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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第五章~王国の暗躍者~
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第四十四話  王城でのパーティー


 パーティー当日の夜、貴族が住む住宅街に建てられている屋敷の前には沢山の馬車が停まっている。やはり貴族の殆どが今回のパーティーに参加するらしく、住宅街は迎えの馬車で一杯だった。その中にアリシアの自宅もあり、門の前には馬車が停まってパーティーに参加する者たちが乗るのを待っている。

 門の前ではいつもの騎士の姿をしているアリシアとドレス姿のマティーリア、そしてアリシアの母親であるミリナが立っている。さすがに今晩はパーティーなのでアリシアはエクスキャリバーを持っていない。マティーリアもいつも着ている服ではパーティー会場に入れないので、アリシアが幼い時に使っていた白いドレスや金色の髪飾りを借りたのだ。

 アリシアはまだ到着していないダークたちを黙って待つ。その隣では着慣れていないドレスを着ているせいか落ち着かないマティーリアがドレスの裾を掴んで背中や足元をチラチラと見た。


「……マティーリア、少し落ち着いたらどうだ?」

「仕方なかろう。妾は生まれてから一度もこんなヒラヒラした服を着たことがないのじゃからな」

「ハァ……頼むからパーティー会場に入って今みたいに落ち着かないような態度を取らないでくれ?」


 アリシアはマティーリアはみっともない姿を見せるのではないか不安になり溜め息をつく。そんなアリシアの不安を気にもせずにマティーリアはスカートを摘まみながら着心地の悪そうな表情を浮かべていた。


「着ていれば自然と慣れてくるわ。少しの間だけ我慢してちょうだい」


 マティーリアを見てミリナが微笑みながらマティーリアに声をかける。マティーリアは振り返って後ろにいるミリアを不満そうな顔で見つめた。


「妾はこんな服を着慣れる必要などない。そもそもなぜ人間の女はこんなヒラヒラした服を着て宴に出る必要があるのじゃ?」

「女の人っていうのはおしゃれに気を使うものなのよ。マティーリアちゃんも若いのだから今のうちにおしゃれとかドレスを着ることを知っておけば今後のパーティーでも大丈夫でしょう?」

「妾にはそんな必要は無い……それから、前にも言ったが、妾はお主よりも年上じゃ。そのマティーリアちゃんと言うのは止せと言っておるだろう!」

「あらあら、そうだったわね。ごめんなさい」


 クスクスと笑いながら謝るミリナをマティーリアは少し頬を赤くしながら睨む。

 マティーリアはアリシアが監視することになってからアリシアの家に住んでいる。そのため、ミリナは幼い外見をしたマティーリアをもう一人の娘のように可愛がっていた。だが、グランドドラゴンであるマティーリアには人間、しかも自分よりも遥かに年下のミリナに子ども扱いされるのが嫌なのか、いつもミリナに文句を言っている。そんなマティーリアを見てミリナは楽しそうに笑っていた。居候でありながら態度の大きいマティーリアと少し天然の入った母親ミリナのやり取りを見る度にアリシアは小さく溜め息をついて疲れを見せる。

 

「待たせたな」


 溜め息をつくアリシアの耳に入ってきたダークの声。それを聞いたアリシアは声の聞こえてきた方を向く。そこにはいつもの漆黒の全身甲冑フルプレートアーマーを着て顔を兜で隠し、白いマントを付けたダークとその肩に乗るノワール、そしていつもの盗賊が着るような安い服とは対照的に貴族が着るような青い服のジェイクとアリシアから借りた水色のドレスを着たレジーナが歩いてくる姿があった。ダークもアリシアと同じで今回は武装をせずに来たようだ。だが、アイテムを取り出すポーチは腰に付けていた。

 ようやく来た三人を見てアリシアはマティーリアとミリナを止める。二人もダークたちが来たのを見るとアリシアの隣まで来て三人に挨拶をした。


「遅かったのう?」

「すまねぇな。住宅街の入口で兵士に止められたんだよ」

「そうそう、此処は貴族か関係者しか入れない、なんて失礼なこと言っちゃうからあったまに来ちゃったわ!」


 高貴な格好をしているにもかかわらず衛兵に止められたことに腹を立てるレジーナとジェイク。そんな二人をアリシアは苦笑いを浮かべて見つめ、ミリナも小さく笑っていた。

 アリシアはレジーナとジェイクの格好を確認し、これならパーティー会場へ行っても大丈夫だと安心する。ただジェイクもマティーリアのように少し落ち着かないのか服の襟やズボンを何度も直していた。


