表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第四章~港町の死霊~
38/327

第三十七話  生者と死者の戦い


 ダークたちが港でスカルバードと戦闘を開始した頃、バミューズの外に広がる森の中ではアリシアたちもアンデッドの群れと戦闘を繰り広げていた。突如地中から姿を現した大勢のスケルトンやゾンビに最初は動揺していた兵士たちも武器を強く握り、アンデッドたちと戦っている。

 エクスキャリバーを両手で握るアリシアは目の前のスケルトンを胴体から真っ二つにする。光の力を宿したエクスキャリバーはアンデッドや魔族など闇の力を持つモンスターの前でこそ真の力を発揮する剣だ。更にアリシアはレベルが70と高く、並のモンスターなら楽に倒すことができる。アリシアの前では物理攻撃に強いアンデッドの体も豆腐同然だった。

 目の前にいるスケルトンを倒したアリシアは次に左側にいるゾンビの首をはねて倒した。そこに折れた剣や錆びた手斧を持った二体のスケルトンが背後から迫り、アリシアに向かって剣と手斧を振り下ろしてアリシアに襲い掛かる。アリシアはエクスキャリバーを横にして素早く振り返りながら後ろにいるスケルトン二体を切る。どうやら最初から背後からスケルトンが近づいてきていることに気付いていたようだ。

 切られたスケルトンは持っている武器を落とし、その場で崩れるように倒れ動かなくなる。倒れたスケルトンを見たアリシアはチラッと周囲の状況を確認した。離れた所では兵士たちがスケルトンやゾンビと戦っており、押している者がいれば押されている者もいる。戦況は五分五分と言ったところだ。


「今のところ負傷者などはいないな……それにしても何体いるんだ。さっきから何体も倒しているのに数が一向に減らない。寧ろ最初の時よりも増えているぞ」


 アリシアは周囲にいるアンデッドたちを見ながら険しい表情を浮かべた。最初は三十体程度だったアンデッドが今では四十体近くになっている。しかも戦いが始まってからアリシアたちは何体もアンデッドを倒した。それでも数が減らず逆に増えており、既に倒したアンデッドを含めればその数は五十体を超えている。


「このまま戦い続ければいつかはこちらの体力が尽きてしまう。ある程度倒したら町へ撤退した方がいいな……」


 長期戦になれば疲れを知らないアンデッドたちの方が有利になり、いつかは自分たちが全滅すると考えたアリシアは撤退することを頭の中に入れて再び戦闘を再開する。すると遠くで二体のスケルトンに押されている女兵士を見つけ、アリシアは兵士を助けるために走り出した。

 二体のスケルトンは錆びた剣を振り回して女兵士を攻撃し、女兵士は持っている槍の柄の部分でスケルトンの攻撃を必死に防いだ。どうやら彼女も新人の兵士らしく、初めて遭遇したアンデッドに恐怖しているのか構えが甘く隙だらけだった。そんな女兵士にスケルトンが錆びた剣を振り下ろして攻撃する。すると攻撃を防いだ時の衝撃で体勢を崩した女兵士は槍を手から離し、その場に座り込んでしまう。


「い、いや……やめて、来ないで……」


 じわじわと近づいてくるスケルトンを見ながら涙目で震える女兵士。そんな命乞いも聞かずにスケルトンは女兵士との距離を縮めていく。そして、大きく剣を振り上げて止めを刺そうとした。


「聖光飛翔槍!」


 突然聞こえてくるアリシアの声。そして声が聞こえた直後に剣の刃の形をした光が飛んできてスケルトン二体を貫いた。驚いた女兵士が光が飛んできた方を向くとそこにはエクスキャリバーを振り下ろしているアリシアの姿がある。アリシアが神聖剣技で女兵士を助けたのだ。

 光の刃を受けた二体のスケルトンは光に包まれていき、骨の体は光の粒子となって消滅した。神聖剣技の力によってアンデッドであるスケルトンの体が浄化されたのだ。

 スケルトンたちが消えるとアリシアは女剣士の下に駆け寄って手を差し伸ばした。女兵士は目元に涙を溜めながらアリシアを見上げており、やがてアリシアの手を取り、力を借りて立ち上がる。


