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暗黒騎士と聖騎士の異世界戦記  作者: 黒沢 竜
第二十章~信念を抱く神格者~
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第三百二話  油断できない攻防


 向かってくるジャスティスたちを見てダークは瞬時に中段構えを取る。その直後、一人のジャスティスが正面からノートゥングで袈裟切りを放って攻撃してきた。ダークは蒼魔の剣でその攻撃を防ぐと後ろに飛んで距離を取ろうとする。しかし、今度は左右から二人のジャスティスが勢いよく迫ってきた。

 挟み撃ちを仕掛けてくるジャスティスたちにダークは小さく舌打ちをし、急停止すると急上昇する。ダークが上昇したことで左右から迫ってきたジャスティスたちも急停止し衝突を逃れた。


「フゥ、危ない危ない」


 真下のいるジャスティスたちを見ながらダークは呟く。すると今度は頭上から気配を感じ、ダークは咄嗟に上を向く。そして、真上から急降下してくるジャスティスに気付くと驚きの声を漏らす。

 頭上のジャスティスは左手に持つ騎士剣の切っ先をダークに向けながら急降下してくる。ダークはジャスティスの急降下する速度から回避は間に合わないと感じ、蒼魔の剣を頭上で横に構え、支えるように左手を剣身に当てた。

 ダークが蒼魔の剣を頭上に持ってきた直後、頭上から迫ってきたジャスティスの騎士剣が蒼魔の剣とぶつかる。騎士剣の切っ先は蒼魔の剣の剣身の中心に当たり、周囲に高い金属音と衝撃を広げた。勿論、攻撃を止めたダーク自身にも強い衝撃が伝わる。

 切っ先をギリギリで防いだダークは素早く蒼魔の剣で切っ先を払い、急いで後ろへ下がり距離を取った。だがそんなダークに再び別のジャスティスたちが襲い掛かってくる。斜め下と背後からジャスティスが一人ずつダークに向かって来ており、それに気付いたダークは視線だけを動かして位置を確認し、まず斜め下から迫ってくるジャスティスの対処に入った。

 斜め下から迫ってきたジャスティスはノートゥングでダークに攻撃し、ダークはその攻撃を蒼魔の剣で防ぐと力を込めて後方に押し飛ばす。その後、すぐに振り返って背後のジャスティスの方を向くと、目の前まで近づいたジャスティスがノートゥングと騎士剣を同時に振り下ろして攻撃してきた。

 ダークは二本の剣による振り下ろして蒼魔の剣で防ぎ、攻撃を防いだ直後に右足でジャスティスの脇腹を蹴って蹴り飛ばす。すると、蹴り飛ばされたジャスティスは幻が消えるかのように消滅した。どうやら蹴られたジャスティスは分身だったようだ。


「よし、まず一体倒した。しかし……」


 前を見るとダークの前には四人のジャスティスが横一列に並んで飛んでおり、ジャスティスたちの位置を確認したダークは面倒そうに小さく声を漏らす。


「……忍者の能力を使うジャスティスさんと模擬試合をしたことは一度も無かったから知らなかったが、これほど手強いとは思わなかった。まさか、分身一体を倒すだけでもこれほど苦労するとは……」


 ダークはジャスティスたちに聞こえないくらい小さな声で呟き、分身の術を使ったジャスティスの強さを実感した。

 LMFにいた頃、ダークは自身が強くなるため、ジャスティスに勝つために何度もジャスティスに模擬試合を申し込んだ。ジャスティスはそんなダークの挑戦を喜んで受けてくれたが、ダークはジャスティスの圧倒的な強さの前に手も足も出ずに惨敗を続けた。

 何度模擬試合を行ったのかはダークとジャスティスも覚えていない。ただ、全ての模擬試合で二人は暗黒騎士と聖騎士の能力のみを使用して戦っていたため、サブ職業クラスの能力などは一切使用していなかった。つまり、ジャスティスは忍者の能力を使わずにダークに勝ち続けていたのだ。

