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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第二十章~信念を抱く神格者~
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第三百二十四話  最終決戦


 予想以上に強力な攻撃にジャスティスは驚くが動揺することなく冷静にダークを見つめる。倒れていたアリシアとファウも立ち上がり、目を丸くしながらダークを見ていた。アリシアたちが注目する中、ダークはセイギャールンを握る手に力を入れ、足も僅かに横にずらす。


「私はLMFから持ってきた書物を調べてセイギャールンにどんな能力があるかは把握しています。ですが、どれほどの破壊力があるのかは分かりません。ですから、攻撃する時も手加減できませんので」

「……大丈夫です。どれ程の力なのかは今の攻撃で大体把握しましたから」


 セイギャールンの一撃の重さを理解したジャスティスはノートゥングを顔の横に持ってきて切っ先をダークに向け、フィルギャを前に出して横に倒し、万全の体勢を取る。しかし、分かったのはセイギャールンの一撃の威力だけで、セイギャールンを攻略する方法は分からずにいた。


「そうですか、では遠慮なくいかせていただきます!」


 ダークはセイギャールンを両手で強く握りながらジャスティスに向かって勢いよく跳び、距離を詰めるとセイギャールンを振って袈裟切りを放つ。ジャスティスはダークの攻撃を今度は剣では防がずに右へ移動して回避した。先程セイギャールンの攻撃は防いだ時に一撃が重すぎると感じ、セイギャールンは防御せずに回避するべきだと判断したようだ。

 右へ移動したジャスティスはダークの左側面に回り込み、ノートゥングを振り下ろして反撃する。ダークは視線を動かしてジャスティスを確認すると素早く左を向き、セイギャールンで振り下ろしを防いだ。

 攻撃を防いだダークを見たジャスティスは少し驚いたような反応を見せる。蒼魔の剣を装備していた時と比べてダークの反応速度が上がっているように感じられた。


(やはりセイギャールンを装備したことでダークさんのステータスも蒼魔の剣を装備していた時よりも上昇しているようだ。なら、それでも対応できないような攻撃を仕掛ければいいだけのこと!)


 セイギャールンの攻撃力だけでなく、ダークのステータス上昇も警戒するべきだと感じたジャスティスはダークが対処できないような攻撃を仕掛けようと考え、後ろに軽く跳んでダークから離れる。ダークからある程度離れたジャスティスは両腕を横に伸ばし、周囲に四人の自分を作り出す。

 ダークはジャスティスの周りに四人のジャスティスが現れたのを見て、再び分身の術を使ったと知り、警戒心を強くしながらセイギャールンを構える。その直後、四体の分身が一斉にダークに向かって走ってきた。

 四体の分身の内、二体は左右に一体ずつ回り込み、残りの二体は正面からダークに近づく。そして、正面の二体はそれぞれノートゥングで振り下ろしと袈裟切りを放ってダークの攻撃する。ダークは目の前にいる二体の分身を見て目を薄っすらと赤く光らせると、セイギャールンを器用に操り、振り下ろしと袈裟切りを払って防いだ。

 正面からの攻撃を防いだダークは目の前の分身たちに反撃しようとする。すると、ダークの反撃を邪魔するかのように左右に回り込んだ分身たちが近づき、二体同時にノートゥングで斬りかかってきた。


「やはり分身たちを相手にするのが一番面倒だな……旋回炎舞せんかいえんぶ!」


 分身たちが鬱陶しくなったダークはセイギャールンを強く握り、勢いよくセイギャールンを横に振りながら右に一回転する。すると、セイギャールンの剣身から黒い炎が燃え上がり、ダークの周りを囲むように勢いよく燃え広がって四体の分身全てを呑み込んだ。


「あれは、天使たちを倒す時に使ったのと同じ……」


 見守っていたアリシアはダークが炎で分身たちを焼き尽くす光景を見て、天使族モンスターたちを倒す時に放った炎と同じことに気付く。ファウもダークが炎で分身を一瞬で焼き尽くしたのを見て目を見開いていた。

 分身たちが炎に呑まれて消滅すると、ダークはセイギャールンを軽く振って剣身が纏っている炎を消す。そして、セイギャールンの力が予想以上に凄いことに驚きながらセイギャールンを見つめた。

