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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第二十章~信念を抱く神格者~
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第三百十五話  堕天使を斬る白と黒


 離れた所でアリシアとファウが会話をする中、ミカエルは自分の体の傷を確認しており、戦いに影響は無いと判断すると両手の光の剣を構えてアリシアとファウを見る。アリシアとファウも構え直したミカエルを見ると表情を鋭くして構え直した。


「奇襲とは言え、私に傷を負わせるとはなかなかのものだ」

「お褒めいただいて恐縮よ。と言うか、アンタまさか、無傷であたしとアリシアさんに勝つつもりだったの? だとしたらとんだ傲慢天使ね」

「フッ、挑発して私を誘っているのか? 悪いが私はそんな見え過ぎた挑発に乗るほど愚かではない……だが、傷を付けられて大人しくしているほどお人好しでもないのでな。反撃させてもらおう」


 そう言ってミカエルは二人に向かって両手の光の剣を投げつけて攻撃する。アリシアとファウは冷静に飛んでくる光の剣をフレイヤとサクリファイスで叩き落とした。その直後、ミカエルは両手をアリシアとファウに向けて伸ばし、二人の頭上に六つの光の大剣を作り出すとそれを二人に向かって落下させる。

 頭上から迫ってくる光の大剣に気付いた二人は咄嗟に後ろに跳んでその場を移動する。六つの光の大剣はアリシアとファウが立っていた場所に落下し、轟音を上げながら地面を吹き飛ばす。落下した時の衝撃でアリシアとファウは一瞬よろけるがすぐに体勢を整えてミカエルの方を向いて反撃しようとした。だがその時、左右から光の刀が現れて二人に襲い掛かろうとする。

 アリシアは左から迫ってくる光の刀を、ファウは右から迫ってくる光の刀を見て目を大きく見開いて驚く。二人は光の大剣を回避した直後だったため、光の刀に気付くのが遅れて接近を許してしまった。

 二人はお互いに背を向けて迫ってくる光の刀を叩き落そうとするが迎撃は間に合わず、アリシアは胴体を斬られ、ファウは脇腹を刺し貫かれた。激痛に表情を歪めながらアリシアはふらつき、ファウは片膝を付いてしまう。幸い致命傷ではないらしく、二人は意識を保つことができた。だが、そんな二人に光の刀は容赦なく次の攻撃を仕掛けようとする。

 アリシアは苦痛に耐えながらフレイヤを構えて正面の光の刀の攻撃を防ぎ、防御に成功するとアリシアはフレイヤの剣身を白く光らせる。ファウも刺された箇所を左手で押さえながら立ち上がり、迫ってくる光の刀を睨みながら右手でサクリファイスを強く握って剣身に黒い靄を纏わせた。


白銀剣はくぎんけん!」

「暗黒斬!」


 迫ってくる光の刀に向かってアリシアとファウはそれぞれの得物を勢いよく振る。白く光るフレイヤは光の刀の刀身を真ん中から折り、靄を纏わせるサクリファイスは光の刀を粉々に砕いた。破壊された二本の光の刀は光の粒子となって消滅し、アリシアとファウは深く溜め息をつく。


「い、今のは流石に危なかったですね……」

「ああ、一瞬肝を冷やした。ファウ、そのままジッとしている。今回復魔法で傷を――」

「治させるわけないだろう」


 聞こえてきたミカエルの声に反応し、アリシアとファウは声の聞こえた方を向く。そこには右手を掲げているミカエルの姿があり、その真上には六つの光の大剣が浮いていた。六つの光の大剣を見た二人は驚愕の表情を浮かべ、その直後、ミカエルは右手をアリシアとファウに向かって振り下ろし、頭上の六つの光の大剣を二人に向かって放つ。

 迫ってくる六つの光の大剣を見たアリシアとファウは咄嗟に後ろに跳んで離れようとする。だが、光の大剣はアリシアとファウが距離を取る前に二人が立っていた場所に刺さり、周囲の地面を吹き飛ばす。距離を取っていなかったアリシアとファウも衝撃に巻き込まれて吹き飛ばされてしまった。

 アリシアとファウは大きく飛ばされ、ファウは地面を体に強く叩きつけられてしまう。アリシアは吹き飛ばされながらも何とか体勢を立て直し、地面に足を擦り付けながら押されるように後退していく。その間、フレイヤを地面に刺して勢いを殺しながら下半身に力を入れ、倒れないように踏ん張った。