 本物のジャスティス一人と戦うだけでも苦労するのに分身を含めた五人を相手にするのはダークにとって明らかに不利な戦いと言えた。最初に一対一と話していたため、分身を使って五人がかりで攻撃するのは卑怯と思われそうだが、ダークと戦っているプレイヤーはジャスティスのみで能力を使って分身を作っているため、正確には一対一で戦っていることになる。だからダークはジャスティスが分身の術を使っても何も文句を言わなかったのだ。

 ダークは脇構えを取りながら視線を動かしてどのジャスティスが動くか警戒する。ジャスティスたちもダークを見つめながら構えており、どちらも相手が先に動くのを待っていた。


(戦況を変えるには、まず分身を倒してもう一度ジャスティスさん一人を相手にする状況を作らないといけない。だが、ジャスティスさんと同じ能力を持つ分身を倒すのは簡単じゃない。しかも本物のジャスティスさんは分身を作った後でも神聖剣技を使うことができる。もし俺が分身たちと戦っている最中に強力な神聖剣技を叩きこまれたら只じゃすまない……どうする?)


 心の中で戦況を分析しながらダークは打開策を考える。先程のように攻撃を防いだ直後に蹴りを放つというカウンター攻撃をするという手もあるが、同じ手がジャスティスに再び通用するかどうか分からない。ダークはフルフェイスの兜の下で緊迫した表情を浮かべた。

 ダークから少し離れた所ではアリシアとファウがダークとジャスティスの戦いを見守っていた。ジャスティスの数が増えたことに驚いていた二人だったが、今はダークが押されていることに驚かされている。アリシアとファウは目を見開きながらダークと四人のジャスティスを見た。


「ダ、ダークが押され始めている。こんなことがあるなんて……」

「アリシアさん、ジャスティスの奴、一対一と言っておきながら複数人でダーク様を攻撃していますよ! あれって卑怯じゃないんですか!?」


 ファウは僅かに声を上げながら隣にいるアリシアにジャスティスの行動に腹を立てた。アリシアもジャスティスがダークに一対一で戦うと言っていたのは覚えている。しかし、プレイヤーとしての能力を使っているため、ハッキリと卑怯とは言えなかった。


「……ジャスティスはLMFプレイヤーの能力を使って自分を増やしたのだ。人数を増やしたと言ってもダークが戦っている敵はジャスティスのみ、だからあれは一対一とみなされるのだと思う」

「そ、そんな! いくら能力を使っているからと言っても、あれでは……」

「本当に卑怯な手を使っているのなら、戦っているダーク本人も卑怯だと発言するはずだ。だが、ダークは何も言わずに戦い続けている……ダークは一対一の戦いと認めているのだろう」


 ダークの考え方を理解していたアリシアはファウを真剣な顔で見つめながら卑怯な手ではないと語り、そんなアリシアの発言にファウは何も言えずに表情を僅かに歪める。ダーク自身が卑怯と思っていないのであれば、戦いを見守るだけの自分には何も言えないと感じたのだろう。

 ファウはダークの方を見ながら不安そうな顔をし、アリシアも表情を変えずにダークの方を向く。アリシアも苦戦しているダークを助けたいと心の中では思っているが、目の前で起きているのはダークが嘗ての戦友と一騎打ちをしている神聖な勝負、部外者の自分が横やりを入れることはできなかった。


(……ダーク、頼むから自分から命を捨てるような真似はしないでくれ? 死にそうになったら迷わずに降参してくれ)


 今の自分にできるのはダークの無事を祈りながら戦いを見守ることだけ、アリシアはダークを見つめながら心の中で無茶をしないでほしいと祈った。

 アリシアとファウが見守る中、ダークは動くことなくジャスティスたちを警戒し続けていた。自分が動けばどのジャスティスが先に動くか、四人が同時に動くのか、ダークは動かずに考え続けている。


(四人の中でどれが本物のジャスティスさんなのかが分かれば少しは戦いやすくなるんだが、ジャスティスのことだ、自分が本物だとバレるようなミスはしないだろうな……)