 アリシアとファウも今まで苦戦を強いられていた分身を倒したダークを見て驚きのあまり言葉を失っている。ただし、ジャスティスだけは分身を倒されてにもかかわらず、冷静にダークを見ていた。


(……天使たちが倒されたのを見てもしやと思ったが、やはりあの黒い炎はセイギャールンの剣身から出ていた。つまり、あのダークさんの周りに炎を放つ攻撃はセイギャールンの能力の一つということになるな)


 ダークの行動を見てジャスティスは黒い炎がセイギャールンの力だと知り、同時に分身を全て呑み込むほどの炎を放つ力に驚きを感じていた。

 <旋回炎舞>はセイギャールンの攻撃能力の一つでセイギャールンを横に振ることでプレイヤーの周囲に黒い炎を放ち攻撃することができる。攻撃力が高く、自分の周囲全体に炎を放つため、大勢の敵に囲まれている時には非常に役に立つ。しかもセイギャールンの属性を切り替えれば属性ダメージも変えることができるため、闇属性が効かない相手でも属性を火に切り替えれば大ダメージを与えられる。

 セイギャールンの能力に分身たちを一瞬で倒すほどの力があると確認したジャスティスはノートゥングとフィルギャを構え直し、もう分身による包囲攻撃は通用しないと感じた。しかし、分身が簡単に倒されると知ってもジャスティスは戦意喪失などせず、すぐに別の攻撃手段を考える。

 ジャスティスが次の戦術を考えているとセイギャールンを性能の高さに驚愕していたダークは驚いている場合ではないとジャスティスの方を向いて中段構えを取る。


(分身を一瞬で焼き尽くされる光景を見れば、ただ分身に攻撃させるっていう単純な作戦は通用しないとジャスティスさんも気付くだろう。なら、神聖剣技や攻撃用の忍術を使って攻めてくるはずだ)


 次にジャスティスがどんな作戦で攻撃してくるのか想像しながらダークはジャスティスの動きを警戒する。セイギャールンを手に入れたとはいえ、油断していればあっという間に負けてしまうと考えるダークは油断せずに戦わなくてならないと改めて自分に言い聞かせた。


「土遁の術!」


 ジャスティスはノートゥングを握ったまま右手を地面に付けて忍術を発動させ、ダークの左右の地面から長方形の岩が起き上がってダークを挟もうとする。それに気付いたダークは素早くセイギャールンを振り、挟まれる前に左右の岩を切り刻む。

 岩を粉々にしたダークはジャスティスの方を向いて反撃しようとする。だが、それよりも早くジャスティスは次の攻撃に移っていた。


「銀刀烈風波!」


 ジャスティスはノートゥングとフィルギャを地面に突き刺し、突き刺された剣から銀色の斬撃が地面を走ってダークに向かっていく。斬撃を見たダークは回避しなくてはと思っていたが、岩を破壊していたために回避するタイミングを逃してしまい、既に回避が間に合わない状態だった。

 土遁の術で回避を遅らせることに成功したジャスティスはダークに攻撃が命中すると感じ、アリシアとファウはダークが避けられないことに気付いて目を見開く。斬撃が当たる、アリシアたちがそう思いながら見ていると、ダークは斬撃を見ながらセイギャールンを握りながら上段構えを取った。


「黒瘴炎熱波!」


 暗黒剣技を発動させたダークは黒い靄を纏わせているセイギャールンを勢いよく振り下ろし、セイギャールンの剣身から黒い靄が勢いよく斬撃に向かって放つ。その勢いは蒼魔の剣を装備していた時は明らかに違った。

 靄は向かって来た斬撃とぶつかると斬撃を簡単に呑み込み、勢いを弱めることなく真っすぐジャスティスに向かっていく。


「何っ!」


 斬撃が掻き消されたのを見てジャスティスは驚く。銀刀烈風波と黒瘴炎熱波の攻撃力はほぼ互角であるため、ぶつかれば相殺されるはずだった。なのに斬撃が靄に呑まれたのを見て流石のジャスティスも驚きを隠せずにいたのだ。

