第三百十二話 レジーナ&ジェイクvs剛鬼
剛鬼が自ら戦うと言い出したのを見てジェイクは目元を僅かに動かし、レジーナは少し驚いたような顔をする。まだ周りには大勢のアドヴァリア兵がおり、後方にも仲間のモンスターがいるはずなのに指揮官である上級モンスターがいきなり戦うと言うのだから無理もないだろう。
「お前らがダークのマジックアイテムでどれぐらいレベルを上げたかは知らねぇが、冥鬼将たちを片付けることができるのなら、少なくともレベル80、アドヴァリアの連中では倒せねぇくらいまでレベルは上がってるはずだ」
「だから、お前自ら俺たちの相手をするってわけか……」
ジェイクはタイタンを構えながら剛鬼を警戒し、レジーナもテンペストを強く握って近づいてくる剛鬼をジッと見つめる。剛鬼は笑みを浮かべながら二人の方へと歩いて行き、目の前まで近づくと立ち止まって二人を見つめた。
「光栄に思いな? お前らが人間を相手に上級モンスターである俺が直接戦ってやろうって言うんだからな」
「……その言い方、まるで弱いあたしたちの相手を特別にしてやるって言っているように聞こえるわね?」
「聞こえる? そう言ってるんだが?」
目を細くするレジーナを見て剛鬼は愉快そうに笑い出す。レジーナは自分たちを弱く見ている剛鬼の傲慢な態度に少し腹を立てるも、戦闘中に冷静さを失ってはならないと必死に苛立ちを抑え込んだ。レジーナが苛立ちを感じる中、ジェイクは挑発されることに慣れているのか、表情を変えることなく落ち着いて剛鬼を見つめていた。
「剛鬼、だったか? あまり俺たちをナメない方がいいぜ? 他人の力を低く見ると必ず墓穴を掘る。そもそも、そういう奴は大抵が自分の力を過信する三流だ」
「ほおぉ? 言うじゃねぇか。なら俺の力が三流かどうか、直接戦って確かめてみるこったなぁ」
挑発的なジェイクを見て剛鬼は笑いながら挑発し返す。ジェイクはタイタンを構え直し、足を軽く曲げていつでも戦える体勢を取る。レジーナも僅かに不愉快そうな顔でテンペストを握り、同じように戦闘の体勢を取った。
戦闘態勢に入った二人を見て、剛鬼はニッと笑いながら足の位置をずらし、同時に両手を前の出してモンクのような構えを取る。剛鬼の構えを見たレジーナとジェイクは剛鬼は格闘系の戦術を使うのだろうと考えた。
「……おい、お前ら! コイツらは俺が相手をする。お前らは手を出さずに本隊のところまで後退しろ」
剛鬼は周りに集まっているアドヴァリア兵たちに大きな声で後退するよう指示を出す。突然命令されたアドヴァリア兵たちは状況が呑み込めず、困惑したような表情を浮かべながら仲間同士顔を見合っている。そんなアドヴァリア兵たちを見た剛鬼は面倒くさそうな顔で舌打ちをし、勢いよく自分の足元を拳で殴った。
地面を殴ると轟音が周囲に響き、同時に地面が大きく凹み、そこを中心に複数の割れ目が入る。その地面にできた凹みと割れ目の大きさで剛鬼がとてつもない怪力を持っているのかが分かった。
剛鬼が地面を殴った光景を見たレジーナとジェイクは少し驚いた表情を浮かべ、周囲のアドヴァリア兵たちも驚愕する。どうやらアドヴァリア兵たちはまだ剛鬼がどれだけの力を持っているのか知らず、目の前の光景を見てかなり驚いたようだ。
驚いたアドヴァリア兵たちを見て、剛鬼はゆっくりと拳を引いて体勢を直した。
「俺は不器用で力の加減ができねぇんだよ。さっさと後退しねぇとお前らも巻き込んでこうなっちまうぞ? まぁ、死んでも構わねぇって言うなら別だがな」
遠回しに戦闘が始まると死ぬと剛鬼はアドヴァリア兵たちに伝える。アドヴァリア兵たちは剛鬼の言葉の意味を理解すると、慌てて本隊が待機している後方まで後退し始めた。バタバタと足音を立てながら後退していくアドヴァリア兵たちをレジーナとジェイクは無言で見つめる。
ジックスの町の西門の見張り台や城壁の上にいるベイガードやエルギス兵たちも突然後退を始めるアドヴァリア軍を黙って見ている。普通は優勢だった敵が突然後退すれば意味が分からずに混乱するが、ベイガードたちも剛鬼が地面を叩き割るのを見ていたため、アドヴァリア軍が巻き添えを喰らうのを避けるために後退したと分かっていた。
敵がレジーナとジェイクの前にいる剛鬼一人になったのを見て、ベイガードたちは剛鬼を倒すチャンスだと感じ、弓兵や魔法使いたちは剛鬼に狙いを付ける。すると、西門に背を向けていたジェイクが前を向いたまま大きな声を上げた。
「ベイガード! コイツは俺とレジーナが相手をする。お前らは下がって負傷者の手当てをしろ」
ジェイクの言葉にベイガードや彼の周りにいるアドヴァリア兵たちは目を見開いて驚きの反応を見せる。レジーナとジェイクに加勢せずに大人していろと言われてベイガードたちは意外に思っていたが、同時に自分たちの方を見ずに何をしようとしているのか気付いたジェイクにも驚いていた。
アドヴァリア兵たちが後退し、剛鬼だけが残ればエルギス軍が一人残った剛鬼に攻撃を仕掛ける可能性があるとジェイクは予想していた。もし、剛鬼に手を出せば、反撃されてベイガードたちが負傷、もしくは死亡する可能性があるため、ジェイクはベイガードたちに何もせず、後退して休むよう指示を出したのだ。