「……やはり着心地が悪いか?」

「ああ、今までこんな高そうな服、着たことねぇからな。おまけにいつもの服と違って動きづれぇし……」

「それは我慢しろ。今回は仕事ではなくパーティーに参加するんだ。動きやすい服装で行く必要はない」

「それは分かってるけどよぉ……」


 多くの貴族が参加するパーティーに出るのだから仕方がないということは分かっているが、やはり初めて着る高貴な服に慣れないため、ジェイクは違和感を覚える肩や腰の辺りを小さく動かした。

 ジェイクの隣ではレジーナがドレスや首飾りなどを見て目を輝かせている姿がある。レジーナはジェイクやマティーリアほど落ち着かない様子を見せておらず、寧ろ高価なドレスを着られたことが嬉しくて目を輝かせていた。


「どう、アリシア姉さん?」

「ああ、似合ってる。弟や妹たちはなんと言っていた?」

「綺麗だって言ってくれたわ」

「フッ、そうか」

「あたしが姉さんたちとパーティーに行くって言ったら、自分たちも連れてってぇ~、なんて駄々をこねられたからビックリしたわよ……まぁ、ダーク兄さんたちが説得してくれてなんとか納得してくれたけど……」

「ハハハ、大変だったな」


 疲れたような表情を見せるレジーナを見てアリシアは苦笑いを浮かべる。姉一人が貴族たちが出るパーティーに出られると聞けば一緒に行きたがるのは当然と言えた。

 ダークと出会う前のレジーナは未熟な冒険者で得られる報酬も少なく、弟と妹の三人で貧しい生活を送っていた。しかし、ダークと出会ったことで冒険者としての腕も上がり、今では七つ星になって多額の報酬を得られるようになったのだ。そのおかげで以前の貧しい生活から一転し、そこらの一般の家庭よりも贅沢な生活を送ることができている。だがそれでも貴族の出るパーティーには出られないので、弟と妹は一人パーティーに出るレジーナを羨ましく思っているようだ。

 弟妹に困り果てるレジーナをダークとノワールは黙って見つめている。ダークは顔が隠れて表情は分からないが、ノワールはクスクスと小さく笑っていた。すると苦笑いを浮かべていたアリシアがダークの方を向き、彼の格好を確認する。そしてマントがいつもの赤と違い白になっていることに気付いた。


「……今日は赤いマントではなく白いマントを着けてきたのか?」

「ああ、さすがにパーティーで真っ赤なマントを着けていくのはマズいと思ってな。こっちの白いマントを選んだのだ」


 祝いの席で赤いマントは不謹慎だと考えるダークを見てアリシアはダークがパーティーのような宴の席に行き慣れているのではと考える。戦いだけでなく、パーティーに関する常識などを心得ているダークを見てアリシアは彼には非の打ち所がないと思っていた。

 全員が集まり、ダークたちが格好や持ち物などを確認していると、馬車に乗っている御者が困り顔でダークたちを見下ろしながら声をかける。


「……あのぉ、もうそろそろ出発してもよろしいでしょうか? 早くしないとパーティーが始まる時間になってしまいますが……」


 御者の言葉を聞き、ダークたちは現状を思い出す。せっかくパーティーに招待されても遅れてしまったら赤っ恥を掻いてしまう。ダークたちは急いでワゴンに乗り込み、全員が乗ったのを確認すると扉を閉めた。