 迫ってくる靄を見ながらジャスティスは右へ跳んで靄をかわそうとする。しかし、驚いていたことで回避が遅れてしまい、左腕が靄に呑まれてしまう。

 靄を受けたジャスティスの体は丸太へと変化し、丸太のすぐ右側にジャスティスが現れた。本来ならダメージを受けるのだが、ジャスティスは変わり身の術を発動していたため、ダメージを受けずに済んだ。だが、変わり身の術を使ってしまったことでジャスティスから先程までの余裕が消える。


(クソ、変わり身の術を使ってしまったか! できればセイギャールンの能力を全て見るまで使わずにいたかったのだが……)


 ダメージを受けずに済んだとはいえ、保険として発動させていた変わり身の術を使ってしまったことをジャスティスは悔しく思う。もう一度変わり身の術を発動すれば問題無いのだが、攻撃を無効化するような強力な能力であるため、冷却時間が他の能力よりも長く、まだ使える状態ではなかった。

 ジャスティスは再び変わり身の術を使えるようになるまで何とか無傷で時間を稼ぎたいと考える。しかし、ダークも折角変わり身の術を使わせたのに再び発動させるのを許す気は無い。ジャスティスにダメージを与えられる今の内に何とかしたいと考えながらダークはセイギャールンを構え、ジャスティスに向かって走り出す。

 走ってくるダークを見たジャスティスは今の状態で接近戦に持ち込まれるのは危険だと感じ、急いで構え直して迎撃態勢に入った。


「聖剣冷壊弾!」


 ダークを見つめながらジャスティスは神聖剣技を発動させ、冷気を纏ったノートゥングを横に振り、無数の氷弾をダークに向けて放つ。氷弾を見たダークは走りながらセイギャールンの柄の部分を軽く握った。すると、セイギャールンの剣身が薄っすらと赤く光り、剣身から僅かに熱気が感じられる。どうやらセイギャールンの属性が闇から火に変わったようだ。

 セイギャールンの属性が変わるとダークはセイギャールンを素早く振り、飛んでくる氷弾を一つずつ叩き落とす。セイギャールンを火属性に変えたおかげか、氷弾を切る時に殆ど重さを感じない。氷弾を叩き落しながらダークは走り続け、その間、ダークは走る速度を落とすことはなかった。

 神聖剣技を難なく防いだダークを見て、ジャスティスは小さく悔しそうな声を出す。しかし、攻撃が通用しなかったからと言ってジャスティスは動揺など一斉せず、次の攻撃に移る。


「風遁の術!」


 フィルギャを前に突き出し、切っ先に風球を作り出したジャスティスはそこから強烈な風をダークに向かって放つ。突風はダークを呑み込み、ダメージを与えながら吹き飛ばそうとするが、ダークは飛ばされないように姿勢を変え、ジャスティスに向かって走り続ける。しかし、突風を受けたせいかダークの走る速度は僅かに遅くなっていた。

 突風に吹かれながら走ってくるダークを見ていたジャスティスはダークの走る速度が落ちていることに気付くと攻撃を当てるチャンスだと感じ、ノートゥングを高く掲げる。


「聖剣冷壊弾!」


 再び聖剣冷壊弾を発動させたジャスティスはノートゥングを振り下ろして無数の氷弾をダークに向かって放ち、氷弾は突風が吹く中をダークに向かって飛んで行く。風に押されているからか氷弾が飛ぶ速度は速くなっており、ダークは勢いよく飛んでくる氷弾を見るとセイギャールンを素早く振り、飛んでくる氷弾を一つずつ叩き落とす。

 加速した氷弾も通用しないのを見たジャスティスは小さく声を漏らす。例え移動速度が落ちていても攻撃を当てるのは難しいと知ったジャスティスは次の作戦に移ることにした。

 風遁の術の効力が消えて突風が治まるとジャスティスは右へ走りだし、ジャスティスが移動したのを見たダークはジャスティスを追うためにジャスティスの方へと走り出す。ジャスティスは走りながらフィルギャを強く握り、剣身に青い電気を纏わせた。


「蒼竜天雷閃!」


 フィルギャを振り、剣身から青い電撃がダークに向かって放たれた。ダークは走りながらセイギャールンを脇構えに持ち、剣身に黒い靄を纏わせて暗黒剣技を発動させる体勢に入る。


