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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第二十章~信念を抱く神格者~
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第三百十八話  暗黒騎士の復活と戦略


 数週間ぶりに再会を果たしたダークとジャスティスは無言で目の前に立つ嘗ての戦友を見つめる。倒れているアリシアは最初、ダークが生きていたことに喜びを感じて笑っていたが、今は向かい合って相手の動きを警戒している黒と白の騎士を見ながら緊張して表情を浮かべていた。

 ダークは蒼魔の剣を右手で握ったまま視線を動かし、ジャスティスの立ち位置と彼の後ろで倒れているアリシア、自分の左腕の中で意識を失っているファウを確認する。ジャスティスはダークが視線だけを動かして現状を確認していることに気付くと小さく笑った。


「あの空中での戦い以来、ずっと姿を隠していたようですが、いったい何処に隠れていたんです?」

「フッ、それはこれから説明しますよ……ですが、その前にやることがあります」


 そう言うとダークは下半身を薄っすらと水色に光らせ、それを見たジャスティスはダークが脚力強化を使用したことを知って警戒する。その直後、ダークは素早く地面を蹴り、一瞬にしてジャスティスの背後で倒れるアリシアの左隣に移動した。

 一瞬で背後に回り込んだダークにジャスティスは驚きながら振り返り攻撃しようとする。だが、ジャスティスが攻撃する前にダークが振り返ったジャスティスに蒼魔の剣で攻撃した。ジャスティスはダークの攻撃をノートゥングで防ぐが、攻撃の重さと衝撃に耐えることができず、足で地面を擦りながら6mほど後退する。

 ダークはジャスティスが離れるとジャスティスを警戒しながらゆっくりとファウを下ろして仰向けに寝かせる。そして、ジャスティスの方を向いたままそっと左手でアリシアの肩に触れた。


「アリシア、大丈夫か?」

「あ、ああ、何とかな……」

「今の内に大治癒(ヒール)で自分とファウの傷を癒せ」

「わ、分かった」


 アリシアは痛みに耐えながら上半身を起こして自分に回復魔法を掛けて傷を治し、自分の体力が回復すると続けて隣で眠っているファウに魔法を掛けて傷を治す。それを見たダークはよし、と安心する。ダークが最初にやらなければならないこと、それはアリシアとファウの安全の確保だったのだ。

 体力が回復したアリシアはゆっくりと立ち上がる。まだ傷は完全に癒えてはいないが、動けるほどには回復したため、アリシア自身は良しと思っていた。ただ、ファウはまだ意識が戻っておらず、アリシアの隣で静かに寝息を立てている。

 アリシアが眠っているファウを見ているとダークが地面に刺さっていたフレイヤを持ってきてアリシアに差し出す。アリシアはフレイヤを受け取ると改めてダークの顔を見つめる。


「……本当に、ダークなんだな?」

「当たり前だろう。ダークじゃなかったら私は誰なんだ?」

「笑っていないで真面目に聞いてくれ」


 からかうような口調で語るダークにアリシアは真剣な表情を浮かべながら少し力の入った声を出す。そんなアリシアをダークは無言で見つめる。

 アリシアは目を閉じ、一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせるともう一度ダークを見て静かに口を開く。


「……あの時、貴方がジャスティスに敗北して海に落下してから今日まで、私たちはずっと貴方のことを探していたんだぞ?」

「……そうか、心配をかけてすまなかった」

「まったく……」


 謝罪するダークを見て、アリシアは呆れたような顔をしながら溜め息をつく。ずっと行方不明だったのでどれだけ不安だったか言ってやりたかったが、目の前に元気なダークがいるため、それ以上ダークに文句は言わなかった。

 アリシアはダークの体を確認し、彼が身に付けている漆黒の全身甲冑フルプレートアーマーが無傷の状態であることを確認する。ジャスティスとの戦いでダークの全身甲冑フルプレートアーマーはボロボロになっていたのに今は綺麗に直っており、アリシアは軽く目を見開いて驚いた。


「鎧は綺麗に修復されているな……傷の方は大丈夫なのか? ジャスティスとの戦いでかなりの深手を負っていたが……」

「ああぁ……そのことなんだが、実は君たちに言わなきゃいけないことがある」


 どこか申し訳なさそうな素振りをするダークにアリシアは小首を傾げ、離れた所ではジャスティスが二人を見ている。ジャスティスもダークと同じで五感が鋭くなっているため、離れていてもダークとアリシアの会話を聞くことができた。


