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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第二十章~信念を抱く神格者~
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第三百二十話  三女神の加護


 全力で戦うことを告げたノワールはハナエに先手を打たせまいと両手をハナエに向けて伸ばし、魔法を発動させようとする。だが、ノワールが動くよりも先にハナエが魔法を発動させた。


召喚魔法サモンマジック・権天騎士!」


 ハナエが叫ぶと彼女の周りに無数の白い魔法陣が展開され、そこから大勢の権天騎士が沸き上がるように姿を現す。召喚された権天騎士たちを見たノワールは目を若干鋭くして権天騎士たちを睨んだ。


「召喚魔法……そう言えばハナエさんは召喚士をサブ職業クラスにしてましたね」


 ノワールは召喚された権天騎士たちを見ながらハナエがサブ職業クラスの能力を使用したと気付く。ハナエはそんなノワールを見ながら小さく笑った。

 <召喚魔法サモンマジック・権天騎士>はその名のとおり権天騎士を召喚できる光属性中級魔法。一度の発動で六体から八体までの権天騎士を召喚でき、それを自由に操ることができる。権天騎士は下級モンスターではあるがそれなりの強く、飛行能力も持っているため、中級魔法だが人気がある魔法だ。

 ハナエは戦闘の時、主にメイン職業クラスであるマジックマスターの力を使って戦う。だが、稀にサブ職業クラスである召喚士の能力や魔法を使ってモンスターを召喚し、モンスターたちに戦わせることがある。その理由は魔法を使う際にできる隙をついて攻撃してくる敵から自身を護るためだ。

 レベル100のハナエは低レベルの敵から攻撃されても魔法の発動を妨害されることは無い。だが、ノワールのようにレベルが互角、もしくは近い相手と戦う際は強い攻撃を受けて魔法の発動を邪魔されることがある。それを防ぐためにジャスティスはハナエを護衛する存在を生み出すことができる召喚士をハナエにサブ職業クラスに選んだのだ。

 召喚された権天騎士たちはハナエを護るために彼女の前に移動して持っている剣を構える。召喚されたモンスターが主を護るのは当然のことだ。

 ノワールも権天騎士たちがハナエの護衛だと言うことはすぐに分かった。だが、ハナエが召喚した権天騎士は全部で十二体おり、サモンマジックで召喚できる最大数を超えていることに気付いたノワールは目を細くしながら権天騎士たちを見つめる。


「権天騎士が十二体、確か中級の召喚魔法では最大八体までしか召喚できないはずなのに、どうして……」

技術スキルのおかげよ」


 権天騎士の数が多いことを不思議に思っているとハナエが口を開き、ノワールは権天騎士たちの後ろにいるハナエに視線を向ける。


「私は召喚数上昇と言う召喚士が得られる技術スキルの一つを装備しているの。この技術スキルは召喚魔法の召喚最大数を上げることができる効果があり、最大八体までしか召喚できない魔法でも十二体まで召喚できるのよ」

「成る程、技術スキルの力を使ったのであれば召喚できる数が多くてもおかしくありませんね」


 ハナエの説明を聞いたノワールは小さく頷きながら納得する。だが、召喚数が増えた理由は分かったが、それ以外にもう一つ、ノワールには理解できないことがあった。


「……召喚できるモンスターの数が増えた理由は分かりましたが、どうして今になって権天騎士を召喚したんですか? 護衛させるのだったら、戦いが始まった直後に召喚するべきだと思うんですが?」


 ノワールは小首を傾げながら疑問に思っていることをハナエに尋ねた。確かにノワールの言うとおり、自分自身を護衛させるために権天騎士たちを召喚したのであれば、戦闘開始時に召喚するべきだと考えられる。しかし、ハナエは開始直後には召喚せず、しばらく一人でノワールと戦った後に権天騎士たちを召喚した。