 本物のジャスティスを見抜くのは難しいと思ったダークは仕方なく一人ずつ攻撃して本物を見つけようと考えた。蒼魔の剣を強く握り、ダークはジャスティスたちを見ながら目を赤く光らせる。

 すると、ダークが目を光らせた直後にダークから見て左から二番目のジャスティスが構えを変える。他の三人が構え続けている中、一人だけ動いたのを見たダークは攻撃を仕掛けてくると感じ、動かれる前に仕掛けようと考えた。


黒雲衝波こくうんしょうは!」


 蒼魔の剣の剣身に黒い靄が纏われるとダークはジャスティスたちに向けて蒼魔の剣を大きく横に振る。剣身の靄は放射状に五つに分かれて放たれジャスティスたちに向かって行く。だが、ジャスティスたちは飛んでくる靄を軽々とかわした。

 靄をかわすと最初に動いたジャスティスがダークに向かって飛んで行き、一気に距離を縮めるとノートゥングで攻撃を仕掛ける。ダークはノートゥングを蒼魔の剣で防ぐと素早く払って反撃した。だが、その攻撃もジャスティスは左手の騎士剣で難なく防いでしまう。

 攻撃を防がれたダークは小さく舌打ちをし、今度は接近戦用の暗黒剣技を発動させようとした。すると、ダークの真上、右斜め下、左に残りの三人のジャスティスたちが回り込み、一斉にノートゥングや騎士剣で攻撃を仕掛ける。


「マズイ!」


 ジャスティスたちに気付いたダークは咄嗟に後ろへ跳び、急いでジャスティスたちから距離を取る。三人のジャスティスたちの攻撃は全て外れ、ジャスティスたちは一斉に距離を取ったダークの方を向く。ジャスティスたちがダークに視線を向けると、距離を取っていたダークは蒼魔の剣を上段構えに持ち、剣身に黒い靄を纏わせていた。


「黒瘴炎熱波!」


 ダークは蒼魔の剣を勢いよく振り下ろし、剣身に纏われていている黒い靄を一直線にジャスティスたちに向けて放つ。今ジャスティスたちは一ヵ所に固まっているため、これが命中すれば分身ごとジャスティスを攻撃することができる。ダークは絶対に命中させてやると思いながらジャスティスたちを見ていた。

 大きな黒い靄はもの凄い速さでジャスティスたちに迫っていく。四人のジャスティスは靄を回避しようとしたが、攻撃をかわされた直後だったため、回避行動が間に合わない状態にあった。その結果、黒い靄は四人のジャスティスを全員呑み込んだ。


「やったか?」


 体勢を整えながらダークはジャスティスたちがいた場所を見つめる。まだ攻撃が命中しているかどうか分からないため、ダークはジャスティスたちの反撃を警戒を怠らずにいた。

 しばらくすると靄が消え始め、ジャスティスたちがいた場所が少しずつ見えるようになってくる。ダークは目を凝らしてジャスティスたちがどうなったか確かめた。やがて靄が完全に消えてジャスティスたちがいた場所がハッキリと見えるようになるとダークは小さく驚きの声を漏らす。そこには一人のジャスティスが飛んでいる姿があった。

 四人のジャスティスの内、三人は姿形も残っていないが、一人だけは何事も無かったかのように残っている。そのジャスティスは左手の騎士剣を逆手で握りながら前に出しており、騎士剣の前にはジャスティスを隠せるほどの大きさの白いひし形の障壁が展開されていた。

 ダークがジャスティスを見ているとひし形の障壁は静かに消滅し、障壁が消えるとジャスティスは騎士剣を逆手から順手に持ち替えてゆっくりと下ろす。


「今のは肝を冷やしました。攻撃をかわされた直後に黒瘴炎熱波を放たれてしまっては回避することも剣で両断することもできませんからね」


 ジャスティスは少し驚いたような口調で焦っていたことをダークに伝える。普通に喋っている点から考えて彼が本物のジャスティスで間違い無いようだ。

 ダークは分身を全て倒せたことで戦いやすい状態になったため、少しだけ安心したが本物のジャスティスが無傷の状態だということには流石に驚いていた。そして、何かしらの能力を発動させたと思われるジャスティスの左手の騎士剣に注目する。