「大丈夫か?」

「ハ、ハイ。ありがとうございます」

「無理はするな? 一人で倒せないと思ったら迷わずすぐに仲間に助けを求めろ」

「ハ、ハイ!」


 自分を助けてアドバイスをしてくれたアリシアを見て女兵士は感激したのか力の入った声で返事をする。するとそこに新たに武器を持たないスケルトン二体と剣を持つゾンビが一体近づいてきた。アリシアはエクスキャリバーを構え直し、女兵士も落ちている自分の槍を拾って構える。


「ア、アリシア隊長……」

「お前は下がっていろ。私がやる」


 そう言ってアリシアはエクスキャリバーを握り近づいてくるアンデッドたちに向かっていく。一人でアンデッド三体を迎え撃つアリシアを見て女兵士は目を見開きながら驚いた。いくらアリシアでも正面からアンデット三体と戦うのは無謀だと思ったのだろう。だがこの後、女兵士はアリシアの想像以上の力を目の当たりにする。

 アリシアは三匹のアンデッドの内、一番手前にいるスケルトンに向かってエクスキャリバーを振り下ろして攻撃する。スケルトンは頭上から真っ二つに両断されて崩れるように倒れた。そのまま続けてアリシアは左にいるもう一体のスケルトンに切り上げを放つ。スケルトンは左腰から右肩に向かって切られ、スケルトンは仰向けに倒れてバラバラに崩れた。

 二体のスケルトンを倒すとアリシアはすぐに右側にいるゾンビの方を向く。ゾンビは持っている剣でアリシアに袈裟切りを放ち攻撃してきた。アリシアは冷静にゾンビの攻撃をかわし、エクスキャリバーでゾンビの顔に突きを放つ。エクスキャリバーの切っ先はゾンビの顔面に深く刺さり、ゾンビはうめき声を上げるまもなく倒れて動かなくなった。三体全てを倒すとアリシアは小さく息を吐く。


「す、凄い……」


 アンデッドが倒された光景を目にした女兵士は目を丸くしながら驚く。アリシアが強いということは彼女も噂で聞いていた。だが物理攻撃に強いアンデッドを普通の攻撃で簡単に倒してしまうとは思わなかったのだろう。

 アリシアはアンデッドを倒すと女兵士の下に戻り、周囲を簡単に見回した。


「……この辺りのアンデッドは全て倒した。お前は苦戦している仲間のところへ行き彼らに手を貸せ」

「ハ、ハイ、分かりました」


 指示を出したアリシアは押されている仲間たちを助けるために遠くで戦う仲間の下へ走る。女兵士も走り去るアリシアの姿を見てから仲間を助けに移動した。

 アリシアがアンデッドと戦っていた場所から数十m離れた所ではマティーリアとリーザが自分たちを取り囲むアンデットたちを一体ずつ倒している姿があった。マティーリアはロンパイアでスケルトンの頭部を破壊し、リーザも騎士剣でゾンビの首をはね、二人は少しずつアンデッドを倒していく。二人の周りには十体近くのアンデッドが集まっており、一歩ずつ二人に近づいてきていた。


「やれやれ、虫のように次から次へと湧いてくる奴らじゃ」

「どうやらこの森の地中ほぼ全てにアンデッドが埋まっていると考えてよさそうだな」

「フッ……これじゃあ森ではなくて墓地じゃな」


 お互いに背中を合わせながらアンデッドを警戒して会話をするマティーリアとリーザ。一見アンデッドたちに囲まれて追い込まれているようだが、二人の顔には焦りなどは一切無い。レベル66のマティーリアと神官騎士のリーザにとってはアンデッドに囲まれることなど問題でもなかった。

 マティーリアは一番近くにいる槍を持ったスケルトンを見るとロンパイアの切っ先を向けながらニッと笑みを浮かべた。


「下級のアンデッド如きが竜人である妾に勝てると思っておるのか? お主らの体など妾の炎で灰にしてくれるわ」


 マティーリアは大きく息を吸い、炎を吐いてアンデッドたちを一掃しようとした。すると後ろに立っているリーザが慌てたような顔でマティーリアを止める。


「待て、此処は森だぞ!? 下手をすれば森全体が燃えて私たちも炎に包まれる。戦技を使って一体ずつ倒せ」

「なんじゃ、面倒じゃのう」


 せっかく来たのに炎を吐いて攻撃できないことに不満そうな顔をするマティーリア。だがリーザの言う通り、森で炎を吐けば木や草に燃え移って森火事になる可能性が高い。マティーリアは仕方なく戦技で戦うことにした。

