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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第五章~王国の暗躍者~
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第四十八話  コレットの外出


 涼しい風が吹く首都アルメニスの午前、王城の正門前ではダークとアリシアが立っており、ダークの肩にはノワールが乗っている。ダークとアリシアはいつもの暗黒騎士と聖騎士の姿をしており愛用の大剣とエクスキャリバーを装備していた。

 今日は昨夜のアルティナの誕生日パーティーの時に約束した、外出するコレットの警護をするために正門前に来ている。コレットはメノルと一緒に外出することになっており、正門の前でダークたちと待ち合わせすることになっていた。正門を警備している兵士たちは正門の前に立つ二人の騎士を少し怪しむような視線で見ているが、ダークとアリシアは視線を気にすること無くコレットたちを待つ。


「……そろそろ出てこられるか?」

「ああ、もうすぐ約束の時間だからあと少しで来られるはずだ」

「やっぱり王女様が城下にいるということがバレると大騒ぎになるからバレないように念入りに変装してるんでしょうね」

「そうだな……どこの世界でもそういうところは同じか……」


 ノワールの話を聞いたダークは空を見上げながら呟く。ダークが前にいた世界、現実リアルの世界でも芸能人や身分の高い人は一般人に正体がバレないようにするために髪型を変えたりサングラスをかけたりなどして姿を変えている。そういうところはこの世界でも同じであると知り、ダークは少しだけ芸能人たちの苦労が分かったような気がした。

 ダークとアリシアの近くではマティーリアの欠伸をしている姿があった。彼女はコレットの警護をする間に面倒事を起こすのではないかと不安になったアリシアが監視するために連れてきたのだ。マティーリアは王女であるコレットの警護をすることを嫌がったが、アリシアに強引に同行させられ、逃げ出すこともできないと感じ、諦めて共にコレットの警護をすることにした。


「……まったく、なぜ妾が小娘の警護なんて面倒な仕事をせねばならぬのだ」

「小娘ではない、コレット殿下だ! マティーリア、お前もこの町、いや、この国で暮らす以上は王族の方々への礼儀を覚えろ」

「フン、妾はドラゴンじゃ。人間の王族への礼儀や上下関係など知ったことではない」

「お、お前なぁ~っ!」


 マティーリアの態度を見てアリシアは目くじらを立てる。そんなアリシアを見たマティーリアは反省する様子も見せずにまた欠伸をする。そんな二人のやり取りを見てダークは呆れたように微かな溜め息をつき、肩に乗っているノワールは苦笑いを浮かべた。


「大体、なにゆえ妾だけがお主らに付き合わなければならんのじゃ? レジーナとジェイクはどうした?」


 注意するアリシアを無視してマティーリアはダークにレジーナとジェイクのことを尋ねる。マティーリアが警護に付き合っているのになぜかレジーナとジェイクの姿はそこには無かった。常にダークと同行しているあの二人がいないことがマティーリアは不思議だったのだ。

 尋ねてきたマティーリアを見たダークはまた小さく溜め息をつき、兜越しに手を顔に当てた。


「アイツらなら家で休んでいる」

「休んでいる? どういうことじゃ?」

「昨日のパーティーでアイツらかなりはしゃいでいただろう? レジーナは料理を食べ過ぎて、ジェイクは酒を飲み過ぎて体調を崩したんだ。だから今回二人は家で寝込んでいる」


 ダークは出発する前に見たレジーナとジェイクの気分の悪そうな顔を思い出して溜め息をつく。ノワールも二人の顔を思い出して苦笑いを浮かべる。レジーナは食べ過ぎたせいで腹痛に襲われ、弟と妹に看病されながら自宅で休んでおり、ジェイクも二日酔いで寝込んでおり、モニカに看病されながら頭痛と戦っていた。二人ともベッドの中で昨日のパーティーではしゃぎ過ぎたことを後悔している。