「……ジャスティスさん、その剣はフィルギャですよね?」


 ジャスティスが左手に持つ騎士剣をフィルギャと呼びながらダークが確認すると、ジャスティスは騎士剣をチラッと見た後に視線をダークに戻した。


「ええ、釜茹でゴエモンさんが作ってくれた私のお気に入りの一つです」


 頷きながらダークの問いに答えるジャスティスを見て、ダークはどこか悔しそうな声を漏らす。


「……さっきの障壁はフィルギャに付いている能力ですか?」

「ハイ、瞬時に障壁を展開して装備する者を護ってくれる、と釜茹でゴエモンさんは言っていました」

「そんな能力があるなんて私は知りませんでしたけど……」

「まぁ、LMFにいた頃はこの能力を使う機会が殆どありませんでしたからね。ダークさんだけでなく、他のギルドメンバーの人たちも知らないと思いますよ」


 フィルギャと呼ばれる騎士剣の能力をダークが知らなかったのは仕方のないことだと語りながらジャスティスは左手首を動かしてフィルギャをクルクルと縦に回す。ダークはそんなジャスティスを無言で見つめる。

 ジャスティスが持つもう一本の騎士剣は<守神聖剣しゅしんせいけんフィルギャ>という釜茹でゴエモンが作った武器の一つだ。攻撃力や切れ味はノートゥングほどではないが装備する者を護る障壁を展開させるという特殊能力が付いている。この障壁は物理攻撃、神格魔法以外の闇属性攻撃を全て防ぐことが可能で闇属性への耐久力が低い聖騎士を職業クラスにするジャスティスのために釜茹でゴエモンが作った。

 ダークはジャスティスの装備についてはある程度知っていたがフィルギャの能力については全く知らなかったため、黒瘴炎熱波を防がれたことには驚いていた。


「何で教えてくれなかったんですか?」

「ただプレイヤーを護るだけの能力なので教えなくても問題無いと思っていたんですよ」

「……成る程、確かにただ障壁を張るだけの単純な能力なら他のプレイヤーが持つ武器にも付いていますからね。複雑な能力でないのなら現地で使った後に教えればいいだけですし……」


 一定時間が経過したら発動するなど複雑な能力であるのなら、戦場で仲間と上手く連携を取るために前もって説明しておく必要がある。しかし、障壁を展開させたり相手に直接攻撃を行うといった単純な能力であれば仲間に説明する必要が無いため、ジャスティスは今まで一度もフィルギャの能力を仲間に話していなかったのだ。

 ダークはジャスティスがフィルギャの能力を説明しなかったことに納得したが、今のダークとジャスティスは敵同士であるため、能力の秘密を教えてもらっていないことがダークにとって非常に都合の悪い状況を作ってしまっている。ダークは新たな能力が判明したことで厄介に思いながらジャスティスを見つめた。


「……さてと、フィルギャの障壁を発動させてしまったので、ここからもう少し戦い方を変えた方がいいかもしれませんね」


 フィルギャの障壁を見せたことでダークが障壁を警戒しながら戦ってくると考え、ジャスティスもそれを理解した上で戦うべきだと考える。

 ノートゥングとフィルギャをゆっくり構えてながらジャスティスは戦闘態勢に入り、ダークも蒼魔の剣を構え直したジャスティスの攻撃を警戒した。


「もうすぐ聖者の天衣の効果が切れてしまうので、大きなダメージを与えるために一気に攻めさせてもらいます」


 決着をつけようとするジャスティスにダークは今まで以上に警戒心を強くする。その直後、ジャスティスはダークに向かって勢いよく飛んで行き、距離を詰めるとノートゥングで袈裟切りを放ち攻撃した。