 マティーリアは近くにいるスケルトンとゾンビを見てロンパイアを構えると気力を送り、ロンパイアの剣身を赤く光らせる。そしてスケルトンとゾンビが一定の距離まで近づくとマティーリアは鋭い眼光で睨み付けた。


六連王爪斬ろくれんおうそうざん!」


 近づいてきたアンデッドたちに向かってロンパイアを横に振り攻撃する。するとスケルトンの首と両腕、ゾンビの首と右腕、左足が切られ、スケルトンとゾンビはその場に崩れるように倒れた。

 マティーリアが使った<六連王爪斬>は上級戦技の一つでもの凄い速さで敵に六回攻撃することができる技である。更に武器の切れ味も高めるので鎧を着た敵の体も簡単に切る捨てることが可能だ。レジーナが使っていた風神四連斬に似たタイプの戦技だが、こちらの方が速くて攻撃回数も多い。人間なら体得するのにかなりの時間が掛かる戦技だが、竜人であるマティーリアなら上級戦技を簡単に体得し、肉体への負担も気にせずに連続で使うことも可能だった。

 倒れたスケルトンとゾンビを見て動き出さないことを確認したマティーリアは次のアンデッドに攻撃を仕掛ける。ロンパイアを振り回し、スケルトンやゾンビを次々に倒していく。その姿を見ていたリーザは竜人であるマティーリアが強いことを改めて理解した。


「凄い、あの幼い姿からは想像もできない力を出すなんて……あれが竜人か」


 自分と力がまるで違うマティーリアを見てリーザは呆然とする。そこへ一体のゾンビが持っている剣を振り下ろして攻撃してきた。ゾンビに気付いたリーザは咄嗟に横へ跳んでゾンビの攻撃を回避する。

 リーザは素早く体勢を立て直し、右手に騎士剣を持って空いた左手をゾンビに向ける。するとリーザの左手が光り出し、手の中に白い光球が現れた。


光球ライトボール!」


 叫んだ瞬間、リーザの手の中の光球がゾンビに向かって放たれ、ゾンビの腹部に命中する。ゾンビはうめき声を上げながら光に包まれていき、ゆっくりと光の粒子となって消えた。

 <光球ライトボール>は光属性の下級魔法の一つ。回復系の多い光属性の中では数少ない攻撃魔法だ。LMFでは光の射撃シャインショットと呼ばれており、攻撃力は低いが消費するMPが少ないので光属性の魔法を覚える職業クラスを持つ者は殆どが習得している。リーザも神官騎士であるため、光属性の攻撃魔法である光球ライトボールを習得していた。

 ゾンビが消滅するとリーザは騎士剣を構え直してすぐに近くにいる別のアンデッドを攻撃し一体ずつ確実に倒していった。


「クソォ! いったい何体いやがるんだ!」


 中年の兵士がスケルトンを剣で倒し、疲れた表情で周囲を見回す。彼の周りには自分と同じようにアンデッドと戦う仲間たちがおり、皆必死にアンデッドたちと戦っていた。

 中にはアンデッドの攻撃を受けて腕や足に傷を負っている者もいる。だが兵士たちはそんな傷の痛みなど感じていないのか力一杯自分の武器を振り回してアンデッドに攻撃していた。


「どうして森の中にこんなにアンデッドがいるんだ。明らかに誰かが隠したとしか考えられねぇぞ!」


 普通では考えられない数のアンデッドに兵士は叫ぶように言う。アンデッドとの長い戦いに兵士も次第に苛立ってきたようだ。

 兵士が険しい顔をしながら周りを見ていると、兵士の足元から灰色の腕が飛び出して彼の足を掴んだ。突然自分の足を掴まれたことに驚き兵士は驚きながら足元を見た。すると土の中からゾンビの顔が飛び出してうめき声を上げる。


「うわああぁ! は、放せぇ!」


 突然ゾンビが襲ってきたことに兵士は混乱し、必死に足にしがみつくゾンビを放そうとする。だがゾンビはしっかりと兵士の足を掴んでおり放れようとしない。ゾンビは地中に埋まっているもう片方の手を出して兵士に伸ばす。