 権天騎士たちを召喚するタイミングがおかしく、ノワールはなぜ今頃になって召喚したのか不思議で仕方がなかった。すると、ハナエが目を閉じながら小さく笑みを浮かべる。


「勿論、強力な魔法を発動するためよ。これから使う魔法は発動まで少し時間が掛かるから、その間邪魔されないようにするために権天騎士たちを護衛として召喚したの」

「強力な魔法? 権天騎士たちを護衛につけなければならないほど発動に時間が掛かる魔法と言ったら最上級かそれ以上の……ッ!」


 ハナエがどんな魔法を使うか、俯きながら考えていたノワールは何かに気付き、大きく目を見開きながらハナエに視線を向けた。


「……まさか!」

「気付いたみたいね? そう、私が発動するのは、神格魔法よ」


 最強の魔法を使うと聞かされたノワールは目を見開いて驚く。神格魔法がどれ程恐ろしいものなのかは神格魔法を習得し、使うことができるノワール自身が誰よりもよく知っている。そのため、ハナエがこれから神格魔法を使おうとしていると知って衝撃を受けていた。

 ハナエは右手を真上に掲げ、同時に彼女の周囲に無数の白い魔法陣が展開される。ハナエを取り囲むように展開される魔法陣を見て、ノワールは鋭い表情を浮かべた。だが不思議なことに、さっきまで驚いていたノワールは慌てることなく、落ち着いた様子でハナエを見ていた。


「……ハナエさん、貴女が神格魔法を発動させようとしていることは分かりました。ですが、発動までの時間稼ぎに権天騎士を選んだのは間違いだと思いますよ?」


 ノワールはハナエを見つめながら護衛モンスターの選択ミスをしたと指摘し、ハナエはそんなノワールを無言で見つめる。

 レベル100であるノワールはレベル60から70代のモンスターを簡単に倒せるほどの力を持っており、時間を稼ぐのであればレベル80代のモンスターを護衛につけるべきだと考えられる。にもかかわらず、ハナエは下級の天使族モンスターである権天騎士を護衛として召喚した。

 低レベルのモンスターでは時間稼ぎをする前に瞬殺されてしまう。それなのに権天騎士を召喚したハナエの考えがノワールには理解できなかった。


「心配してくれてありがとう。でも、それは仕方がないわ。私は高レベルのモンスターを召喚できる魔法は習得していないもの。それに権天騎士でも神格魔法を発動させるまでの時間は十分稼げるから問題無いわ」

「信じられませんね……」

「そう、なら今からそれを証明してあげるわ」


 そう言うとハナエは左手をノワールに向けて伸ばし、それを合図にしたかのように十二体の権天騎士の内、八体は持っている剣を構えながら一斉にノワールに向かって飛んで行く。

 前から迫ってくる権天騎士たちをノワールは冷静に見つめ、右手を権天騎士たちに向けて赤い魔法陣を展開させた。


深紅の新星クリムゾンノヴァ!」


 ノワールは魔法陣から大きな火球を勢いよく放って飛んでくる権天騎士たちを攻撃する。権天騎士たちは真正面から勢いよく迫ってくる火球を避けることができず、火球は権天騎士の一体に命中し爆発した。その爆発に他の権天騎士たちも呑み込まれ、八体の権天騎士は一瞬で消し飛ばされる。

 爆発によって発生して爆炎をノワールが無言で見つめていると、爆炎の陰から残っていた四体の権天騎士が飛び出し、二体ずつに分かれて左右からノワールに迫ってくる。ノワールは視線だけを動かして権天騎士の位置を確認すると、素早く左を向いて迫ってくる二体の権天騎士を睨む。


次元斬撃ディメンジョンスラッシュ!」


 右手で手刀を作ったノワールは権天騎士たちに向かって手刀を横に振る。見えない斬撃は権天騎士たちの体を胴体から両断し、斬撃を受けたニ体の権天騎士は光の粒子となって消滅した。

 左側の権天騎士たちを倒すと、ノワールは素早く振り返って右側から迫ってきている権天騎士たちの方を向く。権天騎士たちはノワールに近づくと持っている剣を振り下ろして攻撃する。だが剣はノワールに触れる直前に見えない何かに弾かれてしまい、ノワールに傷を付けることはできなかった。