 倒れることなく踏み止まったアリシアは刺さっているフレイヤを抜いて構え直し、ミカエルを警戒する。ミカエルは数m離れた所で両手に光の剣を持ちながらアリシアを見ていた。アリシアはミカエルの姿を確認すると目を鋭くしてフレイヤを強く握る。


「今の攻撃を受けても倒れないとはな。流石はレベル100の聖騎士だ。だが、お前の仲間は耐えられなかったみたいだな?」


 ミカエルはそう言うとチラッと左を向き、アリシアもそれにつられるように視線だけを動かして同じ方角を見る。そして、離れた所で仰向けに倒れているファウを見つけた。


「ファウ!」


 倒れているファウを見てアリシアは思わず声を上げる。すると、ファウは倒れたまま僅かに動き、それを見たアリシアは生きていることを確認して一安心した。

 ファウの生存を確認するとアリシアは視線を戻して再びミカエルを警戒する。ミカエルはアリシアを見ると目を光らせながら愉快そうに笑い出す。


「まず一人が動けなくなったな。確実な安心を得るのなら始末しておいた方が良いのだが、あの傷では放っておいても問題無い。まずはレベル100で動くことが可能なお前から先に始末することにしよう」

「随分余裕だな? 私は回復魔法で傷を癒すことができるんだぞ? 傷を癒せば私もファウもまだお前と戦える」


 アリシアは力の入った声を出しながらまだ負けたわけではないことをミカエルに伝える。ミカエルは諦めていないアリシアを見ると、感心しているのか小馬鹿にしているのか分からないが軽く鼻で笑う。


「それにひきかえ、お前は傷ついても回復ことはできない。さっきファウから受けた攻撃でかなりのダメージを受けているはずだ。寧ろ追い詰められているのはお前の方ではないのか?」

「私が追い詰められている? さて、何のことだ?」

「何?」


 不思議そうな口調で語るミカエルを見てアリシアは目元を僅かに動かす。すると、ミカエルの姿を見ていたアリシアは何かに気付いて目を見開く。よく見るとミカエルの体からファウに付けられた傷が消えていたのだ。

 暗黒剣技は天使族モンスターにとって効果的な攻撃で命中すれば確実に大ダメージを与えることができ、大きな傷を付けることもできる。だが、ミカエルの体からは傷が初めから無かったように消えており、それに気付いたアリシアは驚きを隠せずにいた。


(ど、どうなっているんだ、なぜ傷が消えている? まさか、回復魔法を使った? いや、ノワールの話ではミカエルの種族である熾天剣聖は回復魔法は使えないはず。なら、どうして……)


 回復魔法が使えないのになぜミカエルの体から傷が消えたのか、理由が分からないアリシアは心の中で困惑していた。


「私の傷が消えていることが不思議か?」


 アリシアが悩んでいるとミカエルが声を掛け、アリシアは目を鋭くしてミカエルを見つめる。自分が何を悩んでいるのかに気付いたミカエルを見てアリシアは心を読まれたように感じて少し不愉快になった。

 アリシアに見られている中、ミカエルは光の剣を持ったまま自分の右手をアリシアに見せた。よく見ると右手の中指には金色の指がはめられており、それに気付いたアリシアは目を細くして指輪を見つめる。


「これは豊穣神ほうじょうしんの指輪、ジャスティス様が与えてくださったLMFのマジックアイテムだ」


 ミカエルの指にはめられている指輪がジャスティスが与えたマジックアイテムだと聞かされたアリシアは驚いて目を大きく見開く。

 <豊穣神の指輪>は使用すると装備する者のHPを回復させ、状態異常を治すこともできるマジックアイテム。回復量はそれほど高くないが、使用回数に制限が無いため、ダメージを受ければ何度でも回復させることができる。回復担当がいない状況では非常に役に立つアイテムだ。

 ミカエルは天剣剛襲でアリシアとファウを吹き飛ばし、その隙に豊穣神の指輪を使用して自身の傷を回復させたのだ。その結果、ファウが与えたダメージは回復し、ミカエルは無傷に近い状態となっていた。