 ゾンビが兵士に襲い掛かろうとしたその時、アリシアがゾンビのこめかみにエクスキャリバーを突き刺す。頭部を破壊されたことでゾンビは活動を停止させ、兵士の足を掴んでいた手を放し、下半身を地中に埋めたまま倒れた。


「大丈夫か?」

「ハ、ハイ……」

「油断するな。奴らは文字通り神出鬼没だぞ」


 アリシアは驚いている兵士に忠告をして別のアンデッドを倒しに向かう。残された兵士は力が抜けたのかその場に座り込んだ。

 走りながらアリシアが周りを見ると辺りには既に活動を停止したアンデッドが何体も倒れている。だがそれでもまだアンデッドは大勢おり、兵士たちも必死にアンデッドと戦っていた。


(さっきと比べるとアンデッドの数は確実に減っている。このままなら犠牲者が出る前に戦いを終わらせることができそうだ……だが油断はできない。また地中から突然現れて襲ってくることも考えらえる!)


 戦いが終わるまで油断してはいけないとアリシアは心の中で自分に言い聞かせるように呟く。それからアリシアは足元や倒れているアンデッドに警戒しながら森の中を走り、苦戦している兵士がいれば急いでそこへ向かい、アンデッドたちを倒していった。


――――――


 その頃、バミューズの港ではダークたちが空から侵入してきたスカルバードの群れと戦っていた。群れと言っても既に八体しかいなかったスカルバードは既に五体がダークによって倒されており、今では三体しか飛んでいなかった。

 黒いグレートボウを構えながら上空を飛んでいるスカルバードを見ているダーク。彼の周りには撃ち落とされたスカルバードが転がっており、ピクリとも動かなかった。離れた所ではレジーナとジェイクが自分たちの武器を握りながらダークを見ている。


「スゲェな……あっという間にスカルバードを五体倒しちまうなんて……」

「ええ……でもそれ以前にダーク兄さんの弓の腕に驚かされたわ。あんなに正確に獲物を射抜けるなんて」

「確かにな。俺はてっきり兄貴は剣しか使わねぇと思ってたが……弓まで使えてしかもあれほどの腕を持ってるとは思わなかったぜ」


 ダークが弓を使えることにレジーナとジェイクは意外そうな顔でダークを見つめる。するとそこにダークの肩に乗っていたはずのノワールが飛んできた。ノワールはレジーナとジェイクの間に入り、飛びながらダークの勇姿を見つめる。


「マスターは最初は剣しか使えなかったんです。でも剣術を全て覚えた後に遠くにいる敵を攻撃する手段として弓を使えるようにしようと考えられました。だから弓を装備するための弓装備可能という技術スキルと命中率と射程を延ばすための精密狙撃という技術スキルを会得されたんです」


 ノワールがダークが弓を使うようになった理由を説明し、レジーナとジェイクはそれを興味津々に聞いた。

 LMFでは職業クラスによって装備できる武器が決められている。ダークのメイン職業クラスである暗黒騎士が装備できる武器は剣、騎士剣、大剣、魔剣の四種類だけで弓や杖などを装備できない。だが、サブ職業クラスにメイン職業クラスが装備できない武器を装備できる職業クラスを選んだ場合は、その職業クラス技術スキルを会得することでサブ職業クラスが装備できる武器も装備できるようになる。

 ダークはサブ職業クラスにハイ・レンジャーを選んでいるのでハイ・レンジャーが装備できる弓を装備できるように弓装備可能の技術スキルを会得したのだ。更により弓の力を発揮できるように弓を強化するための精密狙撃も会得し、暗黒騎士でありながら弓の腕は一流となった。

 ノワールたちがダークの技術スキルについて話している間、ダークは空を飛び回っている残りのスカルバードを見上げていた。次にスカルバードがどう動くのか、スカルバードを見ながら頭の中で冷静に分析する。


(残りは三匹、ちゃっちゃと倒してアリシアたちのところへ行くとするか……しかし、どうして今日に限ってスカルバードが現れたんだ? アンデッドたちがこの町の周辺に現れたのは一週間以上前だと聞いている。にもかかわらず今までは街の周辺に現れるだけで町に侵入してきたことは無かった。なのに今日に限ってスカルバードが町に侵入してくるなんて。これじゃあまるで……)


