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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第二十章~信念を抱く神格者~
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第三百二十二話  騎士たちの再戦


 ジェーブルの町の東にある平原の中でダークとジャスティスは得物を握りながら目の前の相手と向かい合っている。お互いに相手の出方を窺っているのか自分から攻め込もうとせずに無言で構えていた。

 二人から少し離れた場所ではアリシアが片膝を付いた状態で戦いを静かに見守っており、その隣ではファウが仰向けになって眠っている。自分が戦っているわけではないのにアリシアはダークとジャスティスが睨み合う光景を見て緊張しており、微量の汗を流していた。同時にダークの勝利を心の底から願っていた。


「……どちらも動こうとしない。やはり最強の力を持つ者同士、警戒しているということか」


 戦いを始めようとしないダークとジャスティス見ながらアリシアはそっと呟く。浮遊島に攻め込んだ時も二人はお互いを警戒し、すぐに攻撃を仕掛けるようなことはしなかったので、今回も慎重に戦うのだろうとアリシアは感じていた。


「う、ううん……」


 アリシアがダークとジャスティスを見守っていると、隣で横になっていたファウが意識を取り戻し、ファウが目を覚ましたことに気付いたアリシアは視線をファウに向けた。


「ファウ、気が付いたか?」

「ア、アリシアさん……」


 ファウはアリシアの顔を見るとゆっくりと上半身を起こそうとする。すると、体中から鈍い痛みが伝わり、ファウは思わず表情を歪めた。アリシアの回復魔法で傷はある程度癒えたが、それでもまだ全回復はしておらず、疲労も残っているので下手に体を動かせば痛みが走ってしまうのだ。

 突然の痛みに耐えることができなかったファウは上半身を起こすのをやめて再び仰向けになる。アリシアはファウを見ながら少し呆れたような表情を浮かべた。


「無理をするな、まだ動けるような状態ではないのだから。しばらく横になっていろ」

「す、すみません……」


 仰向けのままアリシアに謝罪をするファウは苦笑いを浮かべ、アリシアはファウの様子からとりあえず危険な状態ではないと感じて安心する。しかし、それでも負傷してまともに動けないことに変わりはないので気を抜くことはしなかった。

 横になっているファウは自分の状態を確認し、深い傷が消えているのを見て少し驚いたような顔をした。自分はジャスティスの分身たちと戦っており、その時に重傷を負って意識を失ってしまったのは覚えている。しかし、自分は止めを刺されておらず、戦闘で受けた傷が消えてアリシアの隣で眠っているのだからファウは何が起きたの分からずにいた。


「……あの、アリシアさんが私を助けてくれたのですか?」


 ファウは隣にいるアリシアの方を向いて小声で尋ねる。現状からアリシアがジャスティスの分身を倒して自分を救助してくれたというのが一番考えられる答えだからだ。

 前を見ていたアリシアは視線だけを動かしてファウを見た後、視線を戻して静かに口を開く。


「私ではない、彼が助けてくれたのだ」

「彼?」


 ファウは仰向けのまま上を向き、アリシアが見ている方を確認すると少し離れた場所で二人の騎士が向かい合っている光景が逆さまの状態で視界に入る。二人の騎士の内、一人はジャスティス、もう一人は行方不明になっていたダークで、ダークの姿を見たファウは大きく目を見開いた。


「ダ、ダーク様! やはりご無事だったので、イタタタッ!」


 ダークの無事を知ったファウは興奮と喜びのあまり仰向けから俯せになるが、自分の体が回復し切っていないことを忘れており、体を動かした瞬間に再び鈍い痛みに襲われた。


「だから無理をするなって言っただろう!」


 数秒前の忠告を忘れて痛い思いをするファウを見ながらアリシアは少し力の入った声を出す。ファウは痛みに耐えながらアリシアの方を向くとすみません、と目で謝罪した。

 痛みが和らぐとファウは改めてダークの方を向く。浮遊島襲撃以来、無事が確認できなかったダークが自分の目の前でジャスティスと向かい合っている姿にファウは笑みを浮かべる。ダークが無事だったことは当然嬉しいが、自分とアリシアをジャスティスから救ってくれたことに対しても嬉しさを感じていた。