「黒瘴炎熱波!」


 走りながらセイギャールンを振り上げ、電撃に向かって黒い靄を一直線に放つ。靄と電撃がぶつかると爆発を起こして周囲に衝撃を広げる。同時にダークとジャスティスの間に爆煙が広がり、二人の視界から相手を隠す。蒼竜天雷閃は強化された黒瘴炎熱波と攻撃力が互角だったためか、呑み込まれることなく靄を相殺した。

 爆煙によってジャスティスが視界から消えるとダークは小さく舌打ちをしながら停止した。いくらセイギャールンを手に入れたとはいえ、敵が視界から消えた状態で敵がいる方向に突っ込むのは危険すぎる。相手がジャスティスなら尚更だった。

 ダークはセイギャールンを中段構えに持ち替えると爆煙の奥にいるであろうジャスティスの気配を探る。爆煙でジャスティスの姿は見えないが、奥で何かが動いている気配がし、ダークはそれがジャスティスだと直感した。


「煙で姿を隠している間にまた分身の術とか使われたら面倒だ。デカい技で少しでもジャスティスさんにダメージを与えないとな」


 ジャスティスを有利にさせないために先に攻撃を仕掛けた方がいいと感じたダークは中段構えのままセイギャールンを強く握る。すると、セイギャールンの剣身が黒い炎を纏い、剣身の装飾が赤く光り出す。それを確認したダークは爆煙を見つめながら目を赤く光らせた。


魔黒神滅刃まこくしんめつじん!」


 ダークは黒い炎を纏ったセイギャールンを勢いよく斜めに振る。すると、剣身の炎が斬撃へと変わり、爆煙に向かって放たれた。斬撃は爆煙に突っ込むのと同時に煙を掻き消し、煙の奥にいるジャスティスに向かっていく。

 <魔黒神滅刃>が旋回炎舞と同様、セイギャールンに備わっている能力の一つで敵に向けて炎の斬撃を放つ遠距離攻撃系の能力だ。斬撃は攻撃力が高いのは勿論、速度も速く、この能力で放たれる斬撃は敵に命中しても体に傷を付けずにダメージだけを与え、敵の体を貫通してその後ろにいる敵にもダメージを与えることができる。この能力も属性を闇と火のどちらかに切り替えることが可能だ。

 ジャスティスは突然爆煙の奥から飛び出してきた斬撃に驚きの反応を見せるが、落ち浮いて斬撃の速度から回避は無理だと判断し、フィルギャを逆手に持ち替えてフィルギャの能力を発動させる。ジャスティスの前に白い障壁が展開され、その直後に斬撃は障壁とぶつかった。

 フィルギャの障壁なら物理攻撃や神格魔法以外の闇属性攻撃を防ぐことができるため、ジャスティスは斬撃を止めることができると思っていた。ところが、斬撃を止めていた障壁に罅が入り、障壁は高い音を立てて砕けてしまう。その直後、斬撃はジャスティスの体を貫通した。


「ぐおおおおぉっ!!」


 体に伝わる痛みと熱さにジャスティスは思わず声を上げる。予想以上のダメージを受けたことには驚いたが、それ以上にフィルギャの障壁で防ぐことができないことに驚いた。


(フィルギャの能力でも防げない……ということは、あの斬撃は闇属性ではなく火属性なのか!?)


 魔剣のセイギャールンが作り出した炎であるため、てっきり闇属性だと思っていたジャスティスは斬撃が見た目どおりの火属性だと知って驚く。ジャスティスはこの時に初めてセイギャールンが二つの属性を持っていることを知り、そのことに気付けなかった自分のミスを悔やむ。同時に超越武具は予想以上に性能が高いと感じた。

 セイギャールンの斬撃をまともに受けてしまったジャスティスは体勢を立て直すために後ろに跳んでダークから距離を取ろうとする。しかし、ダークもジャスティスに大ダメージを与えられ、このチャンスを逃してはならないとジャスティスの後を追う。