「実は浮遊島に進軍する時に君たちと一緒にいた私は、私ではないんだ」

「……は?」


 ダークの言葉の意味が理解できずにアリシアは声を漏らす。ジャスティスもダークの言葉に驚いたのか僅かに反応しながらダークを見た。


「あの時のダークがダークではない? どういう意味だ?」

「その答えは、コイツだ」


 そう言ってダークは蒼魔の剣を左手に持ち替え、右手をポーチに入れて何かを取り出した。それは手のひらサイズの人型の木製人形で胴体に赤い宝玉が埋め込まれている。

 アリシアはまばたきをしながらダークが取り出した人形を見つめる。ダークのこれまでの話とポーチから取り出したことから、アリシアは人形がLMFのマジックアイテムだとすぐに気付いた。


「ダーク、これは?」

「コイツはクリエイトドールと言う自分の分身を作り出すマジックアイテムだ」

「自分の分身を作る?」


 人形の効力を聞かされたアリシアは驚き、ジャスティスも僅かに声を漏らして驚いた。

 <クリエイトドール>はLMFの有料マジックアイテムの一つで使用したプレイヤーの分身を作り出すことができる。作られた分身はクリエイトドールを使用する直前までのプレイヤーの姿は勿論、装備や技術スキル、レベル、ステータス、職業クラスの能力を全てコピーすることが可能だ。そしてプレイヤーはその作られた分身を遠隔操作し、影武者や偵察などに使用できる。ただし、分身はアイテムの使用やメニュー画面を開くことができず、プレイヤーも分身を操っている間は戦うことができない。そのため、分身を操る場合は安全な場所に移動する必要がある。HPがゼロになれば分身は消滅するが、プレイヤー自身は無傷で大きなデメリットは無い。

 ダークはアリシア、ファウと共に浮遊島に進軍した日、進軍する直前にクリエイトドールを使用して自分の分身を作り出し、その分身を操ってアリシアとファウと共に浮遊島に進軍したのだ。つまり、その時にアリシアとファウと共にいたダークはダークが操る偽物だったということだ。


「あの日、私はこのクリエイトドールを使用して自分と全く同じ力を持つ分身を作り、それを操って君たちと共に出撃したんだ」

「操ってって……それではあの時、貴方はバーネストにいたのか?」

「いや、分身を作った後、セルメティアにいた頃に使っていた屋敷に転移魔法で移動し、そこで分身を操っていた」

「どうしてそんなことを?」

「あの日、私はジャスティスさんと戦闘になると確信していた。戦闘になるのなら私は戦うつもりでいたが、何年も会っていなかったジャスティスさんといきなり戦って勝つのは非常に難しかった。そこで私はクリエイトドールで分身を作り、分身を操ってジャスティスさんと戦い、彼の戦闘能力などを調べることにしたんだ」


 なぜ分身を使って出撃したのか、ダークはアリシアに細かく説明していく。話を聞いたアリシアは真剣な表情を浮かべながら黙ってダークの話を聞いている。ただ、その目からは僅かに苛立ちのようなものが感じられた。


「結果、私の予想どおりジャスティスさんに勝つことはできず、分身は海に落ちて消滅した。それから私は身を隠し、分身を操って得たジャスティスさんの情報をもとに再戦する際はどのようにして戦うか考えながら特訓をしていたんだ」

「……つまり、次の戦いでジャスティスに勝つために自分を死んだことにして再戦の準備をしていたと?」

「ああ」


 僅かに低い声で問いかけるアリシアを見てダークも少し低めの声で返事をする。アリシアは俯きながら黙り込み、しばらくすると顔を上げ、ダークを睨みながら鎧の上から腹部にパンチを撃ち込んだ。


「うおおぉっ!?」


 腹部からの痛みにダークは思わず声を漏らす。レベル100のダークは並の攻撃ではダメージを受けないが、同じレベル100のアリシアの攻撃はダークにダメージを与えており、予想外の攻撃にダークは驚かされていた。