 ダークは蒼魔の剣でジャスティスの袈裟切りを防ぎ、すぐに反撃しようとした。だが、ダークが反撃するよりも先にジャスティスはフィルギャで攻撃を仕掛ける。迫ってくるフィルギャに気付いたダークはノートゥングを払い、蒼魔の剣でフィルギャをギリギリで止めた。

 二度目の攻撃を防がれたジャスティスはフィルギャで蒼魔の剣を払うとノートゥングとフィルギャで連続攻撃を仕掛ける。ダークは素早く蒼魔の剣を振ってジャスティスの連撃を全て防いでいくが、ジャスティスの攻撃が速いため必死に防御をしていた。


(クソッ、とんでもない速さだ。防御するのが精一杯だぜ!)


 ダークは後退しながらジャスティスの猛襲を必死に防いでいき、何とか隙を得られないか考える。幸い分身がいないため、目の前のジャスティスにだけ集中できるが、ジャスティスが強力な神聖剣技などを使ってくる可能性があるため、気が抜けないことに変わりはなかった。


(こっちも暗黒の麻薬の効果が切れそうだからな。その前に削れたHPを回復し、もう一度暗黒の麻薬を使えるようにしねぇと!)


 自身が強化されている間に態勢を立て直したいと思いながらダークはジャスティスの攻撃を防ぎ続ける。ジャスティスも聖者の天衣の効果が切れる前に決着をつけたいと思っているのか連撃を続けた。

 一方、アリシアとファウは城塞竜の上でダークとジャスティスの戦いを見守り続けている。ダークが後ろに飛びながらジャスティスの連撃を防ぎ続ける姿を見て二人はまた緊迫した表情を浮かべていた。


「ダーク様が押されている。あれってかなりマズイんじゃないですか?」

「ああ、ジャスティスの攻撃で大きなダメージを受けている上にそろそろ強化能力の効果が消えそうなんだ。早く体力を回復しなくては……」

「それなら、体力を回復する暗黒剣技やポーションの類を使えばいいんじゃないんですな?」

「それができればダークはとっくにやっているさ。だが、ジャスティスに攻撃を当てるのが難しいのは今までの戦いを見ていれば分かるだろう? それにポーションを使おうにも、ジャスティスを相手に仲間の支援無しで使うのは難しい。そもそも、ジャスティスがそれを見逃すはずもない……」


 体力を回復するのが難しい、アリシアの言葉を聞いたファウは目を大きく見開く。このままではダークが負けてしまうかもしれない、ファウは不安を感じながらダークがジャスティスと戦う姿を見た。

 不安そうな顔をしながらダークを見守りファウを見たアリシアは軽く深呼吸をしてから視線をダークとジャスティスに向ける。


「……まだダークが負けると決まってはいない。ダークを信じるんだ」

「アリシアさんは、ダーク様がまだ秘策を隠し持っていると思っているんですか?」

「ああ、ダークなら必ずジャスティスに勝ってくれる。私は信じている」


 アリシアのダークを信じる強い気持ちを知ったファウは再び目を見開いて驚く。アリシアがこれだけダークを信じているのだから自分もダークを最後まで信じなくてはいけない、ファウはそう感じて表情を鋭くしながらダークを見つめる。

 ファウの表情を見たアリシアは小さく笑みを浮かべる。だが、すぐに真剣な表情を浮かべてダークの方を向き、戦いを見守りながらジャスティスを倒してほしいと心の中で祈り続けた。

 二人が戦いを見守る中、ダークはジャスティスの連撃を防ぎ続けている。連続で攻撃を防ぎ続けているせいか、蒼魔の剣を持つ手が徐々に痺れ始めてきた。ダークは手の痺れを感じると悔しそうに声を小さく漏らす。


(このままだと何時かは剣を落としちまう。そうなる前に態勢を整えないとな)


 攻撃を防ぎ続けるのは危険だと感じたダークは体勢を整えるためにジャスティスから離れようと考える。だが、今の状態では態勢を立て直すのは難しいと考え、まずはジャスティスの連撃を止めることにした。