ベイガードはレジーナとジェイクの二人だけに地面を叩き割るほどの力を持つ剛鬼の相手を任せるのは抵抗があると思っていたが、自分たちが加勢しても役に立つ可能性は低いと薄々感じており、手を貸すとは言えなかった。何より、ジェイクの言うとおり、仲間のエルギス兵のほとんどはアドヴァリア軍との戦闘で負傷しており、手当てをする必要がある。
しばらく考え込んだベイガードは仲間たちの方を向き、真剣な表情を浮かべてハンマーを持っていない方の手を町の方に向けた。
「負傷者を急いで救護班の下へ向かわせろ。重傷の者を優先して手当てさせるんだ!」
ベイガードの指示を聞いたエルギス兵たちは言われたとおり、負傷者を背負ったりして救護班の下へ運んで行く。自力で動ける者は足を引きずったりしながら移動した。
エルギス兵たちが行動を開始したのを見たベイガードはもう一度外を見て剛鬼と向かい合っているレジーナとジェイクを見た。自分たちが加勢して足を引っ張るよりも二人を信じて大人しくしていようとベイガードは考え、他のエルギス兵たちと同じように負傷者の手助けに向かう。
西門の前ではレジーナとジェイクがエルギス兵たちの声を聞いて負傷者の手当てを始めたと気付く。ベイガードたちが西門から離れてくれたおかげで二人はベイガードたちが巻き添えを喰らうことが無くなったと知って安心する。
「さて、これで周囲を気にすることなく戦いに集中できるな」
「そうね……でも、せめて一度くらいは『一緒に戦わせてください』とか言ってほしかったわ」
「アイツらも理解してるんだよ、目の前のモンスターが自分たちではどうすることもできねぇってことがな。それに、加勢させてくれって言っても俺らがダメだって言うことも分かってるから何も言わずに言うとおりにしたんだろうよ」
「ハァ、利口なのか薄情なのか、分かり難い連中よね……」
軽く溜め息をつきながら呆れた顔をするレジーナを見てジェイクは小さく笑う。剛鬼とまともに戦えるのは自分たちだけで、ベイガードたちではどうすることもできないのは分かっている。しかし、それでも少しは気づかいの言葉をかけてほしかったとレジーナは思っていたため、ベイガードたちの行動に少しだけショックを受けていた。
「……おい、お喋りは終わったか?」
レジーナとジェイクが思い思いの言葉を口にしていると、剛鬼が声を掛けて来た。二人の剛鬼の声を聞くとフッと反応してから視線を剛鬼に向ける。
「ああ、待たせたな。お互いに仲間を巻き込まずに済む状況にできたわけだし、そろそろ始めるか」
「あたしたちも早くビフレスト王国に帰りたいから、ちゃっちゃと終わらせるわよ」
「ヘッ、面白い奴らだな。いいだろう、望みどおりすぐに初めてすぐに終わらせてやるぜ」
そう言った瞬間、剛鬼は地面を蹴ってレジーナとジェイクに近づき、二人に向かって真正面から右ストレートを撃ち込み、レジーナとジェイクは咄嗟に右と左へ跳んで剛鬼のパンチをかわした。
攻撃をかわした直後、レジーナは剛鬼の左側に回り込んでテンペストで攻撃した。しかし、剛鬼は上半身をレジーナがいる方角とは正反対の方に反らして攻撃をかわし、再び右手でパンチを撃ち込み反撃しようとする。すると、剛鬼の背後にジェイクが回り込み、タイタンで袈裟切りを放つ。
ジェイクの存在に気付いた剛鬼はレジーナへの攻撃を中断し、左へ跳んでジェイクの袈裟切りを回避した。距離を取った剛鬼を見ながらジェイクは舌打ちをし、レジーナも攻撃を当てられなかったことを悔しく思いながら剛鬼を見ている。
離れた剛鬼は体勢を整え、離れた所から自分を睨んでいるレジーナとジェイクを見つめる。しばらく見つめていると、剛鬼はニッと笑いながら腕を組んだ。
「驚いたな。最初の一撃でお前らを吹き飛ばすつもりだったんだが、まさか俺の攻撃をかわしたり隙をついて攻撃してくるとは……」
「言っただろう? 俺らを甘く見るなってな」
「ハハハッ、成る程。デカい口を叩くだけはあるってわけだ」
まるで戦いを楽しむかのように剛鬼は笑い出し、ジェイクはそれが気に入らないのか目を鋭くしてタイタンを構える。レジーナも剛鬼を戦闘狂と思いながら不愉快そうにテンペストを構え直した。
「……これなら、少し本気を出しても問題ねぇだろうな」
「何よそれ? 最初の一撃であたしたちを倒せなかったからって、言い訳は見っともないわよ?」
「フッ、好きなように言え。すぐ俺とお前らとでは力の差があり過ぎると理解するさ」
剛鬼はレジーナの挑発を軽く流すと両手で拳を作り、拳と拳を強くぶつける。すると、剛鬼の体が薄っすらと赤く光り出し、レジーナとジェイクは剛鬼が何か仕掛けてくると感じて警戒を強くした。
「鬼神闘魂!」
力の入った声を出した瞬間、剛鬼の体の光が強くなり、同時に周囲に軽い衝撃波を広げる。衝撃波はレジーナとジェイクまで届き、二人は衝撃波を受けて僅かに後ろに下がった。
レジーナとジェイクが下がった直後、剛鬼は笑いながら軽く地面を蹴る。すると、剛鬼は一瞬で二人の前まで近づき、一気に距離を詰めてきた剛鬼を見てレジーナとジェイクは目を見開く。