 距離を取ったジャスティスは走ってくるダークを見て面倒そうな声を出しながらノートゥングを持ったまま右手を地面に付けた。


「土遁の術!」


 ジャスティスは再び土遁の術を発動させ、走ってくるダークに上手く攻撃を当てられるようタイミングを合わせて地面から二つの長方形の岩を起こしてダークを挟もうとする。

 走るダークは左右から起き上がる岩を見ると高くジャンプし、岩の挟み撃ちをかわす。跳び上がったダークは空中からジャスティスの位置を確認しようと地上に視線を向ける。すると、ジャスティスがいる方角から青い電撃が飛んでくるのが見え、ダークは驚きの反応を見せた。

 ダークは青い電撃を見ながら上段構えを取り、セイギャールンの剣身に黒い靄を纏わせると勢いよくセイギャールンを振り下ろし、靄は一直線に青い電撃に向かって放たれる。靄と電撃は空中で激突し、大爆発を起こして爆煙を空中に広げた。

 ジャスティスの攻撃を防いだダークは地上に向かって降下していき、地上に下り立つとジャスティスの奇襲を警戒するために周囲を見回す。その直後、真正面から四人のジャスティスが横一列に並びながらダークに向かって走ってきた。


「チッ! また分身か!」


 自分が跳び上がっている間にジャスティスが分身の術を発動させていたことを知り、ダークは分身たちを警戒する。分身たちはノートゥングとフィルギャを構えながらダークに迫っていき、ダークはとりあえず目の前の分身を倒そうと考えてセイギャールンを構え、剣身に黒い炎を纏わせた。


「旋回炎舞!」


 セイギャールンの能力を発動させたダークはセイギャールンを横に振りながら一回転し、自分の周りに黒い炎を勢いよく放つ。炎はダークの周囲を焼き尽くし、近づいて来てジャスティスの分身全てを呑み込み、いとも簡単に倒した。

 分身を倒したダークはセイギャールンを振って剣身の炎を消し、同時にダークの周りの炎を静かに消える。ダークは分身たちがいた場所を見ながら薄っすらと目を赤く光らせた。


(……おかしい。セイギャールンを装備した俺には分身による攻撃は通用しないことをジャスティスさんは理解しているはずだ。なのになぜ分身に攻撃を、それも真正面から仕掛けさせたんだ?)


 無意味な行動を執ったジャスティスの考えが分からず、ダークは頭を悩ます。そんな時、ダークの背後からジャスティスが回り込むように現れ、それに気付いたダークは振り返る。


「やっぱり使いましたね? 分身をけしかければダークさんは必ずあの炎を周囲に放つ能力を使うと思っていました」

「……ッ!」


 ダークは振り返ってジャスティスに攻撃しようとしたが、それよりも先にジャスティスがノートゥングで袈裟切りを放ち、ダークは咄嗟にセイギャールンで袈裟切りを防いだ。


「ダークさんが炎を周囲に放ってくれたおかげで私はダークさんの視界に映ることなく背後に回り込むことができ、こうして奇襲を仕掛けることもできました」

「……私が旋回炎舞を使うことを計算して分身を嗾けたってことですか。分身たちは最初から私の背後に回り込むための囮だったんですね」

「そのとおりです!」


 ジャスティスは空いているフィルギャを振り上げてノートゥングを止めているダークに攻撃しようとする。ダークはセイギャールンでノートゥングを払うと後ろに下がってジャスティスから距離を取り、セイギャールンの剣身を二回りほど大きな紫色の光の剣身に変えた。


「暗黒次元斬!」


 接近してきたジャスティスに強力な一撃を撃ち込むため、ダークは最強の暗黒剣技を発動させてジャスティスを攻撃する。ノートゥングを払われた直後だったため、迎撃が間に合わずにジャスティスは暗黒次元斬をまともに受けた。

 暗黒次元斬が命中し、ダークは決定的なダメージを与えたと感じ、戦いを見守っていたアリシアとファウもダークが勝ったと確信する。ところが、暗黒次元斬を受けたジャスティスの体は薄くなり、一本の丸太に姿を変えた。それを見たダークは流石に驚き、アリシアとファウも驚愕の表情を浮かべる。