 ダーク達が馬車に乗ったのを確認したミリナは馬車の前までやって来てワゴンに乗っているアリシア達を見て微笑む。


「アリシア、陛下や他の貴族の方々に失礼の無いように気を付けなさい?」

「ハイ、分かっています」

「ダークさん、娘が無茶をしないよう、よろしくお願いします」


 娘のことが心配なミリナは同乗するダークに軽く頭を下げながらアリシアのことを頼んだ。ダークはそんなミリナを見て小さく頷く。


「分かりました。お任せください」

「ありがとうございます」


 ダークとミリナの会話する姿を見てアリシアは自分を子ども扱いする二人を赤くなりながら睨んでいる。そんなアリシアを見てノワールたちは小さく笑った。

 話が終わってミリナがワゴンから離れると御者は手綱を引いて馬たちを走らせる。ダークたちを乗せた馬車は住宅街の出入口へと向かっていき、ミリナは手を振りながらダークたちを見送った。

 住宅街を出て街道を走る数台の馬車。その中にはダークたちが乗る馬車もあり、レジーナたちは窓からパーティー会場である城を見て驚きの表情を浮かべていた。一方でダークはレジーナたちが覗いている窓とは正反対の窓から外を見て遠くで先に城へ入っていく馬車を見ていた。


「……そういえば、今回私たちが出席するパーティーはどんなものなのだ?」


 どんなパーティーが開かれるのか詳しいことを聞いていなかったダークは正面の席に座っているアリシアに尋ねた。アリシアは腕を組みながらパーティーの内容を思い返し話し出す。


「確か今度のパーティーは第一王女であるアルティナ様の誕生日パーティーだとマーディング卿は仰っていたな」

「アルティナ様?」

「ああ、セルメティア王国第一王女、アルティナ・ド・ヴィズ・セルメティア様だ。まだお若いのに国の政治に関する職務にも参加されているご立派なお方だ」

「ほおぉ? 因みに今年で何歳いくつになられるんだ?」

「確か、二十歳になられるはずだ」

「私たちよりも年下なのか……」


 自分よりも年下で政治の仕事をしているという第一王女にダークは意外そうな声を出す。アリシアも自分よりも若いのにこの国の政治に携わる仕事をしている第一王女を尊敬していた。

 そんな会話をしているうちにダークたちの乗った馬車は城の前に到着して停車した。御者が降りて扉を開けるとダークたちは一人ずつゆっくりとワゴンから降りる。そして目の前に建っている大きな城の入口を見上げた。


「うわあぁ、大きいわねぇ……」

「さすがは王様が住んでいる城だな。入口だけでもこれだけデカいとは……」

「入口がこれだけデカいのだから城内はもっとデカいのではないか?」


 レジーナたちが入口を見上げながら話している姿を見てダークとアリシアは子供みたいな反応をしているなと思っていた。ダークたちが動かずに立っていると他の馬車から降りた招待客が次々と入口へ向かっていき、入口前に立つ執事のような格好をした男たちに招待状を見せて城内へと入っていく。他の招待客たちが先に入っていく姿を見てダークたちも早く中へ入ろうと入口へ向かった。

 入口前に着くとダークたちは招待状を見せるために並んでいる貴族や騎士たちの列の一番後ろにつき自分たちの番が来るのを待つ。ダークとアリシアは同じ列に並び、レジーナたちは別の列に並んで順番を待った。その間、他の招待客たちは長身で漆黒の全身甲冑フルプレートアーマーを着ているダークに注目している。パーティー会場にはそぐわない格好をし、更に外見からダークが黒騎士であると気付いた貴族や騎士たちはダークを見ながらこそこそと話した。やはりこの世界でよく思われていない黒騎士がパーティー会場にいることが気に入らないようだ。

 周りの招待客たちがダークを見ながら小声で話す姿に気付いたアリシアやレジーナたちは呆れたような表情を浮かべる。ダークのことも知らずに黒騎士だからと言ってパーティーに参加することが納得できないと考える彼らをアリシアたちは情けなく思っていた。アリシアは前に立つダークを心配してチラッと見るが、ダークは周りの招待客の視線や会話に気にする様子を一切見せず前だけを見ていた。肩に乗るノワールも同じように前だけを見ている。

 しばらくして前の招待客が動き、ようやくダークの番がやってきた。ダークが招待状を確認する男の前に立つと、男はいきなり前に現れた黒騎士の姿を見て一瞬驚きの表情を浮かべる。だがすぐに落ち着いた表情に戻り、ダークに頭を下げて挨拶をした。