 殴られた箇所をさすりながらダークは兜の下で僅かに表情を歪ませる。突然殴ってきたアリシアに視線を向けると、アリシアは目元に涙を溜めながらダークを睨んでいた。


「馬鹿!! なぜあの戦いの後、私たちに連絡してくれなかったのだ!? 貴方が海に落ちて私やファウたちはとても心配していたのだぞ!」


 敵だけでなく、味方である自分たちにまで無事であることを隠していたダークにアリシアや怒りと悲しさを感じ、涙を流しながら声を上げる。ダークは状況から考えればアリシアが怒るのも無理は無いと感じ、兜の下で申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「貴方があの程度で死ぬはずがないと私たちも思っていた。だが、それでも何と情報も入ってこなければ、もしかしてと不安になっていたのだ。私やファウたちがこの数週間の間、どんな気持ちでいたか……」

「……悪かった。だが、君たちに私が無事であることを知らせれば、敵も君たちの様子を見て私が無事であることに勘付いてしまうと思ったんだ。だから、敵に絶対に私の無事を悟られないようにするため、君たちにも何も知らせなかったんだ。よく言うだろう? 敵を欺くにはまず味方から、と?」

「だからと言って、これは酷すぎるだろう。それに転移魔法でセルメティアに移動したと言うことは、ノワールは貴方が無事なことを知っていたのだな?」

「あ~、まぁな……」


 ダークの答えにアリシアは呆れた顔をしながら俯く。ノワールはダークが無事であることを最初から知っており、それを自分たちにわざと伝えなかった。ノワールまでもが自分たちに嘘をついていたと知ってアリシアは更に機嫌を悪くする。

 機嫌を悪くしたアリシアを見てダークは後頭部に手を当てながら困ったような素振りを見せる。アリシアの態度から、彼女は今日まで本当に不安だったと知り、ダークは悪いことをしてしまったと感じた。


「……本当に悪かった。この戦いが終わったらファウたちにもちゃんと謝罪をするし、償いもする」


 ダークは俯くアリシアを見ながら改めて謝罪をする。アリシアはしばらく黙り込んでいたが、俯いたまま涙を拭い、ゆっくりと顔を上げてダークを見つめる。その目は僅かに赤くなっていた。


「……まぁ、貴方も戦いに勝つためにやったことだし、本当に反省しているみたいだから許そう。私も一発殴ったからな」

「すまない……」

「ただし、一つだけ約束してくれ。もう二度とこんなことを、仲間である私たちを騙すようなことをしないと……」

「ああ、約束する」


 隠れて勝手なことを二度としない、ダークがそう約束するとアリシアは目を赤くしたまま小さく笑う。改めてアリシアはダークが無事だったこと、また自分の下に帰ってきてくれたことを喜んだ。

 アリシアとの話が終わると、ダークはゆっくりとジャスティスの方を向く。ジャスティスはダークとアリシアの再会を邪魔するのは野暮だと思っているのか、二人が会話をしている間も何もせずに黙って見ていた。

 あるいはダークがどうして無事だったのか、今まで何処に身を隠していたのか情報を得るために何もしなかったのかもしれない。どちらにせよ、ダークにとってジャスティスが手を出さずにいてくれたのはありがたいことだった。


「アリシア、君はファウと共にそこにいろ」

「……戦うのか?」

「ああ、そのために私は此処に来たのだからな」


 ダークがジェスティスと再戦すると知り、アリシアは表情を鋭くしながら息を飲む。数週間前に見た空中での激闘が再び目の前で起こるのだと思うとやはり緊張してしまう。


「分かっていると思うが、私とジャスティスさんが戦えば間違い無く周囲に被害が出る。戦いが始まったら自分たちは自分の身を護ることだけ考えろ。場合によってはジェーブルの町まで後退するんだ、いいな?」

「ああ……」


 アリシアはダークを見つめながら頷き、それを確認したダークはジャスティスの方へ歩き出す。離れていくダークの後ろ姿を見ながらアリシアは今度こそ必ず勝ってくれ、と心の中で願うのだった。

 ダークはアリシアに見守られる中、ジャスティスの方に歩いて行く。ジャスティスを見つめながら目を薄っすらと赤く光らせ、ジャスティスも近づいてくるダークを見て目を薄っすらと青く光らせる。そして、ジャスティスの3mほど手前まで近づくとダークは立ち止まってジャスティスと向かい合った。