 後ろに下がりながらダークはジャスティスの連撃に集中し、攻撃の角度や速度を観察しながら防御していく。そして一瞬の隙をついてジャスティスの左側に滑り込むように移動して連撃から逃れた。

 突然正面から移動したダークにジャスティスは一瞬驚きの反応を見せながら左を向く。そこには蒼魔の剣を横に構えながら自分を睨むダークの姿があった。


「冥界魔風斬!」


 ジャスティスが再び攻撃を仕掛ける前に態勢を崩そうとダークは瞬時に暗黒剣技を発動させた。ダークはジャスティスの左半身を狙って素早く四回剣を振って攻撃するが、ジャスティスはフィルギャでその攻撃を全て防いでしまう。

 ダークは攻撃が防がれたのを見て失敗したかと思われたが、体勢を整えていない状態で連続攻撃を防いだことで僅かにジャスティスの体勢が崩れた。それを見逃さなかったダークは素早く次の暗黒剣技を発動させる。


「紫光命吸剣!」


 ダークは蒼魔の剣を紫色に光らせると体勢を崩したジャスティスに向けて逆袈裟切りを放ち、ジャスティスの左胸を鎧の上から切り裂く。


「ぐあっ!」


 ダメージを受けたジャスティスは思わず声を上げ、同時にダークの体が薄っすらと紫色に光り、HPを回復する。ジャスティスにかなりのダメージを与えることができたため、ダークのHPを大きく回復したようだ。

 しかし、ダークはこのまま終わらせる気は無かった。折角ジャスティスの体勢を崩し、ダメージを与えることができたのだから更にダメージを与えようと再び蒼魔の剣を振る。しかし、ジャスティスも二度目の攻撃を許すつもりは無かった。

 攻撃を受けて体勢を崩した直後でありながらもジャスティスはフィルギャで蒼魔の剣を防ぎ、攻撃を防ぐと後ろへ移動してダークから距離を取る。そして後ろに下がりながらフィルギャの切っ先をダークに向けた。


「風遁の術!」


 ジャスティスが声を上げるとフィルギャの切っ先に風球が作られ、そこから勢いよく風が噴き出てダークに襲い掛かる。ダークは攻撃を防がれた直後だったためか突風をかわすことができず、そのまま後ろに飛ばされてしまう。


「クソォ、ここで風遁の術を使うとは! 折角距離を詰めたのにまた距離を取られてしまった」


 飛ばされながらジャスティスを見てダークは悔しそうな声を出す。風が弱まるとダークは悪魔の翼をはばたかせて体勢を直し、遠くにいるジャスティスを見つめた。

 <風遁の術>は分身の術と同じ忍術の一つで相手に向けて突風を放つことができる。相手に風属性のダメージを与えることができるが、攻撃力は忍術の中でも最も低いため大ダメージを与えることはできない。素早く発動でき、並の相手なら吹き飛ばすことができるが、体の大きな敵を体勢を崩すだけで吹き飛ばすことはできない忍術だ。

 吹き飛ばされたダークは再びジャスティスに攻撃を仕掛けるために勢いをつけたジャスティスに向かって飛んで行く。ある程度距離を取ったジャスティスは飛んでくるダークを見るとノートゥングを高く掲げる。


聖剣冷壊弾せいけんれいかいだん!」


 ジャスティスがノートゥングを勢いよく振り下ろすと剣身から冷気を纏った氷弾が大量にダークに向かって放たれる。

 <聖剣冷壊弾>はもの凄い速さで相手に無数の氷弾を放つ神聖剣技である。光属性と水属性、更に殴打ダメージを相手に与えることができる上、全ての氷弾が命中するの大ダメージを与えることが可能だ。ただし、氷弾は全て同じ方角に放たれるため、複数の敵を相手に使うのには向いていない。