「反応がおせぇぞ!」
レジーナとジェイクに向けて剛鬼は両手で二人にストレートを放つ。反応が遅れてしまったレジーナとジェイクは剛鬼の攻撃をかわすことができずにパンチを受けてしまう。
「ぐおぉっ!?」
「うあぁっ!?」
剛鬼の攻撃を受けたレジーナとジェイクは伝わってくる衝撃に表情を歪める。パンチは二人の鎧の上から命中したのだが、それでも強い衝撃が二人を襲いダメージを与えた。
表情を歪めるレジーナとジェイクを見た剛鬼は再び笑みを浮かべながら腕に更に力を入れ、二人を大きく後ろに殴り飛ばす。レジーナとジェイクは地面に背中を擦り付かせながら10m近く飛ばされ、仰向けのまま停止した。
二人は殴られた箇所から伝わる痛みに耐えながら起き上がり、遠くで笑う剛鬼をジッと睨み付けた。剛鬼は楽しそうに笑って二人を見ている。
「ててて、やってくれるじゃねぇか、あの野郎……レジーナ、大丈夫か?」
「え、ええ、何とか……イタタ」
レジーナは痛みで表情を歪ませながらゆっくりと立ち上がり、ジェイクも剛鬼を警戒しながら立ち上がる。幸い二人はダメージは受けたものの、致命傷は負っていないようで苦労することなく体勢を直すことができた。体勢を整えたレジーナとジェイクはすぐに得物を構えて剛鬼の方を向く。
「さっきの攻撃、明らかに最初の攻撃とは違ったわよね?」
「ああ、間違い無く攻撃の直前に使った能力みてぇなやつが原因だろう」
剛鬼が何かしたと直感しているレジーナとジェイクは得物を強く握る。二人の予想どおり、剛鬼は最初とは明らかに力が違っており、その原因は剛鬼が使っていた能力になった。
<鬼神闘魂>は剛鬼の種族、デモンロードの固有技の一つで自身を強化することができる能力である。物理攻撃力と防御力、移動速度を僅かに高め、同時に悪魔族モンスターの弱点である光属性の耐久力も強化することができるため、この能力を使ったデモンロードは倒すのが難しいと言うLMFプレイヤーは多い。効力は単純だが持続時間が長く面倒な能力だ。
最初よりも強くなっている剛鬼とどう戦えばいいか、レジーナとジェイクは剛鬼を警戒しながら考える。すると、剛鬼は再び地面を蹴って二人の方に向かって跳んで一気に距離を縮めてきた。再び迫って来た剛鬼にレジーナとジェイクは僅かに目を鋭くして迎撃態勢に入る。
二人に近づいた剛鬼はまずジェイクに向かって右フックを放ち、横から攻撃を仕掛ける。ジェイクは素早く右腕の方を向くとタイタンの柄で剛鬼のフックを止める。剛鬼の拳がタイタンの柄にぶつかり、強い衝撃がタイタンを伝ってジェイクに届き、その衝撃にジェイクは奥歯を噛みしめた。
右フックを止めたジェイクを見て剛鬼は楽しそうに笑みを浮かべ、今度は左腕でストレートをジェイクに放つ。ジェイクは咄嗟に後ろに跳んで左ストレートをかわし、同時に剛鬼から距離を取った。
「フッ、図体のわりに意外と素早いじゃねぇか」
「それはアンタもでしょう!」
剛鬼がジェイクの速さに感心しているとレジーナが剛鬼の左側に回り込み、テンペストで袈裟切りを放って攻撃した。剛鬼はレジーナの攻撃に気付くと上半身を反対側に反らしてレジーナの攻撃をかわす。
攻撃をかわされたのを見てレジーナは悔しそうな表情を浮かべながら後ろに跳んで剛鬼から離れる。距離を取るとテンペストを逆手に持ち替え、気力を送り込んで剣身を緑色に光らせた。
「天風斬!」
戦技を発動させたレジーナは剛鬼に向かって勢いよく跳び、剛鬼に近づくと真横を通過する瞬間にテンペストで攻撃した。剛鬼は咄嗟に横へ移動してレジーナの攻撃をかわしたが、微かにテンペストの切っ先が腕を掠め、小さな切傷を付ける。
レジーナは剛鬼から離れるとすぐに剛鬼の方を向いてテンペストを逆手のまま構え直す。攻撃を当てられなかったと思っているレジーナは鋭い目で剛鬼を見つめる。
「まさかあの状態であたしの戦技をかわすなんてね。かわされないように距離を取った直後に攻撃したんだけど……」
「ヘッ、安心しな嬢ちゃん。お前の攻撃はちゃんと当たったぜ?」
そう言って剛鬼は腕に付いた小さな切傷を見せる。よく見ないと分からないくらい細い切傷で、それを見せられたレジーナは不愉快そうな顔で剛鬼を睨む。
「……そんなの当たった内に入らないわ。あたしは決定的なダメージを与えたいのよ」
「ハハハッ、欲の深い嬢ちゃんだ。戦場で欲を持ちすぎると早死にするぜ?」
「心配無用よ。だって、あたしはこんな所で死ぬつもりは……無いんだからね!」
最後に力の入った声で語りながらレジーナは再び剛鬼に向かって跳んで距離を詰める。そして、剛鬼の前まで移動するとテンペストを何度も振って連続攻撃を仕掛けた。剛鬼は後ろにゆっくりと下がりながらレジーナの連撃を全て軽々とかわしていき、レジーナは余裕の表情で攻撃をかわす剛鬼を見て奥歯を強く噛みしめた。
レジーナの攻撃をかわし続ける剛鬼は一度体勢を整えるため、後ろに跳んでレジーナから離れた。すると、突如背後から気配を感じて剛鬼はフッと反応する。剛鬼が後ろを向くと、そこにはテンペストを振り上げているジェイクの姿があり、剛鬼はいつの間にか背後を取っていたジェイクを見て軽く目を見開く。