「お待たせしました、ジャスティスさん」

「いいえ、気にしないでください。私も貴方が今まで何をしていたのか気になっていましたから」

「フッ、そうですか」

「しかし、驚きましたよ。まさかプレイヤーと全く同じ存在を生み出すマジックアイテムがあったなんて、しかも私の作り出す分身と違い、攻撃を受けても消えないとは……」

「ジャスティスさんが知らないのも無理はありませんよ。何しろクリエイトドールがジャスティスさんがLMFにログインしなくなった後のアップデートで追加されたんですから」


 ダークの説明を聞いたジャスティスは成る程、と言いたそうに軽く頷く。未知のマジックアイテムを使われ、それによって自身の戦い方を見抜かれたにもかかわらず、ジャスティスは焦りなどを一切見せずに余裕の態度を取っている。例え戦い方が知られても勝つ自信があるのか、とダークはジャスティスを見ながら感じた。


「さて、仲間との再会、クリエイトドールの説明が終わったわけですし、早速戦いを始めましょう。と言いたいところですが、私もダークさんにお話ししなくてはならないことがあります」

「レジーナたちの下に部隊を送り込んだことについてですか?」

「おや、知っていましたか?」

「此処に来る直前にアリシアたちがどういう状況に置かれているのかを確認してきたんですよ。勿論、レジーナたちが重傷を負っていることも、彼女たちがいる場所に敵が近づいて来ていることも知っています」


 自分たちの動きを既に理解しているダークを見てジャスティスはほほぉ、と意外そうな反応を見せる。離れた所で見守っているアリシアもダークの言葉を聞いて少し驚いていた。

 ダークは浮遊島に進軍する直前、ジャスティスに敗北したらその後にどう動くかを予めノワールと話し合って決めておいた。

 分身がジャスティスに倒され、本物のダークが身を隠している間、もしジャスティス直属の上級モンスターたちが前線に現れ、アリシアたちが上級モンスターたちと戦うことになったら、前線の情報が得られるよう監視用モンスターであるウォッチホーネットを前線に向かわせておいたのだ。そして、そこから得た情報を下にノワールはどう動くかを判断していた。

 アリシアたちが上級モンスターたちを倒したことはノワールも勿論知っており、知った時は敵の戦力を大きく削げたと喜んでいた。しかし、その直後にジャスティスがアリシアとファウがいるジェーブルの町に現れ、それを知ったノワールはダークに急いで報告し、ダークはアリシアとファウの救助に向かい、現在に至るのだ。


「いくら私でもジャスティスさんと戦いながらレジーナたちを護ることはできません。だからバーネストを出る直前に予め編成しておいた増援のための部隊を全てレジーナたちがいる拠点に派遣しておいたんです。今頃は町を護る各国の軍と合流している頃でしょう」

「流石はダークさん、仲間が強襲を受けることも予想して予備の戦力を用意しておくとは……やはり貴方は頭が切れる人だ」


 ダークたちを出し抜いたつもりが逆に出し抜かれてしまったジャスティスだが、悔しがる様子は一切見せず、寧ろダークとの頭脳戦を楽しんでいるよう見える。ダークは余裕を一切崩さないジャスティスを見て、まだ何か秘策を隠しているのではと心の中で感じながら警戒していた。


「……ですがダークさん、貴方は一つだけミスを犯してしまいましたね?」


 ジャスティスは目を薄っすらと青く光らせながら呟き、ダークはジャスティスを見ながら小さく反応する。会話を聞いていたアリシアはダークが失敗をしたと言われて大きく目を見開いた。


「ミスですか? ……何も心当たりが無いんですが?」

「貴方が私の相手をするために此処に現れ、仲間の下に護衛のために戦力を派遣することは私も予想していました。ですが、増援部隊を全て他国に派遣したのはマズいと思いますよ? そのせいで今バーネストの護りはかなり手薄になっているはずです」

「そんなことはありません。あの町は十分敵の襲撃に耐えられる状態です。オーディンの結界柱によって外からの攻撃や空からの侵入は防ぐことができますし、あそこにはノワールがいます」


