダークの手の中で光の塊となる。そして形が変わり、光が治まるとダークの手の中には背中に丸い水晶を付けたてんとう虫のようなモンスターの姿があった。大きさはウォッチホーネットよりも一回りほど小さく、動くことなく大人しくしている。

 また新たに出てきたモンスターを見てアリシアとマティーリアは興味のありそうな表情を見せた。そんな二人にダークはてんとう虫のようなモンスターの説明をする。


「コイツがモニターレディバグ。ウォッチホーネットが見た光景を背中の水晶から浮かび上がらせて私たちに見せることができるのだ」

「このモンスターたちが見た光景を私たちに見せてくれる?」

「どういうことじゃ?」

「フム……口で説明するよりも目で見た方が早いかもな」


 アリシアとマティーリアを見て呟いたダークは飛んでいるウォッチホーネットの方を向いて命令を下す。


「上位貴族が住む住宅街へ向かい、ガーヴィン・ラパルタンという男と住んでいる屋敷を見張れ。オレンジ色の短髪に眼鏡をかけた若い男だ。奴は今登城しており住宅街にはいない。住宅街の入口で待ち伏せて戻ってきたらそのまま監視しろ。この時間に外から戻ってくる貴族は少ない。すぐに見つかるはずだ」


 指示を聞いたウォッチホーネットたちは跳び上がり、静かな夜の町に羽音を立てながら飛んでいく。ウォッチホーネットの姿が見えなくなるとダークは再びアリシアとマティーリアの方を向いた。


「二人とも、私の屋敷に来い。そこで面白い物を見せてやる」


 ダークは手の中のモニターレディバグの見て歩き出し屋敷へと向かう。歩き出したダークを見たアリシアとマティーリアは意味が分からないままダークの後をついていった。


――――――


 暗い夜の中にある上位貴族たちが住む住宅街。男爵以上の爵位を持つ貴族だけが住んでおり、大きな屋敷が幾つも建ち並んでいる。敷地の広さと建てられている屋敷の大きさはアリシアたち下位の貴族が住んでいる住宅街や屋敷とは比べ物にならなかった。

 住宅街に住んでいる者全員が寝静まり、殆どの屋敷の明かりが消えて真っ暗になっている。そんな住宅街の中に一軒だけ明りが付いている屋敷があった。とは言っても明りが付いているのは一室だけで他の部屋は暗くなっており、その屋敷に住んでいる者のほぼ全員が眠っているようだ。その一室も一つのランプの明りだけで照らされており部屋の中はハッキリと見えないくらい薄暗かった。

 部屋の中には二つの人影があった。一人はランプの明りが届かない暗い場所で椅子に座っているため、顔はまったく見えないが体格から見て男のようだ。もう一人は明りが届く場所に立っているので顔がハッキリと見える。三十代前半ぐらいの黄緑色の長髪を後ろで束ねた男だ。男は暗い場所で椅子に座る人影の方を向いて真剣な表情を浮かべている。


「……では、コレット殿下は無事だったのですね?」

「ああ、一緒にいたダークとかいう黒騎士とファンリード家の娘が邪魔をしたせいでな」

「いかがなさいますか?」

「決まっている! もう一度刺客を送り、今度こそコレットを殺すんだ」


 人影は椅子に座りながら力の入った声を出して隣にある机を強く叩く。机を叩いた衝撃で机の上に乗っているワイングラスが揺れ、中のワインが僅かにこぼれる。長髪の男はこぼれたワインを見てから視線を座ってる人影に戻す。


「しかし、コレット殿下が襲われたことを王宮も彼女の警護を強化しました。刺客を送っても返り討ちに遭う可能性が……」

「なら正面から襲わなければいいだけの話だろう」

「それはそうですが……」

「そもそもあんな金だけで動く無能なならず者どもが王女の警護をする奴らに勝てるはずがないんだ。今度は訓練された我が家の私兵部隊にやらせろ」

「承知しました」


 不機嫌そうな態度で指示を出す人影に男は頭を下げた。

 人影は机の上のワイングラスを取り、中身を一気に飲み干すとワイングラスを強く机の上に置く。静かな部屋にワイングラスを置いた時の高い音が響いた。


「それにしても、せっかくマッケン家の紋章が入った装備を渡して我々との繋がりを隠そうとしたのに、あのクズどもが捕まって全てを吐いてしまったら元も子もない。幸い奴らはまだ取り調べを受けていない。全てを喋る前に始末しておけ」