「アリシアさん、今はどんな状況なのですか?」


 現状を確認したいファウはアリシアに自分が意識を失っている間に何が起きたのかを尋ねる。アリシアはファウを見た後に目を閉じて軽く深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

 気持ちが落ち着くと、アリシアはファウにここまでの流れを説明する。自分とファウがジャスティスに殺されそうになったところへダークが助けに現れたこと、海に落下したダークが分身で本物は無事だったこと、ジャスティスに勝つために今日まで身を隠していたことなど、アリシアはダークから聞かされたことを全て話した。

 話している最中にアリシアはダークから無事なのを教えてくれなかったことを思い出して若干不愉快そうな顔をし、それを見たファウはアリシアの気持ちを察する。

 信頼する仲間にも自分の無事を隠していたダークの行動は普通であれば気分を悪くするものだが、ダークを心酔するファウはダークが勝利を得るために仕方なくやったことだと考え、不満を見せることなく納得した。


「……これらがお前が眠っている間に私がダークから聞かされたことだ」

「成る程……ダーク様はそこまで考えて行動されていたのですね」


 説明を聞いたファウは俯せのままダークを見つめる。戦いで有利に立つためにダークがあらゆる方法で情報を集めたと聞かされたファウはダークの考えと洞察力に改めて感服した。

 アリシアもダークから無事なことを知らされなかったことに最初は不満を感じていたが、そのおかげで自分たちはジャスティスたちを出し抜くことができたのも事実なのでアリシアも今ではダークの作戦が上手くいったことを良しと思っていた。


「……それで、ダーク様は今ジャスティスと戦おうとしているようですが、戦況はどうなんです?」

「分からない。まだ二人は睨み合っただけで剣を交えてもいない」


 本格的な戦いは始まっていないと聞かされたファウは目を鋭くしてダークとジャスティスを見つめ、今度の戦いも浮遊島を襲撃する時のように激しい戦いになるのは間違い無いとファウは確信していた。


「ダーク様はどのようにしてジャスティスと戦うつもりなのでしょうか?」

「さあな、私たちにできるのはダークが勝つことを信じて見守ることだけだ」


 自分たちの主であり、希望であるダークを見つめながらアリシアは呟く。ファウがアリシアの方を見ると、彼女の目からはダークの勝利を信じるアリシアの気持ちが感じられ、それを見たファウもダークなら大丈夫だと思いながらダークの方を向いた。

 アリシアとファウが見守る中、ダークはジャスティスと向かい合っている。アリシアとファウの会話が聞こえたため、ダークはファウが目を覚ましたことに気付いているが、流石にジャスティスを前に視線を反らすことはできないため、ファウの方を見ることはなかった。

 しかし、ファウの意識が戻ったことで大丈夫だと知ったダークは安心して戦いに集中できるようになり、蒼魔の剣を強く握りながらジャスティスを警戒する。その直後、構えていたジャスティスが地面を蹴ってダークに向かって跳んできた。

 距離を縮めてきたジャスティスにダークは一瞬驚くがすぐに迎撃態勢に入る。ジャスティスはダークの目の前まで近づくと右手の持つノートゥングを勢いよく振って袈裟切りを放つ。ダークが蒼魔の剣で袈裟切りを防ぐと二つの剣がぶつかった瞬間、周囲に強く衝撃が広がる。

 衝撃波は戦いを見守っていたアリシアとファウがいる所にまで届き、衝撃を受けた二人は表情を僅かに歪まる。


「す、凄い、やはりダークとジャスティスの力は私たちとはまるで違う……」

「これが、神に匹敵する者同士の戦い、何ですね……」


 浮遊島を攻撃する時にもダークとジャスティスの戦いを見ていたが、改めて見ると二人の戦いは自分たちとが次元が違うと感じ、アリシアとファウは驚きながら二人の戦いに注目する。