 ダークは真正面から迫ってくる氷弾を見て小さく舌打ちをするが、落ち着いて氷弾を回避し、一気に加速してジャスティスに向かって行く。


「やはり真正面からでは聖剣冷壊弾でもかわされてしまうか……やはりダークさんに攻撃を当てるには隙をつくしかないな」


 そう呟きながらジャスティスはノートゥングとフィルギャを構えて飛んでくるダークを警戒する。やがてジャスティスの目の前まで近づいたダークは蒼魔の剣を振り下ろして攻撃し、ジャスティスは二本の剣を交差させてダークの振り下ろしを防いだ。

 剣がぶつかったことで周囲に衝撃が広がり、その中でダークとジャスティスは自分の剣を握る手に力を込める。二人の剣は刃を交えながらカチカチと高い金属音を響かせていた。

 刃を交えるとダークは蒼魔の剣を一度引いてジャスティスに連続切りを放つ。ジャスティスもダークの攻撃を防ぎながら隙を見つけては反撃し、ダークもそれを防ぐ。一気に勝負を付けようとしているのか二人は激しい攻防を繰り広げた。


(戦いが始まってからもうかなり時間が経過しているな……もうすぐ暗黒の麻薬の効力も切れちまう。もう一度暗黒の麻薬を発動しようと思っていたが、ここまで来るともう一度発動させるのは無理だな。こうなったら効力が切れる前にデカい技を叩き込んでやる!)


 ジャスティスと戦いを長引かせるのはマズいと感じたダークは決着をつけるために作戦を練る。そして、流れを確認するとすぐに行動に移った。

 ダークは蒼魔の剣を器用に操ってノートゥングとフィルギャを払い、一瞬隙ができると暗黒剣技を発動させた。


「冥界魔風斬!」


 蒼魔の剣を両手で強く握るダークはジャスティスに向けて連続切りを放つ。先程と同じように高速で四回攻撃してジャスティスを怯ませようという作戦のようだ。

 だが、同じ手が何度も通用するほどジャスティスは甘い相手ではない。ダークの狙いを読んだジャスティスは防御はせず、軽く後ろに下がってダークの攻撃をかわした。


「甘いですよ、同じ手は通用しません。そもそも正面からの攻撃が私に当たるなど、貴方も思ってはいないはずで――」

「黒瘴炎熱波!」


 ジャスティスが喋っている最中にダークは蒼魔の剣を勢いよく縦に振った。剣身から黒い靄が一直線に放たれ、迫ってくる靄を見たジャスティスは咄嗟に右へ移動して直撃を逃れる。

 まさか至近距離で黒瘴炎熱波を放たれるとは思っていなかったのか、ジャスティスは少し驚いた様子を真横を通過する靄を見ていた。戦いが始まった直後にもゼロ距離で黒炎爆死斬を発動させていたため、何度も無茶な行動を執るダークにジャスティスは驚きを隠せずにいる。

 靄をかわしたジャスティスはダークの次の攻撃を警戒するためにダークの方を向く。だが、先程までダークがいた場所に彼の姿は無く、ジャスティスは視線を動かしてダークを探す。すると、背後から気配を感じたため、振り返るとそこには上段構えを取るダークの姿があった。どうやらジャスティスの注意が黒瘴炎熱波に向けられている間に背後に回り込んだようだ。

 背後を取られたジャスティスは振り返りながらノートゥングを横に振ってダークを攻撃しようとする。だが、攻撃を当てるよりも先にダークが動いた。


暗黒次元斬あんこくじげんざん!」


 このチャンスを逃してはならないとダークは最強の暗黒剣技を発動させる。蒼魔の剣の剣身が二回り大きな紫色の光の剣身に変わるとダークは全力で袈裟切りを放ちジャスティスを背後から斬った。


「グオオォッ!!」


 背中を斬られたジャスティスは声を上げる。暗黒の麻薬でステータスを強化され、更に相手の防御力を無視して攻撃する最大攻撃力の暗黒次元斬を受けたのだ、ジャスティスがかなりのダメージを受けたはずだ。

 ジャスティスに渾身の一撃を与えることに成功したダークは心の中でよし、と感じる。戦いを見守っていたアリシアは暗黒次元斬が決まったのを見て目を見開き、ファウも笑みを浮かべていた。