 ノワールは剣が弾かれた光景を見て小さく笑う。ノワールもダークと同じように物理攻撃無効の技術スキルを装備しているため、低レベルの権天騎士の攻撃は通用しなかった。


闇の光弾ダークスピリッツ!」


 攻撃を弾かれて怯んでいる権天騎士にノワールは両手を伸ばし、両手から紫色の光弾を一発ずつ放つ。光弾は権天騎士たちの胴体に命中し、光弾を受けた権天騎士たちは苦しむ間もなく光の粒子となって消えた。

 権天騎士を全て倒したノワールはハナエがいる方角を向き、遠くで魔法陣に囲まれているハナエの姿を確認した。


(まだ魔法陣は消えていない。やっぱり権天騎士では神格魔法を発動させるまでの時間は稼げなかったんだ)


 無数の魔法陣に囲まれているハナエを見て、まだ神格魔法を発動する準備を済ませていないと知ったノワールはこの機を逃すわけにはいかないと、勢いよくハナエに向かって飛んで行く。神格魔法が発動までの間、魔法使いは攻撃は勿論、移動することもできないため、今がハナエにダメージを与える絶好のチャンスだった。

 ハナエはノワールが自分に向かって来ているにもかかわらず、慌てる様子も見せずに落ち着いてノワールを見ていた。その余裕の表情に嫌な予感がするノワールは更に速度を上げる。

 速度を上げてハナエの3mほど手前まで近づいたノワールはハナエに攻撃しようと右手をハナエに向ける。だがその時、ハナエの周りに展開されていた魔法陣が一斉に消え、それを見たノワールは目を見開き、ハナエはニッと笑みを浮かべた。


「惜しかったわね?」

「なっ!?」


 ハナエの言葉にノワールは思わず声を漏らす。ハナエの様子から神格魔法の発動準備が完了したことを知り、ノワールは驚きの反応を見せる。


(そ、そんなっ! まだ魔法が発動するには余裕があったはず。なのにどうして!?)


 自分の予想より早く発動準備が整ったことが未だに信じられず、ノワールは心の中で困惑する。

 ノワールはハナエが魔法陣を発動させてからしっかりと時間を計り、発動するまでどれだけ余裕があるか調べていた。計算ミスなどは一切しておらず、正確に時間を計っていたと自信があったにも関わらず、ハナエは発動の準備を済ませてしまい、ノワールは驚きを隠せずに無言でハナエを見ている。


「驚いてるみたいね? どうして予想よりも早く発動準備が整ったのか」


 ハナエの言葉を聞いてノワールはフッと反応する。自分が疑問に思っていたことを読んでいたハナエを見て、ノワールはハナエが何かしたと直感した。


「答えはこれよ」


 そう言ってハナエは服のポケットから何かを取り出した。それは水色の砂が入った手の平サイズの銀色の砂時計で、それを見たノワールは目を見開く。


「それは、セイズの砂時計!」

「そう、これを使って発動時間を短くしたのよ」


 発動準備を早く済んだ原因を知ったノワールは悔しそうな顔でハナエを見つめた。

 <セイズの砂時計>はLMFの課金アイテムの一つで魔法の発動時間を十秒短縮させることができる。十秒と言う数字は時間的には短く、使っても変わらないと思われそうだが、LMFでは十秒短縮するだけで戦況が大きく変わるため、魔法使い系の職業クラスを持つ者たちからはとても頼りにされるマジックアイテムの一つなのだ。

 マジックアイテムによって発動時間を短くされ、魔法を使わせてしまったことにノワールは奥歯を噛みしめる。同時にハナエがマジックアイテムを使ってくることを予想していなかった自分に腹を立てた。


(権天騎士を召喚し、自分の護衛をさせた本当の目的はセイズの砂時計を使う隙を作るためだったんだ。そして、それは同時にセイズの砂時計を使って発動時間を短縮させるという考えを僕の意識から外させるためのフェイント!)