剛鬼が驚いている間、ジェイクはタイタンに気力を送って刃を黄色く光らせる。剛鬼は刃が光るタイタンを見てジェイクが戦技を発動させようとしていることに気付き、素早くジェイクの方を向いた。その直後、ジェイクは剛鬼に向けて戦技を発動を放つ。
「鋼砕重撃刃!」
戦技を発動させたジェイクはタイタンを剛鬼に向かって勢いよく振り下ろす。背後からの攻撃である上、剛鬼は振り返った直後なので絶対に避けられないちジェイクは思っていた。
しかし、そんな状況にもかかわらず、剛鬼は慌てることなく落ち着いた様子でジェイクを見ている。剛鬼は迫ってくるタイタンを見ると小さく笑いながら右手で拳を作った。
「魔獄滅殺突き!」
剛鬼が叫ぶと右手の拳が黒いオーラに包まれ、その状態のまま剛鬼はタイタンに向けてパンチを撃ち込んだ。タイタンの刃と剛鬼の拳がぶつかり、周囲に金属音のような高い音と衝撃が広がった。
ジェイクは拳で戦技を止めたことに一瞬驚くが、止める直前に剛鬼が何かしたのを見て、そのせいで戦技が通用しなかったとすぐに気付いた。
攻撃が失敗するとジェイクはすぐに後ろに移動して距離を取り、剛鬼は素早く離れたジェイクを見ながら笑い続ける。すると、剛鬼の右拳を包んでいた黒いオーラが消え、剛鬼の右手は元に戻った。しかもタイタンの刃とぶつかった箇所には傷一つ付いていない。
「……おいおい、いくら上級モンスターでも拳で俺の戦技を止めるなんてあり得ねぇだろう? 最初に使った能力、どんだけお前を強化しやがったんだ」
「フッ、勘違いするなよ、今のは鬼神闘魂のおかげじゃねぇ。さっき使った魔獄滅殺突きのおかげだ」
剛鬼はそう言って自分の右拳を自慢げにジェイクに見せた。
<魔獄滅殺突き>はデモンロードの固有技の一つで闇属性のオーラを纏った拳で敵を攻撃する技だ。単純にパンチを打ち込むだけの技だが、攻撃力は高く、オーラを纏った拳は硬くなり敵の攻撃とぶつかっても耐えることができるようになる。
戦技を拳で防ぐことができるほどの能力を持つ剛鬼にジェイクは面倒そうな表情を浮かべる。一方で剛鬼は自分の能力を知ったジェイクの反応を見て楽しそうに笑い出す。
「魔獄滅殺突きの威力はさっきのパンチとはケタ違いだ。喰らえばただじゃ済まねぇぞ」
「フン、なら喰らわないようにすればいいだけのことだ」
ジェイクはタイタンを構え直して剛鬼を睨み付ける。怯むことも怖気づくことも無い闘志の籠った目を見せるジェイクを見て剛鬼も笑いながら構えた。そして、再び魔獄滅殺突きを発動させ、右手には再び黒いオーラが纏わる。
「黙って使わせると思ってんの!?」
剛鬼がジェイクに攻撃しようとした時、背後からレジーナの声が聞こえてくる。剛鬼が後ろを向くと、テンペストを順手に持って自分の前まで近づいて来ているレジーナの姿があった。
レジーナは剛鬼を鋭い目で見つめながらテンペストの剣身を緑色に光らせ、それを見た剛鬼はレジーナが戦技で攻撃してくると気付いて素早くレジーナの方を向いた。
「覇獣爪斬!」
剣身を光らせるテンペストを勢いよく振ってレジーナは剛鬼を攻撃する。剛鬼はオーラを纏っている拳でパンチを放ちテンペストを防ぐ。
剛鬼の拳がテンペストとぶつかったことでレジーナに強い衝撃が襲い掛かる。ジェイクと違い筋力が低いレジーナにとって剛鬼のパンチを止めるのは難しく、レジーナはテンペストを引くと素早く姿勢を低くして剛鬼の右側面に回り込んだ。そして再びテンペストに気力を送り込んで剣身を光らせる。
「風神四連斬!」
新たな戦技を発動させたレジーナは剛鬼に向かってテンペストを四回連続で振る。剛鬼は体勢を整える前に側面に回り込まれてしまったため、レジーナの戦技を回避できずまともに受けてしまう。
テンペストは剛鬼の肩、腕、脇腹などを四回斬って剛鬼の体に切傷を付ける。体を斬られたことで剛鬼は僅かに苦痛の表情を浮かべるが、能力で強化しているからか大ダメージを受けた様子は見せなかった。
レジーナは剛鬼に決定的なダメージを与えられなかったことに対して悔しそうな顔をするがすぐに表情を鋭くし、態勢を立て直すために後ろに跳んで距離を取ろうとする。だが、剛鬼はレジーナを逃がすつもりは無く、レジーナに向かって大きく踏み込み、まだオーラを纏っている右手でパンチを撃ち込んできた。
迫ってくる拳を見てレジーナは何とか回避しようと考えるが、後ろに跳んでいる最中なのでかわすことはできない。かと言ってテンペストで防ごうにも自分には剛鬼のパンチに耐えるだけの筋力も無く、レジーナは逃れられないと感じて直撃を覚悟する。すると、レジーナと剛鬼の間にジェイクが入り込み、タイタンの柄で剛鬼のパンチを止めてレジーナを護った。
「油断だぞ、レジーナ!」
「ごめん、助かったわ!」
助けられたことに感謝をし、同時に隙を作ってしまったことを謝罪しながらレジーナは態勢を立て直す。ジェイクもタイタンで止めている剛鬼の拳を払うとレジーナの近くまで下がって構え直した。