 ダークとジャスティスは鍔迫り合いをしながら目の前にいる相手を睨み合う。ダークは何とかジャスティスを押し返そうとするがジャスティスはまったく動かず、ダークは小さく舌打ちをする。そんな中、ジャスティスは左手に持つフィルギャでダークに攻撃し、迫ってくるフィルギャに気付いたダークは素早く蒼魔の剣でノートゥングを払い、フィルギャの攻撃を防いだ。

 攻撃を何とか防いだダークは態勢を立て直すために後ろに大きく跳ぶ。そして、ジャスティスから離れるのと同時に自分自身の強化もしっかりと行う。


「暗黒の麻薬! 脚力強化!」

 

 暗黒の麻薬を発動させたダークは体力を削って自身のステータスを強化する。脚力強化はアリシアとファウを助ける時に使用したが既に効力が切れているため、もう一度発動して強化した。


「聖者の天衣!」


 ダークが自分を強化している姿を見たジャスティスも自分を強化するために両腕を横に伸ばして能力を発動させる。ジャスティスの体が黄色の輝いて全ステータスが強化されるとジャスティスはノートゥングとフィルギャを構え直した。

 自身の強化が済ませたダークはジャスティスからある程度距離を取ると蒼魔の剣を上段構えに持ち、剣身に黒い靄を纏わせる。それを見たジャスティスはダークが暗黒剣技を放つと知ってノートゥングを高く掲げ、剣身に青い電気を纏わせ、神聖剣技を発動させる体勢を取った。


「黒瘴炎熱波!」

「蒼竜天雷閃!」


 同時に能力を発動させたダークとジャスティスは剣を勢いよく振り下ろす。蒼魔の剣からは黒い靄が、ノートゥングからは蒼い電撃が相手に向かって一直線に放たれる。靄と電撃は正面からぶつかり、ぶつかった瞬間に爆発した。

 爆発によって強い衝撃が発生し、ダークとジャスティスは勿論、離れていたアリシアとファウにも衝撃が届いた。


「ぬわあああぁっ!」


 先程とは比べ物にならない衝撃に倒れているファウは情けない声を出してしまう。アリシアはファウが衝撃で飛ばされないよう彼女を支えながら衝撃に耐えていた。

 しばらくすると衝撃が治まり、アリシアとファウはダークとジャスティスに視線を戻る。それと同時に距離を取っていたダークとジャスティスも地面を蹴って相手に向かって跳び、距離が縮まると相手に向かって同時に剣を振った。

 蒼魔の剣とノートゥングがぶつかり、再びダークとジャスティスの周辺に衝撃が広がる。ダークは蒼魔の剣を引くと今度は連続で蒼魔の剣を振ってジャスティスに攻撃し、ジャスティスはノートゥングだけでなくフィルギャも使ってダークの連撃を防ぐ。

 ジャスティスはダークの連撃を難なく防ぎ続け、攻撃が通用しないのを見たダークは連撃を止めると素早くジャスティスの左側面に回り込んだ。脚力強化を使用したダークの移動速度は速く、ジャスティスはダークの周り込む速さに一瞬驚いた。

 ダークは蒼魔の剣を横に構え、ジャスティスの腹部に向かって右から横切りを放つ。ジャスティスは左を向き、ダークの横切りをかわそうと後ろへ跳ぶ。ジャスティスが後ろに下がったことで蒼魔の剣はジャスティスの鎧に切っ先が掠るだけとなり、決定的なダメージを与えることはできなかった。

 攻撃が失敗したことでダークは悔しそうな声を漏らし、ジャスティスを見ながら構え直す。距離を取ったジャスティスはノートゥングとフィルギャを下ろしながらダークを見つめる。


「流石はダークさん、空中よりも地上の方が実力を発揮することができるみたいですね」


 ここまでのダークの攻撃から前回と比べて手強くなっていると感じたジャスティスはダークを褒めるような口調で語り、それを聞いたダークもジャスティスを見ながら小さく笑った。