 レジーナとジェイクの状態を聞かされたアリシアは苦笑いをしており、その隣ではマティーリアが呆れた顔を浮かべている。


「まったく、情けないのう? ちょっと食べ過ぎたり飲み過ぎただけで体調を崩すとは。人間とは貧弱な生き物じゃ」

「そう言うお前も二人と同じくらい飲んだり食べたりしていたではないか。なのになぜ平気な顔をしている?」


 アリシアが顔色の良いマティーリアを見ながらなぜ普段と同じなのかを尋ねる。するとマティーリアはニッと笑いながら自分の腹部をポンポンと叩く。


「妾はドラゴンじゃぞ? 人間とは内臓の作りが違う。人間の食べ過ぎや飲み過ぎは妾にとってはほろ酔いや腹一杯食べた程度でしかない」

「流石はドラゴン、人間とは力も内臓の丈夫さも違うんですね」

「……お主だってドラゴンであろう」


 マティーリアの体質に驚くノワールを見てマティーリアは目を細くしながら言う。ノワールは自分もドラゴンであることを思い出し、少し恥ずかしそうな反応を見せる。それを見たアリシアはノワールを見ながら小さく笑った。

 ダークたちが正門前でパーティーメンバーのことを話していると閉まっていた正門がゆっくりと開き出す。ダークたちは話すのをやめて一斉に正門の方を向く。すると正門の向こう側からコレットとメノルの二人が現れた。

 二人の服装は昨日のパーティーの時に見たドレスとメイド服とは違い、城下町でよく見かける町娘と同じような服だった。メノルの服はごく普通の格好だが、コレットはつば広帽子を被り、服もメノルの服よりも少し派手な服を着ている。王族であることがバレないように地味な服を着ているようだが、やはり王女としてのプライドが少しあるらしく少し高そうな服を選んだようだ。

 コレットとメノルは正門を潜って外に出ると正門前に待つダークたちに気付く。コレットは笑いながらダークたちに手を振り、彼らの下へ駆け寄る。


「待たせたのう、お前たち」

「コレット殿下、おはようごさいます」

「うむ、今日はよろしく頼むぞ!」


 挨拶をするアリシアを見てコレットは笑いながら頷く。ダークとノワールもコレットと歩いてくるメノルに挨拶をし、コレットとメノルも簡単に挨拶を返す。

 マティーリアはいきなり現れて大きな態度を取る目の前の少女を見ると、僅かに目を鋭くして腕を組む。コレットはダークたちへの挨拶を済ませると自分を見ているマティーリアに気付き、まばたきをしながらマティーリアの顔を見た。


「……この子は誰じゃ?」

「ああぁ、紹介が遅れました。彼女はマティーリア、私が面倒を見ている竜人です」

「何、竜人じゃと?」


 アリシアの紹介を聞いてコレットは興味のありそうな顔でマティーリアを見つめる。初めて見る竜人が自分と同じくらいの歳の少女の姿をしているのを見て親しみを感じているのだろう。だがマティーリアは珍獣でも見ているかのようにジロジロと見るコレットが気に入らないのか少し機嫌の悪そうな顔でコレットを見つめていた。


「……こ奴が昨日お主たちが会ったこの国の王女様か?」

「お、おい、マティーリア!」

「こ奴……?」


 王族であるコレットに失礼な態度を取るマティーリアを見て驚くアリシアと眉を僅かに動かして低い声を出すメノル。ダークもマティーリアの態度を見て小さく溜め息を吐いた。

 コレットはいきなり自分をこ奴呼ばわりするマティーリアを見て僅かに反応し、マティーリアを鋭い目で見つめる。コレットもマティーリアの態度を見て少しカチンと来たようだ。


「……お前、随分とデカい態度を取るではないか? 竜人だかなんだか知らないが、少しは礼儀というものを学んだほうがよいぞ?」

「礼儀? ……フン、笑わせるな。子供のくせに生意気な口をききおって」

「な、なんじゃとぉ!? お前だって、妾と大して変わらぬではないかぁ!」


 失礼な態度を取るマティーリアをコレットは睨み付け、マティーリアもコレットを睨み返した。出会ってから僅か数秒で険悪な空気になってしまい、アリシアとノワールは少し焦った表情を浮かべる。すると主を侮辱されて険しい表情を浮かべていたメノルがアリシアに近づいて彼女を睨み付けた。


「アリシア殿、これはいったいどういうことだ? 王女であるコレット殿下に対してのあの態度、貴女はどういう教育をしているのだ!」

「え、いや……これは……」


 アリシアはマティーリアのコレットに対する態度の悪さからメノルに責められる。どうしたらいいのか分からないアリシアは戸惑いながら睨み合うマティーリアとコレットを見つめた。