「この指輪がある限り、お前たちが私をどれだけ傷つけても私が倒れることは無い。もっともこの指輪でも回復が追いつかないほどのダメージを与えれば倒すことも可能かもしれんが、私はそんなダメージを受けるほど間抜けではない」

「クッ!」


 万全の状態となったミカエルを見てアリシアは奥歯を噛みしめ、同時に自分とファウが不利な状況に立たされていること知って焦りを感じ始めた。


「さあ、戦いを続けよう」


 ミカエルはそう言って両手の光の剣を構え、アリシアも微量の汗を流しながらフレイヤを構えた。

 アリシアとミカエルが向かい合っている中、倒れていたファウはゆっくりと目を開けながら上半身を起こす。体を起こす時に強い痛みが走り、ファウは表情を歪めながら奥歯を噛みしめた。


「イタタタッ、折角アリシアさんが回復してくれたのにまたこんな傷を負っちゃうなんて、あたしって情けないわね……そう言えば、アリシアさんは何処にかしら?」


 ファウは痛みに耐えながら周囲を見回してアリシアを探す。立ち上がれば探しやすいのだが、痛みのせいで上手く立ち上がれることができず、ファウは体が痛みに慣れるまでは上半身を起こした状態で周囲を確認することにした。

 横になったまま周囲を見回していると、少し離れた所でミカエルと向かい合っているアリシアの姿を見つけ、ファウはアリシアが無事だったことを知ってとりあえず安心する。だが、アリシアも酷い傷を負っており、それを見たファウはアリシアが不利な状態だとすぐに気付いた。

 なんとかアリシアに加勢したいと思っているファウだが、まだ体が思うように動かないため、ファウは悔しく思いながらアリシアを見守る。そんな中、ファウはふとミカエルに視線を向け、自分が付けた傷が消えていることに気付き、目を大きく見開いて驚く。


「ど、どういうこと? あたしが付けた傷が消えてる。まさか、回復魔法を使って……いや、そんなはずはないわ。ノワールさんの話ではアイツは回復魔法は使えないはずだもの」


 アリシアと同じようにミカエルの情報を思い出しながらファウはなぜミカエルの傷が癒えているのか考える。同時に戦いを再開するために立ち上がろうとするが、痛みが強いため思うように動けずにいた。それでもファウはサクリファイスを杖代わりにしながら必死に立ち上がろうとする。

 ミカエルと向かい合っているアリシアは視線だけを動かして立ち上がろうとするファウを見つめる。ファウの表情を見て、必死に痛みに耐えていることに気付いたアリシアは無茶はしないでほしいと思った。


「ほぉ? まだ動けたのか。動けないのなら放っておいても問題無いと思っていたが、動けるのであれば闇属性攻撃を行える騎士をそのままにしておく訳にはいかん……先に奴を倒すとするか」

「!」


 ファウの方を見ながら彼女を先に倒そうというミカエルの言葉を聞いて、アリシアは目を大きく見開きながらミカエルの方を向く。今のファウはまともに戦うことは勿論、攻撃を回避することすら難しい状態だ。このままミカエルの行動を見逃せば確実にファウは命を落とす、そう感じたアリシアは何としてもファウを護らなくてはならないと考えた。

 アリシアは地面を強く蹴ってミカエルに近づき、フレイヤを強く振って袈裟切りを放つ。ミカエルはアリシアの方を向くと左手に持つ光の剣でフレイヤを止め、右手に持つ光の剣を横に振って反撃した。アリシアは後ろに跳んでミカエルの横切りをかわすとフレイヤの剣身を白く光らせる。


「天空快刃波!」


 後ろに移動しながらアリシアはフレイヤを振り、ミカエルに向けて三つの白い斬撃を放つ。ミカエルは正面から迫ってくる三つの斬撃を両手の光の剣で全て防ぐ。その隙にアリシアはフレイヤを右手に持ち、空いている左手を遠くにいるファウに向けた。


大治癒ヒール!」


 ミカエルが斬撃を叩き落している一瞬の隙をついてアリシアは重傷を負っているファウに向けて回復魔法を発動させる。回復魔法によってファウの傷は消えていき、自分の傷が癒えていくのを見たファウは視線をアリシアに向けた。