「それはジャスティスさんも同じでしょう? 私たち戦士系の職業クラスを持つ者は魔法使いと違って地上でしか使うことのできない能力が多いんですから」

「ええ、ですから私も今回はもったいぶったりせず、使える技は使っていくつもりです……銀刀裂空波ぎんとうれっくうは!」


 ジャスティスは両手の剣を逆手に持ち替えて勢いよく地面に突き刺す。すると、突き刺した剣から銀色の斬撃がもの凄い速さで地面を走りながらダークに向かって行く。迫ってきた斬撃を見たダークは咄嗟に右へ跳んで斬撃をギリギリでかわした。

 ダークが斬撃をかわすとジャスティスは素早く剣を引き抜き、ノートゥングを順手に持ち替えて剣身に冷気を纏わせた。


「聖剣冷壊弾!」


 ジャスティスはノートゥングを振り、剣身に纏われている冷気を氷弾に変えてダークに向けて放つ。ダークは斬撃を回避した直後だったため、氷弾をかわすことができずにまともに受けてしまった。


「うおおぉっ!」


 体中に当たる無数の氷弾にダークは思わず声を上げる。しかし、倒れることなく何とか持ち堪え、蒼魔の剣を構え直したジャスティスの方を向いた。ジャスティスは構え直したダークを見ると同じようにノートゥングとフィルギャを構え直す。

 <銀刀裂空波>はLMFの神聖剣技の一つで地面を走る斬撃を放つことができる技だ。地上でしか使うことができない技だが、その分、斬撃の速度は速く、攻撃力も高い。属性も光属性と風属性の二つを持っているため、風属性に弱い敵にも効果がある。

 ジャスティスはまず速度の速い銀刀裂空波で攻撃し、ダークが斬撃をかわして体勢を立て直す前に別の神聖剣技を放ち、ダークにダメージを与えようと考えていたのだ。そして、ジャスティスの狙いどおりとなり、ダークは攻撃を受けてしまった。


(いきなり銀刀裂空波を使ってくるとは、ジャスティスさん、最初からやる気満々だな……こりゃあ、こっちも出し惜しみとかしてたらヤバそうだ)


 ダークはジャスティスが既に本気を出していることを悟り、足の位置をずらしながら警戒する。すると、ジャスティスはフィルギャを握ったまま素早く姿勢を低くして左拳を地面につけた。


土遁どとんの術!」


 ジャスティスが拳を地面につけたまま叫ぶとダークの足元が僅かに揺れ、ダークの左右の地面から長方形の岩が起き上がってダークを挟もうとする。

 <土遁の術>は忍者が使える能力の一つで敵を左右から岩で挟んで攻撃する土属性の技である。地面から岩を起こすため、地上にいる敵にしか使えないが、攻撃力が高く、左右から突然岩が挟んでくるのでLMFでは回避しようと思った時には既に挟まれているプレイヤーが多いと言われている。

 ダークは迫ってくる岩を見ると素早く蒼魔の剣を振り回し、挟まれる前に左右の岩を全て粉々に切り刻んだ。岩を破壊したダークは地面を蹴ってジャスティスに向かって跳び、移動しながら蒼魔の剣に薄紫の電気を纏わせる。ジャスティスは勢いよく跳んでくるダークを見て素早く体勢を整えた。


「魔獄紫電斬!」


 ジャスティスに接近したダークは電気を纏った蒼魔の剣で袈裟切りを放つ。だが、ジャスティスは左に軽く跳んでダークの袈裟切りをかわし、素早くノートゥングとフィルギャを構え直して反撃をしようとする。しかし、それよりも先にダークが動いた。


「黒雲衝波!」


 ダークは構え直すジャスティスを見て素早く左脇構えを取り、蒼魔の剣の剣身に黒い靄を纏わせると勢いよく横に振って剣身の黒い靄は放射状に五つに放つ。ジャスティスはダークからそれほど離れていたかったため、五つの内、三つの靄がジャスティスに命中した。