 マティーリアとコレットが睨み合っているとダークが二人の肩に手を置いて睨み合いを止める。マティーリアとコレットは止めるダークを見上げながら彼を睨んだ。


「なんじゃ、若殿? 止めるでないぞ。これは妾とこの小娘の問題じゃ!」

「そうじゃ。関係ないお前は下がっておれ!」

「まぁまぁ、コレット様、落ち着いてください」


 ノワールがダークの肩から離れてコレットの前で浮かびながら彼女を宥め、ダークもマティーリアを落ち着かせる。落ち着いたマティーリアは舌打ちをしながら腕を組んでコレットから視線を逸らした。

 なんとかマティーリアとコレットの睨み合いを止めたダークたちは安心する。マティーリアはコレットをもう一度見ると再びそっぽを向き、コレットもマティーリアを睨みながらべーと舌を出す。二人が離れるとアリシアはコレットに向かって頭を下げる。


「殿下、失礼いたしました。コイツは元はドラゴンなので人間への礼儀というものをよく理解していないのです。どうかお許しください」

「う、うむ……妾も王族として少しみっともない姿を見せてしまった」


 マティーリアに対する自分の態度を反省し、コレットは被っているつば広帽子を直す。コレットが落ち着いたのを見てアリシアとノワール、メノルは小さく息を吐いてホッとする。


「妾は別に許してほしいとは思っておらんがな」


 アリシアたちがホッとした直後にマティーリアが再びコレットを挑発するような発言をする。それを聞いたアリシアとノワールはマティーリアを見て目を見開いて驚き、メノルはマティーリアを睨み付けた。

 マティーリアの言葉で再びコレットはマティーリアを睨み付けて再び空気が悪くなり始めた。だがその時、ダークがマティーリアの耳を摘まんで引っ張った。


「イタタタタッ! な、何をするのじゃ、若殿!?」

「いい加減にしろ、マティーリア……いつまで大人げないことをするつもりだ」

「じゃ、じゃが……」

「お前も誇り高いドラゴンならいつまでもみっともない態度を取るな。何事にも心を広く持て」

「イツツツッ! わ、分かった、分かったから放してくれ」


 涙目になりながら反省するマティーリアを見てダークは指を放す。解放されるとマティーリアは赤くなっている耳をそっと擦る。

 ダークが他人の耳を引っ張るという意外な一面を見てアリシアたちは呆然としている。そんな中、アリシアは我に返ってコレットの方を向いて笑顔を作った。


「そ、それではそろそろ城下へ行きましょう。時間も限られていることですし……」

「そ、そうじゃな。メノル、行くぞ」

「ハイ」


 苦笑いを浮かべながらコレットは城下町の方へ歩き出し、メノルもその後に続く。ダークたちも二人の後についていき城下町へと向かった。正門前に立っていた兵士たちはダークたちのやり取りを見て目を丸くする。

 城から町に下りたダークたちは町の中心にある広場へやってきた。すると、広場を見た瞬間にコレットは目を輝かせる。そこには多くの人の姿があり、出店なども沢山並んでおり多くの人が買い物をしていた。コレットにとって城の外に出るのは久しぶりなので、賑やかな広場を見るとつい興奮してしまうようだ。


「おおぉ~! 今日も賑やかじゃのう!」

「姫様、分かっておられると思いますが、目立つ行動は慎んでください?」

「分かっておる、相変わらず真面目じゃのう」


 忠告をするメノルの方を見るとコレットはめんどくさそうな顔を見せる。そんなコレットを見てメノルはやれやれと言いたそうに小さく息を吐いた。


「さて、早速町を見て回るとするか……と、その前に、お前たちに言っておかなければならないことがある」


 コレットはダークたちの方を向き、つば広帽子を直しながら真面目な表情を浮かべる。


「昨日も話したように妾は身分を隠して町へ来ておる。だから町にいる間は妾のことはコレットではなくコニーと呼んでくれ」

「コニー、ですか?」

「うむ、それなら妾が王族であるということは誰にも分からないはずじゃ」


 自分を偽名で呼ぶようにダークたちに話すとコレットは自慢げな笑顔を見せた。そんなコレットを見てメノルは再び小さく溜め息をつく。

 実はコレットが自分を偽名で呼ぶように指示したのは身分を隠すためだけではなく、自分が王族であることを隠し、一般人として町の中を歩いて王族だとバレるかバレないかのスリルを味わうためでもあった。それを知っているメノルはコレットが外出する度に不安な気持ちになっているのだ。