「気を付けろ、ファウ! 奴はお前の優先して攻撃してくるぞ」


 アリシアはファウにミカエルが狙っていることを伝え、それを聞いたファウは一瞬驚きの反応を見せるが、すぐに目を鋭くしてミカエルの方を向く。視線の先では三つの斬撃を防ぎ終えたミカエルが自分の方を向いている姿があり、目が合うとファウは素早くサクリファイスを構える。


「傷を癒したか。だが、所詮は一時しのぎ、回復が追いつけないくらいのダメージを与えればいいだけのことだ」


 ファウの傷が癒されてもミカエルは余裕を崩すことなく光の剣を構え、四枚の翼を広げると低空飛行でファウに向かって移動する。向かってくるミカエルを見たファウは僅かに表情を歪ませ、アリシアもファウに近づかせまいと目を見開きながらミカエルに向かって走る出した。


「お前はそこで大人しくしていてもらおう」


 ミカエルはアリシアの方を向きながら右手に持っている光の剣の切っ先をアリシアに向ける。すると、アリシアの前に光が集まり、二本の光の刀が出現した。現れた光の刀を見たアリシアは急停止して迎撃態勢に入る。その直後、二本の光の刀は切っ先を向けながらアリシアに突っ込んできた。

 アリシアは向かって来た二本の光の刀をフレイヤで素早く弾く。弾かれた光の刀は空中で向きを変え、再びアリシアに向かって突っ込む。右斜め前から迫ってくる光の刀をアリシアは弾いて防ぎ、次の攻撃を警戒する。すると、今度はもう一本の光の刀が背後から迫り、気配を感じ取ったアリシアは振り返って光の刀をフレイヤで叩き落す。


「クッ! ファウの援護に向かわなくてはならないって時に!」


 足止めとして自分に襲い掛かる光の刀にアリシアは苛立ちを感じながらフレイヤを構える。二本の光の刀の内、弾かれた刀はアリシアの正面に浮いており、もう一本は左斜め後ろに浮いて切っ先をアリシアに向けた。

 空中で刃を光らせながら今度はどのように襲ってくるのか、アリシアは光の刀を厄介に思いながら表情を険しくした。

 アリシアが光の刀に足止めされている時、ファウはミカエルの猛攻を受けていた。両手に持つ光の剣を何度も振り回して攻撃してくるミカエルを見ながらファウは微量の汗を流し、必死にサクリファイスで攻撃を防いでいる。


「どうした、さっきから防戦一歩ではないか」

「クウゥ、コイツゥ!」


 挑発しながら攻撃を続けるミカエルをファウは悔しそうに睨む。何とか反撃してやろうと思っているが、攻撃が激しすぎて防御するのが精一杯だった。そんなファウを嘲笑うかのようにミカエルは攻撃を続ける。

 一撃一撃が重いミカエルの攻撃にファウは徐々に押され始める。サクリファイスを握る手も痺れてきてファウは次第に後ろに下がるようになった。次第にミカエルの攻撃も防げなくなり、防げなかった光の剣がファウの腕や足、脇腹を切り裂く。


「お前如きでは所詮その程度が限界だ。ダークからマジックアイテムを授かってレベルを上げても私に勝つことはできないのだ」

「このぉ……調子に、乗るなぁっ!」


 険しい顔をしながらファウはサクリファイスを大きく横に振る。サクリファイスを振ったことで光の剣が弾かれ、ミカエルの連撃が一瞬止み、ファウはその隙にサクリファイスを素早く構え直して剣身に黒い靄を纏わせた。


「暗黒斬!」


 ファウは暗黒剣技を発動させ、正面からミカエルに斬りかかる。ミカエルは左手の光の剣でサクリファイスを防ぐと、右手の光の剣でファウに突きを放つ。ファウは咄嗟に体は右に反らし、何とか突きをかわす。だが、回避した直後のミカエルはファウの腹部に蹴りを打ち込み、ファウを大きく後ろに蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされたファウは背中から地面に叩きつけられ、仰向けの状態で倒れた。ファウは追撃される前に態勢を整えようと立ち上がろうとする。だが、倒れるファウの視界に切っ先を自分に向けて浮いている六つの光の大剣が入り、光の大剣を見たファウは驚愕の表情を浮かべた。