 今までアンデッドが町に侵入してこなかった理由を考えるダーク。すると残りの三匹のスカルバードが一斉にダークに襲い掛かってきた。ダークは急降下してくるスカルバードたちを見つめ、意識を集中させる。そしてスカルバードたちがダークにぶつかる直前に左へ跳んで回避した。

 スカルバードの真横に移動したダークはグレートボウで正面にいるスカルバードを狙う。正面にいるスカルバードの奥には残りの二体のスカルバードが一列に並んでおり、それを確認したダークは矢を放つ。放たれた矢はスカルバードに命中して骨の体を貫通する。矢はそのままその奥にいる二体のスカルバードの体も貫通し、一撃で三体のスカルバードを倒した。

 体を貫かれたスカルバードたちは地面に落ちて動かなくなる。全てのスカルバードを倒すとダークは構えている弓を下ろして転がっているスカルバードを見下ろした。そこへ離れて戦いを見ていたノワールたちがやってくる。


「お疲れさまでした、マスター」

「凄いよダーク兄さん! こんなにアッサリとスカルバードたちを倒しちゃうなんて!」

「ああ、俺たちの出る幕は無かったな」


 少し興奮した様子で笑いながらダークを褒めるレジーナとジェイク。するとそんな二人を見たダークは呆れるような声を出して言った。


「……出る幕が無かったって、私が最初のスカルバードを倒した直後にお前たちはすぐに私の傍から離れただろう。その時点で全て私に任せるつもりだったのではないのか?」

「うっ! ……バ、バレてたか?」

「いやぁ~、あたしたち、空を飛ぶ敵と戦う術を持ってなかったから、ダーク兄さんに任せた方がいいかなぁ~、と思ってね……」


 図星を突かれて苦笑いを浮かべながら誤魔化すレジーナとジェイク。だがそんな誤魔化しでダークが納得するわけがない。ダークは二人を見つめながら更に追い打ちをかけるように言い放つ。


「私は最初の一体を大剣で倒したぞ?」

「うっ! え、え~っと……」


 なんと言い返せばいいのか分からないレジーナは目を逸らして頬を指で掻く。ジェイクもこれ以上言い訳はできないと感じたのか俯いて苦笑いを浮かべた。

 レジーナとジェイクを見てノワールは呆れたように二人を見ている。ノワールはダークから離れるよう言われたので二人の下に向かったのだが、レジーナとジェイクはダークに言われる前にダークから離れた。つまり最初からダークにスカルバードたちを任せるつもりでいたのだ。

 仕事を全て自分に任せて見物していたレジーナとジェイクをダークはしばらく黙って見つめていた。二人はダークが睨んでいると思ったのかダークの顔を見ずに目を逸らし続けている。


「ハァ……まぁいい。だが、次にアンデッドと戦うことがあればお前たちには積極的に前に出てもらうぞ?」

『……ハイ』


 声を揃えながらレジーナとジェイクは小さな声で返事をした。ダークに戦いを任せたことを一応反省しているようだ。すると、正門の方から一人の兵士が走ってくる。町に残されたアリシアの隊の兵士だ。ダークたちは慌てた様子で走ってくる兵士に気付いて兵士の方を向く。


「ダ、ダーク殿!」

「どうかしたか?」

「さ、先程、町の周辺調査に出かけた隊の者が戻ってきてリーザ隊長たちが森の中で大量のアンデッドに襲われているという報告が入りました!」

「えっ? アリシア姉さんたちが?」

「ハイ、それも十体や二十体ではなく四十体近くの大群だとのことです。どうか、お力をお貸しください!」


 兵士からアリシアたちの救援を要請され、レジーナとジェイクの顔に緊張が走る。ノワールも飛びながら兵士を見て少し驚いたような顔をしていた。ノワールがチラッとダークの方を向くとダークは持っている弓を背負って兵士の前に出る。