 まんまとハナエの策にはまってしまったことにノワールは拳を強く握りながらハナエを見つめる。ハナエは自分の作戦が成功し、ノワールを出し抜けたことを愉快に思いながら小さく笑う。

 ハナエは悔しそうな顔をするノワールを見てしばらく笑っていたが、今の内に発動してしまおうと魔法発動に気持ちを切り替え、後ろに下がりながら両手を胸の前で合わせた。


三女神の加護ノルンブレッシング!」


 魔法が発動し、ハナエの周りに光が集まり出す。光は赤、青、黄の三色あり、それぞれハナエの左、後ろ、右に集まって形を変えていく。やがて三色の光は三人の美女へと姿を変えた。

 赤い光は赤いポニーテールをした美女に、青い光は青いショートボブの美女に、黄色い光は黄色いロングヘア―の美女に変わった。三人の美女は全員白いキトンを着ており、額には金色のサークレットを付けている。美女たちは体を輝かせながらハナエの肩にそっと手を乗せ、微笑みを浮かべてハナエを見つめた。


「……発動してしまったか」


 ノワールはハナエの周りに集まる三人の美女を見て微量の汗を流す。美女たちの出現によって戦況は大きく傾いたとノワールは感じていた。しかし、だからと言って何しないわけにはいかない。ノワールは軽く首を左右に振ってからハナエの方を向き、右手で手刀を作る。


次元斬撃ディメンジョンスラッシュ!」


 ハナエに向かって手刀を斜めに振り、ノワールは見えない斬撃を放って攻撃する。ノワールが攻撃するのを見たハナエは小さく笑う。


次元歩行ディメンジョンムーブ!」


 瞬時に転移魔法を発動させ、ハナエと彼女の周りにいた三人の美女はその場から消えてノワールの放った見えない斬撃を回避し、ノワールの左側、数m離れた場所に現れる。ノワールは左側に現れたハナエを見て僅かに表情を歪ませながら構え直した。


三女神の加護ノルンブレッシンが発動されても動揺することなく攻撃してくるなんて、意外としっかりしているのね? LMFにいた頃は私がこの魔法を発動したら大抵のプレイヤーは戦意を失っていたけど……」

「僕を他ギルドの二流プレイヤーたちと一緒にしないでください。僕はマスターと共に貴女やジャスティスさんの戦いを何度も見ていましたから、貴女たちがどんな戦い方をするのか予想できていました。だから怯むことなく戦えるんです。何よりも、三女神の加護ノルンブレッシングを使われたからと言って諦めるわけにはいきませんので……」

「成る程、私とマスターのことをよく知っている貴方だからこそできることね……でも、いくら私の戦い方を知っていても、三女神の加護ノルンブレッシングが発動した以上、貴方は絶対に私には勝てないわ」


 ハナエは僅かに力の入った声を出しながら目を鋭くしてノワールを見つめる。彼女の左右、後ろにいる三人の美女は微笑みを崩すことなくハナエを見ていた。

 <三女神の加護ノルンブレッシング>はLMFの魔法の中でも魔法使い強化に特化した光属性の神格魔法だ。その効力は発動してから一定時間の間、魔法を使用する際のMP消費、発動時間、発動後の冷却時間を全て無効化すると言うもの。発動している間、魔法使いはどんな魔法を使ってもMPを失うことが無く、魔法を瞬時に発動でき、同じ魔法を連続で何度も使うことができる。そのため、この魔法の効力を得た魔法使いは敵無しと言われ、一部のプレイヤーからは反則魔法とまで言われていた。

 ハナエは三女神の加護ノルンブレッシングの効力によって、どんな魔法も使い放題となり、強力な魔法も一瞬で発動できるようになった。魔法使いの弱点のほぼ全てを無効化したハナエを見てノワールは流石に危機感を感じるようになる。


三女神の加護ノルンブレッシングを発動したことでハナエさんは上級以下の魔法だけでなく、最上級魔法までも瞬時に発動できるようになった。この状況で戦いを長引かせればいつかはこちらが先に倒れてしまう。何とか隙をついてハナエさんにダメージを与えないと……)


 ノワールはハナエを見つめながらどうにかしてハナエにダメージを与えることができないか考える。そんな中、ハナエはノワールを見つめながら右手を考え込んでいるノワールに向け、手の中に赤い魔法陣を展開させた。