「丸太!? まさか、既に変わり身の術の冷却時間が……」

「ええ、経過したので少し前に発動しておきました」


 右側からジャスティスの声が聞こえ、ダークは慌てて右を向く。そこにはノートゥングを振り上げているジャスティスの姿があり、ノートゥングの剣身は能力が発動したことで薄っすらと青く光っている。隙をつかれたダークはジャスティスの姿を見て驚き、それと同時にジャスティスが接近戦を仕掛けてきたのは、変わり身の術を使えるようになったからだと知った。

 ジャスティスは土遁の術を回避したダークに蒼竜天雷閃を放ってダークの注意を一瞬だけ引き、その間に分身の術と冷却時間が経過した変わり身の術を発動させた。そして、ダークが地上に降りた瞬間に分身たちを嗾け、ダークが分身に集中している間に背後に回り込んだのだ。

 驚いているダークは完全に隙だらけの状態になってしまい、そんなダークにジャスティスは容赦なくノートゥングを振り下ろす。ダークはジャスティスが攻撃する姿を見て咄嗟に後ろに跳ぶが、結局間に合わずに胴体を斬られてしまう。ダークは浮遊島襲撃の時と同じ失敗をしてしまった。


「ぐうううぅっ!!」


 体の痛みにダークは声を漏らし、斬られたダークを見てアリシアとファウは固まってしまう。ジャスティスは攻撃が成功すると追撃するためにフィルギャを振り上げる。だが、ダークは痛みに耐えながらセイギャールンの剣身に薄い紫色の電気を纏わせた。


「魔獄紫電斬!」


 電気を纏ったセイギャールンを斜めに振ってジャスティスの体を斬る。セイギャールンがジャスティスを切り裂くと同時に電気がジャスティスの体の中を走った。


「ぬおおおおぉっ!」


 ダークの反撃にジャスティスは苦痛の声を上げ、全身の痛みに耐えながら後ろに跳んでダークから離れる。

 体中から伝わる痺れに耐えながらジャスティスはダークの方を向く。ジャスティスの体からは薄い煙が上がていた。

 距離を取ったジャスティスを睨みながらダークはセイギャールンを構える。セイギャールンを装備してステータスが上昇したためか、ジャスティスの攻撃を受けたダークは運良く生き延びることができた。


「驚きましたよ、まさかあの状態で反撃してくるとは……」

「私こそ驚かされましたよ。まさかあの短い間に分身と変わり身の両方を発動させていたとは……」


 傷を負いながらもダークとジャスティスは自分に一撃を喰らわせた相手を高く評価する。二人の精神力の強さに戦いを見守っていたアリシアとファウは驚きを通り越して感心していた。目の前の二人はここまでどんな気持ちで戦っていたのだろうと二人は改めて疑問に思う。

 アリシアとファウが見守る中、ダークとジャスティスは得物を構える。既に二人は大きなダメージを受けており、次に強力な一撃を受ければ倒れてしまうような状態だった。自分の体力に限界が来ていることを感じ取るダークとジャスティスはそろそろ決着をつけなくてはならないと感じていた。


「……ジャスティスさん、私の残りのHPが僅かです。ジャスティスさんもセイギャールンの技と暗黒剣技をまともに受けてHPが殆ど残っていないはず。そろそろ決着をつけませんか?」

「奇遇ですね、私も同じことを考えていたんですよ。正直に言うと、次に変わり身の術が使えるようになるまで持ち堪える自信がありません。次の攻撃でダークさんを倒そうと思っていました」

「そうですか……では、次で終わりにしましょう」


 そう言うとダークはセイギャールンを中段構えに持ち、ジャスティスもフィルギャを鞘に納めて右腕を横に伸ばし、ノートゥングを横に構える。アリシアとファウは二人がいよいよ決着をつけるのだと知り、緊迫した表情を浮かべながらダークとジャスティスを見つめた。

 ダークはセイギャールンの柄の部分を軽く握り、剣身を薄っすらと紫色に光らせてセイギャールンの属性を火から闇に切り替える。聖騎士であるジャスティスを確実に倒せるよう、闇属性に変えたようだ。

 ジャスティスは構えるダークを見つめながらノートゥングの剣身を白く光らせ、剣身を一回り大きな反りのある光の剣身に変える。更に形が変わった剣身の周りに黄色い光の粒子が纏われ、それを確認したジャスティスは両手でノートゥングを強く握って右脇構えを取った。どうやらノートゥングの攻撃をより強くするため、二刀流を止めて一刀流に切り替えたようだ。