「ぬうぅっ!」


 ジャスティスはダメージを受けたことで声を上げる。予想以上にダメージを受けてしまったジャスティスだが、何とか体勢を崩さずに済み、反撃態勢に入ろうとする。

 だが、ジャスティスに隙を与えるのは危険だと思っているダークは反撃させないよう、素早くジャスティス時の右側に回り込み、蒼魔の剣の剣身を紫色に光らせた。


「紫光命吸剣!」


 剣身が光る蒼魔の剣を振ってダークはジャスティスの右腕を斬り、腕を斬られたジャスティスは小さく苦痛の声を漏らす。攻撃が命中したことでジャスティスにダメージを与え、逆にダークのHPが回復した。

 傷が癒えたことでダークは少しだけ余裕を取り戻す。だが、それでもジャスティスが相手である以上、小さな油断が命取りになると考えているダークは決して油断せずに戦おうと思っていた。

 ジャスティスへの攻撃に成功したダークは続けて攻撃を仕掛けようとする。しかし、ジャスティスも一方的に攻撃される気などなく、ダークの方を向きながらフィルギャを振ってダークに反撃した。ダークは迫ってくるフィルギャに気付くと蒼魔の剣でそれを防ぎ、ジャスティスはその隙に後ろに下がってダークから距離を取る。

 ダークは折角ジャスティスに攻撃するチャンスだったのに距離を取られてしまい舌打ちをしながら悔しがる。しかし、ある程度ダメージを与えることができたので、良しと思いながら構え直した。

 距離を取ったジャスティスは自分の傷を確認し、戦いの支障は無いと確認するとダークの方を向いた。


「戦い始めたばかりなのにもうダメージを受けてしまうとは、前の戦いで得た情報を元にかなり戦い方を勉強したようですね?」

「勿論ですよ。ジャスティスさんに勝つためにかなりハードな特訓をしていました」

「そうですか……では、こちらもダークさんの努力に答えるため、出せる力を全て出させてもらいます」


 そう言ってジャスティスがノートゥングとフィルギャを外に向かって軽く振ると、ジャスティスの周りに四体のジャスティスが現れた。五人になったジャスティスを見てダークは咄嗟に構え、戦いを見守っていたアリシアとファウも目を見開く。


「ジャスティスが増えた!」

「アイツ、また分身の術とか言う能力を……」


 自分たちを苦しめた能力を使ったジャスティスにファウとアリシアは緊迫した表情を浮かべる。ダークや自分たちを追い込んだ存在が再び現れたことで二人はジャスティスが容赦なく攻撃を仕掛けてくると感じた。

 しかし、ダークならジャスティスに勝ってくれる信じているアリシアとファウは焦りなどは一切見せず、ダークを見ながら心の中で応援をした。

 ダークは蒼魔の剣を構えながら足の位置をずらし、ジャスティスたちがいつ攻撃してきても対応できる体勢を取る。分身たちを使ってどのように攻めてくるのか、ダークがジャスティスたちを見ながら考えていると、四体の分身が一斉にダークに向かって来た。

 正面から突撃して来る分身たちにダークは驚きながら迎撃態勢を取る。向かってくる分身の内、一体目はダークに正面からノートゥングで袈裟切りを放って攻撃し、ダークはその攻撃を右に移動して回避した。その直後、二体目の分身が前からフィルギャで突きを放ち、ダークはその突きを蒼魔の剣で上手く払う。

 二体目の攻撃を回避したダークは攻撃してきた分身たちに反撃しようと蒼魔の剣を構え直す。だが、残り二体の分身がダークの左右に回り込み、同時にノートゥングで攻撃した。ダークは左右から挟む分身たちを見ると後ろに下がって分身たちの攻撃を回避し、左側の分身の攻撃する。だが、分身はフィルギャで蒼魔の剣を難なく防いでしまった。

 ダークは攻撃を防がれて小さく舌打ちをする。すると、背後から別の分身がノートゥングを振り下ろして攻撃してきた。攻撃に気付いたダークは振り返り、蒼魔の剣で振り下ろしをギリギリで防いだ。


(クソォ、反撃させないためか分身たちが連続で攻撃してきやがる。少しでも俺のHPを削るために攻撃してきてるのか? それとも分身たちで俺の動きを封じ、ジャスティスさんが分身ごと神聖剣技で吹き飛ばそうとしてるのか?)