「かかって来ないのなら、こっちから行かせてもらうわよ……炎王の爆撃エクスプロージョン!」


 ハナエが魔法を発動させると手の中の魔法陣が消え、ノワールの頭上に大きな赤い魔法陣が展開される。それに気付いたノワールは上を向き、魔法陣を目にすると大きく目を見開く。


「って、いきなり炎王の爆撃エクスプロージョン!?」


 ノワールが驚きの声を上げていると魔法陣の中心に黄色い光が集まり、そこから黄色い光がノワールに向かって一直線に振ってきた。


「ッ! 次元歩行ディメンジョンムーブ!」


 危険だと感じたノワールは咄嗟に転移魔法を発動してその場から移動する。光はノワールが浮いていた場を通過し、その真下にある海に落ちると大爆発を起こした。

 爆発によって海から大きな水柱が上がり、同時に強い衝撃と爆風が周囲に広がる。浮遊島の近くを飛んでいた両軍のモンスターたちは爆風で吹き飛ばされてしまうが、城塞竜は吹き飛ばされずに何とか耐えた。しかし、背中に乗っていた砲撃蜘蛛一体と青銅騎士の何体かは吹き飛ばされて海に落ちてしまう。

 大爆発が起きた場所から少し離れた所に転移したノワールは水柱を目にしながら微量の汗を流す。とてつもない破壊力を持つ最上級魔法が瞬時に発動されたのを見て、三女神の加護ノルンブレッシングの効力と炎王の爆撃エクスプロージョンの破壊力がとんでもないものだとノワールは改めて実感した。


「流石だなぁ、アレをまともに受けたら僕でも只じゃすまないかも……」

「他にも警戒する魔法があるんじゃない?」


 水柱を見ていると背後からハナエの声が聞こえ、ノワールは咄嗟後ろを向く。そこには右手の中に緑色の魔法陣を展開させながら自分を見ているハナエの姿があった。


罰する轟雷パニッシュスパーク!」


 ハナエが叫ぶとノワールを取り囲むように無数の青白い雷球が現れ、全ての雷球からノワールに向かって一斉に電撃が放たれる。反応が遅れてしまったノワールは回避することも転移魔法を発動させることもできず、全ての電撃を受けてしまった。


「うわああぁっ!」


 体中に走る痛みと痺れにノワールは声を上げる。ハナエとの戦いが始まってからずっと無傷だったのにノワールは遂にハナエの攻撃を受けてしまった。

 電撃が治まるとノワールか体中から煙を上げながらハナエを睨む。最上級魔法を受けたため、ノワールはかなりの大きなダメージを受けてしまい、それを見たハナエは追撃するために新たな魔法を発動させる。


細氷の爪ダイヤモンドクロー!」


 ハナエはノワールに向けて左手を伸ばし、手の中に青い魔法陣を展開させた。するとノワールの正面に白銀に輝く三つの氷の爪が現れてノワールに襲い掛かる。


「……クッ!」


 氷の爪に気付いたノワールは痛みに耐えながら転移魔法を発動させてその場から移動し、氷の爪をギリギリで回避する。氷の爪をかわしたノワールにハナエは目を僅かに鋭くし、周囲を見回してノワールを探す。

 ハナエがノワールを探していると背後から気配を感じ、ハナエは素早く後ろを向く。そこには少し離れた所で右手の人差し指を向けるノワールの姿があった。


貫通熱線バーナーレーザー!」


 ノワールは人差し指からオレンジ色の熱線をハナエに向かって放つ。ハナエはノワールの魔法を見て小さく鼻で笑いながら右へ移動して熱線をかわし、ノワールに反撃しようと右手をノワールがいる方に向ける。だが、ハナエよりも早くノワールが次の攻撃に移った。


凍結冷気コールドシャクルズ!」


 ノワールは左手をハナエに向け、手の中の青い魔法陣から冷気を勢いよく噴出させる。冷気は真っすぐハナエに向かっていき、そのままハナエを呑み込む。


「どういうつもり? 私は凍結無効の技術スキルを装備しているから敵を凍結させるコールドシャクルズは効果が無いわよ?」


 ハナエはノワールの行動の意味が理解できず、冷気の中で疑問に思っている。やがて冷気が治まり、視界が回復したハナエはノワールがいる場所を確認した。

 すると、目の前まで接近しているノワールが視界に入り、ハナエはノワールの姿を見て目を見開く。どうやら凍結冷気コールドシャクルズはハナエの視界を奪うための目くらましだったようだ。