「やっぱり使ってきたか、聖界断罪剣せいかいだんざんけん……ジャスティスさん最強の技」


 ダークはジャスティスが使用した技を見ながら小声で呟き、中段構えを崩さずに足の位置をずらした。

 <聖界断罪剣>はLMFの神聖剣技の中で最強の攻撃力を持つ技で装備する剣を光の剣に変えて敵を攻撃することができる。攻撃力が高く光属性であるため、アンデッドや悪魔族モンスター、光属性の耐久力が低い者には大ダメージを与えることができ、更に光属性の耐久力が低すぎる敵はレベルの差に関係無く一定の確率で即死させることが可能。しかも冷却時間が短く、短時間で再発動することもできる。

 ジャスティスが決着をつけるために最強の神聖剣技を発動させたのを見てダークもジャスティスの意志に誠意で答えるため、自分も最強の技を使おうと考える。しかし、暗黒剣技最強の技である暗黒次元斬は先程使用してしまったため、再発動させるにはまだ時間が必要だった。


(ジャスティスさんを倒すには強力な一撃を叩きこまないといけない。だが、暗黒次元斬はまだ使えない以上、別の技を使って戦うしかない……それなら、あの技しかないな)


 ダークはジャスティスを見つめながら少しだけ構えを変える。すると、セイギャールンの剣身が小さく燃える黒い炎を纏い、剣身の赤い装飾が光り出す。

 セイギャールンが炎を纏ったのを見たジャスティスはダークの準備も整ったのを確認し、足を軽く曲げた。


「……お互い、準備は整ったようですね?」

「ええ、これが正真正銘、最後の攻撃です」


 準備を終えたダークとジャスティスはいつでも攻撃できるように体勢を整え、お互いに目を光らせながら睨み合う。アリシアとファウは最後の攻防が始まると感じ、息を飲みながら見守る。

 しばらく睨み合った後、ダークとジャスティスは強く地面を蹴り、相手に向かって勢いよく跳んだ。


「聖界断罪剣!」

不滅業炎剣ふめつごうえんけん!」


 相手が間合いに入った瞬間、ダークとジャスティスは技を発動させ、相手に向かって剣を振る。セイギャールンとノートゥングがぶつかり、周囲に強い衝撃と高い音、高温の熱気と強烈な光を広げた。

 アリシアは伝わってくる衝撃、熱気、光に驚いて思わず片膝を付き、ファウもその場に尻餅をついてしまう。今回は衝撃だけでなく、熱気と光も伝わってきたので今まで以上に驚いたが、二人は気持ちを落ち着かせてダークとジャスティスに視線を向ける。

 ダークとジャスティスは両手で自分の得物を強く握りながら鍔迫り合いをし、しばらくすると剣を引いて再び攻撃を仕掛け、自分の剣を相手の剣とぶつける。お互いにセイギャールンから伝わってくる熱気とノートゥングが放つ光に耐えながら攻防を繰り返し、その度に小さな火花を飛び散らせた。


「聖者の天衣!」


 ジャスティスは聖騎士の能力を発動して自身のステータスを強化した。すると、力が増したことでジャスティスの一撃が重くなり、少しずつダークが押され始める。

 能力で強化したジャスティスを見てダークも自分を強化しようかと考える。しかし、既にダークのHPは僅かしか残っておらず、強化能力である暗黒の麻薬を使ってしまったらダークのHPはゼロになってしまうため、発動せずに戦い続けることにした。

 ジャスティスはダークの様子を見て自分を強化する能力を使用できないと気付き、勝利を確信する。最強の神聖剣技と強化能力を使用した今の自分をダークは絶対に押し返すことはできないとジャスティスは感じていた。