距離を取るレジーナとジェイクを見た剛鬼は視線を自分の体に向け、レジーナに付けられた傷を確認する。傷はそれほど深くはないが、自分に傷を付けたレジーナとその仲間であるジェイクを手応えのある敵と見なしたのか、剛鬼は楽しそうに笑う。
「まさかここまでやるとはな。正直、驚いたぜ? 少し本気を出せば楽に倒せると思ってたからな」
「あたしたちはアンタが思っているよりも強いのよ。何しろ、アンタとほぼ互角の力とレベルを手に入れたんだからね」
「何?」
レベル90代の自分と互角の強さを得たというレジーナの言葉に剛鬼は意外そうな顔をする。冥鬼将を倒したことから、少なくともレベル80代まではレベルアップしていると思っていたが、自分と互角と言われて流石に剛鬼も驚いたようだ。
「レジーナ、またお前は余計なことを言いやがって……」
「いいじゃない別に。知っていようが知っていまいが、戦いに大きな影響は無いはずでしょう?」
既に冥鬼将を倒して自分たちの強さが知られているため、レベルを詳しく話しても問題無いと思っているレジーナは呑気そうな顔で答える。ジェイクとしては敵の指揮官と戦っているため、できるだけ自分たちの情報を知られたくないと思っており、口の軽いレジーナを少し呆れた顔で見ていた。
剛鬼は目を細くしながらジッとレジーナとジェイクを見つめる。もし本当に自分と互角の力を得たのならこれまで以上に警戒して戦うべきだが、剛鬼は警戒心を強くせず、寧ろ二人と戦うことに対してより楽しさを感じるようになり、レジーナとジェイクを見ながら笑い出す。
「お前らが本当に俺と同じくらいの強さとレベルを得たのかどうかは分からねぇ。だが、もし本当なら俺も全力を出して戦わせてもらうぜ? この世界で自分と同等の力を持つ奴と戦えるなんてそうそうないからな。とことん楽しませてもらう」
「戦いを楽しむ、か……お前、やっぱかなりの戦闘狂だな」
「それは俺にとって最高の誉め言葉だ」
「うわぁ……相当ヤバいわね」
戦いを楽しむ剛鬼を見ながらレジーナとジェイクは呆れ顔になる。剛鬼が戦いを楽しむ性格だというのは薄々気付いていたが、自分と同等の強さを持つ敵が相手でも戦いを楽しむというのを知って二人も流石に引いたようだ。
レジーナとジェイクは得物を強く握りながら構えて剛鬼を警戒する。剛鬼は二人を見て楽しそうに笑い続けていた。レジーナとジェイクが本当に自分と互角の強さを得ているかは分からないが、どうやら剛鬼は本気で戦うつもりのようだ。
剛鬼はしばらくレジーナとジェイクを見つめると、左腕をゆっくりと横に伸ばす。動き出した剛鬼を見てレジーナとジェイクは足の位置を僅かに動かし、いつでも移動できる体勢を取る。二人が剛鬼を警戒する中、剛鬼の左腕を突然紫色の靄が包み込み、靄は徐々に形を変えていく。やがて靄は金色の装飾が入った紫色のガントレットに姿を変え、それを見たレジーナとジェイクは目を見開いて驚いた。
「な、何よあれ?」
「突然靄が出てきてガントレットに変わったが……まさか、あれも奴の能力か?」
なぜガントレットが現れたのか理解できず、レジーナとジェイクは驚いたままガントレットを見つめる。そんな中、剛鬼は自分の左腕についたガントレットを自慢げに二人に見せた。
「コイツはレギンの神腕と言うジャスティス様が与えてくださった魔法武器だ」
「ジャスティスが!?」
剛鬼がジャスティスからLMFのマジックアイテムを与えられていると知ったジェイクは声を上げ、レジーナも驚愕の表情を浮かべた。
<レギンの神腕>はLMFでモンク系の職業を持つプレイヤーが装備できる武器の一つで非常にレア度の高いアイテムだ。攻撃力が高く、右腕と左腕どちらにも装備が可能な使いやすい武器だが、最も注目するべき点は敵や戦況に応じてガントレットの形状を自由に変えることができるという点にある。打撃が効き難い敵を相手にする時はガントレットの一部を刃に変えたりすることができるため、モンクが使う武器の中でも上位に位置する強力な物だ。
レジーナとジェイクは剛鬼の左腕に装備されたガントレットを特に警戒し、少しだけ後ろに下がる。ジャスティスから与えられた武器となればかなり厄介な物であると二人は確信していたため、これまで以上に剛鬼を警戒するようにした。
「おいおい、どうした? 俺がジャスティス様から与えれらた武器を使った途端に臆病風に吹かれたか? 折角本気を出して戦おうってんだ、ガッカリさせないでくれよな」
剛鬼は後退する二人にそう言うと二人に向かって勢いよく走り出す。迫ってくる剛鬼を見たレジーナとジェイクは咄嗟に左右に跳んで剛鬼の真正面から移動する。ジェイクは剛鬼の右側へ回り込み、レジーナは左側へ回り込んで剛鬼を左右から挟む。
レジーナとジェイクが分かれると剛鬼は視線だけを動かした二人の位置を確認し、まずはジェイクに攻撃するために右へ移動してジェイクに接近する。ジェイクは自分に向かってくる剛鬼を睨みながらタイタンで袈裟切りを放ち応戦した。
だが、剛鬼はタイタンを左腕のガントレットで難なく防ぎ、攻撃が簡単に防がれたのを見てジェイクは奥歯を噛みしめる。