次元斬撃ディメンジョンスラッシュ!」


 ノワールは驚いているハナエに向かって右手の手刀を斜めに振る。その直後、ハナエの左肩から右腰までに大きな切傷ができてそこから血が噴き出た。

 体の痛みにハナエは表情を歪ませるがそれほどダメージは大きくなく、ノワールが追撃してくることを予想して痛みに耐えながら反撃態勢に入る。ノワールは次元斬撃ディメンジョンスラッシュを受けても怯まずに態勢を整えるハナエを見ると後ろに飛んで距離を取ろうとした。


「逃がさないわ、母星の岩石ガイアロック!」


 距離を取ろうとするノワールに向けてハナエは右手を伸ばした。すると、ハナエの左右に大きな黄色い魔法陣が展開され、そこから大きな岩石が飛び出してノワールに命中する。

 <母星の岩石ガイアロック>は二つの岩石を敵に向かって放つ土属性の最上級魔法。攻撃力が高く、土属性と殴打のダメージを同時に与えることができるため、命中すれば大ダメージを与えることができる。

 二つの岩石を受けたノワールは大きく後ろに吹き飛ばされてしまう。幸い後ろに下がっていたところを攻撃されたため、ダメージを削ることはできたがそれでも大ダメージを受けていた。


「クソォ! 二度も最上級魔法を受けてしまうなんて……」


 全身の痛みに耐えながらノワールは後ろに一回転して体勢を整えてから停止し、遠くにいるハナエを見つめる。ハナエは岩石を命中してノワールにまたダメージを与えられたと笑みを浮かべながらノワールを見ていた。

 三女神の加護ノルンブレッシングが発動してからハナエは最上級魔法を連続で発動して攻撃してきている。ノワールはハナエが三女神の加護ノルンブレッシングの効力が無くなるまでの間に最上級魔法を使えるだけ使って自分の体力を削り切ろうとしていると感じ、微量の汗を流しながらハナエを動きを警戒した。


(このまま最上級魔法を使われ続けたら、いつかはこっちのHPが先に尽きてしまう。何とか三女神の加護ノルンブレッシングの効力が切れるまで持ち堪えないと……)


 ハナエが猛攻を止まるまでどうにかして時間を稼がないといけないと考えるノワールは視線だけを動かして周囲を確認する。そんな時、ノワールの視界にジャスティスたちの本拠点である浮遊島が入り、浮遊島を見たノワールは目を軽く見開く。


(……浮遊島、あそこはハナエさんにとって絶対に傷つけたくない場所だ。あそこの近くならハナエさんも下手に最上級魔法を使おうとは思わないはず。上手くあそこまでハナエさんを誘導できれば……)


 最上級魔法を使わせないために戦いの場所を浮遊島の近くに変更しようと考えていると、ノワールの右側にハナエが回り込んで右手に手刀を作った。


次元斬撃ディメンジョンスラッシュ!」


 ハナエの攻撃に気付いたノワールは咄嗟にハナエがいる方角と正反対の方へ移動してハナエの攻撃をギリギリでかわした。

 攻撃をかわされたハナエは距離を取るノワールを睨みながら右手を向け、手の中に緑色の魔法陣を展開させる。


罰する轟雷パニッシュスパーク!」

「クッ! またか」


 再び厄介な最上級魔法を発動させてきたのを見てノワールは面倒そうな顔をする。そんなノワールの周りに青白い雷球が大量に出現してノワールを取り囲む。そして、雷球から一斉に電撃がノワールに向かって放たれた。


「同じ手は通用しません!」


 ノワールはそう叫ぶと転移魔法を発動させてその場から消え、複数の電撃はノワールが浮いていた場所でぶつかり周囲に強烈な光を放つ。そこから少し離れた場所に転移したノワールは電撃がぶつかる光景を見て軽く息を吐いた。