「よしっ、では早速買い物開始じゃ~!」


 大声を出しながらコレットは走り出す。


「あっ、姫さ……コニー、待ってください!」


 走るコレットの後を慌てて追いかけるメノル。二人の姿を見てコレットは普段からメノルとシルヴァを困らせているのだとダークたちは感じた。

 広場の出店を一通り見て回った後、コレットは広場を出て市場の方へ向かう。ダークたちは自由に動き回るコレットの後を黙ってついていく。市場には野菜やパン、雑貨などが売られており、コレットは城の中では見ることのできない物を見つけては目を輝かせながら見ていた。笑顔で商品を見ているコレットの後ろではダークたちが並んでコレットを見守っていた。


「コレ……コニーはとても楽しそうに商品を眺めておられるな……」

「雑貨用品がそんなに珍しいのかのう?」


 コレットの姿を見て意外に思うアリシアと興味の無さそうな顔をするマティーリア。王女であれば一般人が持っている物など簡単に手に入れることができるので、商品を見ただけで目を輝かせていることが不思議だった。


「……コニーは商品が珍しいから楽しんでいるのではない。店に並べられている商品を見て買う物を選べることを楽しんでおられるのだ」


 アリシアとマティーリアを見ながらメノルが静かに呟く。それを聞いてダークたちは一斉にメノルの方を見る。メノルはコレットの背中を見ながら何処か寂しそうな表情を浮かべた。


「コニーは毎日城で勉強をしており、遊ぶ時間も友人も少ない。月に何度か今日の様に外出をすることがあの方にとって唯一の楽しみなのだ」

「そうなのですか……」


 コレットの意外な日常を聞いてアリシアは少し驚いたような反応を見せる。ダークとノワールは黙って話を聞いており、マティーリアは相変わらず興味の無さそうな顔をしていた。


「城では欲しい物があれば城の者に言って買いに行かせることや城下から取り寄せることができる。だが自分が欲しい物を選んで買うことができるのは今日のような外出の時だけだ。城の者や商人はコニーの趣味に関係なく良い物だけを選ぶ。良い物でもコニーが気に入らなければ意味がないというのに……」

「……なるほど、高価な物ではなく、たとえ安い物でも自分が気に入った物を自分で選び、それを買うことをコニーは楽しみにしておられるということか」


 ダークの言葉を聞き、メノルはチラッとダークの方を見ながら頷く。

 城ではこの国の王女として毎日勉強をしているため、普通の女の子らしいことは何もできない。幼いコレットにとってそれは辛いことだった。だから城下町へ外出し、普通の女の子のように自由に買い物ができることが彼女にとって最大の楽しみなのだ。外出している時だけ、コレットは王女ではなく、一人の少女として羽を伸ばすことができる。それはコレットが日頃の溜まったストレスを発散できる時でもあった。


「フ~ン、王女様も結構大変なのじゃなぁ……」

「……分かったような口をきくな。それと、町に出ている時はあの方が王族であることをバレないようにしろと言っただろう」


 相変わらず失礼な態度を取るマティーリアをメノルは睨み付けた。そしてマティーリアがコレットを王女だということを口にしたのを注意する。マティーリアはめんどくさそうな顔でメノルを見ながら分かった分かった、と言うように数回頷く。

 すると出店の商品を見ていたコレットがメノルの下に駆け寄ってきた。その手には花形の小さなブローチが握られている。


「メノル、このブローチを買うことにした。支払いを頼むぞ」

「ハイ」


 コレットに言われてメノルは出店の主人に支払いを済ませる。メノルは早速選んだブローチを服に着ける。花の形をしたブローチは銀色に輝き、その中央には赤い小さなガラス玉がはめ込まれていた。やはり城下町の市場で売られてる品物なので宝石ではなく色のついたガラス玉が付けられているようだ。

 買ったばかりのブローチを見ながら笑うコレットはそのブローチをダークたちに見せた。


「どうじゃ? なかなか可愛い物じゃろう?」

「ええ、よくお似合いです」


 ダークはコレットのブリーチを見ながら答え、それを聞いてコレットは更に笑みを浮かべる。アリシアは笑うコレットを見て微笑み、マティーリアは何も言わずに黙って見ていた。