「ダークさん、どうやら勝負は見えたようですね」

「……」

「今のダークさんでは聖者の天衣を発動した私を力で押し切ることはできません。この勝負、私の勝です!」


 勝利を宣言しながらジャスティスはノートゥングを連続で振り、ダークはセイギャールンでジャスティスの連撃を防ぐ。隙があれば攻撃もするが、その全てを防がれてしまう。

 しばらく攻防を繰り広げ、二人は再び鍔迫り合いをして相手と向かい合う。そんな中、ダークはジャスティスを見つめながら目を赤く光らせた。


「……残念ですがジャスティスさん、勝つのは私です」

「何ですって?」


 ダークの口から出た勝利宣言の言葉にジャスティスは思わず訊き返す。HPがギリギリでステータスも強化されていない状態のダークが自分に勝つと宣言したのだから、ジャスティスも今回ばかりはダークが強がっているのではと思っていた。しかし、そんなジャスティスの予想は意外な形で砕かれることになる。

 セイギャールンの柄の部分を強く握りながらダークは力を込め、ノートゥングをジャスティスの方へ押し返そうとする。ジャスティスも負けずと力を入れてセイギャールンを押し返そうとした。すると、セイギャールンの刃がノートゥングの光の剣身に僅かにめり込むように入り、光の剣身に小さな罅を入れる。

 ノートゥングの光の剣身に罅が入ったのを見たジャスティスは驚きの反応を見せる。それを見たダークは再び目を赤く光らせた。


「不滅業炎剣の前では、例えステータスを強化しても私を押し切ることはできません。この技の攻撃力は非常に高い上に、相手の武器の耐久度を低下させることができますから」


 ダークは力の入った声を出して自分が使った能力の説明をする。ジャスティスは耐久度低下という言葉を聞いて思わず驚きの声を漏らした。

 <不滅業炎剣>はセイギャールンの能力の中でも最も攻撃力が高く、恐ろしい効力を持つ能力である。発動すると黒い炎を剣身に纏わせ、一定時間セイギャールンの強度と切れ味を極限まで強化し、更に傷つけた相手の装備アイテムの耐久度を大幅に低下させる効果が付く。装備アイテムの種類によって耐久度をゼロにするための時間が決まるが、大抵の武器はすぐに耐久度をゼロにできる。そして、この技は水中でも使用可能なため、水中の敵を攻撃する際も使える。だが、強力な効力が付いているため、一日に一度しか使用できない。

 ダークは不滅業炎斬を発動してから何度もセイギャールンで攻撃し、ジャスティスはその攻撃をノートゥングで防いでいた。実はセイギャールンの攻撃が武器で防がれるとセイギャールンでその武器を切ったことになる。だからノートゥングでセイギャールンの攻撃を防ぐ度にノートゥングはセイギャールンに切られ、耐久度が徐々に低下していき、先程セイギャールンとノートゥングがぶつかった時に耐久度に限界が来てノートゥングの剣身に罅が入ったのだ。

 セイギャールンを止めている間、ノートゥングの光の剣身の罅は徐々に大きくなっていく。光の剣身と言ってもノートゥングの剣身が変化しただけなので、光の剣身の罅はノートゥングの剣身に罅が入っていることを意味している。それに気付いたジャスティスは驚きを隠せずにいた。


(何てことだ! ノートゥングの一撃を強くするためにフィルギャを使わなかったのが裏目に出るとは!)


 自分の戦術によって窮地に立たされてしまったことにジャスティスは焦りと後悔を感じる。何とかして形勢を立て直さなくてはならないと感じたジャスティスはノートゥングでセイギャールンを払い、ダークから離れようと後ろへ跳ぶ。だが、ダークはジャスティスが防御をやめて距離を取る時を待っていた。

 ダークは後ろへ移動するジャスティスに向かって力強く踏み込み、セイギャールンを高く振り上げる。ジャスティスは追撃してくるダークを見て、距離を取ろうとしたことでダークに攻撃する隙を与えてしまったと気付き、驚きの反応を見せた。


「ジャスティスさん、最後に墓穴を掘りましたね!」


 そう言ってダークはセイギャールンを勢いよく振り下ろす。ジャスティスは現状から回避やフィルギャを抜くのも間に合わないと感じ、咄嗟にノートゥングを横にして振り下ろしを防ごうとする。

 だが、耐久度に限界が来ているノートゥングではダークの攻撃が止められるはずがなく、ノートゥングはセイギャールンに触れた瞬間に高い音を立てて折れてしまう。

 ダークはセイギャールンでノートゥングを真っ二つにし、そのままジャスティスを鎧ごと斬った。


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