「天剣剛襲!」


 ミカエルは光の剣を消して両手を倒れているファウに向け、六つの光の大剣を勢いよくファウに向かって落下させる。ファウは倒れたまま慌てて体を左に回転させて光の大剣の真下から移動した。ファウが移動した直後、倒れていた場所に六つの光の大剣が全て突き刺さって地面を吹き飛ばす。その衝撃でファウも大きく飛ばされ、再び体を地面に叩きつけられた。

 ファウは俯せの状態で倒れ、体中の痛みに奥歯を噛みしめる。上半身を起こして目の前に落ちているサクリファイスを拾い、急いで立ち上がろうとするが、立ち上がろうとした瞬間に背後から光の剣がファウの首筋に近づく。

 首の真横に光の剣が近づいていることに気付いたファウは緊迫した表情を浮かべる。俯せになっているファウの背後には右手に持つ光の剣を握るミカエルの姿があった。


「背後を取られ、俯せの状態で剣を突き付けられていてはレベル90のお前でもどうすることもできんだろう? それとも倒れたまま背後にいる敵を攻撃する術を持っているのか?」

「グウゥ……」


 ミカエルの問いに何も言い返せないファウは奥歯を噛みしめる。何も言わず、何の行動も執らないのを見たミカエルはファウにはこの状況を打破する術は無いと確信した。


「フッ……今度こそ終わりだ」


 低い声でそう言いながらミカエルは光の剣をゆっくりと振り上げてファウに止めを刺そうとする。ファウは倒れたまま背後にいるミカエルの方を向き、怒りと悔しさの籠った目でミカエルを睨み付けた。

 ファウが睨む中、ミカエルは無言で光の剣を振り下ろす。すると、ファウの左側からアリシアが現れ、フレイヤで振り下ろされた光の剣を止める。フレイヤと光の剣がぶつかり、周囲に高い金属音が響く。


「ア、アリシアさん」

「ファウ、今のうちだ。立て!」


 アリシアの指示に従い、ファウは急いで立ち上がって体勢を整える。ファウが立ち上がるのを確認すると、アリシアはミカエルに視線を向けて鋭い目で睨み付けた。


「その様子だと、刀は上手く消したようだな?」

「私は何度もあの攻撃を凌いだ。今更あんな技で殺されるつもりなどない!」

「フッ、あんな技とは言ってくれるな」


 楽しそうな口調で語りながらミカエルは光の剣を引き、アリシアに向かって袈裟切りを放つ。アリシアは袈裟切りをフレイヤで防ぐと素早く光の剣を払ってミカエルに反撃する。しかし、ミカエルは左手の中に新たな光の剣を作り出してアリシアの攻撃を防いだ。

 攻撃を防がれると、アリシアは反撃を警戒し、後ろに跳んでミカエルから離れる。距離を取るのと同時にフレイヤの剣身を白く光らせ、神聖剣技を発動させる準備をした。


「白光千針波!」


 アリシアは後ろに跳びながらフレイヤを横に振り、剣身から無数の白い光の針をミカエルに向けて放った。飛んでくる光の針を見たミカエルは冷静に両手の光の剣を構え、間合いに入った直後に素早く両手の剣を振り回して全ての光の針を叩き落とす。

 光の針を叩き落されたのを見たアリシアは次の攻撃に移るために再びフレイヤの剣身を光らせた。ミカエルからある程度離れ、地面に足が付くとミカエルの方を向いて上段構えを取る。すると、ミカエルがアリシアに向かって右手に持っている光の剣を勢いよく投げつけた。


「ッ! 天空快刃波!」


 投げられた光の剣にアリシアは一瞬驚くが冷静に神聖剣技を発動させてフレイヤを振り下ろす。光る剣身から三つの白い斬撃が放たれ、飛んでくる光の剣とぶつかる。ぶつかったことで三つの斬撃と光の剣は消滅し、ミカエルの攻撃を防げたことにアリシアは安心したのか軽く息を吐く。しかしその直後、ミカエルは右手をアリシアに向け、右手の中に白い魔法陣を展開させた。


流星の光弾シューティングスター!」


 魔法を発動させたミカエルの周囲に無数の白い光球が出現し、アリシアに向かって一斉に放たれる。正面から迫ってくる光球を見たアリシアは目を見開いて避けるのは困難だと感じ、咄嗟にフレイヤを逆さまに持ち替えた。