 斬られたジャスティスは態勢を崩し、持っていたノートゥングとフィルギャを離す。それと同時に天使の翼も元の白いマントに戻った。そんなジャスティスを見ながらダークは構えを解く。


「……俺の勝ちです、ジャスティスさん。正直、こんな結果になってしまったことを残念に思っています」


 素の口調で語りながらダークは本心を口にする。覚悟していたとは言え、やはり友人を斬ったことに対して辛さを感じているようだ。

 ダークが悲しそうな口調で語る中、斬られたジャスティスは真下にある海に向かって落下し始める。ダークはせめて、ジャスティスが見えなくなるまで落下するのを見届けようと思っていた。だが次の瞬間、ジャスティスの体が突然歪み始め、その体が徐々に薄くなっていく。

 ジャスティスの異変を目にしたダークは驚きのあまり声を漏らし、戦いを見守っていたアリシアとファウも驚愕の表情を浮かべてジャスティスを見ている。そして、ジャスティスの体が完全に消えると、ジャスティスがいた場所に大きな切傷を付けた丸太が現れた。


「何っ、丸太!?」


 ダークはジャスティスの体が丸太に変わったのを見て驚愕する。何が起きたのか理解できずに動揺していると、ダークの背後から斬られたはずのジャスティスが突然現れた。


「惜しかったですね」

「!」


 背後からジャスティスが現れたことに気付いたダークは振り返って攻撃しようとする。だが振り返った瞬間、ジャスティスはノートゥングでダークの体を切り裂く。


「ヌウゥッ!!」


 まともに攻撃を受けたダークは声を上げる。先程まで自分がジャスティスの背後を執っていたのに、今度は自分が背後を取られてしまったのだから驚きは大きかった。アリシアとファウもダークが斬られた光景を見て衝撃を受け、目を大きく見開いたまま固まる。

 斬られたダークは痛みに耐えながらジャスティスの姿を確認する。先程、暗黒次元斬を受けたはずなのにジャスティスの体は暗黒次元斬を受ける前の状態と同じだった。まるで、初めから暗黒次元斬を受けていないかのように。

 ダークが驚いているとジャスティスはノートゥングを軽く払いながら目を青く光らせた。


「実は先程、ダークさんを風遁の術で吹き飛ばした直後に私は保険としてもう一つ忍術を発動しておいたんです。その忍術のおかげで私はこうして無事でいられたんですよ」

「……忍術?」

「変わり身の術です」


 ジャスティスは隠すことなくタネを明かし、ダークはジャスティスが使った忍術を知って驚きの声を漏らした。

 <変わり身の術>は忍術の中でも役に立つと言われている防御能力の一つで予め発動しておくことで相手の攻撃を受けても一度だけそれを無効化してくれる。無効化した直後は半径10m以内の何処かに転移し、そのまま敵に奇襲を仕掛けたり、逃亡したりすることも可能だ。しかし、優れた能力であるため冷却時間が長く、連続で使用することはできない。

 強力な攻撃が来ることを予想して忍術を使っていたことを知ってダークは驚くのと同時に攻撃を読まれていたことを悔しく思う。しかも、変わり身の術はダークも初めて見る忍術だったので衝撃は大きかった。


「暗黒次元斬を命中させた後も油断せずに警戒していれば私の攻撃を受けることも無かったでしょう。最後の最後で気を抜きましたね」

「クッ!」


 ジャスティスの言葉を聞いたダークは体勢を立て直すために後ろに飛んで距離を取ろうとするが、ジャスティスがそれを見逃すはずがなかった。

 距離を取ろうとするダークを追うようにジャスティスは移動し、ダークと一定の距離を保ち続ける。ダークは距離を取らせないジャスティスを見て悔しそうに小さく声を漏らした。


「貴方の負けです、ダークさん」


 ジャスティスは僅かに低い声を出しながらダークの敗北を口にし、同時にノートゥングの剣身を青く光らせて能力を発動する。

 そして、攻撃力が高まったノートゥングでダークを斬り捨てた。


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