「そんな単純な攻撃じゃ俺に攻撃を当てることすらできねぇのは、これまでの戦闘で理解したはずだ。もっと俺が予想もできないような攻撃をして来い」
「そうかい! なら、そうさせてもらうぜ!」
ジェイクは素早くタイタンを引くと軽く後ろに跳んで僅かに距離を取る。そして、エルメスの光輪を使用し、剛鬼の目の前から一瞬で消えた。
突然視界から消えたジェイクに剛鬼は軽く目を見開いて驚き、視線を動かしたジェイクを探す。すると、剛鬼の後ろにジェイクが現れ、タイタンを上段構えに持ちながらタイタンに気力を送って刃を黄色く光らせる。
「鋼砕重撃刃!」
戦技を発動させたジェイクは剛鬼の真後ろからタイタンを振り下ろして攻撃する。エルメスの光輪を使って一瞬で背後に回り、素早く戦技で攻撃したため、必ず命中するとジェイクは確信していた。しかし、この時のジェイクは自分の考え方が甘かったことにまだ気付いていない。
剛鬼は視線だけを動かして後ろを確認するとニッと笑い、左腕を後ろに向かって勢いよく横に振る。すると、ガントレットの後前腕部の装甲から無数の棘が生え、その状態で後前腕部はジェイクの左脇腹にめり込むように命中した。
ガントレットが脇腹に命中すると、ジェイクは声こそ上げなかったが激痛に襲われて表情を歪める。しかもガントレットからは棘が生えており、ジェイクは普通に殴られる以上のダメージを受けてしまった。
攻撃を受けたジェイクは大きく殴り飛ばされ、背中から地面に叩きつけられる。ジェイクは仰向けのまま苦痛の声を漏らし、剛鬼はそんなジェイクを見て鼻で笑った。
「惜しかったな? 素早く背後に回り込んで攻撃をするのは確かに攻撃を当てやすいが、その分攻撃を読みやすい。もう少し考えて攻撃するべきだったな」
剛鬼は倒れているジェイクに右手で拳を作りながらゆっくりと近づく。ジェイクの前まで近づくと倒れているジェイクにパンチを撃ち込もうと右腕を上げた。すると、左側から斬撃が勢いよく飛んできて剛鬼に迫ってくる。
斬撃に気付いた剛鬼は素早く左腕を斬撃の方に向ける。すると、ガントレットの後前腕部の装甲が再び形を変えて盾のような形になり、飛んできた斬撃は防いだ。斬撃を防ぐと剛鬼は斬撃が飛んできた方角を確認し、数m離れた所でテンペストを横に振っているレジーナを見つける。先程の斬撃はレジーナが剣神の指輪を使って放った斬撃だったのだ。
レジーナは斬撃が防がれるのを見ると悔しそうな顔で剛鬼を見つめる。ただのガントレットではないと思っていたが、ガントレットの形そのものを変化させることができると知ってレジーナは心の中で驚いていた。
「まさか、ガントレットを盾に変えちゃうことができるなんてね。しかもあたしの斬撃を簡単に防ぐことができるほどの……」
「ジャスティス様が何の能力も無い只のガントレットを授けると思っているのか? あめぇな、嬢ちゃん。神と呼ぶに相応しいお方が持つアイテムがそんなつまらない物のはずがねぇだろう」
「……確かに、ダーク兄さんも強力なマジックアイテムを幾つもあたしたちにくれたわけだから、ジャスティスも強力なアイテムを渡すと考えるのが自然よね」
相手のアイテムの効力をしっかりと予想していなかったことを反省しながらレジーナは改めて剛鬼やガントレットを警戒する。ガントレットの詳しい効力が分からない以上、距離を取って様子を窺った方がいいとレジーナは考え、テンペストを構えながらゆっくりと右へ移動し始めた。
動き出すレジーナを見た剛鬼は、レジーナが自分を警戒して近づこうとしないと気付き、不満そうな顔をする。剛鬼としては接近戦で激しくぶつかり合うことを望んでいたのだが、警戒して近づいて来ないレジーナを見てつまらなくなったようだ。
「……レギンの神腕を警戒して近づくのをやめたか。チッ、戦いって言うのは接近戦で激闘を繰り広げるのが面白れぇって言うのに、これじゃあちっとも興奮しねぇじゃねぇか」
剛鬼はレジーナを見つめながら小声で不満を口にする。楽しく戦えない以上、レジーナの相手をする意味が無いと感じる剛鬼はレジーナをさっさと倒してしまおうと考えた。
距離を詰めずに周囲を動き回るレジーナを見ながら剛鬼は左腕をゆっくりと引く、レジーナは動き出した剛鬼を見て立ち止まり、テンペストを構えながら警戒する。その直後、剛鬼は遠くにいるレジーナに向かって左ストレートを放った。
すると、ガントレットの手の甲の部分の装甲がもの凄い速さで形を変え、鋭い針状になって勢いよくレジーナに向かって伸びていく。レジーナは突然形を変えて自分に向かって伸びてきた装甲に驚愕の表情を浮かべる。針状になった装甲は驚くレジーナの右脇腹を刺し貫いた。
「うあぁぁっ!」
脇腹の痛みにレジーナは声を上げる。刺され箇所からは血が流れ、レジーナは視線を動かした刺された自分の体と自分を貫く針を見た。
「な、何で……」
「驚いたなら教えてやるぜ。このレギンの神腕は何も接近戦向けの形状にしか変わらないわけじゃねぇ。お前のように離れた敵にも攻撃できるように形を変えられるんだ。こんな風にな」