守護聖気陣しゅごせいきじん!」


 アリシアがフレイヤを地面に突き刺すと足元に白い魔法陣が展開され、アリシアを中心にドーム状に障壁が張られた。ミカエルが放った白い光球は障壁によって防がれ、アリシアに命中することなく次々と消滅する。

 ミカエルはアリシアが防御系の神聖剣技を使えるとは思っていなかったらしく、光球を防ぐ姿を見て小さく舌打ちをし、再び右手の中に白い魔法陣を展開させた。


神聖突撃槍ホーリーランス!」


 右手の魔法陣から光の槍がアリシアに向かって勢いよく放たれ、アリシアの周りに張られている障壁とぶつかる。最初は光の槍を上手く防げていると思われたが、しばらくすると光の槍は障壁を貫通し、内側にいるアリシアの左脇腹を刺し貫いた。


「グウゥッ! しまった!」


 神聖突撃槍ホーリーランスが障壁を破壊する効力があることを忘れていたアリシアは痛みで表情を歪ませながら自分の脇腹を貫く光の槍を見つめる。アリシアがダメージを受けたことで周囲に張られている障壁も消滅し、アリシアは軽くふらつきながら左手で脇腹を押さえた。

 アリシアにダメージを与えることができたのを見てミカエルは小さく笑い、右手の中に再び光の剣を作り出して四枚の翼を広げる。低空飛行で一気にアリシアに近づいて斬り捨てようとしているようだ。

 ミカエルに気付いたアリシアは右手で地面に刺さっているフレイヤを抜いて中段構えを取る。脇腹を貫かれ、その傷からの出血を止めるために左手を傷口に当てているアリシアを見たミカエルは次の攻撃で仕留めてやろう、と両手の光の剣を強く握った。

 だがその時、右斜め前から黒い光球が勢いよくミカエルに向かって飛んで来た。光球に気付いたミカエルは右手の光の剣で光球を切り捨て、光球が飛んで来た方を確認する。視線の先には遠くからサクリファイスを振り下ろす体勢を取ったファウの姿があり、先程の光球はファウの暗黒剣技だとミカエルは知った。

 ファウはミカエルが自分に意識を向けたことを確認するとサクリファイスを両手で強く握る。すると、サクリファイスの剣身に埋め込まれている四つの赤い宝玉が光り出し、同時にファウの体も薄っすらと赤く光り出す。ファウはサクリファイスの能力を使用して自身を強化したようだ。

 自身の体が強化されたのを確認したファウはミカエルに向かって走り出す。ミカエルは走ってくるファウに向かって左手の光の剣を投げた。ファウは走りながらサクリファイスで光の剣を弾き、一気にミカエルの真正面まで近づくとサクリファイスで袈裟切りを放った。

 ミカエルが右手の光の剣でファウの袈裟切りを防ぐと強い衝撃が光の剣から伝わり、ミカエルは驚きの反応を見せる。


「さっきまでとは力が違う?」

「サクリファイスの力で自分を強化したのよ。本当は使わずにアンタを倒そうと思ってたけど、今みたいな状況じゃ、使うしかないわよね!」


 力の入った声を出しながらファウはサクリファイスを器用に操って光の剣を払い、ガラ空きになったミカエルの胴体を切りつけた。


「ヌオオォッ!?」


 予想以上の痛みを感じてミカエルは思わず苦痛の声を上げる。サクリファイスによって強化されたファウの攻撃力は高くなっており、レベルの近い相手なら大ダメージを与えることが可能だった。

 ミカエルの渾身の一撃を与えたことができたファウはスッキリとしたのか笑みを浮かべる。攻撃を受けたミカエルはファウに対して初めて危機感を抱き、急いで低空飛行で後ろに飛んで距離を取った。そして、距離を取りながら豊穣神の指輪を使用して自身の傷を癒す。


「クッ! まさかこれほどの力を隠し持っていたとは……アリシア・ファンリードよりもレベルが低く、力の劣るあの女は脅威にはならないと思っていたが、どうやらあの女の方がアリシア・ファンリードよりも脅威みたいだな」