「よ、ようこそいらっしゃいました……招待状をお見せいただけますか?」

「ああ」


 落ち着いた表情だが緊張した様子を見せる男にダークは招待状を見せる。男は招待状を受け取り、そこに書いてある内容を確認した。


「ダーク様、ですか……誠に恐れ入りますが招待状の照会をさせていただきたいのですが……」

「照会?」

「ハ、ハイ、こちらに陛下からご招待されたと書かれてありますので、念のために照会を……」


 この国の国王から招待された、それを聞いた周りの招待客たちは驚きながらダークの方を向く。ダークの近くにいるアリシアたちは一斉にダークに注目する招待客を見て驚いた。国への忠誠心を無くした黒騎士が国王からパーティーに招待されたと聞けば驚くのは当然だ。


「……私は構わないが」

「ありがとうございます。では……」

「ちょっと待て」


 男が照会しに行こうとした時、ダークの後ろにいたアリシアが男を呼び止めた。


「他の招待客は皆招待状を見せただけで入っているぞ。どうしてダークだけ照会する必要がある?」

「いや、ですから招待状に陛下から招待されたと書かれてありますので……」

「……では、なぜあの三人はすんなりと会場に入れる?」


 アリシアがチラッと別と列に並んでいるレジーナたちを見た。レジーナたちは招待状を見せただけで照会することも無くすんなりと会場に入っていた。同じ国王から招待された者なのにレジーナたちだけがすんなり入れたことが納得できないアリシアは男を睨む。


「……あの三人も陛下から招待を受けている。それなのに彼女たちだけが簡単に入れてダークだけが確認を取らないといけないのは変じゃないのか?」

「い、いえ、それは……」


 男を睨むアリシアを見て怯えた表情を浮かべる男。大方黒騎士が国王に招待されたことが信じられなくて確認を取ろうとしたのだろう。ダークとアリシアの後ろにいる他の招待客たちも巻き込まれるのではないかと考えたのか二人から距離を取る。それを見て近くにいた槍を持つ数人の衛兵たちは目を鋭くしてダークとアリシアを見た。

 先に入ったレジーナたちは困り顔でダークとアリシアを見ている。すると何処からか声が聞こえてきた。


「ダーク殿、アリシアさん」


 ダークとアリシア、そしてレジーナたちが声のした方を向くと笑いながら歩いてくるマーディングの姿を確認する。マーディングが現れたことで騒ぎになることは無くなったなと感じ、レジーナとジェイクはホッとした。

 マーディングはダークたちの前にやってきてゆっくりと頭を下げてダークとアリシアに挨拶をした。


「お二人とも、お待ちしていました」

「いえ、こちらこそ招待していただき、ありがとうござます」

「ありがとうございます、マーディング卿」

「いやいや、首都を救ってくださった貴方がたを招待するのは当然のことです。お気になさらずに……ところで、どうかなさったのですか?」

「実は……」


 何が起きているのか理解できないマーディングにアリシアが説明する。それを聞いたマーディングは納得したような顔をし、再びダークとアリシアに頭を下げた。


「そういうことでしたか……大変失礼いたしました」

「あ、あの、マーディング様?」


 状況を理解できない男は戸惑いながらマーディングに話しかける。マーディングは男の方を向いてダークのことを男に説明し始めた。


「こちらは七つ星冒険者のダーク殿です。彼は先日のミュゲル・バッドレーナスの一件を解決してくださったお方ですよ」

「ええぇ!? そ、それでは、陛下が招待されたというのは……」

「勿論事実です。因みに私が彼をパーティーに招待するよう陛下にお勧めしたのですよ」


 本当に国王から招待されたのだと知り、男の顔が一気に青くなる。国王が招待した客、しかも首都を救った者の招待状が本物かどうかを疑ってしまったという失礼なことをしてしまい男は冷や汗を掻く。他の招待客たちもダークが何者なのかを知って驚き騒ぎ出す。


「た、大変失礼いたしました!」


 男はダークの方を向いて深く頭を下げて謝罪した。ダークはそんな平謝りをする男を見て気にしていないという素振りを見せる。

 誤解が解けるとダークとアリシアはマーディングと共に城内に入り、先に入っていたレジーナたちと合流する。マーディングはレジーナたちにも挨拶をするとダークたちをパーティーが行われる場所へ案内した。