 何のために分身たちに突撃させているのか、ダークはジャスティスの作戦を考えながら分身たちの攻撃を防ぎ続ける。幸い分身たちは神聖剣技や職業クラスの能力を使えないため、強力な攻撃を警戒する必要は無かった。

 ダークは前後左右から容赦なく攻撃してくる分身たちに注意しながらジャスティスを確認する。すると、離れた所でジャスティスの体を薄っすらと橙色に光らせる姿が視界に入った。


(あれは変わり身の術……おいおいおい、人が必死で分身と戦っている最中に攻撃無効化の能力発動かよ? ジャスティスさん、ズルいっすよ!)


 分身たちを利用して安全を確保し、その間に万全の状態にするジャスティスを見ながらダークは心の中で文句を言う。しかし、ジャスティスの行動は立派な戦略であるため、直接本人には言うことはできなかった。

 ダークはジャスティスが攻撃に参加してくる前に分身たちを倒して態勢を立て直さなくてはならないと感じ、大きく後ろに跳んで分身たちから距離を取った。

 四体の分身は離れるダークを追撃するため、横一列に並んで一斉にダークに向かって走り出す。距離を取ったダークは分身たちを見ながら蒼魔の剣を高く振り上げる。


「黒炎爆死斬!」


 暗黒剣技を発動させたダークは蒼魔の剣を勢いよく振り下ろして足元を叩く。剣身が地面に触れた瞬間、大爆発が起こり周囲に衝撃と爆煙が広がり、分身たちは突然の爆発に驚いて急停止する。離れた所にいたジェスティスやアリシア、ファウも爆発を見て驚きの反応を見せていた。

 爆煙が広がり、ダークの姿は完全に見えなくなり、それを見たジャスティスはダークが自分を隠すために黒炎爆死斬を使用したのだと気付く。ジャスティスはダークを逃がさないよう、分身たちを操って爆発地点を囲ませようとする。だが、分身が動こうとした瞬間、爆煙の中から黒い靄が放射状に放たれ、分身全てに命中した。

 靄を受けた分身たちは静かに消滅し、その直後にダークが爆煙から飛び出してきた。ダークは黒炎爆死斬で爆煙を発生させてジャスティスたちの視界から消えた直後、動きを止めた分身たちに黒雲衝波を放って倒したようだ。

 アリシアとファウはダークが分身たちを倒す姿を見て安心の表情を浮かべ、ジャスティスは慌てることなくノートゥングとフィルギャを構える。ダークは蒼魔の剣を構えると攻め込もうとせずにジャスティスを見つめた。変わり身の術を発動して攻撃に耐えられる状態であるため、迂闊に近づくのは危険だと考えているらしい。


「……攻めてこないんですか?」

「変わり身の術を使っているジャスティスさんに何も考えずに突っ込むのは危険ですよ」

「フッ、やっぱり気付いてましたか」


 ジャスティスは自分自身が強化されていることに気付かれたにもかかわらず、慌てることなく余裕を見せている。例えダークにバレても自分が不利になった訳ではないとジャスティスは考えていた。


「ダークさんは距離を取りながら慎重に攻撃し、私に変わり身の術の効力を使わせてダメージを与えられる状態になるまでは自分から近づかずに迎撃に専念しようと考えているようですが、それは無意味なことです」


 そう言うとジャスティスはダークに向かって走り出し、向かってくるジャスティスを見たダークは小さく舌打ちする。ジャスティスは変わり身の術を使っているため、攻撃を受けても一度だけ無効化することができるので多少無茶をしても問題無かった。

 ジャスティスはもの凄い速さでダークに近づくとノートゥングで袈裟切りを放ち攻撃する。ダークは咄嗟に蒼魔の剣でノートゥングを防ぎ、二つの剣がぶつかった瞬間に衝撃が伝わってきた。


「ぐううっ!」


 重い攻撃にダークは思わず声を漏らすが、体勢を崩されないよう両手でしっかりと蒼魔の剣を握りながら攻撃を防ぐ。ダークがノートゥングを必死で止めていると、ジャスティスはフィルギャを横に振り、ダークの脇腹を狙って攻撃した。