 後ろに移動しながらミカエルは左手をファウに向けて伸ばす。ミカエルは自分とファウの間に光を集めて光の刀を二本作り出し、それをファウに向かって勢いよく飛ばした。

 切っ先を向けながら向かってくる二本の光の刀を見たファウは目を鋭くし、光の刀に向かって走り出す。ファウと光の刀の距離は徐々に縮まり、遂に光の刀はファウの1m手前まで近づいた。その瞬間、ファウはサクリファイスを素早く二度振り、光の刀を二本とも真ん中から両断する。

 光の刀を難なく両断したファウにミカエルは舌打ちをしながら停止し、左手に新たに光の剣を作り出した。ファウはミカエルに近づくとサクリファイスを振り下ろして攻撃し、ミカエルは両手の光の剣を交差させてファウの振り下ろしを防ぐ。

 サクリファイスの振り下ろしを防いだ瞬間、ミカエルに強い衝撃が襲い掛かり、ミカエルは僅かに声を漏らす。ファウは一気にミカエルを押し切ろうと腕に更に力を込める。ミカエルはファウの態勢を崩すため、無防備なファウの左脇腹に蹴りを入れた。

 脇腹の痛みにファウは僅かに表情を歪ませる。いくらサクリファイスの能力で強化されたと言っても痛みを感じなくなるまで強くなった訳ではない。ファウは脇腹を蹴られたことで僅かに腕に入れていた力を弱めてしまう。その隙にミカエルは光の剣でサクリファイスを払い、左手の光の剣で逆袈裟切りを放ち攻撃する。

 ファウは攻撃を避けるために素早く地面を蹴って後ろに跳び、ミカエルの逆袈裟切りを間一髪で回避した。だがそこにミカエルが右手の光の剣で突きを放ち追撃する。後ろに跳んでいる状態で回避行動が執れないファウはサクリファイスで突きを防ごうとするが間に合わず、左脇腹を貫かれてしまった。


「グウゥ!」


 脇腹の痛みにファウは声を漏らしながら体勢崩し、仰向けに倒れてしまう。ミカエルは倒れたファウに急接近し、止めを刺そうと右手の光の剣を振り上げた。

 ミカエルがファウを攻撃しようとした時、アリシアがミカエルの背後に回り込んでフレイヤの剣身を二回りほど大きい白い光の剣身に変えて上段構えを取る。アリシアの存在に気付いたミカエルは驚きながら素早くアリシアの方を向く。


「させるかっ! 天王聖撃剣てんおうせいげきけん!」


 最強の神聖剣技を発動させたアリシアはミカエルに向かってフレイヤを振り下ろす。ミカエルは振り返りながら右手の光の剣を横に振り、振り下ろされるフレイヤに光の剣をぶつける。二つの剣がぶつかったことで轟音と強烈な光が周囲に広がった。

 光が広がる中、アリシアは押し切るために腕に力を入れる。ミカエルもアリシアを押し戻そうと腕に力を込めるが、アリシアの攻撃が予想以上に強く、光の剣は真ん中から剣身が折れてしまい、フレイヤの光の剣身はミカエルの体を大きく切り裂いた。


「グオオオオォッ!?」


 防御に失敗して大ダメージを受けたミカエルは声を上げる。アリシアは最強の一撃が命中したのを見てミカエルを倒せると感じた。だが、ミカエルは消滅せず、体をふらつかせながら立っている。

 天王聖撃剣はアリシア最強の技だが光属性の攻撃を行うため、レベル90代で光属性の耐久力が高いミカエルを一撃で倒すことはできなかったのだ。しかし、それでも大ダメージを与えることはできた。

 大ダメージを受けてふらつく中、ミカエルは態勢を整えるためにアリシアから離れて豊穣神の指輪を使おうとする。だが、アリシアはそれを見逃すつもりは無かった。


「ファウ、やれぇ!」

「何っ!?」


 アリシアがファウの方を向いて叫び、驚いたミカエルはファウの方を向く。そこには上半身を起こしてサクリファイスの剣身に黒い靄を纏わせているファウの姿があった。


「これで終わりよ! 暗黒斬!」


 ファウはミカエルを睨みながらサクリファイスで袈裟切りを放つ。ミカエルはアリシアの攻撃で大ダメージを受け、振り返った瞬間に攻撃されたので回避することができず、ファウの攻撃をまともに受けた。