 ノワールがおり、オーディンの結界柱で護られている以上、バーネストは決して落とされないとダークは自信に満ちた口調で語り、アリシアもノワールがいれば大丈夫だと確信した表情を浮かべている。しかし、ジャスティスはダークの自信を否定するかのように小さく笑った。


「ダークさん、忘れていませんか? 貴方にノワールがいるように私にもハナエと言う優秀な使い魔がいるんです。ハナエには浮遊島の守護と同時にノワールとバーネストの監視をさせており、私が指示を出せば浮遊島の戦力を動かしてバーネストを襲撃します」


 笑いながら語るジャスティスを見てアリシアは驚愕の表情を浮かべる。ハナエとは最初の会談の時以来一度も姿を見ていなかったため、アリシアはハナエの存在をスッカリ忘れていた。しかもハナエのレベルは100、先程まで余裕を感じていたアリシアは焦りを感じ始める。

 ハナエと浮遊島の戦力が襲撃してきたら、いくらノワールがいてもバーネストを護り切ることができないのでは、そう思いながらアリシアは微量の汗を流す。しかし、ダークは焦りを見せることなく落ち着いた様子でジャスティスを見ていた。


「いくらオーディンの結界柱で外からの護りを強化しても、地上から町に侵入し、結界柱を見つけ出して破壊してしまえば結界も消滅して外からの攻撃も侵入も可能になります。そして、ハナエならそれも簡単にできる」

「……」

「私がメッセージクリスタルを使って命じれば彼女はすぐに動くでしょう。そうなれば、ノワールがいる状態でも厳しいと思いますよ?」

「……確かに厳しいでしょうね。護りの態勢で戦うのなら」

「ん? それはどういう……」


 ダークの言っていることの意味が分からず、ジャスティスは小首を傾げながら尋ねる。すると、ジャスティスの頭の中に突然ハナエの声が響いた。


(マスター!)

「ハナエか、どうした?」


 ジャスティスが小さく俯きながら呟き、その姿を見たダークはジャスティスがハナエからメッセージクリスタルで連絡を受けていると気付く。それと同時にダークは自分の狙いどおりになったと感じた。


(報告します。浮遊島がバーネストのモンスターたちの襲撃を受けています!)

「何?」


 ハナエの報告を聞いてジャスティスは僅かに驚いたような声を出す。ジャスティスの反応を見たダークは兜の下で小さく笑みを浮かべ、アリシアは状況が理解できず不思議そうな顔でジャスティスを見ている。


「いったいどういうことだ?」

(数分前、マスターの前にダークさんが現れた映像とバーネストから大部隊が出撃する映像を確認したので、チャンスと思い、マスターにバーネストを強襲する許可を求めようとしていたのですが、その直後、ビフレスト王国のモンスターの軍団が浮遊島を襲撃してきました)

「戦力は?」

(ほぼ全て飛行系のモンスターで構成されており、規模は二個大隊ほど。あと……その中にノワールの姿もあります)

「何っ!」


 襲撃してきたビフレスト軍の中にバーネストを守護しているはずのノワールがいると聞いてジャスティスも流石に驚いたようだ。なぜバーネストの防衛で最も重要と言える存在が浮遊島の襲撃に加わっているのか、ジャスティスはすぐには理解できなかった。

 理由が分からず、ジャスティスは俯きながら考える。すると、黙っていたダークは一歩前に出て、ジャスティスを見つめながら薄っすらと目を赤く光らせた。


「確かにハナエがバーネストを襲撃すれば例えオーディンの結界柱で護りを強化しても結界を破られ、こちらが不利になるでしょう。だったら、護りに入らずに攻めに入り、バーネストを襲撃されるより先に浮遊島を襲撃すればいいだけのことです」

「……成る程、先にこちらが襲撃されれば浮遊島の戦力をバーネストに向かわせることもできなくなってしまう。しかも襲撃してきた敵の中にノワールがいればハナエも浮遊島を離れることができない。結果的にバーネストを護ることになる、というわけですか」


 ダークの話を聞いたジャスティスはダークの方を向き、少し低めの声を出しながらダークの狙いを口にする。今回ばかりはジャスティスも少しばかり悔しさを感じているようだ。


「攻撃は最大の防御、ですよ」

「フ、フフフ、確かにバーネストは十分襲撃に耐えられる状態ですね」


 ジャスティスはダークを見ながら再び笑い出す。ただ、今回は先程と違って少し震えた声で笑っていた。一度ならず二度までも出し抜かれてしまったのだから余裕を持って笑えないのも無理は無い。