 フィルギャに気付いたダークは後ろに跳んでフィルギャをかわし、ジャスティスに突きを放って反撃した。だが、ジャスティスはフィルギャを器用に操って蒼魔の剣を払い上げ、ダークの攻撃を簡単に防いでしまう。

 カウンター攻撃を防がれてしまったダークは態勢を立て直すために距離を取ろうとする。だが、ジャスティスがそれを許すはずもなく、ダークが離れる前に攻撃を仕掛けた。

 ジャスティスはノートゥングの能力を使用して剣身を青く光らせる。これによりジャスティスの攻撃力は十秒間だけ強化され、今まで以上の攻撃力を得た。攻撃力が強化されるとジャスティスはそのまま続けてノートゥングの剣身に黄色い光の粒子を纏わせる。


天王壊刃剣てんおうかいじんけん!」


 神聖剣技と思われる技を発動させたジャスティスはノートゥングを素早く二度振ってダークの胴体を切り裂いた。


「ヌオォッ!!」


 胴体を二度斬られたダークは痛みで声を上げる。ジャスティスの攻撃は普通の攻撃ではない上にノートゥングの能力で攻撃力が強化されているため、ダークに予想以上のダメージを与えた。アリシアとファウはダークが攻撃を受けたのを見て驚愕の表情を浮かべている。

 <天王壊刃剣>は敵を連続で二度攻撃することができる神聖剣技。二度攻撃するだけの単純な技だが、攻撃力はそれなりに高く、攻撃速度も速いので回避するのは難しいとされている。神聖剣技なので当然属性は光であるため、光属性の耐久力が低い敵と戦う時には役に立つ。

 攻撃を受けたダークは大きく後ろに飛ばされ、背中から地面に叩きつけられる。ダークは地面に背中を擦り付けながら後ろに押されるが、その状態で後転して何とか体勢を直し、姿勢を低くしたまま両足と左手を使って停止した。痛みに耐えながら立ち上がったダークは蒼魔の剣を構え直す。


「あの状態でダークさんが後ろに飛ぶことは分かっていました。ですから距離を取られる前に強力で回避の難しい技を叩き込ませてもらいましたよ」

「……フッ、流石ですね、ジャスティスさん」


 ジャスティスの優れた洞察力と判断力にダークは小さく笑う。自分の憧れていた聖騎士の才能が衰えていないことに嬉しさを感じ、同時に自分は本当に厄介な敵と戦っていることを思い知らされて思わず笑ってしまった。

 浮遊島の戦いで得た情報を元にダークはジャスティスとどう戦えば勝てるか研究した。だが、それでもジャスティスより有利に戦うことができず、ダークは改めてジャスティスは優秀なプレイヤーだと感じる。

 ダークがジャスティスの強さと才能の感心している中、ジャスティスはノートゥングとフィルギャを構え直し、足の位置も少しだけ変えた。


「さて、少しでも早く戦いを終わらせるため、もう一度分身の術を使い、分身たちと共に攻め込ませてもらいますよ?」

「そうですか……だったら、私も暗黒剣技を連続で使って分身を倒し、ジャスティスさんを返り討ちにしますよ」


 ジャスティスを見つめながらダークは挑発的な口調で語り掛ける。天王壊刃剣によってかなりのダメージを受けているが戦えないわけではない。ダークは同じ失敗を犯さないようこれまで以上に注意して戦おうと自分に言い聞かせて蒼魔の剣を強く握る。

 ダークとジャスティスは構えを変えずに相手と睨み合い、アリシアとファウも激しい攻防を繰り広げる二人を黙って見守っている。そんな中、突然ダークの頭に高いアラームのような音が響き、ダークはフッと反応した。