「しっかし、とんだ災難だったな、兄貴?」

「フッ、そうだな……」

「お許しください、ダーク殿。何しろ黒騎士がパーティーに出席するなど過去に一度もありませんでしたからあの者も本当に招待された者なのか疑ってしまったのでしょう」

「いえ、私は気にしていません。パーティーの招待客を装って不審者が侵入することだってあり得るのです。怪しい者を見かけたら警戒するのは当然のことです」

「そう言っていただけると助かります。これからは貴方に無礼なことがないように執事やメイド、衛兵たちには私から貴方のことを話しておきますので」


 話をしながら歩いているとマーディングは二枚扉の前で立ち止まり、後をついてきていたダークたちも足を止める。二枚扉の隅にいた二人の執事が二枚扉の前で立ち止まるダークたちを見ると二枚扉を開けた。

 二枚扉の先には大広間があり、天井からは大きなシャンデリアがいくつも吊るされ、壁には幾つもの高価そうな絵画が掛けられている。そして中央には沢山の料理が並べられた大きな長方形のテーブルがあった。

 既に大広間には多くの招待客の姿があり、それを見たレジーナ、ジェイク、マティーリアの三人は初めて見るパーティー会場にとても驚いていた。アリシアは貴族であるため、パーティー会場は見慣れているのか驚く様子は無く、ダークとノワールも驚かずに大広間を見ている。


「まもなくパーティーが始まります。それまでこちらの大広間でお待ちください」

「分かりました」


 ダークたちは会場である大広間に入り、それを見届けたマーディングは自分の仕事に戻ったのかその場を移動した。

 大広間に入るとダークたちはとりあえず中央にある料理の乗ったテーブルの前にやってきてパーティーが始まるのを待った。ダークの周りにいる招待客たちはダークの姿を見ると入口にいた招待客のようにダークには聞こえないように小声でコソコソと話し出す。まだ彼らはダークが国王から招待され、ミュゲルの一件を解決した存在だとマーディングから聞かされていないのでダークを冷たい目で見ていた。

 入口前と同じ状況なのを知り、アリシアたちは溜め息をつく。自分たちが説明してもきっと信用しないだろうと考え、今はマーディングが説明してくれるのを待つことにした。

 それからしばらくして大広間に招待客のほぼ全員が集まり、大広間は招待客で一杯になる。すると大広間の奥に一人の貴族風の格好をした老人が現れて招待客の方を向いた。


「皆さま、御静粛に! ただいまよりセルメティア王国第一王女、アルティナ・ド・ヴィズ・セルメティア様の誕生パーティーを開催します。まずは陛下から皆様にお話があります」


 老人が誕生日パーティーの始まりを告げ、国王から話があると伝えると近くにいた執事の方を向いて合図を送る。すると執事は姿勢を正し、少し顎を上げて大きく口を開いた。


「セルメティア王国第十一代国王、マクルダム・ジ・ヴィズ・セルメティア陛下、御入来!」


 執事の言葉を聞き、招待客たちは一斉に大広間の奥にある扉に注目する。扉がゆっくりと開かれ、大広間に肩まである小麦色の髪を持ち、髪と同じ色の口髭を生やした四十代後半ぐらいの男が入ってきた。頭には王冠を載せ、招待客である貴族たち以上に高貴な白、金、赤の服装をしているその男こそ、セルメティア王国の国王であるマクルダム・ジ・ヴィズ・セルメティアなのだ。

 招待客達が大広間に入って来たマクルダムを見ていると再び執事が口を開いた。


「続きまして、セルメティア王国王子、ロイク・ラ・ヴィズ・セルメティア殿下、第一王女、アルティナ・ド・ヴィズ・セルメティア殿下、御入来です」


 マクルダムを見ていた招待客たちはマクルダムが大広間に入ってきた扉に視線を戻した。すると今度はマクルダムと同じくらい高貴な緑色の服を着た二十代半ばくらいの茶色の短髪をした青年と白とピンクのドレスを着て小麦色のセミショートの髪をし、頭に小さなティアラを載せた二十代前半くらいの女性が入室する。