「いえ、その必要は無いでしょう。奴らに装備品を渡す時に私は顔を隠していましたので我々が王女暗殺を依頼した者だとはあのならず者たちも知りません。ですから取り調べを受けても王族や騎士団に我々のことがバレる心配もありません」

「おお、そうだったな。やはりお前は頼りになるな、ダウリング?」


 安心した声で人影は長髪の男をダウリングと呼ぶ。どうやらこのダウリングという男がコレットを襲った仮面の男たちが会ったフード付きマントで顔を隠し、マッケン家の紋章の入った装備品を渡した男のようだ。ダウリングは自分を褒める人影に表情を変えずに頭を下げる。


「そういえば、マッケン家の装備品、アレを用意した者はどうした?」

「ご安心を、奴も今回の一件に関わっていたことがバレれば全てを失うことになりますので絶対に口外しないと言っておりました」

「そうか。だが、念のために見張りを付けておけよ?」

「ハイ……それで、次の暗殺はいつ決行なさいますか?」


 ダウリングが今度はいつコレットの暗殺を決行するのか人影に尋ねる。すると人影は座ったまま腕を組んでダウリングを見て口を動かした。


「明日だ。それも日が昇っている時間に狙う」

「えっ!? 白昼堂々王族を暗殺するおつもりですか?」

「そうだ。奴らは暗殺をするなら夜中に行動すると考えているはずだ。だったら暗殺では考えられない明るい時間、しかも城内で決行すればいい。奴らも城の中で王女を暗殺するなど夢にも思わないだろうからな」

「し、しかし、明るい時、しかも衛兵が徘徊する城内で決行するのは危険すぎるのでは……」

「逆だ。昼などにコレットを暗殺するなどしないだろうと王族や衛兵たちも考えているはず。奴等も安心し切って夜中よりも警備は手薄くしているに違いない。その隙を突けば必ず成功する」

「な、なるほど、そういう考え方もありますな……」


 ダウリングは人影の説明を聞き、一理あると考える。


「しかし、城で暗殺が成功しても我々の正体がバレては意味がない。念のために例のマッケン家の装備品を刺客たちに使わせろ」

「ハイ」

「それから、例の男はどうした?」


 人影が低い声を出して尋ねるとダウリングは真剣な顔を浮かべる。


「……奴なら此処の地下室におります。今のところは大人しくしておりますので問題は無いかと」

「奴にはいざという時に働いてもらうんだ。しっかり見張っておけよ?」

「分かっております」


 ダウリングは人影を見つめながら返事をし、人影は何も言わずにダウリングを見ていた。

 二人がいる部屋の窓からはその屋敷の広い庭が見える。大きな花壇があり、木も何本も生えていた。その中庭に生えている木の枝の上で何かが部屋の中を覗いている。それはダークは放ったウォッチホーネットだった。ウォッチホーネットは目を赤く光らせて部屋の中のダウリングを見つめている。


――――――


 一方、ダークたちは彼の屋敷の一室に集まっている。ダークたちがいる屋敷はカーペンアントに建設させた物でアルティナの誕生日パーティーがあった日の夕方頃に完成していた。屋敷は意外に大きく、玄関を開けて入ると広いエントランスがあり、多くの扉と二階へ続く階段がある。部屋数も多く、並の貴族が住む屋敷よりも豪勢だ。今ではダークやジェイクたちは倉庫の隠し拠点からその屋敷に移って暮らしている。

 部屋の中には兜を外して素顔を見せているダークと彼の肩に乗るノワール。そしてテーブルを囲むように立つアリシアとマティーリア、そして二日酔いで一日中屋敷にいたジェイクの姿があった。ダークたちが屋敷に来た時にはジェイクの体調は回復しており、コレットが暗殺されかけたことを知ると手伝うと言ってダークたちと一緒に部屋に入ったのだ。

 ダークたちが囲んでいるテーブルの中心にはモニターレディバグがおり、背中の水晶からある光景が立体映像のように浮かび上がらせていた。アリシアたちは最初、その映像を見て目を丸くして驚いており、それを見たダークとノワールはクスクスと小さく笑っていた。

 立体映像として映し出されているのはウォッチホーネットが見ていたガーヴィンの屋敷の光景で部屋の中で誰かと話をしている黄緑の髪の男の姿が映っている。ダークとノワールはその映像を見ると笑うのをやめて真剣な表情を浮かべた。アリシアたちも同じように真面目な顔で映像を見つめている。