「さあ、つぎはあっちへ行くぞ! 皆、ついてこい!」


 ブローチを買うとコレットはすぐに次の店へと向かった。ダークたちも何も言わずに後に続く。それからコレットは色んな店を見て回り、気に入った物があればそれを買うなど普通の女の子の買い物を楽しんだ。ある程度町にある店を回ると今度はダークたちに町を案内させてまだ行ったことの無い場所を見物しに行く。冒険者ギルド、魔法訓練場、図書館などを見たコレットは自分の知らないことを知ることができてとても満足した表情を浮かべる。


――――――


 時間はあっという間に流れ、気付けば既に夕方になっていた。一日町を見て回ったコレットは町を一望できる展望台のような広場に移動する。そこから町を見下ろしながらコレットは深呼吸をし、今日一日を振り返った。


「フゥ……今日は今までで最も楽しむことができた。いつもは警護の衛兵がうるさくて冒険者ギルドなど入ることができなかったからのう」

「色んな冒険者がいますから、もし姫様が入って冒険者に何かされたら大変だと衛兵たちも警戒していつも危険そうな場所に入ることを反対していたのです」

「じゃが今日ダークたちと一緒に入ったが、そんな危険な雰囲気ではなかったぞ?」

「それは七つ星の冒険者であるダーク殿がいたからです。もし彼がいなければどうなっていたか……」


 警護がいつもと違ったから大事にならなかった、メノルのその言葉を聞きコレットは疲れたような顔になる。城でいつもシルヴァとメノルに注意されたりしているので、外出の時はそれから解放されると思っていたが、今でもメノルから注意されていることにコレットは肩を落として疲れた様子を見せた。

 そんなコレットとメノルの姿をダークたちは黙って見守っている。彼らも仕事とは言え、戦いから離れてコレットとメノルと一緒に町を見て回ることができて楽しめたようだ。


「今日は結構楽しかったですね、マスター? 気分転換もできましたし」

「ああ、たまにはこういうのも悪くないかもしれないな」

「ええ、今度はレジーナさんとジェイクさんたちも一緒に回りましょう」


 楽しそうに笑いながらノワールはダークを見て言う。

 ダークの隣で二人の話を聞いていたアリシアは休んでいるレジーナとジェイクのことを思い出してオレンジ色の空を見上げた。


「そういえば、あの二人は今どうしているのだろうな?」

「まだベッドの中で苦しんでいるかもしれんぞ?」

「それはあり得るな……」


 苦しむ二人の姿を想像してアリシアは苦笑いを浮かべた。するとそこへコレットとメノルが歩いてきてダークたちの前で立ち止まり四人を見て微笑む。


「今日は世話になったな? おかげで楽しめたぞ」

「それはよかった」

「今回の報酬は後日城の者に届けさせる」

「分かりました」

「今日は町を見て回ったり買い物などをしたが、次はお前たちが暮らしている家を見せてもらいたいのう」


 コレットは笑いながらダークに次の外出の予定を話し、ダークはコレットを見下ろしながら聞いている。するとコレットの話を聞いていたメノルが呆れたような顔でコレットに声をかけてきた。


「……姫様、次はと仰いましたが、またダーク殿たちに警護を頼むおつもりですか?」

「ん? ダメか?」

「王族の警護は衛兵の務めです。それに彼らには冒険者や騎士団としての務めがあります。彼らにも都合というものがありますので何度も警護を依頼するわけには……」

「ほぉ? ……お前たちは妾の警護をするのは嫌か?」


 ダークとアリシアの方を向いてコレットが尋ねる。その表情は子供が親に欲しい物をねだる時のような表情だった。


「い、いえ、滅相もありません! 寧ろ殿下の警護ができるなどとても光栄なことです」


 コレットの問いにアリシアは首を左右へ振った。それを聞いたコレットはメノルの方を向き、どうだと目で伝えながらニッと笑う。そのコレットの笑顔を見たメノルは深く溜め息をついた。

 溜め息をつくメノルを見てダークとアリシア、そしてノワールは心の中でメノルも大変だなと感じた。マティーリアだけは興味の無さそうな顔でコレットとメノルを見つめている。


「というわけで、次に妾が外出する時はまたお前たちに警護を依頼することになる。その時はよろしく頼むぞ? 褒美もそれなりの物を考えておく」

「ハハハ、そうですか。その時を楽しみにしております」


 ダークは笑いながらコレットを見下ろす。笑ってはいるが兜で隠れているため、顔は見ることはできない。コレットはダークの素顔が気になり、小首を傾げながらダークの顔を見ている。