 暗黒斬を受けたミカエルは左手に持っている光の剣を落としながらその場に崩れるように倒れる。サクリファイスの能力で強化されたファウの暗黒斬はミカエルに決定的なダメージを与えることができた。そして、このファウの攻撃がミカエルに致命傷を負わせることになった。


「ま、まさか、この私が敗れるとはな……異世界の戦士は我々と比べて非力だと思っていたが……どうやら、とんでもない思い違いをしていたようだ……」

「……私たちはお前たちLMFの世界から来た者たちと比べたら確かに非力かもしれない。しかし、非力でも弱くはない。仲間と力を合わせて戦えば、お前たちのような強大な力を持つ敵にも勝てる。私とファウがお前に勝ったようにな」


 アリシアは倒れるミカエルを見下ろしながら語り、ファウも座り込んだまま目の前に倒れているミカエルを見つめる。ミカエルは視線を動かして自分を見つめる二人の女騎士の顔を見ると小さく笑い出す。


「……そうか、お前たちを軽く見た結果、私は敗北した訳か……いい勉強になった」


 ミカエルは負けたことに悔しさを感じている様子は見せず楽しそうにし、そんなミカエルをアリシアは真剣な表情で、ファウは小首を傾げながらミカエルを見ていた。

 倒れたままミカエルはしばらく笑い続ける。だが、しばらくすると笑うのをやめ、アリシアの方を見ながら低い声で語り出す。


「……この戦い、お前たちを軽く見ていた私の敗北だ……だが、私に勝ったからと言って、いい気になるな? ジャスティス様やハナエ様は……私や他の二人とは違うぞ」

「そんなこと、言われなくても分かっている……」


 警告するミカエルを見ながらアリシアは静かに返事をし、そんなアリシアを見たミカエルは小さく鼻で笑う。その直後、ミカエルは光の粒子となって消滅した。

 ミカエルが消滅すると、アリシアは緊張が解けたのか深く溜め息をつく。ファウも息を吐きながら仰向けになり、持っていたサクリファイスを離した。アリシアは倒れているファウに近づくと、彼女の横で姿勢を低くする。


「大丈夫か、ファウ?」

「ええ、何とか……アリシアさんこそ、凄い怪我ですけど、大丈夫なんですか?」

「ああ、大したことはない」


 自分の体の傷を見ながらアリシアは答え、ファウは傷だらけでも普通に動けるアリシアを見て、流石はレベル100だと心の中で感心する。

 アリシアは倒れているファウに回復魔法を掛けて傷を癒し、ファウの手当てが済むと今度は自身に回復魔法を掛ける。傷が治ったファウはゆっくりと立ち上がり、周囲を見回して敵の様子を窺う。遠くではセルメティア軍と交戦している天使族モンスターたちが少しずつ押され始め、後退し始めている光景が見えた。


「……ミカエルを倒したことで敵の天使たちも混乱し始めています。これならセルメティア軍も一気にジャスティスの軍団を押し返せますね」

「ああ、だがまだ油断はできない。もしかすると、混乱した天使たちが突っ込んできて暴れ出す可能性もある。完全に退却するまでは警戒し続けた方がいい」

「それじゃあ、あたしたちももうしばらく前線に残って敵の様子を見た方がいいですね」

「そう言うことだ」


 アリシアはゆっくりと立ち上がるとフレイヤを握りながら遠くにいる敵の本隊を睨む。本隊の方でも天使族モンスターたちが陣を崩して動き回っており、それを見たアリシアとファウは本隊が自分たちやジェーブルの町に向かって来るかもしれないと感じながら警戒するのだった。

 しかし、実際混乱したモンスターたちはジェーブルの町に攻め込んでは来ず、次々とセルメティア軍に倒されて行き、ミカエルを倒してから二十分後には敵軍は散り散りになって逃げ出した。

 平原で戦っていたセルメティア軍の兵士や騎士たちはジェーブルの町の防衛に成功したこと、敵を撃退できたことに喜びを感じて歓喜の声を上げる。リダムスもビフレスト王国の救援部隊が到着する前に敵を撃退できたことに喜んでいた。

 アリシアとファウは離れた所からジェーブルの町を護り抜けたことを喜ぶセルメティア軍を見て微笑みを浮かべるのだった。


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