 青年と女性はゆっくりと歩いてマクルダムの隣まで来ると招待客たちの方を向いて微笑む。この二人が執事が紹介したセルメティア王国の王子、ロイクと今回のパーティーの主役である王女、アルティナだ。

 招待客たちはロイクとアルティナを見ると笑いながら小声で話をする。その会話は二人が美しかったり、高貴な雰囲気を出しているなどというダークを見て話していた時とはまったく違った内容だった。アリシアたちはダークに対する態度と全く違う招待客たちの態度に呆れ顔で溜め息をつく。一方でダークは周りの招待客のことなど気にもせずに初めて見る王族たちに注目していた。


「皆さま、静粛に! これから陛下よりお言葉を賜ります。どうかお静かにお願いいたします」


 老人が小声で話をする招待客たちに静かにするよう告げると招待客たちも王族の前であることを思い出して静かにする。全員が静かにするのを確認すると老人はマクルダムの方を向いて頷く。部屋の隅には衛兵や数人の騎士の姿もあり、その中にはリーザの姿もあり、招待客と同じようにマクルダムに注目している。

 全員が自分に注目していることを確認したマクルダムは一歩前に出ると一度小さく咳をしてから招待客たちを見て口を開いた。


「皆、早くパーティーを楽しみたいという気持ちもあるだろうが、少しだけ私の話を聞いてほしい……今夜は我が娘、アルティナの誕生日を祝うためによく来てくれた。娘に代わって皆に礼を言おう。本当にありがとう」


 マクルダムが招待客たちに礼を言うと彼の後ろで控えていたアルティナも微笑みながら招待客に頭を下げる。隣に立つロイクも笑って頭を下げるアルティナを見ていた。

 ダークは王族でありながら自分よりも位の低い者たちに礼を言ったり頭を下げるセルメティア王族の姿を見てこの国の王族は国民のことを考え強く尊敬されているのだと感じた。

 招待客たちがマクルダムたちを見ながら笑みを浮かべているとマクルダムの隣にマーディングが近づいてきて耳元で何かを話す。それを聞いたマクルダムは一度マーディングを見た後に招待客たちの方を向き、後の方で自分を見ているダークとアリシアたちを見つける。


「……実は今回のパーティーには特別な者たちを招待している」


 突然のマクルダムの言葉に招待客たちは不思議そうな表情を浮かべた。


「皆も知っていると思うが、先日、我が国を追放されたミュゲル・バッドレーナスがアンデッドを率いてこの首都に攻めてこようとしていた。だが、ある冒険者と我が国の騎士たちのおかげでミュゲルは倒され首都は守られた。その感謝の気持ちを込めてその者たちをこのパーティーに招待した。そのミュゲルを倒し、首都を救った者の一人がそこにいる黒騎士だ」


 そう言ってマクルダムは遠くにいるダークを指差し、招待客や衛兵たちが一斉にダークの方を向く。ダークとアリシア、そして近くにいるレジーナ達は周りの招待客が自分たちの方を向いたことに少し驚いた様子を見せる。だがダークたち以上に他の招待客たちの方が驚いていた。めでたいパーティー会場には場違いと思っていた黒騎士が実は首都を救った英雄だと知り、驚きを隠せなかった。衛兵や騎士たちも信じられないのかかなり驚いた顔でダークたちを見ている。


(うわぁ~、皆、滅茶苦茶驚いてるよ。やっぱり俺がミュゲルを倒して首都を救った冒険者だとは思わなかったんだなぁ……)


 周りが驚いている姿を見てダークは心の中で呟く。この世界では黒騎士は忌み嫌われる存在であり、その黒騎士が国のために反逆者であるミュゲルを倒して首都を救ったと聞かされれば殆どの人が驚くのは当たり前と言えた。


「ダーク殿、どうぞこちらにいらしてください。それからアリシアさん、リーザさんもこちらへ」


 マーディングがダークと一緒にアリシアとリーザを呼び、それを聞いたアリシアとリーザは同時に反応する。ダークだけでなく自分たちも呼ばれるとは思っていなかったようだ。

 呼ばれたダークは招待客の間を通ってマクルダムたちの下へ向かい、アリシアもそれに続く。大広間の隅にいたリーザもゆっくりと歩いて大広間の奥へ向かう。マーディングはやってきた三人を王族たちの横に並ばせ、招待客たちの方を向いてダークたちの紹介を始める。