「いいだろう。こちらも片が付いてアリシアたちに知らせに行こうと思っていたところだったからな」

「ありがとうございます!」

「レジーナ、ジェイク、お前たちは先に行ってろ」

「分かった!」

「ああ!」


 ダークに指示されてレジーナとジェイクは走って正門の方に向かった。さっきダーク一人にスカルバードとの戦いを任せたこともあり、二人は振り返らずに走っていく。

 走っていったレジーナとジェイクの姿を見て兵士はしばらく呆然としていたが、アリシアたちが危ないことを思い出し、慌てて二人の後を追う。


「ノワール、お前も行ってくれ。場合によっては変身して魔法を使うことも許す。私は装備を換えてから行く」

「分かりました」


 ノワールもアリシアたちの救援に向かうために空を飛んで正門の方へ向かった。

 港に残ったダークはメニュー画面を開いて装備をグレートボウから元の大剣に変え、装備していた技術スキルも弓を装備する前の状態に戻す。

 装備を戻したダークは正門に向かう前にもう一度霧のかかった沖の方を見る。霧が濃くて多くの方はよく見えない。だがダークがしばらく沖の方を見ていると一瞬霧の中に薄っすらと何かの大きな影が見えた。


「なんだ、今のは?」


 影に気付いたダークが目を凝らして霧の中を見る。だが距離があるうえに濃い霧のせいでよく見えなかった。


「……鷲眼しゅうがん


 ダークが沖を見ながら呟く。するとダークの目が黄色く光り出し、ダークは霧の中に見える影の方を向く。すると霧のせいでよく見えなかった影がハッキリと見えるようになり、更に望遠鏡で覗いたように間近で見ることができるようになった。実は先程、ダークはある能力を使って遠くに見える影の正体がなんなのかを調べたのだ。

 <鷲眼>というのはLMFでレンジャーや弓使い系の職業クラスが会得できる能力の一つで遠くに見える物を近づかずにハッキリと見ることができるようになる能力だ。鷲眼は最大で700m先まで見ることができる。だが鷲眼は中級の能力でその上には鷹眼おうがんという上級の能力が存在し、最大1km先まで見ることが可能だ。ダークは中級職であるハイ・レンジャーをサブ職業クラスに選んでいるので、中級の鷲眼を会得していた。中級職では同じ中級の能力しか会得できないので、上級の鷹眼は会得できなかったのだ。

 能力を発動させて遠くをハッキリと見ることができるようになったダークは霧の中に隠れている影を確認する。するとダークの目にボロボロの帆船が飛び込んできた。帆と二本の大きなマスト、船体もボロボロで海に浮かぶのは難しいと言っていいほど酷い状態の帆船だ。それはまさに町長やベンから聞いていた港の近くに現れる幽霊船だった。


「……あれが例の幽霊船か。まさか想像通りの外見だとはな」


 自分が想像していたとおりの姿をしていた幽霊船にダークは意外そうな声を出しながら幽霊船を観察する。マストの上部に付いている見張り台、デッキの上など外から確認できる所は隅々までチェックしたが誰の姿も無かった。


「此処からは確認できないな……船内にいるのか、それとも無人の幽霊船なのか……」


 誰がどうやってあの幽霊船を動かしているのか、ダークはもう一度鷲眼で幽霊船を細かく調べた。すると、マストの陰から一人の人影が現れて港の方を見ている姿を見つける。


「なんだ? 人間か?」


 ダークは突然現れたその人影に注目する。全身をフード付きマントで隠しており、顔もフードで隠れてて見えないが、僅かに銀色の髪が見えた。ボロボロの帆船に乗ってフード付きマントで姿を隠している人影、明らかに普通ではないとダークは確信する。しかも幽霊船に乗っているかもしれないアンデッドに襲われることも無く平然と立っていることから今回のアンデッド事件の黒幕かその関係者であることが分かった。

 しばらくすると幽霊船は霧の中へと消えていき、見ることができなくなった。ダークは鷲眼を解き、目を元に戻すとしばらく沖の方を見つめて考え込んだ。


「幽霊船に乗り、アンデッドに襲われることなく平然と立っている。そして幽霊船と共に霧の海へ消えた……何者かは知らないがアイツが幽霊船事件に関係しているのは間違いない。そしてアリシアたちが調べている町の外に現れるアンデッドたちとも繋がっている可能性がある……どうやら敵は俺たちが思っている以上に力を持った奴なのかもしれない」