 攻撃に失敗したハナエは目を細くしながら転移したノワールを見つめており、再度攻撃を仕掛けるためにノワールに向かって飛んで行く。ノワールはハナエの接近に気付くと迎撃するために右手をハナエに向ける。


深紅の新星クリムゾンノヴァ!」


 右手の中に赤い魔法陣が展開されるとノワールはハナエに向けて大きな火球を放つ。火球は真っすぐハナエに向かって飛んでいき、命中すると思われたがハナエは左に移動して火球を難なくかわした。


「真正面から攻撃なんて、私をあまりナメないで! 母星の岩石ガイアロック!」


 単純な攻撃をされたことに腹を立てながらもハナエは最上級魔法を発動して反撃する。ハナエの左右に展開された黄色い魔法陣から大きな岩石が同時に放たれ、ノワールに向かって飛んで行く。

 勢いよく迫ってくる二つの岩石を見たノワールは咄嗟に左へ移動して岩石の直撃から逃れる。岩石をかわしたノワールは離れて行く岩石を見て軽く息を吐いてホッとした。だが次の瞬間、真正面から再び大きな岩石が二つ、ノワールに向かって迫ってきた。

 かわしたはずの岩石がなぜ正面から向かって来たのか、ノワールは目を見開きながら驚く。すると、岩石の後方で右手を自分の方に向けて伸ばすハナエの姿が視界に入り、それを見たノワールは最初の岩石がかわされた後、ハナエが再び母星の岩石ガイアロックを発動して新たに岩石を放ったのだと知った。

 攻撃をかわした直後で転移魔法も回避も間に合わないと感じたノワールは後ろに飛びながら両手を前に出した。


岩の盾ロックシールド! 万能の盾マイティシールド!」


 ノワールは防御するために自分と岩石の間に岩の盾とオレンジ色の長方形の障壁を作り出して縦一列に並べる。しかし、中級と上級魔法で作り出した盾と障壁で最上級魔法の岩石を防ぐなどできるはずがない。当然、ノワールもそれは理解している。だからせめて、少しでもダメージを削れるよう、岩の盾を使って勢いを殺そうと思ったのだ。

 岩石は岩の盾にぶつかると簡単に岩の盾を粉砕し、その後ろに張られている障壁も同じように粉々にする。そして、そのまま後ろに飛んでいるノワールに直撃した。


「うああぁっ!」


 岩石をまともに受けたノワールは表情を歪めながら大きく飛ばされる。今回も後ろに飛んでいたため、ダメージを多少は軽減できた。しかも、今回は岩の盾と障壁で勢いを殺していたため、最初よりもダメージは軽減されている。しかし、それでもノワールが大ダメージを受けたことに変わりはなかった。

 ノワールは岩石にぶつかった時の勢いで飛ばされ、浮遊島の近くまで移動した。そして、ある程度浮遊島に近づくと体勢を直してハナエの方を向く。ノワールは浮遊島の城壁から300mほど離れた場所を飛んでいる。


「よし、何とかここまで近づくことができた……」


 口から垂れている血を手で拭いながらノワールは自分と浮遊島の位置を確認する。予想以上に浮遊島に近づくことができたため、ノワールはそれなりに満足していた。

 浮遊島に近づくだけなら、飛んで移動したり転移魔法を使った方がいいとも思われるが、それだとハナエに気付かれて回り込まれる可能性があった。だからハナエの攻撃を受け、その衝撃で浮遊島の近くに飛ばされた方がハナエも油断し、気付かれずに浮遊島に近づけるとノワールは思っていたのだ。


「HPは大分削られちゃったけど、浮遊島に近づくことができから良しとしよう」


 自身の体の傷を見ながらノワールは苦笑いを浮かべて呟く。そして、ハナエの方を向くとノワールは真剣な表情を浮かべる。


「これでハナエさんは迂闊に最上級魔法を発動させることができなくなったはずだ。仮に発動してきても此処からなら浮遊島に逃げ込むことができる……まだ、勝機はある」


 戦いはまだ終わっていない、ノワールは少し低めの声を出しながら呟いた。


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