「この男もガーヴィンの家の者なのか?」

「恐らくそうだろうな」


 映し出されている男を見たマティーリアは隣に立っているアリシアに尋ね、問いかけられたアリシアも映像を見たまま頷く。立体映像として映し出されているのは屋敷の部屋の中にいる男の姿だけ、誰かと会話をしているようだがもう一人の人物の姿は確認できない。しかも映像が映し出されているだけで会話の内容は聞こえないのでどんな会話をしているのかは分からなかった。

 映像を見ているダークは長髪の男が会話をしている相手はガーヴィンではないかと考えているが、音声が聞こえず、姿も確認できないのでハッキリとは分からない。ダークは難しい顔で男を見つめている。すると肩に乗るノワールが映像を見ているダークに語り掛けてきた。


「マスター、あの男が会話している相手、ガーヴィンだと思いますか?」

「さあな、ウォッチホーネットがいる位置からでは話している相手の姿は見えないから分からない。だが、ガーヴィンである可能性は高いだろうな」


 素の声と口調でダークは自分の想像を口にする。ノワールやアリシアたちはダークの答えを聞いて一斉に彼の方を見ている。


「ダーク、このモンスターは見ている所にいる者の会話を聞くことはできないのか?」

「ああ、コイツとウオッチホーネットには会話を盗み聞く能力はついていない。会話を聞ければこの男が誰と会話をしているのかも分かるんだけど、仕方がないな」


 ダークはモニターレディバグを見つめながら複雑そうな表情を浮かべる。ダークの説明を聞いたアリシアも残念そうな顔でモニターレディバグを見つめた。

 ウオッチホーネットやモニターレディバグのようなモンスターは、LMFの各ギルドが自分たちの拠点の周辺を警備や敵の情報を得るために使うモンスターで無課金者でもLMFのイベントやショップで手に入れることができる。だが、この類のモンスターは映像を映し出すことはできても音声を聞くことはできない。それはLMFプレイヤーのプライベートを守るために運営側が設定したものだ。それはこの世界に来ても変わっていなかった。

 映像の中に映る男が会話をやめて窓から外を眺めている姿を見ながらダークは黙り込み、映像の向こうで男が誰とどんな会話をしているか想像していた。


(……この光景を見ているウォッチホーネットはガーヴィンの馬車が住宅地に戻ってからずっと馬車の後を追ってきた。そして屋敷の前で馬車が停まり、中からガーヴィンとこの映像に映る男が出てきたのを見ている。つまり、この映像に映る屋敷がガーヴィンの物でこの男がガーヴィンの家に仕えている者であることは間違いない。そして、この男が会話している相手がガーヴィンの可能性も高い。こんな夜中に二人っきりで話をしているんだ。コレット様の暗殺に関係する話をしていると考えていいだろうな」


 ダークはガーヴィンがコレットの暗殺事件、そして彼女を殺そうとした仮面の男たちと繋がりがあると確信していた。しかし、ガーヴィンがコレットの暗殺に繋がっているという証拠は何も無い。ガーヴィンを捕まえるには彼がコレットの暗殺を依頼した男、もしくは仮面の男たちと繋がっていることを証明しなくてはならなかった。


「兄貴、今から乗り込んで捕まえに行くか?」

「ダメだ」


 映像を見ていたジェイクがガーヴィンの屋敷へ向かい彼らを捕まえに行くか尋ねるがダークは迷わずに却下する。


「……ガーヴィン、もしくは奴の家の連中がコレット様の暗殺に関わっていることは間違いない。だが証拠が無い以上は奴らを捕らえることはできない」

「なら、どうするのだ?」


 アリシアが腰に両手を当てながら尋ねるとダークは映像を見ながら口を動かす。


「恐らく奴らはまたコレット様を暗殺しようと動き出すはずだ。その時に奴らを捕まえて正体を確かめる。そうすれば黒幕に関して何かが分かるはずだ」

「しかし、それではまた殿下を危険な目に遭わせるということになるぞ?」

「分かっている。だからこっちも手を打っておくんだ」


 ダークはチラッと肩に乗るノワールを見る。ノワールは自分を見るダークの顔を見て不思議そうに小首を傾げた。


「何ですか、マスター?」

「ノワール、お前に頼みがある」

「……え?」


 突然頼みがあると言ってきたダークにノワールはまばたきをしながらダークの顔を見つめる。周りにいるアリシアたちもダークが何を考えているのか分からずに不思議そうな顔をしていた。


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