「……なあ、ダーク。妾はお前がどんな顔をしているのかとても興味がある。その兜を外して顔を見せてくれぬか?」


 その言葉を聞いてダークは反応する。アリシアたちも反応してコレットの方を向く。メノルもコレットと同じでダークの素顔が気になるらしく、ダークの方を見つめている。

 コレットとメノルが注目する中、ダークは黙り込む。ダークが素顔を見せない理由は強い力を持つ自分の素顔を見られ、その力や素顔を他人に利用されないようにするためだった。素顔を隠していれば何か都合の悪いことが起きてもいくつか誤魔化す方法が思いつく。あと、強大な力を持つ自分の素顔を他人が知ればダークのことを調べようとする者にその人が狙われる可能性が出てくるからだ。つまり、他人を騒ぎに巻き込まないためにダークは顔を隠している。

 この国でダークの素顔を知っているのはダークの使い魔であるノワールと協力者であるアリシア、レジーナ、ジェイク、マティーリアだけ。アリシアたちは既に英雄級の力を持っており、騒ぎに巻き込まれても大抵のことなら乗り越えることができる。だが、力を持たない者がダークの秘密を知れば何か遭った時に身を守ることができない。他人に迷惑をかけないためにもダークは素顔を隠しながらこの世界で生きていくことにしているのだ。

 しばらく黙り込んでいたダークはコレットを見ながら低い声を出した。


「……コレット様、申し訳ありませんが、私の素顔をお見せすることはできません。私の素顔を知れば姫様たちに迷惑が掛かるかもしれませんので……」

「どういうことじゃ?」

「詳しくは話せませんが、私の素顔を知れば姫様たちの身に危険が生じる可能性が出てくるのです」

「何? 危険じゃと?」

「ええ、ですから私の素顔は陛下にもお見せしていません」

「何と、父上にも見せていないと……」

「ハイ、ですから素顔をお見せすることはできません。お許しください」


 ダークはコレットを見ながら低い声で謝罪する。アリシアたちもコレットを危険な目に遭わせないためにダークが素顔を見せないということを知っているため、何も言わずに見守っていた。

 コレットはしばらくダークの顔を真剣な顔で見つめており、やがて小さく息を吐いて両手を腰に当てた。


「……まぁ、お前にも何か事情があるのじゃろう。そういうことなら妾も無理に聞くつもりはない。何よりも強引に事情を聞き出すようなことをすればセルメティア王族として一生笑い者じゃ」

「ありがとうございます」


 追及しないコレットを見てダークは礼を言う。アリシアとノワールも少し安心した様子を見せる。マティーリアは少し意外そうな顔でコレットを見ていた。彼女はコレットがしつこく訊いてくるのではないかと考えていたようだ。

 話が終わると城に戻る時間が近づいてきたのでダークたちはコレットを城へ送るために歩き出そうとする。すると、ダークが何かに気付いてその場で立ち止まる。急に止まったダークを見てアリシアたちは一斉にダークの方を向く。


「ダーク、どうした?」

「……動くな」


 アリシアが尋ねるとダークは低い声を出し、視線だけを動かして周囲を見回す。ダークたちがいる広場には数本の木が生えており、ダークたち以外に誰の姿も無い。だがダークは何かの気配を感じ取っていた。

 ダークの声を聞いたアリシアたちに緊張が走る。アリシアはエクスキャリバーに手を掛け、マティーリアは周囲を警戒し、メノルはコレットを守るために彼女を自分の後ろへ回す。

 ダークたちが警戒していると木の陰から八つの人影が現れた。全員がフード付きマントを付けており、顔はドクロをモチーフにした仮面で隠している。顔は見えないながらも身長と体つきから男であることが分かった。そして革製の鎧を装備し、手には短剣やシミターを持っている。

 突然現れた八人組は素早くダークたちを囲むように移動する。ダークたちは敵の立ち位置やコレットのことを気にしながら八人組を睨んだ。


「……何者だ、お前たちは」


 ダークが低い声で一番近くにいる仮面の男に尋ねる。すると仮面の男は持っているシミターの刃を光らせた。


「……その娘の命を貰う」


 男の言葉にダークたち、特にメノルが反応した。目の前にいる仮面の男たちはコレットを狙っており、楽しかった雰囲気が一気に緊迫した空気に変わる。


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