剛鬼はガントレットの秘密を教えると左腕を引き、同時にレジーナの脇腹を貫く針も抜ける。レジーナの体から引き抜かれると針状になっていた装甲は元の形に戻った。
針が抜けるとその痛みでレジーナは更に表情を歪めて両膝を地面に付けた。痛みに耐えながらレジーナは止血しようと左手で傷口を抑える。ただ、どんなに痛くてもテンペストだけは離さずにしっかりと握っていた。
膝を付けるレジーナを見た剛鬼は大ダメージを与えることができたと考え、このまま一気に仕留めてしまおうと再び左腕を引き、先程と同じように針でレジーナを刺し貫こうとする。だがその時、剛鬼の右側から立ち上がったジェイクが上段構えを取りながら近づき、剛鬼に向かってタイタンを振り下ろして攻撃してきた。
ジェイクの存在に気付いた剛鬼は素早くジェイクの方を向くと左手でパンチを撃ち込む。タイタンの刃とガントレットがぶつかり、高い金属音を周囲に広げた。
「俺の仲間を殺らせはしねぇぞ!」
「ヘッ、やっぱりまだ動けたか。これでまた戦いを楽しむことができるぜ」
険しい顔で睨んでくるジェイクを見て剛鬼は笑みを浮かべる。再び自分の好きな接近戦が始まったことでテンションが上がってきたようだ。剛鬼は左腕に力を込め、止めているタイタンを少しずつ押し返していく。
「敵に近づき、全力で攻撃を仕掛ける。それこそが戦いを楽しむ一番の方法だっ!」
剛鬼は笑いながら右手に黒いオーラを纏わせて再び魔獄滅殺突きを発動させ、そのままジェイクの腹部にパンチを撃ち込んだ。
「ぐおおぉっ!」
パンチを受けたジェイクは声を上げながら僅かに吐血する。同時に攻撃を受けたことで体勢を崩し、僅かに後ろに下がってしまう。そこへ剛鬼が追い打ちをかけるように攻撃する。
黒いオーラを纏った右拳とガントレットの第三関節部分から棘を生やした左拳で連続パンチを撃ち込み、全てジェイクの顔や胴体に命中させる。ジェイクは抵抗もできずに連撃を受け、ジワジワと体力が削られていく。今のジェイクは一方的に攻撃を受けるだけのサンドバック状態だった。
「ハハハハッ! どうした、もう限界が来たのか? 俺を本気にさせたんだ、もっと楽しませてくれよなぁ!」
まるで相手を甚振ることを楽しんでいるかのように笑いながら剛鬼はジェイクを殴り続ける。ジェイクは剛鬼の連撃に耐えながら何とか体勢を立て直そうとするが、止むことのない連続攻撃のせいで思うように動けずにいた。
剛鬼の連撃のよってジェイクは全身傷だらけとなり、あちこちで出血もしている。普通の人間なら既に命を落としている状態だが、レベル90となったジェイクはなんとか耐えていた。
「折角ダークのおかげでパワーアップしたって言うのに、俺に決定的なダメージを与えることができないまま、お前は負けちまうんだなぁ!」
「テ、テメェ、調子に……乗るなぁ!」
殴られながら声を上げるジェイクは右手に持つタイタンを横に振って剛鬼を攻撃する。剛鬼は後ろに跳んでジェイクの攻撃を回避し、剛鬼が離れたことでジェイクはようやく剛鬼の連撃から解放された。
何発もパンチを受けたジェイクはボロボロになっているが、倒れることなくタイタンを構えて剛鬼を睨む。剛鬼は傷だらけになっても意識を失っていないジェイクを見て感心したのかニッと笑みを浮かべる。
「あれだけの攻撃を受けてまだ意識を失ってねぇとはな。どうやら本当に俺に匹敵するレベルと強さを得たようだな」
「当たり前だ……俺たちは、お前たち上級モンスターを倒すためにこの力を得たんだからな……」
「倒すため、か……しかし、現実はお前が思っている以上に残酷なもんだ。レベルアップしたにもかかわらず、お前は俺に一方的に攻撃されて死にかけの状態だ。しかもお前の仲間の嬢ちゃんは既に戦えない状態になってやがる。お前らにもう勝ち目はねぇ」
勝利を確信する剛鬼をジェイクは無言で見つめる。その目からは闘志は消えておらず、まだ戦いを諦めていないという気持ちが感じられた。剛鬼はジェイクの顔を見てまだ戦う意志があると感じ取るとゆっくり構えを取る。
「まだ戦う意志と力は残っているようだな……いいだろう、お互いに悔いが残らないよう、思いっきり楽しもうぜ」
剛鬼が再びジェイクに攻撃を仕掛けようとした、その時、背後から無数の斬撃が剛鬼に向かって放たれ、斬撃に気付いた剛鬼は振り返り、素早くガントレットを盾状に変形させて斬撃を防いだ。
斬撃が飛んで来た方を確認すると、離れた所でこちらを睨んでいるレジーナの姿が視界に入った。レジーナは刺し貫かれた右脇腹を左手で押さえたまま、右手でテンペストを握っており、レジーナの姿を見た剛鬼は小さく舌打ちをする。
「アイツ、まだ動けたのか。てっきり脇腹を貫かれた時に戦意を失ったと思ったんだがな」
「言っただろう……俺たちを、甘く見るなってなっ!」
声を上げながらジェイクはタイタンを剛鬼に向かって勢いよく振り下ろして攻撃する。剛鬼はジェイクの方を向くと盾状のガントレットで防ごうとした。だが、レジーナが剣神の指輪を使って再び斬撃を剛鬼に向かって放つ。剛鬼は斬撃を防ぐため、ガントレットをそのままにして黒いオーラを纏った右拳を振り下ろされるタイタンに向かって撃ち込む。