 ダークはジャスティスを見ながら小さく笑っている。ダークはジャスティスと違って楽しそうな声で笑っている。今まで超えることができず、常に自分の前にいたジャスティスに一泡く吹かせることができたため嬉しく思っているようだ。


(マスター、いかがいたしますか? 防衛部隊は臨戦態勢を取っていたため、最悪の事態は避けられましたが……)


 まだメッセージクリスタルの通信は終わっていないため、ジャスティスの頭の中にハナエの声が響く。ハナエの声を聞いたことでジャスティスは少しだけ落ち着きを取り戻し、静かに深呼吸をした。


「……攻め込まれてしまったのでは仕方がない。お前は浮遊島の全戦力を使って迎え撃ち、ノワールとビフレスト軍を倒せ。私はこっちでダークさんの相手をする」

(増援部隊をそちらに派遣しましょうか?)

「必要ない、これは私とダークさんの戦いだ。お前はそっちでノワールと敵部隊を倒すことに集中しろ。二人が分断されている今が倒すチャンスだ」

(ハイ!)


 ジャスティスの指示を聞いたハナエは力の入った声で返事をする。その直後、メッセージクリスタルの通信が終了し、ジャスティスはダークの方を向いてノートゥングとフィルギャを構えた。


「まさかここまで不利な状況に追い込まれてしまうとは……どうやらダークさんはこっちの世界で再会するまでの間に戦いの技術だけでなく、作戦を練る頭脳まで高めたようですね?」

「フッ、運が良かっただけですよ。運よくジャスティスさんの裏をかいてこちらの都合のいいように流れただけです」

「謙遜することはありません。運も実力の内というじゃないですか」


 どんな流れであろうと、自分を出し抜いたダークを高く評価するジャスティスにダークは小さく笑いながら嬉しそうな素振りを見せる。今は敵対しているとはいえ、嘗ての戦友であり、憧れの存在から褒められることにはやはり喜びを感じてしまうようだ。


「ですが、流石にこれ以上不利な状況にする訳にはいきません。貴方を倒して急いで浮遊島に戻り、ハナエに加勢させてもらいます」

「そうはいきません。ハナエだけでなく、ジャスティスさんまで相手にすることになっては流石のノワールも勝ち目はありませんからね。貴方は此処で私が倒します。と言うよりも、私もジャスティスさんに負けるつもりはありません」


 ダークは蒼魔の剣を両手で握り、中段構えを取りながら勝利を宣言する。ジャスティスはダークが構えるのを見ると笑いながら目を薄っすらと青く光らせた。


「今度の戦場は空中ではなく地上です。お互いに全力を出して戦いましょう」

「ええ、勿論」

「一応確認しておきますが、今のダークさんは分身ではありませんね?」


 前の戦いで分身を使われたため、ジャスティスは目の前にいるダークにオリジナルかどうか念のために確認する。


「勿論、此処にいるのは本物の私です。クリエイトドールは結構高かったので一つしか購入してないんですよ」

「そうですか……と言うことは、もし私がダークさんのHPをゼロにすれば、ダークさんは今度は本当に死ぬ、ということですね?」

「ええ……」


 低い声でダークが返事をすると、ジャスティスは無言で足を軽く横にずらし、ダークも両足の位置を変えてジャスティスを見つめる。離れた所ではアリシアが向かい合うダークとジャスティスを無言で見守っていた。

 得物を構えながら、ダークとジャスティスは数秒の間、無言で正面にいる敵を見つめる。ただ剣を構えて向かい合っているだけなのに二人の間には緊迫した空気が漂っていた。


「決着をつけましょう。これがお互いの信念と誇り、夢を賭けた最後の戦いです」


 ジャスティスは僅かに力の入った声を出しながら目を青く光らせ、ダークもジャスティスを見つめながら蒼魔の剣を持つ手に力を入れた。


「……自らの夢のために異世界を侵食する嘗ての戦友ともよ、断罪の始まりだ」


 ダークは小声でジャスティスに断罪宣言をするのと同時に目を赤く光らせた。


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