「皆さん、こちらにいらっしゃる三人がミュゲルと彼の率いるアンデッド軍団を倒し、首都を守った者たちです。この町で七つ星冒険者で暗黒騎士と呼ばれているダーク殿。我が王国の調和騎士団に所属しているアリシア・ファンリードとリーザ・ナルビィズです。彼らがいなければ今頃この首都はミュゲルのアンデッド軍団の襲撃を受けて多くの犠牲者を出していたでしょう」


 マーディングの紹介を聞いた招待客たちはいまだに信じられないのか、少し驚いたような顔で前にいるダークたちを見ている。その中でレジーナたちは自分たちの仲間たちを紹介されていることが嬉しいのか笑いながら胸を張っていた。

 招待客たちを見ながらマーディングがダークたちのことを紹介していると、その後ろに立つダークが小声で隣のアリシアに声をかけた。


「……アリシア、マーディング殿が言っていた調和騎士団というのはなんなんだ?」

「ああぁ、言っていなかったな……実はこの国には二つの騎士団が存在するんだ。マーディング卿が管理し、私やリーザ隊長が所属しているのが調和騎士団。町の防衛や護衛、そしてモンスターや盗賊などの討伐を主な任務としている。もう一つは王族から直接命を受けて動く王族直属の直轄騎士団。他にも魔法使いによって構成された魔導士部隊など、いくつも戦力が存在するが、この国で主力と言えるのが調和騎士団、直轄騎士団の二つだ。二つの騎士団が一緒に任務を行う時は区別しやすいように調和騎士団や直轄騎士団と言うのだが、一緒に任務を受けることは殆どないから普通にセルメティア王国騎士団と名乗っているんだ」

「なるほど、そういうことか。それじゃあ親衛隊なんかはその直轄騎士団に所属してるってことなのか?」

「ああ、他にも多くの隊があるようだが、詳しくは私も分からない」


 アリシアの説明を聞いてセルメティア王国の騎士団が思っていたよりも複雑であることを知ったダークは、上手くやっていくためにもう少し騎士団について知っておいた方がいいと考えていた。

 ダークとアリシアが小声で話をしているとマーディングの話が終わり、マーディングはマクルダムの後ろへ移動する。そしてマクルダムはダークたちの方へ歩き出し、それに気づいたダークたちは姿勢を正す。

 マクルダムはダークの前にやってきて自分よりも背の高いダークを見上げる。


「そなたがダークか」

「……ハイ、お会いできて光栄です。陛下」

「私もだ。そなたの話はマーディングから聞いておる。これまで何度も調和騎士団に協力して多くの依頼を熟してくれたそうだな。礼を言うぞ」

「勿体ないお言葉です」

「これからもそなたの力を借りることがあるかもしれない。その時はまた力を貸してほしい」

「ええ、喜んでお力になります」


 国王であるマクルダムを前に緊張すること無く冷静に話すダークを見てアリシアやその場にいる殆どの者が意外そうな顔でダークを見る。普通はこの国の頂点に立つ存在と向かい合って話をすれば誰もが緊張するものだが、ダークは緊張することなく普通に会話をした。その神経の太さにダークを知らない者たちは全員驚いている。

 それからマクルダムはダークの隣にいるアリシアやリーザとも挨拶をしたが、二人は自分たちの国の王であるマクルダムと向かい合って話すこと自体が初めてなので緊張した様子を見せていた。それからダークたちの紹介と会話が終わると三人は自分たちがいた場所へ戻っていく。戻ったダークとアリシアを見てレジーナたちは褒めたりからかったりなどしていた。


「さあ、真面目な話はここまでにしよう。皆、パーティーを楽しんでくれ」


 マクルダムは酒の入ったグラスを片手に招待客たちに言い、それを聞いた招待客たちも自分たちのグラスを高く上げる。それから招待客たちは集まって会話をしたり、テーブルに並べてある料理を食べるなど自由に行動を始めた。


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