 少しずつ見えてきた黒幕の正体と事件の姿にダークは低い声で呟く。ボロボロの帆船を幽霊船として動かし、多くのアンデッドを操ることができる存在。今の段階ではまだ詳しいことは分からないが、その辺にいるようなただの悪党にできることではないとダークは考えた。


「あの幽霊船に乗っていた奴が黒幕なのか、それとも黒幕の仲間なのか、まだ分からないことが多すぎる……だが、今はアリシアたちの救援に行くことが大切だ」


 ダークは考えるのはやめて町の外でアンデッドたちと戦っているアリシアたちを助けに行くために正門へ向かって走った。


――――――


 町の外にある森ではアリシアたちがアンデッドたちと戦い続けている。アンデッドの数もだいぶ減ってきているがそれでもまだ多くのスケルトンやゾンビの姿があった。

 そんなアンデッドたちをアリシアはエクスキャリバーで一体ずつ倒していく。アリシアだけでなくマティーリアもロンパイアを振り回してアンデッドたちを次々に倒していく。だが二人以外のリーザや兵士たちは長時間アンデッドと戦っていたせいで疲労が溜まり、思うように動けなくなってきていた。疲れが溜まっているせいで動きが鈍り、そこをアンデッドに狙われて負傷する者も出ている。そんな兵士たちを守りながらアリシアやマティーリア、動ける兵士たちは残りのアンデッドと戦うのだった。


「……この調子ならなんとかなりそうだ。早く残りのアンデッドを片付けて町へ戻った方がいいな」


 アリシアがアンデッドの数と負傷している兵士たちの状態を確認して残りのアンデッドを片付けようとする。だがその時、アリシアの足元からいきなりスケルトンが飛び出してきた。

 突然現れたスケルトンに驚き、アリシアは思わずその場に座り込んでしまう。スケルトンは隙を作ってしまったアリシアに向かって持っている手斧を振り下ろし攻撃しようとする。アリシアはしまったと心の中で考えながらスケルトンを睨む。すると突然スケルトンの頭部が宙を舞い、アリシアの近くに転がり落ちる。頭部を失ったスケルトンはその場に崩れるように倒れて動かなくなった。

 スケルトンの頭部を驚きながら見ていたアリシアはふと前を向く。そこにはエメラルドダガーを持って自分を見下ろしているレジーナが立っており、その隣にはスレッジロックを持つジェイクの姿があった。


「レジーナ、ジェイク!」

「アリシア姉さん、大丈夫?」

「ああ、助かったぞ」


 レジーナに礼を言ったアリシアはジェイクの手を借りて立ち上がり、二人を見て小さく笑う。だがすぐにどうして二人が森にいるのか不思議に思い小首を傾げた。


「しかし、どうしてお前たちが此処に?」

「兵士が俺たちのところに来て手を貸してほしいって言ってきてな。こうして救援に来たってわけだ」

「そうだったのか……そういえば、ダークはどうしたんだ?」

「兄貴ならすぐに来るぜ。港で戦いの準備をしているか、後片付けでもしてるんだろう」

「後片付け? それはどういうことだ?」


 スカルバードとの戦闘のことを知らないアリシアはジェイクに詳しい内容を聞こうと尋ねる。だが、ジェイクとレジーナは周囲にいるスケルトンを見て武器を構えた。


「その話はまた後にしようぜ、姉貴? まずは此処にいるアンデッドどもを倒すのが先だ」

「そうそう。ダーク兄さんが来る前に少しでも数を減らしておかないとね?」


 港での戦いをダーク一人に任せたこともあり、レジーナとジェイクはかなり気合が入っているようだ。そんな二人を見てアリシアは頼もしく思えたのか二人に気付かれないような小さな笑みを浮かべる。

 三人から少し離れた所ではノワールが人間の姿になって魔法や持っている杖で殴打したりなどしてアンデッドを攻撃し、兵士たちを援護している姿がある。それを見たアリシアもエクスキャリバーを構え直して周りにいるアンデッドたちを見つめた。


「……そうだな。まずはコイツらを片付けてからだな!」


 レジーナとジェイクが来てくれたことでアリシアも勝利を確信し、表情を鋭くしながら笑う。三人は得物を構えながらアンデッドたちに向かって走り出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