タイタンの刃と剛鬼の拳がぶつかり、衝撃が周囲に広がる。ジェイクは攻撃を防がれるとすぐにタイタンを引いて再び剛鬼を攻撃を仕掛けた。剛鬼もガントレットでレジーナの斬撃を防ぎながらオーラを纏った拳でタイタンを防いでいく。レジーナとジェイクは剛鬼の動きを封じるため、同時に連続で攻撃し続けた。
左右から同時に攻撃されていることで剛鬼は少しずつ体勢を崩し始め、表情からも徐々に余裕が消えていく。それに気付いたジェイクはチャンスだと感じ、連撃を一度止めてタイタンに気力を送り込む。
「闘神回衝撃!」
戦技を発動させたジェイクはタイタンを横に構え、勢いよく回転して剛鬼を攻撃する。重い回転切りを片方の拳だけで防ぐことができず、剛鬼はジェイクの回転切りをまともに受けてしまう。
「ぐおおっ! あの状態でまだこれ程の攻撃ができるっていうのかよ!?」
予想外のジェイクの攻撃に剛鬼は初めて焦りを見せる。ジェイクの回転切りをまともに受けてしまった剛鬼は体勢を崩し、防いでいたレジーナの斬撃も受けてしまう。左右から回転切りと無数の斬撃を受けて、剛鬼は一気に体力を削れた。
攻撃が治まると、ジェイクは後ろに下がって構え直し、レジーナも傷口を押さえたままテンペストを握る。二人の視線の先には傷だらけになって立っている剛鬼の姿があった。
剛鬼は大ダメージを受けたが、まだ戦うことができるらしく、小さく笑いながらジェイクの方を見ている。そんな剛鬼の笑顔を見てジェイクは不気味な奴だと感じた。
「ハハハ、油断したぜ。まさかあれだけ殴られたのにこれほどの力が残ってたとはな……」
「俺は、お前が思っている以上に打たれ強いんだよ……それでも、気を抜けば意識が飛んじまう状態だがな……」
「ヘッ、それなら、この勝負は俺の勝ちだな。相棒の嬢ちゃんはもうまともに動ける状態じゃねぇし、お前もこれ以上は戦えねぇだろう?」
「何度も言わせんな……俺たちを、甘く見んじゃねぇ!」
痛みに耐えながらジェイクはタイタンで剛鬼に袈裟切りを放つ。だが、剛鬼はその攻撃をガントレットで防いでしまい、剛鬼は悔しそうに奥歯を噛みしめる。
「……終わりだ」
剛鬼は右拳に黒いオーラを纏い、ジェイクに渾身の一撃を撃ち込もうとする。ジェイクは何とか離れようとするが、痛みのせいでもう回避行動を執ることもできなくなっており、ジェイクはここまでかと覚悟を決めようとした。
「天風斬!」
ジェイクが覚悟を決めようとした瞬間、レジーナが戦技を発動させ、剛鬼の後ろから真横を通過する瞬間にテンペストで剛鬼の体を斬った。
「なっ!? ば、かな……嬢ちゃん、まだ……動けたのか……」
予想外の攻撃に剛鬼は驚愕する。レジーナは既に重傷を負っているため、もう戦えないと考えていた剛鬼は完全に油断し切っていた。そのため、レジーナに背を向けてまだ戦えるであろうジェイクだけに意識を向けていたのだ。
剛鬼の真横を通過してジェイクの近くまで移動したレジーナはゆっくりと剛鬼の方を向き、呆れたような目で剛鬼を見つめる。
「確かに、これはちょっとヤバい傷よ……だけどね、あたしもアンタと互角に戦える力を得たの……簡単には、死なないわ……」
「ヘッ……成る程な、俺はお前を……完全に過小評価、していたという……ことか……」
油断したのが敗因、レジーナは遠回しに剛鬼にそう伝え、それを理解した剛鬼はレジーナを見ながら二ッと笑い、ゆっくりと崩れるように倒れる。既にジェイクの戦技とレジーナの斬撃を受けて体力を削られていた剛鬼はレジーナの戦技で致命傷を受けたようだ。
倒れる剛鬼をレジーナとジェイクは黙って見下ろす。剛鬼は倒れたまま二人を見上げ、再び笑みを浮かべた。
「ハ、ハハハ……まさか、上級モンスターの俺が、異世界の人間に、倒されるとはな……ジャスティス様に、合わせる顔が、ねぇ……」
掠れた声を出しながら剛鬼はジェスティスに対する申し訳なさを口にする。だが、その表情からは悔しさは一切感じられず、戦いを楽しんだような満足さが感じられた。どうやら剛鬼にとってはジャスティスから与えられた仕事の達成よりも強者と戦う喜びの方が重要のようだ。
「……ジェイク、そして、レジーナだったな? ……お前らに倒されるのなら……俺も、本望……だ……ぜ……」
自分の思いを口にし、剛鬼は満足げな笑みを浮かべながら意識を失う。上級モンスターの一体である剛鬼を倒せたことでレジーナとジェイクは喜びと安心感を感じた。しかし、戦いが終わった直後、緊張が解けた二人は強烈な眠気と脱力感に襲われ、二人は同時にその場に倒れ、そのまま意識を失う。
その後、レジーナとジェイクの戦いを見守っていたエルギス軍は重傷の二人を回収し、残っているアドヴァリア軍に攻撃を仕掛ける。アドヴァリア軍は剛鬼が倒されたことを知って混乱を見せるも、まだデスレオーンが残っているため、エルギス軍を返り討ちにできると考えていた。
だが、指揮官である剛鬼が死亡したことでデスレオーンたちは統率を失い、散り散りになって逃亡する。重要な戦力を失ったアドヴァリア軍はエルギス軍を押し返すことができなくなり退却した。