「この音は……」


 音を聞いたダークはゆっくりと蒼魔の剣を下ろし、突然構えを解いたダークを見てアリシアとファウ、ジャスティスは不思議そうな反応を見せた。


「どうかしましたか、ダークさ……」


 ジャスティスがダークに声を掛けようとした時、ジャスティスの頭にもアラームのような音が響き、ジャスティスはノートゥングとフィルギャを下ろす。

 ダークに続いてジャスティスまでも剣を下ろす光景を見てアリシアとファウが意味が分からず小首を傾げる。二人はダークとジャスティスが不思議な音を聞いて構えを解いたことに気付いていない。どうやらアラームのような音はLMFプレイヤーであるダークとジャスティスにしか聞こえないようだ。

 不思議な音を聞いたダークは左手でメニュー画面を開くと素早く画面を操作していき、ジャスティスも同じようにメニュー画面を動かす。構えを解いただけでなく、LMFプレイヤーだけが開けるメニュー画面を開いたのを見てアリシアとファウはますます訳が分からなくなってしまう。


「……ッ! やはり……」


 メニュー画面を操作していたダークはある画面を見た瞬間に低い声を出し、同時に右手に力を入れて蒼魔の剣を強く握る。

 ダークが開いているのは使い魔専用の画面でそこで使い魔の装備やアイテム、技術スキルなどを変更したりすることができる。そして、その画面では使い魔の状態も確認することができるのだ。

 画面にはダークの使い魔であるノワールのステータスや装備など細かい情報が映し出されており、全ての情報が白い文字でハッキリと映されている。だが、なぜかノワールの名前だけが僅かに灰色に近い色になっていた。これを見たダークはフルフェイス兜の下で険しい表情を浮かべている。

 使い魔の名前が灰色になっている、これは使い魔の死亡を意味していた。


「……ノワール、死んだのか」

『!!?』


 ダークが低い声で呟くと、それを聞いたアリシアとファウは驚愕の表情を浮かべる。レベル100であるノワールが死んだ、それは二人にとって信じられない言葉だった。


「ノ、ノワールが、死んだ?」

「そ、そんな、神に匹敵するノワールさんが……そんなこと……」


 ノワールの死が信じられないアリシアとファウは震えた声を出す。だが、主人であるダークが冗談でノワールが死んだなどと言うはずがない。二人はダークの様子から、本当にノワールが死んでしまったのだと悟った。


「ノワールが死んだ、ということは、誰かに殺されたのか……」

「で、でも、ノワールさんを倒せる者なんてこの世界には……あっ!」


 ファウは誰がノワールを倒したのか気付いたらしく、目を見開きながら顔を上げ、アリシアも気付いたのか同じように目を見開いて前を向く。

 現在、ノワールはバーネストを離れて浮遊島を制圧に向かっているはず。浮遊島には浮遊島を護るモンスターとジャスティスの使い魔であるハナエがいる。レベル100のノワールがモンスター程度にやられるはずがない。となると、ノワールはハナエと戦って命を落としたということになる。

 ノワールがハナエと戦い、ハナエに敗れて命を落とした、アリシアとファウはそう考えて表情を歪める。ダークもノワールはハナエに敗北したと考えて左手を強く握った。


「……どうやら、使い魔同士の戦いは相打ちで終わったようですよ」


 ダークたちがノワールの死を悲しんだり、悔しく思っていると同じようにメニュー画面を開いていたジャスティスが喋り、ダークやアリシア、ファウは一斉にジャスティスの方を向いた。


「相打ち、とはどういうことですか?」

「言葉どおりですよ……ハナエも命を落としています」


 ジャスティスの言葉にダークは反応し、アリシアとファウも驚きの表情を浮かべる。ジャスティスもダークと同じように使い魔専用の画面を開いており、そこでハナエが死亡していることを知ったのだ。

 実はダークとジャスティスの頭の中に響いたアラームのような音は使い魔の死亡を知らせるものでLMFの世界にいた時も使い魔が死亡すると音が鳴ってLMFプレイヤーに知らせるようになっていた。どうやら音で使い魔の死亡を知らせる方法は異世界でも同じだったようだ。


「ハナエとノワールは浮遊島で戦い、相打ちとなってお互いに命を落としたようです……」


 ジャスティスは微かに暗い声を出しながら浮遊島で何が起きたのか想像し、それを聞いたダークたちは驚きながらジャスティスを見つめた。


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